46 視聴率上昇のヒーロ…じゃなくてヒロイン(アニー)
Samonさまのリクエストです。
アニーは、1984年放送の「宇宙刑事シャイダー」に登場する女宇宙刑事で、主人公であるシャイダーのパートナーです。宇宙刑事シリーズでは、それぞれ主人公に女性のパートナーがいますが、立ち位置は全て違っていました。
「宇宙刑事ギャバン」のミミーはギャバンの幼なじみで、ギャバンが地球に赴任するに際して勝手に付いてきた押し掛け女房です。「宇宙刑事シャリバン」のリリーは正式に赴任しているので、訓練期間の短かったシャリバンのフォローに当たるためだったと思われます(もちろん女性レギュラーが欲しいというのが制作側の理由)。そして、アニーは宇宙刑事訓練学校の学生でしたが、故郷であるマウント星がフーマに滅ぼされたことで、復讐のため志願してシャイダーのパートナーに任ぜられました。
前2作のパートナーが基本的にバックアップや諜報活動だったのに対し、アニーは、製作上の要請から、毎回のように前線に赴いて銃を手に戦います。そのため、アニーを演じたのは、JACのメンバーである森永奈緒美さんでした。
「ギャバン」~「時空戦士スピルバン」までの5作で、主役がJACの所属でないのは「シャイダー」だけです。
なぜそうなったのかというと、「シャリバン」の視聴率が影響しているのです。
宇宙刑事シリーズは、テレビ朝日系金曜夜7時半からの放送でした。これは「ドラえもん」の次の時間帯であり、メインターゲットは「ドラえもん」の視聴者層+αでした。実態として、宇宙刑事シリーズの主要な視聴者層はスーパー戦隊シリーズよりも若干高めなのですが、元々は小中学生くらいまでを想定されています。もちろん、上限がそこということであり、下限は幼稚園児くらいを想定していたでしょう。それが、「ギャバン」にせよ「シャリバン」にせよ、脚本などの関係もあり、もっと上の年代も夢中になって見ていました。
そして、物語のボルテージが上がり、「シャリバン」中盤にレイダーが登場します。
レイダーは、死霊界からやってきたという設定の、幽鬼のようなキャラクターで、演じた安藤三男さんの怪演もあって、非常に不気味なキャラになりました。
シャリバンと初対戦した時の「死神さ。お前を地獄に送るためにやってきた」というセリフなんかぞくぞくします。
首を切り落としても死なない強敵で、初戦でシャリバンを死の寸前まで追い詰めたりしましたが、これが悪かった。メイン視聴者である子供が「怖い」と言って見なくなってしまったのです。
これで視聴率がガタ落ちしました。
「シャリバン」は、特撮好きからすればシリーズ最高レベルの評価ですが、視聴率としては振るわなかったのです。物語としてデキがいいことと、番組としてデキがいいことの違いですね。
そんなわけで、次作には、視聴率の回復という命題が与えられました。
その一環として、“明るいヒーロー”“子供にわかりやすい作劇”などがあって、主役をJACでない円谷浩さんが演じることになったり、ナレーションを大平透さんが勤めることになったりしたようです。
大平さんは、「秘密戦隊ゴレンジャー」など多くの特撮番組でナレーションを務めています。後年の話になりますが、「鳥人戦隊ジェットマン」で大人向けに振った後で子供向けに戻した「恐竜戦隊ジュウレンジャー」でもナレーションを務めるなど、子供にわかりやすいナレーターと評価されていたのでしょう。
そして、主人公であるシャイダー=沢村大がアクションできない分、パートナーであるアニーがアクション面を補助することになったものと思われます。
もちろん、沢村大についても吹き替えによるアクションシーンはあるわけなんですけど、どうしても前2作と比べるとアクションが少なくなるわけで、そこを埋めるのがアニーの役割です。さらに、アニーのピンチをシャイダーが颯爽と助けるところまでセットです。
この辺りの詳しい裏事情というものは、実のところわかりません。
アクションのできる女性という面では、「シャリバン」にもベル・ヘレンがいましたし、「シャイダー」と同年放映の「超電子バイオマン」でも、イエローフォーの変身前を演じている役者は(初代・2代目とも)JACの所属です。というか、初代イエローフォーの変身前を演じているのはベル・ヘレン役の人です。
男性についても、「シャリバン」と同年放映の「科学戦隊ダイナマン」のダイナブラックとダイナブルー、「バイオマン」ブルースリーの変身前は、それぞれJACの人でした。
この当時、JACの人は所属メンバーの売り出しを積極的にやっていたようです。
ただ、アニーについては、画面を華やかにするのが目的の起用だったのではないかと思います。というのは、彼女の衣装がミニスカートだったから。
ミニスカでアクションとか、パンチラの嵐です。この当時、ほかにスカートでアクションしていたキャラがいないというのが内情を物語っているのではないでしょうか。
「バイオマン」には「セーラー服の戦士」、翌年の「電撃戦隊チェンジマン」には「セーラー服のナナ」というサブタイトルの回がありますが、新聞のテレビ欄に「セーラー服の~」と入ると視聴率が良くなるのだと、当時のスタッフの裏話にありました。
つまり、お父さん層の取り込みです。
チャンネル権を持つお父さんが子供と一緒に見てくれれば、視聴率が確保できるわけです。
傍証になりますが、当時、鷹羽が「シャイダー」を見ていても、父は文句を言いませんでした。「ダイナマン」だと文句を言ってたのに。
これがアニーの御利益です。
同じようにミニスカでアクションするのが「スピルバン」のダイアナです。
演じた澄川真琴さんもJACの人でした。
一応、昔にもね、ミニスカアクションの人はいたんですよ。
「キカイダー01」のマリとか、「スーパーロボット レッドバロン」の松原真理とか。
ある意味、性の商品化ではあるのですが、一般の映画でも、女優のヌードシーンをウリにするものはあるわけで、それが悪いとも言えない…というか、需要があるから供給があるわけで、難しいところですね。
森永さんは、その後、「スピルバン」でスピルバンの姉のヘレンを演じたり、「仮面ライダーZO」にちょい役で出演した後、東映のヤクザ映画でヌードになったり、ヌード写真集を出したりしたのですが大成せず、いつの間にか引退していました。
その後、2014年にVシネマの「宇宙刑事 NEXT GENERATION」で再びアニー役で出演されました。
東映特撮ヒーローものでは、主人公のパートナーとなる女性戦士がたびたび登場します。
「仮面ライダーストロンガー」のタックルとか、「カゲスター」のベルスターとか、「特急指令ソルブレイン」のソルジャンヌとか。
ただ、どれもこれも、主人公との戦力差が大きすぎて、引き立て役という面が否めませんでした。そもそもソルジャンヌは救急面での補助であって、戦闘能力ありませんでしたし。
ましてや変身しないパートナーでは、そりゃあ足手まといにもなりますよね…。
この点、戦隊シリーズでだと、女性戦士もほぼ同等に扱われるし、主役回だってあるのです。この辺りは、単体ヒーローと戦隊ヒーローの違いですね。
「スピルバン」のダイアナは、ハイテククリスタルスーツを結晶してダイアナレディに変身し、スピルバンとの合体技ダブルスナイパー(同時に銃を撃つだけ)もありました。
それでも、視聴率への貢献度から言えば、やはりアニーに軍配が上がります。
自分は変身せずに変身ヒーローの隣で戦う女性戦士って、あんまりいません。
そんなわけで、アニーは視聴率の面で大活躍した女傑なのです。




