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5 声を出すな!(電磁戦隊メガレンジャー)

 もう数年前のことになりますが、いわゆる「百円ライター」を初めて見た息子が、火を着けられなかったのを見て驚きました。

 でも、考えてみれば当然ではあったのですね。

 周囲にタバコを吸う人のいない鷹羽家では、火を着ける道具と言えば、いわゆる「チャッカマン」の類だけでした。

 お盆に本家に行った時などにも、蝋燭に火を着ける時使うのはチャッカマンタイプ。

 ですから、息子には、百円ライターの“親指でドラムを回しつつスイッチを押す”という動作ができなかったのでした。


 マッチで火を着けられないというのは、わかっていました。

 十数年以上も前から、そういう子が増えているという話題が取り沙汰されていましたから。

 学校で理科の時間、アルコールランプに火を着ける時、初めてマッチを使う子供が多いことは、とっくの昔に当たり前になっていました。

 でも、まさか百円ライターまでが忘却の彼方に消え去っていたとは思わなかったのです。


 そういえば、最近のテレビドラマなんかでは、タバコを吸うキャラ自体少ないですから、タバコを吸う人が身近にいないと、ライター自体見る機会がないのではないでしょうか。

 鷹羽の職場では、タバコは喫煙所でしか吸えないことになっていますから、当然、火を着けるのもそこだけということになり、吸わない人がライターを見ることは少ないのではないでしょうか。

 考えてみれば、鷹羽は、ここ数年、誰かがライターを使っているところを見た記憶がありません。

 昔、ドラマなんかで、捕まってロープで縛られた人がオイルライターを後ろ手に持って脂汗を垂らしながらロープを焼き切る、なんてシーンをよく見掛けましたが、今はああいうシーンはできませんね。

 こんな風に、時代の流れと共に使えなくなる演出なんてのも結構あるんですね。




 携帯電話が普及したのは、平成一桁後半くらいのころです。

 それ以前は、個人対個人の無線通信と言えば、トランシーバーなどが一般的でした。

 ウルトラマン系の防衛軍の通信がそうですね。

 最近は、仮面ライダーや戦隊シリーズの変身アイテムも携帯電話型が多いです。

 携帯電話とトランシーバーの違いは、“基地局を必要とするかどうか”です。

 基地局──中継ポイントと言ってもいいかもしれません。

 トランシーバーなどの無線通信は、通信機同士で直接電波をやりとりしますが、携帯電話は「電話」というだけあって、交換機を通します。

 これはスマホやタブレット端末も同じで、ネット系はサーバを経由するわけです。

 まあ、仕組みのことは置いておくとして、一般人が当たり前のように通信機を持っているというのは、少なくとも平成5年以前には、想像も付かない世界だったのです。

 1988年(昭和63年)に連載開始した「機動警察パトレイバー」は、連載時の約10年後である1999年(平成11年)を舞台としていますが、作中に携帯電話は登場しません。

 連載当時、そんなものを誰もが持つなんてことは想像できなかったのです。




 1997年(平成9年)に放映された「電磁戦隊メガレンジャー」42話「ふりきれ! 邪悪な追跡者」では、敵戦隊であるネジレンジャーが、メガレンジャー5人の声紋、体型、行動パターンを解析して、街でメガレンジャーの正体を見付けて襲おうと計画します。

 メガレンジャーは、戦隊シリーズでも珍しい“敵にも正体を知られていない戦隊”でした。正体を知られているのは6人目であるメガシルバーだけです。

 メインの5人は、変身しない限り戦闘員にも勝てないような普通の高校生なのです。

 ネジレンジャーは、黒い服を着た人間に変身して街を歩き、体型・行動パターン・声紋がメガレンジャーと一致した人間を倒そうとしたのでした。

 たまたまネジレンジャーが最初に体型だけで判断して別人を襲ってしまったことから(だから、以後は3つとも一致しないと襲わないことにした)、この作戦に気付いたメガレンジャーですが、メガピンク:今村みくは1人で外出中。

 携帯電話を持っていないみくに対して、通信する手段がありません。

 デジタイザーは持っていますが、それで通信すれば、近くにネジレンジャーがいたら、デジタイザーから出た声でバレてしまいます。

 そこで、メガレンジャーの4人は、みくのポケットベルに「声を出すな。(部室に)電話しろ」とメッセージを送って指示します。

 みくは、公衆電話から部室に電話し、ネジレンジャーの作戦を知らされますが、自分の居場所を教えることができないため、やはり歩いて帰らざるを得ません。

 ほかの4人は、みくが電話してきた時の背後の音から居場所を推測し、唯一正体がばれているメガシルバーに助けに行ってもらうという、なかなか緊迫感のあるエピソードでした。


 ですが、これを読んだ方は恐らく疑問を持ったでしょうが、このエピソードは、現在では通用しません。

 なにしろ、メールを使えば、声など出さなくても今どこにいるかは簡単に説明できますし、そもそも携帯電話の位置情報を使って居場所を探せてしまうでしょう。




 メガレンジャー放映当時、携帯電話の普及率は50%以下であり、地方では、電波が通じていない地域も多数ありました。

 つまり、都会でないと携帯電話なんて使えなかったのです。

 今の若い人は、15年前は、地下だと携帯電話が使えなかったこともご存じないでしょう。現在、割とどこでも携帯電話が使えるのは、キャリアが基地局を作りまくったお陰なのです。




 このように、その時々の時代背景によって、演出も変わらざるを得ないのです。

 今の時代に、ミステリーで言う「嵐の孤島」シチュエーションを成立させるためには、携帯電話やスマホ、タブレット端末を、ごく自然に使えなくする工夫が必要です。




 鷹羽は、結婚した時点では、携帯電話を持っていませんでした。

 ですので、鷹羽の結婚をネタにした「FALL IN LOVE ~それは、坂道を転がり落ちるように~」において、ヒロインの梓は携帯電話を持っていません。

 今時に発表する作品ということもあって、電話するシーンではぼかしていますが、実は、梓と天平が恋人同士だった頃の毎晩の電話は、家電(いえでん)を使っています。


 あったものがなくなったり、なかったものができたりと、時代の流れに即して対応するというのは、なかなか難しいものです。

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