75 人間味溢れる悪役(未来戦隊タイムレンジャー:ドルネロ)
2000年放映の『未来戦隊タイムレンジャー』は、正統派だった前作とはうって変わって変則的な戦隊となりました。
敢えて統一感をなくしたメンバー、最初から謎を匂わせた物語展開、組織に属しながら孤立したチーム、自由に使えない巨大ロボなど、妙なリアル感の漂う作品です。
OPが女性ボーカル、タイトルコール以外に「○○戦隊」が全く存在しない、怪人を殺さない、パーソナルカラーのゴーグル、赤のレギュラー戦士が2人と、シリーズ唯一となっている要素も多いです。
設定面ではかなりリアルでハードな物語を目指していますし、デザイン面ではこれまでにない方向性を打ち出しています。
また、最初から謎を見え隠れさせるなど、リアル指向ならではの物語展開も見せています。
まず、リアルな設定という面から見ていきましょう。
設定がかなり細かく作られており、1話ではタイムレンジャーが所属する時間保護局という組織の背景が丁寧に語られています。
時間保護局が作られた経緯、5人一組のレンジャー隊員と「タイムレンジャー」という戦闘モードの意味、向かう時代の基礎知識が1年の期限付きで脳に刷り込まれるといった物語中の基本知識が正面から語られています。
この情報密度は相当なものです。
さらに、逃走したドルネロらを追うメンバーを新人隊員から勝手に選ぶリュウヤと、反対はするものの言いくるめられて止めることもできない保身主義の上役といった裏側も見せてくれています。
この時に上役を言いくるめたリュウヤは、実はリラの変装ですが、そのリラに易々と言いくるめられてしまう(ということは、それが通じるとリラが思っている)上役の存在が、時間保護局という高尚な組織を人間臭い俗なものにしているのです。
逆に言うと、1話でこれをやっているからこそ、その後毎週のようにリュウヤがタイムロボを勝手に送っても違和感がありません。
続く2話では、20世紀に取り残された4人の境遇が描かれていますが、これは伏線としてラストできちんと決着が着けられています。
次に、タイムレンジャーのメンバーについて見てみましょう。
タイムレンジャーは、スーパー戦隊シリーズでは非常に珍しい、と言うよりほとんど唯一の、面識もなく能力を買われて選ばれたわけでもない全くの寄せ集め戦隊です。
元々スーパー戦隊シリーズには、互いに面識のないメンバーを集めて戦隊が結成されるというパターンが多いです。
ですがその場合、何らかの理由をもって集められるのが一般的です。
『デンジマン』『サンバルカン』『ゴーグルV』『ダイナマン』『バイオマン』『チェンジマン』『マスクマン』『ターボレンジャー』『ジェットマン』『ジュウレンジャー』『ダイレンジャー』『カクレンジャー』『オーレンジャー』『ガオレンジャー』『アバレンジャー』では、戦士としての資質を買われて集められました。
『オーレンジャー』については、グリーン以下4人は元々同じ部隊の所属でしたが、肝腎の隊長が全く知らない人なので、面識がないという扱いでいいでしょう。
『チェンジマン』については異論があるかもしれませんが、チェンジマンの5人は、1話の地獄の特訓に参加させられた時点で、アースフォースに選ばれる可能性のある者でした。
このように、戦隊のメンバーが特に理由もなく集められるということは、『タイムレンジャー』以前にはなかったのです。
『タイムレンジャー』は、『カクレンジャー』や『シンケンジャー』同様、見知らぬ5人が戦いの中でまとまっていくという展開を見せますが、“見知らぬ5人”という点では『カクレンジャー』『シンケンジャー』より念入りです。
何故なら、タイムレンジャーのメンバーはリラが適当に選んだ4人の新人レンジャー隊員と20世紀の人間:竜也であり、『カクレンジャー』『シンケンジャー』のように宿命で結ばれた戦士達ではないのです。
リラが4人を適当に選んだのは、タイムレンジャーとしてドルネロ達を追っていくという体裁を整えて時間飛行体を使うために過ぎません。
だから、最初から2000年に着き次第4人を殺すつもりでしたし、そのために経験のない(抵抗される心配の少ない)新人を選んだのです。
物語展開としても正しい判断ですが、このことがタイムレンジャーの群像劇を成立させています。
新人隊員ということは、互いにそれまで面識がないということで、現代人の竜也だけでなく未来から来た4人も知らない人同士、しかも、例えば『ダイナマン』の夢野博士のような“悪を察知した正義の科学者に選ばれて集められた”わけでもないから、彼らをまとめてくれる“選んだ人”もいない。
更に、戦いをやめて未来に帰るためには“ロンダーズファミリー全員を逮捕する”=20世紀に来た目的を完遂することが条件となっています。
彼らは、自分達の意思と理由で結束していかなければならないのです。
だからこそ“自分の力で明日を切り開こう”と言った竜也を求心力としてまとまっていくことになります。
勿論、作劇的にはこの5人には理由があるのですが、その点は後に触れることにしましょう。
敵方に目を向けると、これまたかなり変則的です。
首領であるドルネロと、ほぼ同格の幹部2人というかなり小規模なキャラ配置もそうですが、金儲けというせこいんだかリアルなんだかよく分からない目的も独創的です。
ロンダーズファミリーは、簡単に言えばギャング組織で、ボス、参謀格のナンバー2、ボスの情婦という最小限の幹部と、無機物であるゼニット、“とりあえずそこにいるからファミリーに加えてしまえ”的なノリで解凍される囚人達によって構成されています。
この世界征服も人類絶滅も企まない小市民的な悪の組織が、本作のリアリティを支えているのです。
ロンダーズの武装は30世紀の科学力のため、正面から力押しすれば銀行強盗だろうが金庫破りだろうが自由自在です。
実際、1話では派手に銀行強盗をして当座の資金稼ぎをしています。
ところが、荒稼ぎしたはいいが、リラがどかすか使ってしまって金庫が空同然になってしまったことなどもあって、ドルネロが「ドカンと入ると、その分派手に使っちまう」と反省したことから、堅実に“長期的にそれなりの収益が見込める犯罪”を主体として経営していく方針に変わりました。
こう書くと何が何だか分からないでしょうが、ドルネロやリラは、悪の組織としては常識はずれなことに、レストランで金を払ってディナーを食べるし、洋服店や宝石店で高価な服や宝石を買い漁るのです。
しかも現金の即金払いです。
欲しい物があれば奪い取るのが悪の組織だろうに、あろうことか金を払って買う!
どうして、こんな非常識な行動を取るのかといえば、先にも書いたとおりロンダーズがギャング組織だからです。
敢えてわかりやすい喩えをするなら、ロンダーズは社会の寄生虫であり、社会そのものが機能しなくなれば存在が危うくなるのです。
彼らには別に思想や自分達なりの正義といったものはなく、楽して大金を稼いで面白おかしく暮らしたいだけです。
だからこそ、何かと動きづらくなってきた30世紀に見切りを付けて20世紀にやってきたわけです。
こういった行動理念だから、無駄な殺人も破壊もしません。
金儲けに繋がる破壊なら全く躊躇しませんが、基本的には邪魔をしない奴は傷つけません。
破壊活動によって安く買い叩いた土地を企業用地として売る、ビルを破壊すると脅して金を巻き上げるなど、時折“破壊活動ありき”な作戦もありますが、これも目的があってターゲットを絞った小規模な破壊です。
また、ドルネロは効率的な金の儲け方を色々考えているようで、同時に複数の囚人を解凍して、その能力に合わせた作戦行動を行わせています。
タイムレンジャーにバレた作戦から潰されているため、結果的に1人ずつ活動しているように見えるだけです。
この手の番組でよくある“どうして一度に大勢の怪人を出さないのか”という疑問に対する1つの回答と言えるでしょう。
金儲けのやり方も、必ずしも暴力的なものばかりではなく、宝石泥棒やインチキカウンセラー、インチキ宗教など、現実的な犯罪も多かったりします。
特に21話『シオンの流儀』での、未来の飲料ネオアルコールを薄めたパワースプリッティーなる清涼飲料水の販売作戦は、現代日本の法律から言えば違法ではありません。
このエピソードでは、ドルネロ自身が人間(金城銅山)に化け、弱小飲料メーカーにネオアルコールの濃縮原液を持ち込んで製造販売させ、ヒットさせるという作戦が遂行されました。
その流通には現代の日本のメーカーによる生産・販売ルートを使用しており、暴力的な行動も囚人の特殊能力による支援もありません。
本当に“社会のニーズにあった商品”による商業的利益だけを追求しており、しかも労働搾取すらしていないのです。
ドルネロが日本のメーカーを利用してパワースプリッティー製造・流通を行った理由は、設備投資が不要であること、設備の建設期間を必要としないこと、あくまで裏で利益を得たいことなどからでしょう。
恐らく提携先に弱小メーカーを選んだのは、利益配分の契約上有利になるからで、この辺は金の亡者ドルネロの面目躍如といったところですが、それだって正当な商取引の範囲内のことです。
何しろ、メーカーの社長は、金城を社の救世主のように扱い、心から感謝していたのです。
この作戦で唯一違法性があるのは、未来の化学が生みだした化合物であるネオアルコールを20世紀で製造したことが歴史の改変に繋がり、時間保護法に触れる可能性があることでしょう。
番組中では、ドルネロがいたから逮捕だ的な展開になっていましたが、ドルネロとしては、ネオアルコールに気付いたタイムレンジャーが踏み込んでくるころまでは普通に売り、気付かれた後はハイドリッドを用心棒に、原液がなくなるまで一気に製造しようという作戦だったようです。
短期間ではありましたが、あれだけ爆発的に売れたのですから、数千万円は稼げたのではないでしょうか。
しかもロンダーズ側の被害は、戦う以外に能のない囚人1人だけ。
作戦行動にかかる経費が掛からなかったのは大きいです。
地味ですが、費用対効果から言えば大成功です。
このように、ロンダーズの、というよりはドルネロの作戦は、非常に合理的かつ小市民的なのです。
ロンダーズが金儲け主体の組織であることは、タイムレンジャーの面々の思考にも反映されています。
19話『月下の騎士』でロンダーズがλ-2000を強奪した時も、その目的がλ-2000をΖ-3に精製するつもりだというところまで読んだ段階で、タックは「この時代では金儲けの種にもならない。恐らく自分達で使うつもりだろう。ロンダーズとはいえ生活エネルギー源は必要だからな」とあっさり片付けています。
また、リラが主体の作戦の場合、金よりはもっと即物的な行動になります。
未来の有名画家に自分の肖像画を描かせるために誘拐するとか、エステのために異星の植物を養殖したら海が汚染されたとかいった具合で、ワガママが悪事に直結しているだけです。
これにより、ロンダーズは、スーパー戦隊シリーズ屈指の大破壊をしない組織となりました。
これは、ドルネロの金中心という考え方から来ています。
得にならない殺人も破壊もしたがらないのです。
もちろん、ユウリの父親のように、自分に敵対する存在は、放っておくと損失を生むから躊躇なく殺すわけですが。
解凍した囚人は、新たなファミリーの一員として、それなりの扱いをしています。
最終回間際では、自分がギエンを殺せなかった場合=大破壊が起きてしまう場合のことを考えて、作戦行動中だった囚人全てを呼び戻し、事情を話して再び圧縮冷凍しています。
そして、自分の死に際し、ユウリにアジトの場所を教えて囚人の保護を依頼するなど、囚人達を救うことを真剣に考えているのです。
囚人の中には、ドルネロとは無関係な者の方が多いわけですが、それも含めて全員未来に連れ帰ってくれるよう依頼していることからも、ドルネロが無益な殺生を好まない性格であることがわかります。
9話『ドンの憂鬱』では、昔つるんでいたアーノルドKが古株面してファミリーに不協和音をもたらしたため、いきり立つギエン・リラを見かね、ドルネロはアーノルドの銃が暴発するよう細工し、圧縮冷凍されるよう仕向けました。
そして、ギエン達に「昔なじみより金と欲で繋がった仲間を選ぶぜ」とうそぶいています。
一見、旧友をあっさり見限る非情なボスのようですが、その本心は、「殺されちまうよりはマシだろう」とアーノルドのことも考えてのことでした。
この“強面のくせに妙に愛嬌があって人情家”というのがドルネロの魅力で、ロンダーズを魅力的な組織にしているのです。
そして、それがまたドルネロの弱点でもあり、ラストへと繋がっていくことになります。
ドルネロの作戦方針は個人的には大好きですが、物語展開上では、派手な映像が出てこない、悪の脅威が描けないというジレンマをもたらします。
結婚詐欺師や悪徳警官では、恐怖の組織という印象は持てないでしょう。
それだけでなく、スーパー合体や新ロボ登場などの説得力も得難くなります。
その穴を埋めるのがギエンとヘルズゲート囚なのです。
元々ギエンは、手がマシンガンになるとか顔が展開して怖い表情になるなどのギミックがあり、攻撃的なイメージのキャラになっています。
そこを活かし、ドルネロ・リラのペアから若干距離を置くことで、“破壊と殺戮”という自分の楽しみのためなら何でもやるようなイカレたキャラにしてしまいました。
これにより、突発的に何の脈絡もなく大破壊をやらかす展開に無理が生じなくなりました。
そして、特に凶悪囚人だけを集めて厳重に隔離したブロック:ヘルズゲートに収納されている、金儲けのタネにはならない囚人達は、その設定故に凶悪なまでの破壊力に説得力が出ます。
タイムシャドウ、シャドウベータ、ブイレックスの初登場は、いずれもギエンの行動時であり、スーパー合体であるシャドウアルファと新ロボ:ブイレックス登場時はヘルズゲート囚が関わっています。
いつもより破壊力のある囚人が相手だから、新ロボの強さをアピールできるわけです。
特に、圧縮冷凍能力を持たないタイムシャドウの初登場時が、破壊して構わない破壊兵器:ノヴァである点は巧いです。
作劇的にも、金儲けの仕組みについての描写が不要であること、戦闘描写的には凶悪犯が相手であることと、いずれのニーズにも合っています。
18~20話でノヴァやヘルズゲート囚ブラスター・マドウを使う際には、あらかじめギエンがドルネロとリラに高級リゾートへのバカンスをプレゼントしておくなど、妙に用意周到です(そのためこの18、19話は2日間の連続した話になっている)。
バカンスから帰ってきたドルネロにどやされ、ヘルズゲートの鍵を取り上げられても「鍵が1つとは限らんぞ」と笑いながらスペアキーを作っていたり、ギエンの危険人物ぶりがこれでもかと強調されています。
一方、23話『ビートアップ』では、電気を吸収してやがて自爆する体質の囚人ウーゴを爆発させようと暗躍していますが、停電してセキュリティが利かなくなった銀行等から金を盗み放題になったこと、結果としてウーゴは大爆発を起こさないまま圧縮冷凍されたことなどから、こちらはお咎めなしでした。
外見上は、いつもの金儲けのための作戦と変わらないからです。
ちなみに、この回がアサルトベクターの初登場だったりします。
ギエンはこの後、28話『再会の時』で、またヘルズゲート囚を勝手に解凍し、ドルネロとの不協和音が徐々に大きくなっていき、最終的には、実質3人しかいないロンダーズが組織崩壊を起こすという前代未聞の結末を辿ります。
後に、『轟轟戦隊ボウケンジャー』でダークシャドウが似たような崩壊を見せましたが、あれは唐突感が否めませんでした。
その点、ロンダーズは中盤からじっくり見せていただけに説得力が段違いです。
ドルネロは、結局ギエンを殺せず、返り討ちに遭いました。
駆けつけたユウリに囚人達を託して、葉巻を咥えつつ息絶えます。
「リラ、おめえ、俺の母親に似てたって、知ってたか…」と呟いて。
自分を捨てた母親への思慕を拭いきれなかった辺り、本当に人間くさい悪者でした。
一方で、リラも姿を消す際、「ドルネロ、お金抜きでもちょっとは好きだったわよ」と呟いてるんですよね。いいカップルです。




