心まで盗むのは犯罪ですか?⑦
―春原家マンション寝室―
頬をピンクに染めて、渚の上に跨がり肩を押さえつけている状態。
「渚!私とキスしろ!」
「えっ…!?待て待て!!今日の湊変だぞ!!」
まず何故このようなことになってしまったのか、詳細な説明が必要だろう。
………
……
…
時は遡り
23時間前
―春原家マンション居間―
21時00分
「ただいま」
珍しく父さんが、マンションに帰ってきた。心無しか嬉しそうに見える。
「おかえり、珍しいね!父さん…パパがこっちに帰ってくるなんて?」
「今回は予告状無しで済んだぞ」
父さんの手には、某有名ブランドの紙袋があった。
「どういうこと?」
「カーズジュエル買ってきた」
「本当に!?」
紙袋を覗くと中にはペンダントケースが入っていた。
「ミナちゃんにプレゼント」
「パパありがとう!!」
怪盗がないなんて、とても嬉しくて思わずノリノリで慣れない呼び方でも呼んでしまう。
「いくらしたの?」
父さんは笑顔で答える。
「1億4000万円」
常人の感覚ではなく、戸惑いが隠せない。いくらカーズジュエルとは言え協力してくれる父さんに感謝しても足りないくらいだ。
ケースを開けると、ペンダントトップに薄い紫色の大きなアメシストが付いたペンダントが入っていた。
カーズジュエルはどれも吸い込まれるような美しさがある。
「早速契約してくるから」
僕はアメシストを両手で持ち契約を結びにカーズジュエルへ入っていく。
―エンプレスアメシスト内部―
眩い光が収まると紫色に発光したナイスバディのお姉さんが立っていた。
「あら、こんにちは」
「初めまして、神奈川ミナトです」
今までまともに挨拶してきたカーズジュエルは、初めてだったのでこちらも丁寧に挨拶をした。
「契約を結びたいのだけど…?」
「私の契約は…」
と言いながら僕の周りをぐるっと1周して、上から下まで見回している。
「まっ、OKね」
「!?」
「貴女の身体1日貸して頂戴、記憶は身体から直接読み取るから問題ないわ」
「記憶?読み取る?1日って24時間ってことですか?」
訳が分からず質問をする。
「ごちゃごちゃ言うより体験したほうが早いわ、さっそく契約よ」
目の前がまた眩く光り、現実へ戻りだす。
―神奈川マンション居間―
「早かったな、無事契約できた?」
(多分できたみたい)
父さんが話し掛けてきたので返事をするが、反応してくれない。
身体が独りでに動き、鏡のある洗面台まで歩き出す。
(何がどうなってるんだ?)
「やっぱりいい感じね、1日借りるわよ」
鏡に映る自分が喋り、鏡に向かってウインクする。
まるで自分のなかに閉じ込められたような感覚になり、初めてどういうことか認識した。
(僕の身体で変なことしないでよ?)
「それは私の自由だから、久しぶりの外を楽しませてもらうわ」
明日が学校なくて良かった、その見た目で恥ずかしいことでもされたらかなわないし…。
アメシストが居間に戻ると、父さんが返事をしてくれなかったことに悄気ていた。
「契約は出来たわ、パパ大丈夫よ」
父さんの表情が一気に明るくなり、元気を取り戻す。
しかし、アメシストの口調が僕の普段と違いすぎる。もう既に変に思われていそうだ。
(口調なんとかならないのかよ?)
僕の声は完全に無視されて、再び父さんと喋り出す。
「パパ明日買い物に行きたいからお小遣い頂戴」
「うんうん、こんなこともあろうかとミナちゃんが使えるように作っておいたんだよ」
父さんは気前よくクレジットカードを渡す。
「渚買い物に付き合って!!」
新聞を読んでいた渚は生返事で「いいよ~」と返してくる。
(渚に心配かけるようなことするなよ!!)
僕が一番渚に心配されている気がするがキニスルナ。
入れ替わりから10時間経過
「さてと、下着は清楚に白に抑えておいて服はこれかな?」
フリフリの付いた赤いワンピースを身体に合わせて鏡を見ている。
(買い物にそんな気合いがいるのか?っていうか何買うんだ?)
ノリノリで回転しているアメシストが急に止まり、しかめっ面して答える。
「買い物は口実だから、服でも何でもいいのよ」
(はぁ?目的がわからん…)
「渚君とデートが出来ればいいの。そうだ!メイクもやってもらおっと」
僕の部屋を飛び出し、渚の部屋の扉をノックする。
何故か心臓の鼓動が早くなりドキドキしている?
「渚、メイクして」
「ん?珍しいなミナトから言ってくるなんて、その格好なら少し軽めにするぞ」
渚は椅子を持ってきて、僕に座るように促しポンポンと叩いて見せる。
渚にメイクをしてもらっている間、アメシストは大人しく座っていた。
口紅を塗るとき、渚の手で軽く伸ばされると、また鼓動が速まりドキドキしている。
やはり身体は僕のコントロール下にないので、まるで他のひとの心音が聞えているような感じだ。
「よし、完成」
と言って、渚は僕に鏡を見せてくる。
前回の怪盗の時よりだいぶナチュラルメイクになって、綺麗というより可愛いらしい感じだ。
「ありがとっ、さっそく出かけよう」
(昨日見てた時間を確認してた映画も見に行くのか?)
アメシストは渚には聞こえない小声で「もちろん」と言う。
そのまま2人で都内の某百貨店へに電車で向かう。端から見たらカップルに見えるだろうか?街行く人の目が気になって仕方がない。
早めの昼御飯を済ませて、洋服店を巡る。
前々から思ってはいたが、爺が用意してくれた服はお嬢様っていうような服ばかりで普段着が全然ない。
「こんなショートパンツとかいいよね?動きやすいし」
「そうだな…、うーん」
渚は、僕の方を全く見ずに結婚式の二次会で着そうなドレスを見ている。
「こんなデザインもありかな?お、縫製しっかりしてる…裏地はこんな風にすればいいのか」
(どう見ても怪盗の衣装を考えてやがる…仕事人間か!真面目過ぎるぞ!)
「渚!聞いてないでしょ!?」(そうだそうだ言ってやれ)
「すまん。聞いてなかった」
申し訳なさそうにする渚を見て、アメシストは思い付いたように言う。
「着てみないとイメージ膨らまないでしょ?着替えようか?」
渚は嬉しそうに頷く。
(待て待て、こんな肩露出してるし、ミニスカート過ぎるって)
僕のことなんてお構い無しに次々と着替えて行くアメシストって言っても着てるの僕だし!仕舞いには定員さんも加わりまさに着せ替え人形状態だった。
結局ドレスは買わずに、ショートパンツとキャミソールとTシャツを(アメシストが)買った。
「見たい映画があるんだ!」
ニコニコしながら、渚の少し前を歩いて振り返り様に言う。何度も言うようだが普段の僕はこんなことしませんから!あくまでもアメシストがやってます!
(だんだん諦めてきたわ…)
「何見るんだ?上映時間間に合うのか?」
「えっとね、新しいエネルギーを手に入れるために別の惑星に行くんだけど、惑星の原住民と恋に落ちゃうってやつ。上映時間は調べてきたから大丈夫」
(なんか聞いたことあるような設定だな…)
………
……
…
映画が終わって回りが明るくなり、他のお客さんが立ち上がり出ていく。
「映像凄い綺麗だったけど、内容はミナトの説明通りだったな…」
「そうだね…」
(そうだな…)
全員同じ感想だった。
晩御飯は爺が用意してくれているからマンションへ帰る。
帰る時間が時間だったから混雑してくる、電車は満員で窮屈な状態だ。
人に押されて、渚と密着してしまう。
「窮屈だな、大丈夫か?」
「だ、大丈夫」
顔と顔が触れそうなくらい近くなり、案の定アメシストはドキドキと鼓動が早くなっている。
たとえ僕だったとしてもドキドキしてしまいそうな状況だった。
途中の駅に着き降りる人の波に飲まれて、押し出されそうになったそのとき。
「キャッ」
渚に手を捕まれ引き戻される、そのまま無言で手を繋がれる。
「ありがと」
アメシストは手汗はかくわ、鼓動が早くなるわ、顔は熱くなるわ…どんなに鈍くてもいい加減わかってしまう。
アメシストは渚に惚れてる。
最寄りの駅に着いても、2人は手を繋いだまま帰っていく。
(いつまで手繋いでいるんだよ!渚も渚だよ、満更でもないのかよ!?)
ちょうどマンションに着いて部屋に入るところで、2人とも恥ずかしそうに手を離す。
そのあとは2人何事のなかったように晩御飯を食べて過ごし、アメシストは僕の部屋に戻る。
(さぁ説明して貰おうか?)
「いいじゃない!デートとかしたことなかったし、渚君どストライクなんだから!!」
(ふたつ名がエンプレスのくせにデートしたことないのかよ)
「仕方がないじゃない女帝なんて、勝手に付けられただけなんだから、大体貴女の記憶でも好意があったじゃない!!私が代弁しただけよ」
(う、そんなはずはな…い)
「反論出来ないじゃない?あと1時間は好きに使わせて貰うわよ」
アメシストはスタスタと歩いて部屋を出る。
アメシストは渚の部屋の前に立つといきなり扉を開けてドシドシと中へ入っていく。
渚はベッドに仰向けになりながら携帯をいじって、こっちに顔を向けずに喋り出す。
「どうした?」
「携帯で何してるの?」
「ん?携帯小説読んでる。異世界転生チートのベタなやつ」
アメシストはベッドに上がり渚の上に跨がり、肩を押さえつけて迫る。
「渚!私とキスしなさい!」
「えっ…!?待て待て!!今日の湊変だぞ!!」
「いいの!」
(待って、ストップストップ!!)
僕なんかお構い無しに、渚顔がどんどん近づく。ガーネットの力を使ったのか渚が全然抵抗できていなかった。
「ちょ」
渚が何かいいかけたが唇が触れ合い、何も言えなくなる。
多分短い時間で2~3秒だと思うが、何十秒にも感じだ。
キスを止めて、起き上がるとアメシストは「満足」と言って僕の身体と入れ替わり去っていった。
「やった!身体が戻った!!」
僕が身体のコントロールを取り戻したことに喜んでいると下から声がする。
「おい、説明しろ」
僕は慌て渚の上から飛び退き、部屋の床の上に正座をする。
「ごめん、実は…」
「カクカクシカジカ…ということで今日の行動は僕じゃないんだ!ごめん」
渚は優しく答えてくれる。
「そうか、よかった。結局元に戻ったんだな」
「うん、キスとかも僕じゃないんだ」
僕の目線は明らかに渚の唇を見てしまっている。
「い、入れ替わってる間の記憶もちゃんとあるんだ…」
渚は顔を赤くしながら口を手で押さえている。
「と、とにかく契約できてよかった。ふ、風呂に入ってくるわ」
僕は顔を真っ赤にしながら渚の部屋を出て、風呂に向かう。
お風呂に入りながら、今日のことを思い出すとどうしても渚とのキスを思い出してしまう。
アメシストには渚に好意を持ってると言われるし、渚も手を繋いでも離さなかった。
「渚の唇意外に柔らかかったな…ブクブク」
僕は湯船に沈んでいく。