少女の日常2〜王都〜
王都ではフードを脱ぐことはできない。それはミヤが白騎士だから。容姿を晒してはならないのだ。強き者であるために。あり続けるために。ミヤ的には晒してもいいのだが、上がいい顔をしない。面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだ。ただでさえミヤは若いのだ。白騎士になるには若すぎる。
「ミヤ様!やっと来られましたか!」
「おお、無事で何よりです!」
ミヤを見たものは口を揃えてミヤの無事を安堵する。…表では。裏でなんて何を言ってるものかわからない。きっとあんな糞ガキが…とか言ってるのだろう。それでも口答え出来ないのはミヤの力がそれほどだということ。
それもそのはず。白騎士になる為の試験はそう簡単に通れるほど甘くはない。何十人、何百人もの腕のある騎士が挑み、生き残れるのはほんの10人ほど。その中でも白騎士に選ばれるのは何年かに1人だけなのだ。
「あー、うん。」
ミヤは曖昧に相槌をうち興味なさげに彼らの前を通り過ぎていく。
「なんだあの人を見下した目は。」
「さすが冷徹の悪魔だな。」
「子供は子供らしくしておればよいものを…。」
後ろではその他大勢の騎士が口々に騒ぐ。でもミヤに本気で楯突こうとする者など一人もいない。それは皆知っているから。
彼女が試験の日、かつて見たこともないほどの力を見せつけたから。それは天才的な、神々しいとも言える程の魔法。
そう、全属性魔法、そして白魔法。
天地に愛され、神に愛されなければ手にすることのできない魔法。
1000年に1度と言われるほどの逸材だった。
ふぅ、、ミヤは後ろから聞こえる雑音にため息をはきながら目の前に立つドアを見上げる。金色に光り、愛の象徴とした天使と闇を象徴とした悪魔が描かれている。
…趣味悪いなぁ、ここのジジイは。
ミヤがそう密かに思っているのは秘密で。
「失礼します。」
重たいドアを開けるとそこには渋い顔をした重役が勢揃いしていた。
「おお、きたか。」
そう言い爺達はこちらをむくが、その顔は酷く、クマができ、疲れきっていた。ミヤは不思議に思い首を傾げる。それもそのはず、彼らはこの世界の重役達。いくら歳を重ねようと上に立つものには代わりがない。そんな彼らがこのような顔を人に見せることなどあってはならないのだ。
「どうかされたんですか?」
ミヤはできる限り怒りに触れないように尋ねる。怒りに触れてはなんの仕事を任されるか。前の時は敵対する国まるまる1つ全滅させることだった。
「いや、最近我らの反対勢力に力を持つ者が入ってな。1人で動いてるらしいが、手こずっておるのだよ。」
「等級は。」
「AAA…いや、Sといったところか。」
「その程度の強き者なら何故そんな顔をされてるのです。」
「実はな、そやつノワール学院の者なのだよ。ただ、我らはお前さんを置いてもらっとる義理もあるからなかなか動けんでな。そやつの能力もお前さんと近いものがあってな。等級はあれじゃが、能力は同等と言ってもよいだろう。」
ミヤは目を見開いた。ノワールにそのような強き者が存在していたとは。ん?まてよ。…てことは。。
「あの、まさかとは思いますが…。」
「そのまさかじゃよ。そやつを監視しておいてほしいのじゃ。そやつが安全とわかるまでな。」
「却下します。」
「…どうしてもか?」
「はい。どうしてもです。」
「1年分のチョコ付きで手を打たんか。」
「3年なら考えます。」
「………わかった。手を打とう(泣)」
「じゃあ、情報は送っといてください。では、また。…ヨシッ(小声)」
部屋を出たミヤはきっと、とても幸せそうな顔だっただろう。まわりに花畑できるくらい。
「では失礼しました。」
そういい、部屋を出たミヤは深く考え込んだ。
それもそのはず。
ミヤがノワール学院に入学してからこれまで、自分と匹敵するくらいの魔力に出会ったことがないのだ。
…どこのどいつだよ、仕事増やしやがって。
現在、ミヤの心はフツフツと燃え上がっていた。
ーそして翌日ー
ミヤは軽い苛立ちを覚えながらも学院へ向かう道を歩いていた。
ん?誰かいる…。
本当に細い道。猫が1匹通れるくらいの道。少しだけ人の気配がした。いや、まだしている。
「何してんの?」
「…。」
声をかけても返事はない。ただ、嫌な予感だけがミヤの心を占めていく。そう。血の匂いがするから。あの日と同じ。
「ねぇ、誰かいるんだろ?」
ゆっくりと警戒しながら細い道を進んでいく。
いた。
そう。ミヤの考えはあっていた。道の先には黒いフードを被った男がいる。彼の下には大量の血が溜まっていた。ただ、困ったことに裾から見えているズボンはミヤと同じノワール学院の制服であって、無視ができない状態だということ。
「お…おい!大丈夫!?あんたノワールの生徒でしょ?何があったの!?」
学院に向かう以上ミヤは魔法の使えない劣等生。使えば魔力の差は大きく出てしまうから。しかし、この状況は急を要するものであった。答えないのではない。ミヤの前に座る彼は答えられないのだ。意識を失っているから。
「ティーナ、癒しを。」
ミヤは周りを確認したあと、自分の腕に刻まれた刻印に声をかけた。
「ミヤ、あたし出ても大丈夫なの?」
とても小さな声がその場に響く。
「大丈夫。このままじゃ間に合わない。」
「OK、…我の祈りをミヤ・リアリスに。」
一面が光に包まれた。この世の邪気など存在しないかのような光。ミヤにティーナと呼ばれる精霊は全ての邪悪なものを排除する。
光の精霊。癒しのティーナ。人を癒すことで命を永らえる精霊だ。
「ねぇミヤ、この子ちょっと変よ。あたしの力じゃこれ以上治せない。」
「どうゆうこと?」
「ミヤと同じ匂いがするの。ミヤと同じ闇の匂い。」
「えっ…。」
「とりあえず傷は治してある。これ以上ここにいるのは危険よ。」
ティーナの言葉が間違っていたことなんてなかった。だからこそ、ミヤは戸惑った。
…あたしと同じってことはあってはダメなんだ。あいつも使ったのか。あたしと同じ…。
「可能性ってだけよ。あれだけじゃ詳しくはわからない。」
ミヤの不安を感じ取ったのだろう。ティーナが優しく声をかける。