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怪盗美少女は困ってるっ!!  作者: ゆっくり★
第1章
9/18

心まで盗むのは犯罪ですか?⑨

桜華学園1年F組はテスト前の独特なピリピリとした空気感に包まれている。



放課後だと言うのにクラスの半分くらいは居残って勉強している。その中でも僕の机の回りで緊迫感が顕著である。



「違う!やり直し…」



「えー、もう何回目?諦めようよぉ~」



僕の弱音が虚しく響いた。


どうも数字と格闘すると勝ち目がないらしい、頭が良くなるカーズジュエルとかないのかな…



「数学は繰り返しやれば解き方のコツが掴めるから我慢してやれ」



我が家の家庭教師様は、僕の出来が分かっているだけあって容赦がない。



怜奈は……頭から煙りを出して机に突っ伏している。恭ちゃんはニコニコした顔のままで淡々と怜奈の答えに大きなバツを付けている。



「赤点補習受けていると大会に出れないよ…エース不在じゃインハイに進めないね」



「怜奈1年なのにエースなのか!すごいな!!ぅぐっ」



僕が感心していると、渚がシャーペンの尻で頬をつついてくる。



「感心して余裕かましている場合か?明日から始まるんだぞ」



「はい…」



そうなんだ明日から遂にテストが始まる。初っぱなのテストからつまづいているとあっという間に落ちこぼれになってしまう。



ちなみに僕も怜奈も苦手教科が数学と英語で一緒だったため、渚お手製の対策問題をひたすらこなしている。


一通りお手製テスト対策を終わらして、気だるく伸びをしながら僕は渚を見て喋る。



「もうこんな時間だし、あとは家で勉強するかぁ」



教室のまどから見える景色はすっかり夜の装いで、周りで残っている生徒もまばらになってきた。



「まぁやれることは大概押さえれたかな、そっちはどう?」



渚は椅子から立ち上がり伸びをしながら、恭ちゃんに怜奈の様子を伺う。



「渚君の対策問題が素晴らしいから、私も楽が出来て自分の勉強すらできましたわ」



恭ちゃんは可憐なスマイルを浮かべており、一方隣のバレー部エースは精魂つき果たして項垂れている。



「やっと終わった…」



「いや、まだ始まってもいないし」



僕は怜奈ほど憔悴していなかったので突っ込みを入れる余裕があった。…が初日から最強の組み合わせで数学と英語がダッグを組んでいるから質が悪い。



「明日を乗り切ればこっちのものさっ!帰りにアイスでも食べて帰ろうぜっ」



「「賛成」」



女子2人から賞賛の声が上がる。



「へいへい」



渚も渋々だが付き合ってくれそうだ。





ー1週間後ー



今日でテスト結果が全て帰ってくる、やれることは全てやったが赤点なんてとった日には渚に申し訳ないからドキドキものだった。



こと数学結果については、アイスを食べて帰った日に怜奈と帰り道のおやつをかけて勝負をしている。



「ふふふ、実は人生で始めて自信があるのだっ」



怜奈から意外な言葉が飛んでくる。しかし、そう言われた僕もすらすらと問題が出来て自信があった。



「よし、恨みっこなしだよ」



「「せーの!!」」



2人で見せ合ったテストの点は…互角で82点だった。



「こ、これは…誰の奢りだ!?」



2人で顔を見合せて、「うーん」と唸ってしまう。



僕はいいことを思いつき怜奈に耳打ちをする、怜奈もニヤリと笑い賛成してくれた。



2人でテスト結果を握りしめて、我らが先生のもとへ駆け寄り2枚の用紙を渚へ突き付ける。



「「褒美を寄越せ!!」」



「却下だ」



渚は冷たく出来の悪い生徒をあしらう。



「そんなこと言って渚はどうなんだよ!!」


「そうだそうだ!!」



「ほらよ」って言って渚はテスト用紙をピラっと机に広げた。



「なっ、さ、三桁なんてずるいぞ」



渚のテスト用紙はバツひとつなく輝いている、比較しようとしたことがそもそもの間違いだった。



僕と怜奈が項垂れていると、渚はさすが大人気なかったと思ったのか慈悲をくれる。



「よく頑張ったな、少しくらいなら奢ってやるよ」


「「やった!」」


「何がいいかな?この間はコンビニアイスだったから……」


怜奈が悩ましげに唸っている。


「クレープ屋が駅前にあったよね?そこがいい!!」


僕がクレープを提案すると怜奈も賛成した。


「ついでに恭ちゃんの分もいいでしょ?」


「ああ、いいよ。但しトッピングは無しだからな」


流石渚である、僕が言いそうなことは大抵予想済みで先に抑えられてしまう。


実は僕は甘いモノに目がない、密やかな趣味はお菓子作りだ。しかし、外では男らしくいたいという願望があり、堂々とクレープ食べるなんて、彼女がいる男くらいだと男頃はそう思っていた。


鞄にテスト用紙を仕舞って、ウキウキ気分で教室を出ようと歩きだした。


「フフフ〜ン♪早くいこうよ」


と振り返る、開放感と相まって自然と顔も綻ぶ。ついには待ちきれなくなって先に教室を出た。


ざわつく教室内


(ヤバイ、天使だ)

(何なのミナトちゃんは女神か)

(キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!)


「あれ、天然でやってるよね?」


伶奈が言う。


「確実に天然ですね、ミナちゃん可愛い」


恭ちゃんが付け足す。


「はぁ〜、あれ自覚ないからな(アメシストと入れ替わらなくたってやってるじゃねーかよ)」


渚が頭を抱える。


「ははは、渚君も大変だねぇ。まぁ行こうか」


ニヤニヤしながら、伶奈と恭ちゃんが教室をあとにする。教室の男達はしばらく蕩けてそうだしミナトが襲われることは無いだろうと思い渚も教室を出た。


しっかりと勉強できたこともあって無事テストを終えることが出来た、渚に感謝しつつ解放感に包まれて4人でクレープを頬張り帰路についた。


僕ら2人の頑張りと、もちろん渚の頑張りによって無事赤点にはならなかった…ていうか学年でも赤点取った人なんて、ひとりも居なかったみたい。その点は都内でも有数の進学校だったりする桜華学園である。



―春原家マンション―



家に帰ると玄関には見知らぬヒールが並べられてあった。大体察しはついていて思い当たる人が彼女しかいない、元々父さんがいないときに客人がこの家に来ることなんてないから。



リビングに入る前に僕は尻込みしてしまう、それもそのはずこの姿になって始めて会うのだから…



渚も察してか僕の両肩を掴んで心配をしてくれている。



「姉さんは事情も分かってるから、大丈夫」



僕の不安な顔を覗きこんで背中を押す、溜め息混じりの息を吐きつつリビングに入る。



「おかえり」



奈美姉の大人びた声が久しぶりに聞こえ、何だか懐かしい。鞄を持ったままソファーに座り、何年かぶりの奈美姉と対面する。



「湊久しぶりね、すっかり………」



しばらくの沈黙ののち、やっぱり相変わらずの奈美姉だった。



「女の子になっちゃったよ、私はちっさくて童顔の男の子の湊が好きだったのよぉ…」



完全に項垂れて仕舞いには嗚咽混じりに泣いている。



確かに2年前は中学に入ったばっかりで身長もチビだった。中学卒業するときは身長もすっかり伸びていたけど、そのタイミングは会ってないからな。僕からしてみれば今の方がサイズは小さくなったんだけどな…



前章でも説明したが奈美姉は超がつく程の美人だ。難点がひとつあってドがつく程のショタコンってことだ。


さっきまで散々泣いていたのに急にテーブルに両手をつき立ち上がる。



「私は振り返らないわっ!今の湊も溺愛してみせる、百合に目覚めてもいいじゃないっ!?」



奈美姉のトンでも発言を後ろで黙って聞いていた渚から綺麗に手刀が入る。



「あ、いたっ!!」



「何するのよ!?姉の新たな旅立ちを邪魔するの?」



渚は呆れ顔で姉に毒付き真面目な話をし出す。



「変態のバーゲンセールか!ミナトが困ってるだろ、本来の目的を話なさい」



奈美姉はチョップを受けた頭を撫でつつ、スイッチが切り替わったかのように凛とした顔になる。その吸い込まれそうな大きな瞳に思わずドキッとしてしまう。



「そうね……ふー、湊がツインタワーで会った『エリス』についてよ」



ゾクゾク…



背中に寒気が走る、あの時手も足も出なかった恐怖が鮮明に思い出される。僕は顔に出やすいのか、渚も爺も心配そうな顔だ。



「その容姿に、アレキサンドライトの契約者っていうなら…間違いなく『エリス』トップエージェントのシドね」


何か知ってそうな言い種で奈美姉は話したが、実は存在を噂に聞くレベルで確信はなかったらしい。しかし、アレキサンドライトの契約者と言うのが決め手で判明した。


「そもそも『エリス』に契約者なんて必要ないのよ、ベースのカーズジュエルがあればホープジュエル作れちゃうもん」



奈美姉が言うには、コストと手間をかければこの世に存在する宝石は人工で作れるそうだ。その辺の鉱物学的な話しは僕の理解を超えていたので割愛。



「シドが『エリス』にいるのはきっと何か意味があると思うの、さっぱりわかんないけどね」



「話が逸れたわね、兎に角湊特訓よ!!」



「「はぁっ!?」」



僕と渚の声がユニゾンする。爺はすっと立ち上がり「では車の準備を」と予期していたのか反応が早い。



「次いつ遭遇するか分からないんだから、いつやるの?今でしょ?」


(ドヤってしてるけど奈美姉それ古いよ……)


「渚は不要だけど……」



「奈美姉の変態が暴走したら誰が止めるんだ?」



渚は至って真剣に言うもんだから、奈美姉は目を伏せる。僕も渚に居てもらわないと困る、貞操は守ってもらいたい。




―神奈川家地下室―



奈美姉も僕もある程度動ける格好に着替えて準備万端だ。



「うーんと、アレキサンドライトの能力の『支配』は分かっているからほっといて、湊の情報から考察すると恐ろしく優れた観察眼を持っていることになるわね」



「カンサツガン?」



聞きなれない言葉に戸惑うこと請け合いだ、首を傾げて奈美姉の説明を待つ。



「そっ、言い換えるならガーネットのフルスピードをスローで見えるくらいの性能の動体視力ってこと」



「なるほど」



アレキサンドライトの正体が解ったが、逆に疑問が沸く。



「そんな奴とどうやって戦うんだ?」



僕の疑問は極自然だと思う相手は僕をスローで見えているわけだ、こっちの攻撃は簡単に避けれるし、反撃だって出来るだろう。



「戦っていいことなんて1つもないじゃない、別にホープジュエルなんて集める必要ないし」



「たしかに…」



「逃げて続ける湊を捕まえることが出来る人類なんているのかしら?ただしどうしても戦わないといけない状況になったら…」



「ガーネットに頼りきりで単調に突っ込むのは止めて、変則的に仕掛けるのね」



僕が理解していなそうな顔を見せると奈美姉は続けざまに説明してくれる。



「つまり視覚だけ強化しても、結局はガーネット並みに身体が動けないとそもそも反応出来ないわ。だから相手は事前に湊の動き、筋肉の微妙な動きを見て予測してると思うの、試してみる?」



奈美姉の指には既にガーネットの指輪が光っている。



「こっちは手を出さないから、全力で来なさい。手を抜いたら今晩逆夜這いするから覚悟なさい」



僕は背筋に寒気を感じつつ、夜這いについて妄想仕掛けたが直ぐに考えるのを止めた。



うん、目がマジだった。全力でやろう。


「じゃあ、湊のタイミングで来なさい」



ガーネットを首から下げたネックレスの何も嵌まっていない石座へ出現させるために集中すると、身体から深紅の煙りと光が溢れ出す。



いつも何処から出てるのか気にしていなかったが、どうやら全身から出ているようだ。だから何かあるわけじゃないけど…



「じゃあ、行くよ」



僕は腰を落とし全力でトップスピードになり掌底を放った。奈美姉は動くことなくそのまま直撃すると思ったが、腕を自分の前で回転させて僕の手を去なす。



払われた手を戻し、そのまましゃがみ足払いをするがシドの時のようにバックステップによって躱されてしまう。



続けざまに立ち上がりながら、右ストレートをするために腕を引き渾身の力を込めて放つが、これもまた腕ごと払われ空を斬る。



腕を払ったと同時に回転しながら奈美姉は裏拳をしてくる、僕はストレートを打って身体が伸びきっていたため回避することが出来ず裏拳が直撃する…!?





ことはなかった、当たる寸前で止められていた。僕はそのまま当たると思っていたため目を瞑ってしまっていた。


「これでわかったかな?湊は素直過ぎるのよ、攻撃の予備動作が大きくて先読みされてしまうわ大技をいきなり当てにいくし…何より最後まで相手を見なきゃ反撃の糸口すら掴めないわよ」



「うぐっ」



僕はぐぅの音も出なかった。



「大事なのは初撃よ…」



そういうと奈美姉は全身の力を抜いて脱力したと思った瞬間に僕の目の前に現れた…と同時に僕の意識を刈る一撃が放たれていた。




………

……







気がついたときには僕はトレーニング室の床に仰向けで転がっていて、上から渚と奈美姉に覗き込まれていた。



「てへっ、やり過ぎちゃった。湊よくこんなものコントロールしているわね」



奈美姉の手には砕けたガーネットの指輪があった。



「湊大丈夫か?相変わらず手加減出来ない姉ちゃんですまんな…」



渚の手を借りて僕は上半身を起こして、放心状態で床にそのまま座りしばらくして何が起きたかを理解した。



「記憶障害じゃなかったらだけど、手は出さないとか言ってなかったけ?まぁ僕が弱いことがわかったからいいけど…」



誰かさんは胸に手を当ててギクッとリアクションを取っていた。



奈美姉にとは言え、ここまでボコボコにされると流石凹んでしまう。


「湊は合気やってたわよね?まぁ武道全般に言えることだけど“後の先”を覚えるべきね」



「“後の先”?」



「そそ、マスターするには達人級にならなきゃだめだけど知識だけは持ってなさい」



奈美姉の解説をまとめると、“後の先”とは相手の攻撃を読み取って相手の攻撃を潰す此方の攻撃を仕掛けるものだ。合気道では相手の勢いを利用し反撃をするものだから“後の後”を狙っているものだから、奈美姉の言う“後の先”ではないわけだ。



「“後の先”はできるようになればいいけど一朝一夕で体得出来るものじゃないから…覚えるなら無拍子にしましょ」



「それってさっき奈美姉がやってたやつ?」



僕が全く反応出来なかったさっきの技を思い返していた。



「うん、ガーネットとの相性もばっちりだったし、モノに出来ればいい武器になるわ」



無拍子は予備動作を相手に悟られず、攻撃出来るし威力も僕自身で実証済だ。


奈美姉の特訓が小一時間程続いたが、結論から言うと無拍子も“後の先”も体得出来なかった。改めて言うが、やっぱりそんなに簡単できる物ではなかった。




僕はトレーニング室の床に大の字になって寝転がっていた。ちっとも上達しない上に、何度も繰り返したものだから正直クタクタたっだ。



「才能ないわ…」



独り呟くと、奈美姉は「ある方が希よ」と苦笑いをして部屋を後にした。



渚は奈美姉が意外と真面目だったこともあってか、途中で自室へ戻って行ったらしい。



奈美姉はカーズジュエルの扱いにおいてもあっさりと使えてしまうし、非の打ち所がない美人で頭も切れる。天は二物も三物も与えてしまうのかと、自分の無能を呪いたくなった。呪われているだけに…




「奈美姉最強だわ、シドも倒せちゃうんじゃないだろうか……うん、お風呂入って寝よう」



僕も部屋を出た。


お風呂から出てさっぱりしたつもりだったが、妙に身体がだるくてお腹も少し痛かった。



寝ればきっと治るだろうとそのときはあまり気にしなかったが、これがまさか僕の身体に起きる小さな変化の始まりだとは知る由もなかった。



ただ僕はこの身体になって2ヶ月で完全に慣れて、自分自身の姿…そして心も受け入れ始めていたのかもしれなかった。

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