心まで盗むのは犯罪ですか?①
春の暖かい気温に包まれてすやすやと眠る。
春眠暁を覚えずとはこのことだ、なかなか身体はいうことを効かない。
コン、コンッ
部屋をドアをノックして、扉が開いた。
「ミナト~、朝飯できてるぞ!初日から遅刻する気か?」
「あと5分…」
なかなか起きられなくて、そんな言葉が出てしまう。
「布団をひっぺがして欲しいのか?」
呆れた声でそんなことを言ってきたのは、幼なじみで親友の纐纈 渚だ。
「わかったよ、起きてリビングに行くよ」
そう言ってまだまだ眠い身体を無理やり起こす。
「準備に時間がかかるんだから早くしろよ」
渚はそう言って部屋を出ていった。
「ふぁ~あ、眠い…」
勢いをつけて普段通り起きようとしたが、勢い余ってベッドから落ちかける。
「あぶなっ、まだまだ身体の変化に頭が着いて来てないな…」
僕の名前は春原 湊、年齢は15才でまさに今日入学式を迎える男子高校生“だった”二週間前までは…。
制服に着替えて朝食を食べるために、まずは洗面所へ顔を洗いに向かう。
洗面台に備え付けてあるの鏡に、眠そうな顔した可愛らしい美少女が映り思わず驚く。
「はっ!?そうだった、僕の顔だった。」
はぁー、二週間経っても慣れるもんじゃないよな…。
僕は見た目も戸籍上も今は女性になっている。訳あってこんなことに…
しかし、女の子になってからは、気を使うことばかりだ。
まず洗顔にしたって、ケアの為に化粧水に乳液は当たり前…春は紫外線が多いから日焼け止めも必須だ。
男のときには全然したこともなかったしな…女子は何かと大変だったんだなぁ。
洗顔とケアが終わると、髪をブローしながら整える。
髪の長さは女の子になったからと言って、急に長くなったりはしなかったためショートボブの若干短いくらい…元々男の割に長めだったのが幸い(?)した。
長さは変わらなかった髪質が全然違っていた。
硬さが断然柔らかくなり、何より細くなって櫛をとかしやすくなった。
一言で言えばサラサラだ!!自分で触ってて気持ちいい。
これなら伸ばすのもありかもしれな……
「あー!!このままでいいのか僕!!女の子に順応してきていないか!?」
まぁ男のロン毛も居ないわけじゃない!?っと訳の分からない理由をつけて気持ちを誤魔化した。
着替えるために部屋に戻り、パジャマを脱ぐ。
毎回着替える度に、ドキドキしてしまう自分がいる。
自分自身で言うのはどうかと思うが、元々男なので客観的に見えてはいるはずだ。
……はっきり言ってスタイルが結構いい、身長は160位で、胸はそこそこあってFカップ、ウエストは適度にくびれていて、ヒップも少し上を向いていてキュッとしてる。
下着も女の子になったため、仕方がなく女性物を着けてはいるが、こんな姿でいる自分を見て更に頬を赤らめている。(15才元男には刺激がありすぎる)
渚にこんな姿見られたら恥ずかしい過ぎて死にそうだわ…。
さっさと制服であるブレザーとチェックスカートに着替え、大きめなリボンタイを着けて部屋を出る
リビングに行くと、トーストの焼けたいい匂いがした。
「爺、おはよう」
「おはようござます、ミナト様」
彼の名前は纐纈 辰之助昔からこの家に仕えている執事だ。年齢は68歳になり風貌は眼鏡を掛けた優しいおじいちゃんそのものだ、体格はそれに相反して結構ガッチリしている。
すでにテーブルに座って、コーヒーを飲んでいる渚の実の祖父である。
「ミナト、あと10分もしたら出ないと間に合わないぞ」
朝食を食べ終え、渚と玄関へ向かう。
玄関を出ようとすると、渚に引き留められる。
「曲がってるぞ、これでよしっ!」
制服のリボンタイを直されたのだが、身長差(渚:185cm 僕:160cm)が頭半個分くらい違う。
リボンを直すためとはいえ、顔がすぐ近くに近付いた。
何故かわからないが、緊張して渚の顔が見れなかった。顔も変に赤くなってるだろ…顔が熱い、朝変なこと考えてしまったからだろうか?
渚は幼い頃から知っているが、頭がいい。僕の勉強を何度みてくれたか分からないくらい世話になっている、テストの順位もいつも一桁だった。
天は二物も三物も与えるのか、身長もそこそこあって顔もイケメンだ。しかし、誰かと付き合ってるとか浮いた話を一切聞いたことがなかった。
いつも僕と一緒にバカばかりやっていた気がするなぁ。
正直高校も一緒のところに行けたのは渚おかげだろう感謝している。感謝こそしているが、僕にそんな気持ちは無い!!断じて違うストレートだ!!
「これくらい自分で直せるよ」と誤魔化した。
渚の心配は全然違うことだった。
「おい、ミナト。これからは神奈川家の跡取りとして見られるんだぞ、身だしなみは散々爺ちゃんに言われてるだろ…気を付けろ」
「う、すまない」
そうだった。今までは母方の姓である春原を名乗っていたから、お気楽にしていたがそうもいかなくなった。
父さんの配慮により、今までは神奈川の名前は使っていなかったのだ。
実際神奈川家の跡取りに見られて、虐められることもなければ好奇の目で見られることも無く、今日まで普通に過ごせてこれたのは名前のおかげだろう。
「遅刻するから、早く行くぞ」
渚のサポートに感謝しつつ学校へ向かった。
始まりを語るには、何故僕は女の子になってしまったか、まずそこから説明しなくてはならないだろう。
-3月中旬-
普段は学校への通学もあり都心にあるマンションの春原家に生活の拠点があるのだが、春休みを使って久しぶりに実家である神奈川家に帰っていた。
実質ふたりしか家族が居ない上に、実際には住んでいなく無駄にデカイ屋敷だ。
父さんは殆ど会社にいるか、世界中飛び回っているかのどちらかのため屋敷にはいない。
目的は父さんの書斎だ。
父である神奈川 倫太郎は、実質一代で神奈川グループを世界有数の会社へ築き上げたのだ。
事業は手広く、都市開発・研究事業はたまた海外開拓事業まで本当にいろいろやっている。
そんな父さんが集めた蔵書が、まるで小さな図書館ばりに書斎に並んでおり、その殆どが僕の興味をそそる本ばかりだった。
そんな書斎に本を取りに行った際に見知らぬ箱を見つけたのだ。
「なんだこれ、父さんのコレクションかな?」
父さんの趣味で、珍しい宝石のコレクションがあり、昔何度か見せてもらったことがある。
その箱は厳重にDangerと書かれた黄色のテープでぐるぐる巻きにされていた。
かなり危険な香りがしたが、それ以上に中身が気になって仕方がなかった。
しかし、そのときは何もせず、幾つか面白そうな本を見繕ってそのままマンションへ帰った。
屋敷から帰り、晩御飯を食べたあと見繕った本を読んでいたらあっという間に時間は過ぎていた…。
別にこれと言って明日用事があるわけではないのだから夜更かししてもいいのだが
「受験も終わった楽しい春休みだと言うのになんと虚しいプライベートなんだ…」
とか思いつつ続きは明日読めばいいかと考え、とりあえず寝るためさっさと風呂に入った。
風呂もあがり、体がクールダウンしたくらいで急な眠気に襲われ、寝ぼけながら部屋に戻ると昼間屋敷の書斎で発見したあの“箱”が机に置いてあったのだ。
無意識に持って来てしまったのだろうか…全然記憶にない。
何でここにあるんだ?と不思議に思ったが、無性に気になった中身を見てみたくなった。
厳重な包装をほどき、箱に手をかけて開けようとした瞬間に黒い煙と眩い光が同時に噴き出した。
煙と光が収まるとなかには何も入っていなかった。
何だよ!と思ったそのとき体が異常に熱くなり、強烈な目眩に襲われた。
思わずその場に少し吐いてしまい、終いには立っていられなくなりその場にぶっ倒れてしまった。
「ぼっ、僕は死ぬのか…!?」
薄れいく意識の中で、爺が僕を呼んでいた気がした。