長いプロローグ
私、アレキア・ミルフォイル。幼い時に両親をモンスタースタンピードで亡くし、孤児として教会に引き取られ育った。生家が森にほど近い場所で、逃げろと叫んだ父親の足が無くなっていたのは良く覚えている。母親も一緒に逃げている途中で鳥類の魔獣にお腹をブスッと嘴で刺されていたのも目に焼き付いている。そんな私が生きているのは、国の対魔獣先駆部隊の誰かが幼い私の首根っこをとっ捕まえて後方部隊に放り投げたからだと聞いている。その後方部隊の人も小型の魔獣と間違えて盾でぶっ叩いたとも聞いている。
教会で治療を明けながらこの話を聞いた時は幼いながらに怒りを表したと記憶している。
そんな私が今、回復魔法を使える魔法使いとして、対魔獣部隊の先駆部隊に所属するようになったのにはそれなりの理由がある。
まず、スタンピードが終わった後にあった凱旋パレードで馬に乗って剣を掲げた国家騎士団の人たちがそれはもう見目麗しいイケメンたちで、幼い心に花を咲かせまくった。一生懸命手を振ってありがとうと叫んだら、1人の若い騎士と目があってふんわりニッコリと笑われて、幼い私は一瞬で恋に落ちた。パレードの翌日からあんな格好いい人と家族になる為には何が必要か、大人たちを困らせるくらいに聞きまくった。そして一ヶ月後に教えられたのは、あのイケメンたちは爵位のある貴族の子息たちで、庶民どころか親の居ない孤児である私にはどんなに足掻いても家族どころか知り合いになることも難しいということだった。それを聞いた日は泣いた。泣いて泣いて泣きまくった翌日、高熱でぶっ倒れたらしい。
高熱でぶっ倒れた私は約一週間寝込んだらしい。目が覚めた時は顔は整ってるのに髭不精の口は悪い、腕の良いヤブ医者に此処預かりになったからとニンマリ笑顔で告げられていた。曰く、運ばれた時には既に幼体に似合わない量の魔力を体に溜めていたらしい。本来ならばゆっくりと体に馴染むはずが高熱を出すほどのフラストレーションを抱えた事によって大爆発し、命の危険もあったのだとか。原因を聞かれ、素直にイケメンとは知り合えないと言われた事で泣いたと答えた幼い頃の私。確かに難しい話だがひとつだけ方法を知っている、と言われた私は。
あの時の私は本当に幼く、純真であり、努力家であった。ヤブ医者を師として敬い、師匠が教えてくれる全てを吸収し、師匠に言われるがまま王都の国立騎士学校の魔術学科に入学した。
師匠のいうひとつの方法に必死でしがみついた。
師匠が魔力の解放と称して週に2回、数時間森で魔獣に高火力の魔法を使う練習をさせてくれていたお陰で、学校の実習で森に入り魔獣と対面した時だって、女生徒たちのようにキャアと叫ぶ前に魔法をぶち込んでいたし、回復魔法を使う実習では患者に臆することなく治療に当たれた。魔獣に喰いちぎられた腕を見て他の生徒のように息を飲むことなく、患者の腕に消毒液をかけて、麻酔をかけて、ぐちゃぐちゃの断面を綺麗にする為にスパンと傷の上から切り落として回復魔法で腕を生やした。思い切りが必要ということは身をもって体験している。
そうしているうちに、同じ学科の学友や他学科の人たちに距離を置かれた。ひとりぼっちになった私を心配した担任に全てを話してみた。担任は頭を悩ませながら、ひとつの提案をしてくれた。前線で名を挙げれば王や貴族にお目通りが叶うかもしれない、パレードの時の貴族にも会えるかもと。私も悩んだ末に担任の提案を呑んだ。
私は、あのイケメンと知り合いたい。ただその一心で魔獣に魔力の塊を投げつけ、怪我人には回復魔法を使い続けた。
卒業式の日、1人のイケメンが私を迎えに来た。