表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

6. 侵入大作戦『カップルのふり』

 伸びた草木に身を潜めながら『神殿』にたどり着く。

 その石造りの建物は、緑溢れる森の中で異質な存在に見えた。


「不気味だな」


 思わず俺はつぶやきを溢す。

 あの中にある『祭壇』に召喚されたときには分からなかったが、今ならだいたい見える。

 石を積み重ねて作った三角錐は、見上げるほどに大きい。


 ピラミッド、という言葉がふと頭によぎった。

 かつて遠い砂漠からやってきたリザードマンから聞いた話だ。

 王の死を祀るために部族が集まって作る巨大な墓だと言っていた。


 だが目の前の建築物から感じるのはそういった神聖さではなく、我が物顔で誰かの居場所を奪う傲慢さ。


 異質さは周囲にも影響を与えている。

 音がしないのだ。

 動物の蠢き、風のそよぎ、虫のささやき、その全てが聞こえない。


 まるで怯えているかのように鎮まりかえっていた。


「アトラスもそう感じるのね」

「あぁ、まるで森全体が怖がってるみたいだ」


 こっそりと遠目に神殿の入り口を確認する。

 門番は二人か。

 暇そうにあくびなんかをしているが、通り過ぎれば気付かれてしまうだろう。


 だが、恐れることなどない。

 今の俺たちには、道中で考えた完璧な作戦があるのだから! 

 

「だいたい予想通りね」

「そ、そうだな」

「……」

「……」


 顔が熱い。

 ちらりと横を見れば、ディダミアも顔を真っ赤にして固まっていた。


 しかし、お互いに辞めようという声は上がらない。

 覚悟を決めたとかではなく、ただ引っこみがつかなくなっただけなんだけども。


「じゃ、じゃあ手はず通りに頼むぞ」

「え、えぇ、もちろんよ。任せなさい」


 若干ぎこちないが気にしてはいけない。

 そう、気にしてはいけないのだ。 


「すぅ……はぁ……」


 一つ大きく深呼吸し、ディダミアの細い肩を抱いた。

 




「はっはっは、ご苦労ご苦労」

「ん……こ、これはハイエルフ様! どうしてこんなところに」


 高笑いしながら躍り出ると、突然の登場に驚いた門番が眠そうな目を見開いた。

 よ、よし、掴みは成功だ。


 彼らは俺たちがここにいることに疑いこそ持てど、敵対していると感づいている様子はない。


「いやぁ、洞窟の中を彷徨っていたらいつの間にか外に出てしまってね。ちょうど通りかかった彼女に助けてもらったんだよ。なぁ、ハニー?」

「えぇ、ダーリン♫」

「き、貴様はディダミアッ!?」

「ハイエルフ様、その少女は我が里では度々起こす問題児でして、ハイエルフ様にはお似合いにならないと申しますか……」


 しどろもどろになりながら門番は言葉を尽くす。

 どうやら彼らにとって、俺とディダミアが一緒にいると都合が悪いらしい。


「俺様のハニーに何か文句でも?」

「い、いえ、そんなことは!」


 じろりと睨んでやれば、門番たちは慌てたように首を振る。

 筋肉ダルマたちの話によれば俺はこの森の中で神のような扱いになっていると聞く。

 つまり彼らにとっては逆鱗に触れることが死につながると考えているのだろう。


「クソジ……族長たちは中に?」

「は、はい! お呼びしましょうか?」

「いやいや、構わんよ。これから部下となる彼らの邪魔をしたいわけではないからな。俺様が来たことは『内密に』頼むぞ」

「「りょ、了解しました!」」

「うむ、良きにはからえ」


 念を押すと、彼らは顔を真っ青にして扉を開いてくれた。

 扉の先には石レンガが敷き詰められた誰もいない通路が広がっている。


「族長たちはこの先の階段を降りた先にいますので」


 そう言って扉が再び閉められる。

 途端、背中からぶわりと汗が吹き出してくる。


「ば、バレてないないわよね!?」

「大丈夫だろ……多分」

「多分って何よそれ!」

「ちょ、ディダミア。声でかいって」

「あ、ご、ごめんなさい」


 お互いに身体をひっつけてひそひそと言い合う。

 たまに声が大きくなるときがあれど、特に誰かが気づいた様子はない。

 ほっと胸を撫で下ろしながらも奥に進んでいく。

 

「……あいつら、ほとんどディダミアのことを気にかけなかったな」

「そういうものでしょ。わたしなんて邪魔者でしかないし。むしろ厄介ものが思いの他役立った、ぐらいに思ってるんでしょ」


 恥ずかしさからの頬の赤さは抜けていないが、彼女の言動は比較的ドライだ。

 ディダミアにとっては何度も体験してきたことなのかもしれない。

 

「平気だったのか?」

「何が?」

「あ、いや……これまで何度も干されてきたのかなって」


 自分でもおかしな質問をしているな、と思う。

 けど口をついて出てきた言葉は引っこめることができなくて。


「さぁ、どうでしょうね」


 はぐらかす横顔に儚さが混じった。

 無遠慮な一言が傷つけてしまったのだと気づく。


「……ごめん」

「自分で聞いておいて何謝ってるのよ。それに、これぐらいもう慣れたわ」

「……」


 それ以上は何も言えなかった。

 俺の言葉ではまた彼女を傷つけてしまいそうで。

 だから、族長を倒すことで償いとしよう。


 次第に早くなる足取りのまま、俺は族長たちのいるという神殿の奥深くに進んでいった。

先ほどは間違えて未完成の作品を載せてしまいました。申し訳ありません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ハニーに吹いてしまった^_^ いいですね、俺様のハニー!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ