心まで盗むのは犯罪ですか?③
僕が今日から通う「桜華学園」は春原家のマンションから電車で3つほど行った駅から徒歩15分程歩いた先にある。
通学には45分くらいだ。
駅で同じ制服を着た人がぞろぞろと学園の方角へ歩いて行く。
学園に着くまでに男女問わずチラチラ見られているような視線を感じた。
制服がおかしいのかと思って渚に見てもらったが特におかしなところはないとのことだった。
渚がイケメンだから注目を浴びていたのだろう。
“桜華”というだけあって校門からの50mに桜並木があり一面満開だった。
「渚、この桜並木すごいね」
「春になるとこんな風になるんだな、入試は2月だったけど気が付かなかったな」
「渚でも余裕なかったのか?まぁ僕は回りを見る余裕以前の話だったけどなぁ」
「ミナト、ある程度はいいが“僕”はよせ」
「悪い…じゃなかった、ごめんなさい」
言葉使いは本当に気を付けないと地が出てしまう、渚と一緒にいるときが一番出やすいから尚更不味い。
「俺も緊張してたよ、入試のとき、ミナトが落ちるんじゃないかってなっ」
「なんだよそれ!」
怒って頬を膨らませる。
「ミナト、それ本気でやってるのか?」
「ん?なんのこと?」
渚の顔が赤くなっているような気がしたが、顔を逸らすからよくわからなかった。渚には感謝しているがそこまで言うことないだろうと当時を思い返してみる………渚先生ありがとうございます、悔しいから口に出さずに感謝する。
父さんが理事長だから裏口入学なんて無いからな、と釘を刺され、さらに桜華に合格しなかったらどこにも行かせないからなと追撃ちされてそれこそ地獄の日々でした。そしてこの現状僕の人生どうなってんのっ?!
がっくり肩を落としながら下駄箱付近までたどり着いたところで、近くの掲示板に人だかりができている。どうやらクラス割が表示してあるらしい。
「ミナトはここで待ってろ、お前の分も見てきてやるよ」
そういうと、渚は人だかりを掻き分けてクラス割を確認しに行ってくれた。
周りには僕と同じようにクラス割を見に行かずに、混雑が収まってから行こうとしてるのか遠巻きで待っている人が何人かいた。
クラス割りでも見てるのかなっと周りをぼーっと見ていると、やたら目が合うんですけど……どうやら視線は僕を見ている。
さっきのも僕への視線だったのかもしれない。
こっちを見ている同級生であろう男子と目が合ったため、思わず軽く笑顔で会釈する。
すると男子は蹈鞴を踏んでグランドへ続く階段をよろけて落ちていった。
おいおい、大丈夫かよ!?見ず知らずの同級生に悪いことをした気分だ。
しばらくすると、渚が帰ってきた。どうやらクラスは一緒で1年F組らしい、渚と一緒ということで安心した。
教室に着いたら、席が指定になっていて、男子女子の順で五十音順の並びみたいだ。僕の席はちょうど教室の真ん中くらいだった。
席についてそわそわしていると、後ろから声を掛けられた。事前に席に置かれた名簿を見ながら話ているから、名前が分かったらしい。
「神奈川 ミナトさん?私は唐橋 怜奈よろしくね」
後ろの席に座っているのは、大きな瞳でハキハキと喋る感じが印象的な美人さんだった。
「ミナトでいいよ」
「私も怜奈でいいよ、ところで私はスポーツ推薦で入学したんだけど、ミナトは?一般?」
「うん、一般だよ」
「おっー‼頭いいんだね、テストのときはよろしくね!」
美人に期待の眼差しで見つめられると、困ってしまう。
「いやいや、桜華を合格できたのは奇跡でほぼ渚のおかげだね」
「渚?」
「纐纈 渚って言って幼なじみなんだ」
渚の方を見ていると、気が付いたので手を振った。
こちらが話しているのを見ると渚は軽く会釈した。
「後で紹介するね」
怜奈は「ははーん」と言ってそうな顔でこう続けた。
「彼氏?」
僕は予想外の返答に思わず吹き出した。
「違う違う!!ただの幼なじみだよ」
自分の顔が若干赤くなってそうだから説得力がない。
「ハハハ、そんなに動揺することないじゃん、片思いのひとを追っかけてるのかぁ、健気だねぇ~」
「それも違うって」
怜奈は少しオジさん気質らしい
そうこうしている内に、担任が来てオリエンテーションが始まった。
どうやら自己紹介が始まるらしい、女の子になったことによる辻褄合わせを色々考えて準備はばっちりだからドーンと来い!
設定はこうだ…中学は病気のため全く行けていない、治療の毎日で勉強は家庭教師に教えてもらっていました。
ちょっと無理矢理感があるが、これなら中学からの繋がりなどで変に思われることもないだろう。
最後に「友達が少ないので仲良くしてください」と付け加えておいた。
一瞬教室がシーンと静まり返ったため、不味いこと言ったかと思ったがすぐに拍手され席についた。
自己紹介が終わり、入学式で体育館に入場する順番待ちのため教室に待機になった。
渚が近くに来たので怜奈に紹介する。
「怜奈、さっき言ってた渚だよ」
「纐纈 渚です、よろしく」
「唐橋 怜奈です、ミナトの先生だね。テストのときはミナトと一緒に面倒みてね」
渚先生も生徒が増えて大変ですね、ニヤニヤなんて考えていると意地悪な回答が帰ってくる。
「ん?先生か…ミナトの出来の悪さは一級品だからなちょっと手伝ってほしいな」
「ちょっ!?さすがに傷つくよ?」
渚のヤツめ、こんな美人と仲良くなれたのは僕のおかげなのに…と思っていると後ろから声がした。
「怜奈ちゃん、知り合ってそうそう迷惑かけないの」
声を掛けてきたのは、同い年とは思えない大人の雰囲気を纏ったとても優しいそうな女の子だった。
「お、うちの先生のお出ましですか…」
「池田 恭子です、よろしくお願いします」
「怜奈ちゃんとは同じ中学で、マネージャーやってました。」
「神奈川 ミナトです、こっちは纐纈 渚だよ。よろしくね。そういえば、怜奈のやってる部活って…」
と言いかけると、怜奈は立ち上がって喋り出した。立ち上がった瞬間に気が付いたが、結構身長の高い渚より少し低いくらいだ。高身長の男女が並ぶと絵になる。
「もちろんバレーだよ!!桜華は強豪だからね、早く部活やりたいわ~」
背が高いのもあるんだろうけど、足もスラッと長い!
「モデルさんみたいだ、美人だし」
思わず口に出してしまう。ふと横に立っていた恭子ちゃんを見ると、恭子ちゃんもすごい!!何と言っても胸が…破壊力バツグンだっ!!
ゴクっ
思わず息を飲む。じっと見ていると怜奈に視線を気づかれた。
「そうなんだよ、このメロン揉み心地最高なんだよ」
「たまんなーい」
そういって怜奈は恭子ちゃんを後ろからオッパイを2つとも鷲掴みにした。
「れ、怜奈ちゃん、止めてよ」
「ミナトも揉んでごらんよ、ほらほら」
怜奈自由すぎる…渚と2人で困惑しているとさすがに恭子ちゃんが怒って怜奈が叱られた。
あんなにも大きい怜奈が物凄く小さくなっていた。
恭ちゃん勘弁してあげて、怜奈はグッジョブだったよと心の中で思っていた。
「二人とも、美人な上にすごいモテそうだね」
と僕が言うと不思議そうな顔してこっちを見てくる。
「ミナト何言ってるの?こんな可愛い顔していい体してるじゃん!!」
怜奈の魔の手が、僕に襲いかかる。身体中をじっとりと触られまくる。
「恭子も捨てがたいけど、ミナトもスベスベで最高だよ!!おじさん興奮しちゃう!!」
よだれを拭きつつ、とんでもない変態臭を醸し出してくる。美人じゃなかったら許されない顔してますよ怜奈さん?再び恭ちゃんに叱られて怜奈が小さくなる。
「ミナちゃんは本当に気づいてないの?教室に入った瞬間から注目されていましたよ?」
と小さな声で恭ちゃんが言ってきた。
元男だからか、そういった視線を感じても全然モテているといった考えにたどり着かなかった。さらに家柄までバレたらどんな視線を浴びるのか想像もしたくなかった。
そんなことを思っていると、F組が体育館に入場するタイミングになった。
-入学式終盤-
校長や来賓の話からはじまり、滞りなく式は進んでいく。
続きまして、理事長よりご挨拶いただきます…
進行の先生がアナウンスする。
理事長!?っまさか!!
父さんだった、マジで日本に戻ってきてたんだ。
「新入生諸君、理事長の神奈川 倫太郎だ。私の伝えたいことは2つだ、三年間大いに勉強に部活に恋愛に励んでくれ」
「そして、娘に手を出したら…殺」
とんでもないことを言い出そうとしたのを校長がいち早く察して父さんを引きずり降ろす…
校長先生ありがとうー!!身内の恥を最小限にしてくれて……今度父さんには二度学園にくるなと言っておこう。
入学式が終わり、教室に帰ってきてそうそうだが怜奈が聞いてきた。
「ミナトさん?“神奈川”ってまさか…?」
父さんがあれだけ盛大にやればバレるのは当たり前だろう。
「そのまさかです…」
「えー!珍しい名前だから親戚か何かかと思ってた。まさかご令嬢とは…」
せっかく仲良くなったのに距離が出来てしまうのかと思った。
しかし、怜奈は違った。
「こんなに可愛いのに神奈川家ご令嬢なんて、言い寄ってくる男いないでしょ?」
「よしよし、おじさんが慰めてあげよう」
と笑い飛ばしてくれた。それだけでどんなに嬉しかったことか…
怜奈だけでなく、恭ちゃんも普通に接してくれたおかげF組内は変な空気なることはなかった。
(渚からあとで聞いたことだが、初日から僕のファンクラブが発足していたらしく禍患のご令嬢というあだ名まで付いていた。渚は笑いを堪えるのに必死だったそうだ)
初日の日程は、全て終わり下校時刻になった。
担任が僕だけ帰りに校長室によって行くように言いつけられた。
渚に待っててもらうことにして、校長室に向かった。
何で呼ばれたかは大体察しがついたので、何も躊躇わずノックした。
「失礼します、神奈川です」
「どうぞ」
と中から声がした。部屋の中に入ると校長先生とやっぱり父さんが話していた。
「おー来たね、ミナちゃん!この人はパパの旧友でね」
さっき壇上で挨拶しているから当然知ってるんだけど、わざわざ自己紹介してくれる、とてもいい校長先生だ。
「桜華へようこそ、校長の長谷川 哲也です」
「初めまして、神奈川 みなとです。父がお世話になってます。」
「初めましてか…何度か会ってるんだけど覚えてないかな?」
「え?うーん……もしかして!哲也おじさん!?小さい頃に遊んでくれた!?」
「おっ!覚えててくれたんだ、嬉しいな」
かすかにだが遊んでもらったような記憶がある。
「しかし、桃ちゃんそっくりだね」
「そうなんだよ哲!!」
と言って父さんは僕を抱き寄せて、同時にクンクン匂いを嗅いでくる。
「ちょ、ちょっと匂い嗅ぐのは止めてくれよ!?」
「パパって呼ばなきゃ止めない!!」
しばらく抵抗したが一向に止めてくれないのでしょうがなく呼ぶことにした。
「……パパ、止めなきゃもうパパって呼ばないから」
言った瞬間に恐ろしい程素直に止めてくれた。どうやらうちの父さんは異界転移したらしい、あれは父さんのカタチをした変態だ。
「ミナトちゃん、そいつ何でも言うこと聞いてくれるから、お願いごとするなら今だよ」
「あと、事情を知ってるのは私だけだから安心しなさい。困ったことは何でも相談してね、桃ちゃんの跡目を継ぐんでしょ?頑張ってね」
哲也おじさんはとても優しい目で僕を見つめてくれていた。どこか懐かしそうな目でもあった。
帰ろうとした間際、父さんが今日は屋敷に行くから辰爺と一緒に行けと言われた。
渚を待たせてしまっているから、早足でF組の教室に帰るとなんと渚だけでなく怜奈と恭ちゃんが待っててくれた。
「怜奈、恭ちゃん待っててくれたの?」
「駅まで一緒に帰ろうってさ」
渚が言った。
「校長室に何の用事だったの?」
と怜奈に聞かれたので父さんに娘をよろしくと紹介されただけと言っておいた。
帰り道は部活はどうすると言う話しになり、当然怜奈はバレー部に、恭ちゃんはマネージャーに。僕と渚は当面学業優先と言う話しに落ちついた。






