心まで盗むのは犯罪ですか?⑥
下駄箱で上履きに履き替えようと蓋を開けると、手紙が入っている。
「お、ラブレターだね。今月までで何通目?」
ヌッと僕の上から覗かれる、上からだったため余計驚ろかされる。
「わっ!?なんだ怜奈か…」
「何々、B組の武藤君か…なかなかのイケメンだね」
「顔も知らないし…」
ちなみにもう12通目で、今までのものは全て断ってきている。
「そういう怜奈だって、貰ってるじゃないか!?」
「こ、これは違うよ」
僕にバレないように、こっそり鞄に仕舞おうとしていた。
怜奈から手紙を奪って、差出人をみたら女の子の名前だった…。
「あ?えっ?まじで…」
「そうなんだよ。確かに怜奈はオジサンなんだけど、そっちの趣味は…」
ポンポンと怜奈の背中を叩く、きっと共感できるのは僕だけだよと心の中で呟く。
ふたりで複雑な思いで教室に入ると、教室は教室で怪盗の方で盛り上がってます。
あの…僕には今朝のこととダブルパンチですから。
当然だが教室でも特に正体はバレていなかった。
「全然手掛かりないって言ったよ」
「物凄い美人らしいぞ」
「え?馬鹿力の巨漢とか聞いたけど?」
「結局よく解らないんだって」
教室に担任が入ってきて、一気に静かになる。
「明日からオリエンテーション合宿だ。準備をするためにしおり配るからな」
しおりが配られ、行き先が地元の山が書いてあった。バスで移動して、班ごとにカレーを作ってオリエンテーションをするらしい。
そんな行事があったなあと、しおりをペラペラと捲っていると怜奈が班組もうと声を掛けてくれた。
結局僕と怜奈、恭ちゃん、溢れていた他の2人を加えて班を組んだ。
何かいるものが特別ある訳じゃないから準備はそれくらいだった。
朝に憂鬱なことがあったが、クラスで行事なんて初めてだから楽しみになってワクワクしてきた。
担任は班決めまで終わると、授業を始めた。
授業を受けながら、渚がどの班になったか何故か気になってしまった。あいつはどんな人とでも上手くやれるタイプだから問題なんてないはずなのに…
初の行事でワクワクした僕の気持ちを余所に、授業はいつもどおり早いペースでどんどん進む…。
今日が終れば一泊二日の旅行があると思ったらあっという間に時間が過ぎて下校時刻だ。
いつもどおり渚と一緒に帰る。
「明日の準備が何もないからつまんないなぁ~」
「格好はジャージだし、リュックは学校指定のダサいやつだしな」
渚も心無しか楽しみにしているように見えた。
「お菓子に焼豚持って行ったら没収されるかな?」
「見付かればそりゃそうだろ」
………
……
…
くだらないことばかり喋りながらそのまま帰った。
明日のことばかり考えていたが、何か放課後にしなきゃいけないことがあったような……うん、覚えてない!まぁいいや!!
-翌日-
朝早くから学園へ集合してバスで目的地へ向かう。勿論目的地は合宿が行われる同じ県内の某山だ。
オートキャンプ場に併設している施設があり、お昼は施設の食堂だが、夕食はキャンプ場を使ってカレー作りだ。
施設の体育館に全クラスが集まる。桜華の一年生はAからG組までの7クラスなのだが、集まると結構な人数になる。
ざわざわとしているところに学年主任の先生が現れる。
「えー、君たちには今日の夕食をかけてゲームをしてもらいます」
そんな学年主任言葉を受けて、より一層ざわめき始める。
「ルールを説明します。まず男子班女子班は各1班ずつペアになってもらい、チームを作ってください」
「種目はドッジボール」
高校生にもなってドッチボールは盛り上がらないだろっと思っていたら、回りは意外とノリノリだった。
「一回勝てば野菜、二回勝てば牛肉が手に入ります。ルーとご飯は最低限あるから安心しろー」
夕食の為にみんな血気盛んだ、僕らの班は渚のいる班と一緒のチームになった。
「お肉の為に二回は絶対勝つよ!!」
なぜか怜奈がリーダーのようなポジションになって燃えている。
「怜奈なんかすごい…」
チームのメンバーはやる気満々の怜奈に押され気味だった。
学年主任の先生がもう一度マイクを使って内容を追加した。
「優勝チームには、もう一品好きな食材追加できるからな」
「「おおー!!」」
一回戦
対するはD組の1班・4班チーム
我がチームは男子がスポーツが万能な人が集まっていたのと怜奈監督指示により、男子が活躍してあっさりと勝利した。
監督曰く足元を狙うとキャッチされにくいということで、足を狙っていく作戦だ。
野菜GET!!
二回戦
対するはB組のイケメングループ率いる3班・6班チーム
開始前に怜奈監督が話しかけてくる。
「B組の武藤君いるじゃん、あれからどうしたの?」
「………!」
「あれ?断ってないの?」
「完全に忘れてた」
武藤君はチラチラとこちらを見ています。
「どうしよ?」
「どうしよもこうしよも、ヤバくない?まぁコテンパに倒せばいいんじゃない?」
完全に他人事だと思って怜奈はニヤニヤして楽しんでいる。
ひとり狼狽えていると、試合が始まる。
武藤君の異常なはりきり(?)によりチームメンバーが次々とアウトになっていく。
僕は目立たないように避けて残っている、ただでやられる訳にはいかないので此方も相手を減らしていく。
………
……
…
現在の状況は渚と僕、相手は武藤君ともう1人男子が残っている。
「ミナト、お肉が入ってないカレーなんてカレーじゃない!負けたら許さないからね!!」
怜奈から激が飛ぶ。
自分はアウトになっていながらひどい言われようだ。怜奈の発言に気をとられていると、渚に向かって怨みのこもったかのようなボールが飛んでくる。
投げたのは武藤君だ。
渚はヒラリと避けたが、外野が上手くボールを捌いたことにより直ぐ様アウトになってしまった。
こぼれたボールを拾ったが遂に独りになってしまった。
渚は外野に行く前に僕に一言声をかけて出ていく。
「怪我気をつけろよ、いざとなったら使っていいから」
使うといったら、ひとつしかないカーズジュエルだ。
ブラックダイヤではボールが破裂して意味がないから、必然的にガーネットしかない。
ひとまず外野へボールを回すことにしよう。
ボールを受け取ったのは怜奈だ、お肉がかかった本気の怜奈がB組の男子をアウトにする。
残りは武藤君だけだ。
武藤君は何か悩んでいるような顔をしている。すると、明らかに手を抜いたボールを投げてきた。
さすがに僕でも簡単にキャッチ出来る…みんな不思議そうな顔をしているが、怜奈だけはニヤついている。
怜奈は勝利ために、あえて武藤君を残したようだ。策士め…
武藤君には悪いけど、本気になるしかない。絶対後で怜奈に文句言われるからな…。
「武藤君ごめんなさい」
ガーネットの力を使い、身体能力を上げる。
とても僕から放たれたとは思えないようなボールが、彼めがけて飛んでいく。
一歩も動けずボールが足に当たり、さらに足をぶっ飛ばしその場にすっ転ぶ。
やり過ぎた感があるが、とにかく勝利した。
やられた武藤君は、何が起きたかわかっていない様子だった。
駆け寄る怜奈に抱きしめられ頭をなでなでされる。
「よくやったミナト!!大好きだ!!」
渚を見ると明らかに「やり過ぎだぞ」という顔をしている。
次の試合までの待ち時間の間僕は渚と話していた。
「何で渚はガーネット使わなかったんだ?」
「ガーネット自体緊急用に身に付けてはいるんだ」
渚はガーネットが内側に付いたブレスレットを見せてくれた。
「反動が強すぎるのと、ガーネットが壊れるから緊急用でしかないんだ」
どうやらカーズジュエルの効果は、従者が使うと相応の反動があるのと宝石自体が壊れるそうだ。
「ガーネットがいくつあっても足りないし、明日全身筋肉痛とか勘弁だからな…」
契約者はカーズジュエル自体があるから壊れることはないが、反動は発生するらしい。
僕に反動がないのは盟約のおかげと自らの一族にかけた枷のおかげらしい。
「そういう重要なことは早く教えろよ」
教えなかったのは、教えても僕自体は何も変わらないからだということだった。
次の試合は僕自体気が抜けてしまっていたし、既にお肉も手に入っていたため、あっさりと負けてしまった。
ガーネットを使い過ぎて目立ってしまうのも考え物だったし、僕にとっては都合が良かった。
-午後-
火起こしは男子、食材調理は女子で分担して進めていく。
男子メンバーはなかなか火が起こせていないようだ、僕は手伝いたくてウズウズしていた。
僕は幼い頃から、父さんとキャンプという名のサバイバルを毎年することが約束になっていた。
父子家庭で育ち普段ずっと家にいない父さんといい関係でいられたのも、サバイバルのおかげかもしれない。
サバイバルは本当に何も持たずに3日間過ごすなど過酷な内容の物もあった。それと比べればこれだけ準備万端の夕食作りなんて欠伸が出る。
とりあえず下ごしらえをさっさと終わらせて、火起こしを手伝った方がいいだろう。
食材を淡々と処理をしていると、怜奈と恭ちゃんが覗いてくる。
「お嬢様の癖に料理が得意だとっ!そんなことあっていいのか!?」
怜奈は口を開けて驚いている。
「手際が良すぎる、普段からやっている証拠だね」
恭ちゃんは喋りながらも包丁を正確に動かし食材を切っている。僕にはそっちの方が驚きだ、ちなみに怜奈は見てるだけだ。
「父子家庭だからね、自然と家事ができるようになったんだよ」
渚には外見が中身に追い付いたなってからかわれたが、以前だったら家事が出来る男でポイント高かったかもしれない。
「あ、全然気にしてないからね。物心ついた時から既に居ないし」
二人とも申し訳ない顔をしていたので、余計な心配なことをアピールした。
こんなに大勢で料理を作って騒ぐなんて本当に久しぶりだった。
最近は渚もいるから食事も寂しく独りでとることもなかったけど、やっぱり明るくワイワイやる方が僕には合っている。
「ミナちゃん、とっても楽しそうだね」
恭ちゃんが笑顔で聞いてくるもんだから、さっき感じた思いを素直に打ち明ける。
「今度ミナちゃんの家にご飯食べに行かせてね。怜奈ちゃんも一緒に!」
さらに嬉しくなり二つ返事で「OK」したが、渚との同居がバレてしまうかもしれないことを忘れていたのは言うまでもない…。
下ごしらえが終わり調理が出来る状態になったところで、なんとか火が付いたらしくカレー作りに取り掛かった。
カレー自体は上手にできて、みんなで美味しくいただきました。食べ終わった班から宿舎に戻った。
宿舎では班ごとに部屋割されていて、12畳の簡素な和室になっている。
布団を敷いてあとはお風呂に入って寝るだけだ。………お風呂!?
「お風呂ってやっぱりみんなで入るんだよね?」
怜奈が不思議そうな顔して返事をする。
「当たり前じゃん」
すっかり忘れていて、心の準備が全く出来ていない。
16歳の元男子に耐えれるのだろうか!?時間帯も決まっているから独りで入る訳にもいかない。
「そろそろ時間だから、ほら行くよ」
「えっ!?まだ心の準備ができてないし…」
「何訳わからないこと言ってるの?さぁ行くよ」
怜奈と恭ちゃんに強引に連れられてしまう。
F組の女子が既に着替え始めているのだろ、女湯の中からガヤガヤと声が聞こえる。
(僕は何も聞こえない、何も見えない)
観念してみんなの後に続いて中へ入って行く。
「あー、そのブラ可愛いね」
「もう少しおっぱい大きくならないかな~」
「夏に向けてもう少し痩せないとまずいなぁ」
居たたまれなくなり、僕はとりあえずトイレに逃げ込む。ドキドキが止まらない、しばらくしてみんな居なくなってから入ろう。
しっかりとタオルを巻き最後に侵入(?)する。
真っ先に隅洗い場で身体を洗い逃げるように湯船に浸かる。天然温泉で少しお湯が濁っているのがせめてもの救いだ。
見つからないようにひっそりとしていたら、声をかけられる。
「ねぇー?」
「ごめんなさい!!」
なぜか思わず謝ってしまう。
「ミナちゃんどうしたの?」
声をかけてきたのは恭ちゃんだった。
「何でもないよ!?」
「…変なミナちゃん」
目の前には恭ちゃんの凶器が2つ谷間になって現れる。
「今日は大活躍だったね、ドッチボールと料理も」
恭ちゃんが褒めてくれるがちっとも頭に入ってこない。
自分のドキドキと温泉の熱さで訳がわからなくなってくる。
「ミナトっ!」
「ふぇっ!?」
背中に柔らかい感触が当たり驚くと怜奈が後ろから抱き付いていた。
「どこいってたんだよ~」
さりげなく怜奈が、胸を揉んでくる。
「あっ、ちょっと止めて…」
駄目だ熱い…意識が朦朧とする。抵抗する力も弱まり頭が真っ白になっ…てい…く…。
「えっ!ミナト!?大丈夫!?」
「ミナちゃん!?」
………
……
…
目を開けると天井には蛍光灯があり、どこかの部屋のベッド寝ていた。
「あれ?お風呂に入って…」
ドキドキとのぼせたので、僕は倒れてしまったことを思い出した。
誰か右手を握っている。
渚だ。
しかし、本人は疲れていたのか眠っていた。
また変な心配をかけてちゃったな…。
自己嫌悪に陥っていると誰かが部屋に入ってきた。
「ミナトー?起きてる?」
怜奈が入ってくると、渚に手を握られている光景を見て言った。
「お邪魔でしたか?」
「待て待て」
「冗談だよ、身体はなんともない?」
「多分もう大丈夫」
特に変なところもなかったし、理由もわかっていたからそう返事をした。
「渚君、めちゃくちゃ心配してたよ。ミナトは愛されてるねぇ。」
「ちっ、違うよ。家柄のせいだって!」
僕はカーズジュエルのことを伏せて、簡単に神奈川家と纐纈家のことを説明した。
「ふーん、私はそんな風には見えないけどね」
「本当はからかいに来たわけじゃなくて、大丈夫か確認してくるように先生に言われたんだった。」
「報告してくるから大人してなよ?渚君襲っちゃ駄目だからね?」
「普通逆でしょ!!」
思わず突っ込むとニヤニヤしながら怜奈は、そそくさと部屋から出ていった。
渚の整ったままの寝顔を見ながら、怜奈に言われたことを気にする自分がいた。頭を横にぷるぷると振り、そんな思いを一掃する。
「渚、起きろ!もう大丈夫だから部屋に戻れよ!」
ビクッと驚くと渚は目を瞑ったまま起き上がる。
「悪い寝てたか?ミナト大丈夫か?」
「渚こそ大丈夫?先生来るらしいから戻ったほうがいいぞ?」
寝惚けた感じでわかったと言って渚は戻って行った。
渚が戻るのを見届けると、また眠気に襲われてそのまま寝てしまった。
どうやら体調もすべてが万全じゃなかったみたいで、朝まで起きることなくオリエンテーション合宿は終了となった。
帰り道は色々な人に心配されていたみたいで、クラスのみんなから声をかけてもらった。
男のままだったら、笑わい者にされただろうけど、この時ばかりは女の子になって役得だったと思った。