4 俺達、耳長族っていうんだぜ(魔動王グランゾート)
現在放映中のスーパー戦隊シリーズ「宇宙戦隊キュウレンジャー」のレッドであるシシレッドは、強化変身してシシレッドオリオンになります。凄いです。
何が凄いって、「レッド」なのにほとんど全身白いのです。
これは凄い。
アイデンティティの喪失です。もうシシホワイトでいいじゃん。
前作「動物戦隊ジュウオウジャー」では、レッドがジュウオウイーグル、ジュウオウゴリラ、ジュウオウホエールと3段変身しましたが、いずれも赤主体のボディカラーでした。
実は、パワーアップすると白くなるというのは、以前は結構あったことです。
1988年放送の「鎧伝サムライトルーパー」は、「聖闘士星矢」の商業的成功から派生した、主人公が鎧を装着するタイプのアニメです。
「星矢」の聖闘士聖衣シリーズは、可動人形に聖衣のパーツを着けていくという商品で、後に仮面ライダーなどの「装着変身」シリーズへと継承されていきますが、派生として、「超音戦士ボーグマン」や「天空戦記シュラト」などのように、可動人形に鎧を着けるオモチャを売るためのアニメが多く制作されました。
その中の1つが、「鎧伝サムライトルーパー」です。
真田遼を中心とする5人の少年が鎧擬亜を装着して妖邪と戦うというストーリーで、美形の少年が和風の鎧を着て刀や弓、槍を持って戦う物語は、女性ファンに支持され、大ヒットしました。
もっとも、スポンサーだったタカラが発売した「超弾動」シリーズは、関節がバネになっていて自由に曲げられるオモチャでしたが、残念ながらデキがいいとは言えず、在庫の山を築きました。
どれも売れませんでしたが、5人の中で一番売れなかったのが女性ファンの少ない金剛だったということに人生の悲哀を感じます。
何が悪かったかといえば、関節がバネだったためにポーズを取って固定できないこと、鎧を着けると顔が隠れる(兜にはフェイスガードがある)こと、そもそもオモチャの造形がまずかったこと、本編と遊び方がリンクしていないことなどがあります。
なんたって、オモチャの遊び方に載ってるのは、「烈火火炎大車輪」とか言ってジャイアントスイングしてる姿とかですので…。
聖衣がウケた理由を分析できてないんですね。
オモチャが売れなかったためにテコ入れがすごくて、本編中で「鎧パワー」と言っていたのを「弾動力」と言い換え、必殺技も「超弾動・双炎斬」などのように「超弾動」を付けてみたりもしました。
あと、烈火の手甲が「烈火拳」というなりきり商品として発売されていたので、武装シーンに「超弾動烈火拳」とか字幕を出したり。
その前に、鎧武者メインの番組で手甲を商品化するというセンスを何とかするべきだと思います。
さて、遼が装着する鎧擬亜は赤い「烈火」ですが、これが中盤、仲間達のパワーを集めてパワーアップし、白い「輝煌帝」になります。
正確には、烈火の鎧が変化して輝煌帝になるわけではなく、一旦烈火を脱ぎ捨て、5人分の鎧のパワーを集めて輝煌帝を召喚して装着する、という流れになるのですが。
輝煌帝を使い始めた当初は、パワーを与えるために他の4人が戦闘不能になっていました。
ちなみに、タカラがオモチャ屋さんに配った新商品リストでは、輝煌帝は「烈火・改」という名前で載っています。だから、制作スタッフと打ち合わせをですねぇ…。
次に、1989年放送の「獣神ライガー」です。
これは、かつて邪神を封じた神が残したバイオアーマーであるライガーを、神の末裔の少年大牙剣が呼び出して戦うというものです。
赤いライガーは、途中でサンダーフェニックスと合体して白いサンダーライガーにパワーアップできるようになりました。
ライガーは、プロレスラーとコラボしていて、レスラーの方のライガーも、途中でサンダー・ライガーにバージョンアップしました。今でもサンダー・ライガーはテレビに出てるみたいですね。
あ、プロレスラーの方は「・」が入ります。
また、1988年放送の「魔神英雄伝ワタル」は、異世界・創界山に勇者として召喚された少年ワタルが、龍神丸という魔神(生きているロボットみたいなもの)に乗り、創界山を征服した敵と戦う物語です。
既に征服された異世界を取り戻すために戦うという、ある意味エポックな設定でした。
そして、創界山は7つの階層に分かれており、1つの階層を取り戻すごとに創界山の上にある虹の色が1つ戻るという、わかりやすい指標がありました。
龍神丸は、自分では空を飛べず、空神丸と合体することで飛べるようになりますが、途中で空神丸は倒されて死んでしまいます。
その後、青い龍神丸は、ワタルの「パワー全開! 変身、龍~王~丸~!」の掛け声で、死んだ空神丸の魂を召喚して取り込み、白い龍王丸へとパワーアップするようになりました。
龍王丸は、「変化、鳳凰!」の掛け声で鳥型に変形することで、自力で空中戦ができます。
こんな感じで、元は赤や青だった鎧やロボが、パワーアップして白くなるのが一時期流行ったのです。
なぜか全部タカラ・サンライズペアの番組だったりします。
そんな中の1つが、「魔神英雄伝ワタル」の後番組「魔動王グランゾート」(1989年放送)です。
「魔動王グランゾート」は、西暦2050年を舞台に、月の内側にあるラビルーナという異世界を邪動族から救うために3体の魔動王が立ち向かうという物語です。
ラビルーナには、耳長族という兎のような耳を持つ種族が住んでいて、征服されたラビルーナを取り戻すために戦っていました。
この辺り、前作と同じような展開になっていて、ラビルーナは月の内側に向かって7つのエリアに分かれており、各エリアには次のエリアに移動するための鍵があって、それを求めて旅をするという展開です。
主人公の遥大地は、月旅行に来た際に耳長族の賢者であるV-メイと知り合い、強い魔動力を持っていたため、炎の魔動王であるグランゾートを復活させて戦うことになります。
3体の魔動王を呼び出し乗り込むことができるのは強い魔動力の持ち主だけで、後に、同じく人間のガスが風のウインザートを、耳長族のラビが水のアクアビートを呼び出せるようになり、共に戦うようになります。
グランゾートの搭乗シークエンスは以下のとおり。
1 魔動銃についている顔の目が光る。
2 大地が魔動銃にプレートを入れてガシャンと弾込め動作し、「マジカルシュート!」の掛け声で撃ち出す。
3 撃ち出されたプレートが地面に炎の魔法陣を描いて大地の手元に戻る。
4 大地がプレートを両手で掲げ、「ドーマ・キサ・ラムーン、光出よ、汝グランゾート!」と呪文を唱える。
5 魔法陣から、フェイスモードのグランゾートが出現する。
6 大地がスケボーに乗ってグランゾートに向かって走ると、光に包まれて戦闘服姿に変わる。
7 操縦席に大地が現れ、グランゾートが人型に変形する。
ウインザート(魔動弓)やアクアビート(魔動独楽)もほぼ同じシークエンスです。
グランゾートだけでなく、この番組のロボットは、全てフェイスモードから人型に変形しますが、どうしてそういう企画になったのかはわかりません。
銃や独楽にまで顔が付いているんですから、相当な拘りです。
ぐぐれば出てきますが、グランゾートのフェイスモードはヒゲ面のおっさんのようで、お世辞にも格好いいとは思えないものでした。
ちなみに、魔動銃は商品化されてますが、ポンプアクションしてからでないとプレートを入れられない仕組みになってます。
ちゃんと打ち合わせて、アニメの方でもその順番にすればいいのに、こういうところがタカラは本当に下手なんですよねぇ。
なお、「魔動王グランゾート」の後番組は「魔神英雄伝ワタル2」なのですが、その1話で龍神丸は白い新星龍神丸にパワーアップして背中から羽が生え、自力で飛べるようになってしまいます(呼称は商品展開のもので、番組内では相変わらず「龍神丸」と呼ばれてます。念のため)。
そのため龍王丸は登場せず、1話から白いままなので、中盤のパワーアップでは金色の龍星丸になりました。
これで、強くなると白くなるのは打ち止めとなりました。
さて、グランゾートに話を戻しましょう。
物語中盤の23話で、3体の魔動王は、邪動族が新開発した3体の邪動王に敗北し、大地達3人は月表面に吹き飛ばされてしまいます。
力を使い果たしたグランゾートを復活させ、元いた第3エリアに戻るには、月面のどこかにあるゾーラクラウンが必要です。
大地達は、たまたま知り合ったニジンスキー博士(通称ニンジン博士)と行動を共にしてゾーラクラウンを探すことになりました。
ニンジン博士は、大地達を月に住む「ウサギ人間」だと思っているため、助けてくれるのです。
もちろん、大地達は否定しますし、ラビは兎耳をバンダナで隠しています。
ガスが沢山ご飯を食べるのを見て「ふむふむ、ウサギ人間は大食いである」とか大真面目にメモを取っているニンジン博士と「ウサギ人間じゃない」と返す大地達の掛け合いは、視聴者にとって、仲間とはぐれ月面に戻された大地達の描写を重くさせすぎないという効果がありました。
そして26話「スーパーはつよい!」で、フェイスモードのグランゾートの上にゾーラクラウンが合体することにより、赤いグランゾートは白いスーパーグランゾートにパワーアップします。
これ以後、元のグランゾートは登場しません。
以後、呼び出す呪文も「光り出よ、汝スーパーグランゾート!」となり、出現するフェイスモードも、白くてゾーラクラウンを被った状態になります。
ついでに言うと、ヒゲもなくなっています。
…やっぱり、ヒゲ面は人気なかったんでしょうね。
そして27話「ただいま!ラビルーナ」で、大地達は第3エリアに戻ることになります。
3話にわたって協力してくれたニンジン博士とは、ここでお別れです。
スーパーグランゾートに、ウインザートとアクアビートのエネルギーを注ぎ込み、ラビルーナに戻るための準備を始めた大地達。
ここでのニンジン博士とラビの会話が秀逸なのです。
「最後に教えてくれ。お前達は、本当にウサギ人間じゃないのか?」
「悪いな、俺達はウサギ人間なんてもんじゃないんだ」
「そうか…(がっくりとうなだれる)」
「(バンダナを外して兎耳を見せ)俺達、耳長族っていうんだぜ」
口が悪く、あまり人に心を開かないラビが、別れ際に兎耳を見せて正体を明かす。
3話の間に何度となく繰り返してきた「ウサギ人間だ」「ウサギ人間じゃない」というやりとりの末の「ウサギ人間なんてもんじゃないんだ、俺達、耳長族っていうんだぜ」は、ニンジン博士の行動が無駄ではなかったことを示してくれたのです。
代表してラビが見せた形になることで、ニンジン博士には大地達も耳長族だったと印象づけられるというのも巧いです。
何度となく繰り返される会話、そこから少しだけずらして印象的になるセリフ。
こんな台詞回しを自分の作品でもやってみたいなぁと思います。