チュートリアルないんですか!?
ある日山の中でクマさんに出会って食べられそうになった主人公。
このRPGってチュートリアル戦闘ないんですかね?
背後から太そうな木の枝の折れるような音。
重量級の4つ足の音。
振り返ったら最後恐怖で足が動かなくなりそうな敵モンスター?
モンスターかどうかすら怪しいが。
ゲームスタートでいきなり人類が素手で絶対に勝てそうにない相手と遭遇なんて、どんな運のなさだ!
クマってモンスターじゃねえよな?
剣と魔法の世界って言ったのだれだ?
運がよかったのか木々が密集していて、デカいクマはまっすぐ追ってこれず、遠回りに追いかけてくるので、まだ何とか追いつかれずに済んでいる。
だけどそろそろ体力も限界だ。
これはやばい。
でも止まったら死ぬ。
しかも目の前は切り立つ崖。
あ、これ終わったわ。
いやいやいや、まだ死ねないよ!
孫の顔見るまでは死ねるかぁ!
お父さん頑張る!
小さい頃の寝相の悪い娘の手加減なしキックも、休日の公園に連れてけのフライングボディアタックだって耐えたんだ!
これしき何の!俺は!老衰で死ぬまで生きる!
ヒイヒイ言いながら足を無理やり動かす。
脂肪で立派になったモモの肉がすれて痛い。
もしかして、死んでも教会から再スタート出来たりするんだろうか?
そしたらその方が楽かもしれない。
どんどん息が苦しくなってきて、ネガティブな方に思考が傾いていく。
あれだ!!
崖の途中には人ひとり通れそうな亀裂があった。
人間の肩幅より大きい頭のクマが通る事は不可能だろう。
蜘蛛の巣なんで気にせず亀裂に飛び込んで奥へ進む。
ゴッ!
「グワッ!」
行き止まりの壁に体をぶつけ思わず声が出る。
奥へと進めるほど亀裂に奥行きはなかった。
「最悪だな……」
つい独り言がこぼれ出る。
風と獣臭いにおいが後ろ髪を揺らす。
振り返りたくない。
だけどそこから先はない。
ゆっくりと振り返ると、50cm先に空をかく丸太のようなクマの腕と爪があった。
爪が目の前を左右に通り過ぎるたびに前髪が大きく揺れる。
今の俺には武器も何もない。
神様!剣と魔法の世界に連れてくるならチュートリアル位用意しやがれ!