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37 ダーク・ゾーン(ウルトラセブン)

 4K放送記念です。これ読みながら、放送を見てほしい。

 「ウルトラセブン」で一番好きなエピソードを挙げろと言われたら、鷹羽は6話「ダーク・ゾーン」を挙げます。

 わかる人には言うまでもないことですが、ペガッサ星人の回です。

 このエピソードを簡単にまとめると


 ダンがアンヌに呼ばれて部屋に行くと、小さな闇の塊がいた。その闇の中に潜む宇宙人は、事故で怪我をしたが治療済みなので、治るまで放っておいてほしいと言う。危険性がないと判断したダンとアンヌは、その宇宙人と和やかに会話する。

 そんな時、ペガッサ市を名乗る宇宙都市から通信が入る。ペガッサ市は、動力系統が故障し、軌道変更ができずに地球軌道に干渉するため、地球の軌道を一時変えてほしいという要望だった。

 地球からの通信に一切応えないペガッサ市に対し、地球防衛軍は破壊を決定する。

 ダンの要望を容れ、ペガッサ市民の地球への移住を促すが、返答はなく、ペガッサ市は破壊された。その頃、アンヌの部屋にいた宇宙人は、自分がいざという時に地球を破壊するため送り込まれたペガッサ市の者であることを告げ、アンヌにダンと共に地球を脱出するよう言って出て行った。

 それをアンヌから聞いたダンは、宇宙人にペガッサ市が破壊されたことを告げる。

 激昂した宇宙人は銃を構えるが、セブンに銃を落とされて逃走し、爆弾はセブンによって宇宙に運び去られた。




 ざっくり言うと、こんな内容です。

 このお話の何がすごいかというと、不幸な事故の物語でしかないことです。

 「ウルトラセブン」は、主に侵略者との戦いを描いた作品ですが、他星から逃亡してきた犯罪者と戦う「宇宙囚人303」のような、侵略と関係ないエピソードもいくつかあります。

 アンノンにしてもペダン星人にしても、ギエロン星獣にしても、大本の目的は“地球からの攻撃に対する反撃”でした。ペダン星人は、その後侵略する気になっていましたが。

 ペガッサ市は、動力系統の故障という事故によって地球に脅威をもたらしますが、そこに悪意はありません。

 一方で、ペガッサ市は、地球の軌道変更を要請すると同時に、地球破壊のための工作員を送り込んでいるわけで、完全な善意の人とも言えません。

 ただ、(おそらく数万人の)市民を擁するペガッサ市にとって、地球側が悪意ある対応をした場合の保険をかけるのは当然と言え、この点をもってペガッサ市の悪意を認めるわけにはいかないでしょう。

 対する地球も、自力で軌道を変えられるならしてやったでしょうし、無理な要求を突きつけられて、「無理だ」と言っても無反応となると、ペガッサ市を破壊して地球を守るしかありません。

 また、その際、ペガッサ市の住民の地球への一時的移住を認めるなど、破格の条件を提示しています。

 こうして見ると、どちらもそれなりに筋を通しつつ自分の安全を守るための非情な判断をしていることがわかります。




 今回の話を地球にやってきた工作員の主観でまとめると、こうなります。

   ペガッサ市の動力系統の故障

       ↓

   地球が要請に応じない場合に地球を破壊するため、地球に潜入

       ↓

   地球に潜入した際、事故を起こして受傷

   ペガッサ市とも連絡が取れなくなった。

       ↓

   アンヌの部屋で治療、アンヌ・ダンと知り合う

       ↓

   タイムリミットが迫ってきたため、アンヌに脱出を促して爆弾をセット

       ↓

   ダンからペガッサ市の消滅を知らされる

       ↓

   取り乱すも、逃走


 彼の行動を見てみると、彼は愛する祖国を守るための最終手段として、地球を爆破する任務を帯びて地球に潜入しました。

 おそらく大気圏突入時に宇宙船が故障し、自らも傷を負ったのでしょう。

 冒頭でダンとアマギが調査に行っていた“閃光を見たという通報”は、宇宙船が爆発したのを目撃したのではないかと思います。

 彼はダーク・ゾーンに籠もって傷を治療しているところをアンヌに発見されました。

 彼にとって地球人とのファーストコンタクトとなったアンヌ・ダンとの邂逅は、2人がウルトラ警備隊きっての穏健派だったため、実に和やかでした。

 彼は傷を癒やし、吉報を待ちます。

 地球が軌道を変えられない(変えてくれないのではなく変えられない)と知ってもなお、ペガッサ市の修理が間に合うことを信じて待っていたのです。

 本来ならば彼は決死隊として潜入したのではなく、爆弾をセットした後、宇宙船で脱出しつつ点火できたのでしょうが、事故により宇宙船は使えません。地球を爆破すれば彼自身も命はないという状況で、親切にしてくれたアンヌに「すぐに逃げるんだ。ダンも連れて行け」と伝えます。

 彼がここで何も言わずに立ち去っていたならば、ダンによる妨害はなく、地球は吹き飛んでいたでしょう。

 ダンが駆けつけた時、彼は「アンヌの部屋からでも爆破できた」と語っています。

 では、なぜわざわざ移動して、しかもモタモタして邪魔されたのか。

 それは、アンヌとダンが地球を脱出する時間を作るためです。

 自分の死は覚悟しながらも、アンヌとダンだけは助けようとした彼の善良さが地球を救ったのでした。




 彼は、ペガッサ市が破壊されたことを知った時、「復讐してやる!」と銃を構えていますが、あれは本気だったのでしょうか?

 鷹羽は、そうは思いません。

 あの時点で、爆弾はいつでも点火できたはずでした。地球を綺麗さっぱり消滅させるには中心核で爆破する必要があるかもしれませんが、直ちに爆破したって、地球に重大なダメージを与えることはできたはずです。復讐というなら、そうしたっておかしくないのにしなかったのは、彼が本気で地球を破壊する気がなかったから。

 故郷を、同胞を失い、異国の地で1人生き延びてしまった彼は、どうなってしまったのか。

 ラストで、アンヌが彼の身を案じていたところに僅かな救いを感じます。




 このエピソードで一番のツッコミどころ()は、ペガッサ星人がなぜアンヌの部屋にいたのかです。

 アンヌの部屋は、言うまでもなく地球防衛軍の基地内にあります。

 実体を持つ者で、この基地にこっそり忍び込めた者は、作中存在しません。誰かに化けて入れてもらった、とかはありますが。

 そこに、怪我をした状態で入り込んでいた理由と方法については、一切語られていません。

 そして、ペガッサ市との通信ができないのに、どうやって爆破のタイミングを計っていたのでしょうか?

 この辺りに言及している文章は読んだことがありませんが、鷹羽なりの解釈は持っています。

 ペガッサの工作員たる彼は、大気圏突入して宇宙船が壊れた後、見えない脱出艇で浮遊し、“閃光の通報”を受けてやってきたウルトラホーク2号に張り付き、一緒に基地に入り込んだのです。

 そして、ダーク・ゾーンで人目を避けながら移動し、たまたま留守だったアンヌの部屋に入り込んだ。傷が癒えたら移動するつもりだったがアンヌとダンに見付かってしまい、ペガッサ市からの通信の話を聞く。

 そこで、ここにいればペガッサ市の修理が間に合えばその報を聞けると期待し、動かずに待つことにしたが、タイムリミットが近付いても朗報が聞けなかったので、彼は任務を遂行することにした。



というものです。

 彼にとって、ペガッサ市からの通信を確実に聞ける環境のアテはほかになかったわけですから、そこに留まるのは自然なはず。

 そう考えると、彼の行動には筋が通っています。




 もう1つ。これはツッコミどころではなく、素直に疑問点です。

 “なぜペガッサ市は、地球からの呼びかけに応えなかったのか?”

 可能性としては

  1 地球を舐めていたので、無視していた

  2 受信装置も故障していた

  3 通信機の前には誰もいなかった

の3つが挙げられます。

 本編中では理由は語られず、ダンもどうして? と思っていたわけですが。

 1なら自業自得な感じですが、それだとペガッサ市近くを飛んでいるウルトラホーク1号をまるきり無視していることに違和感を感じます。

 送り込んだ工作員は音信不通、地球の宇宙船がすぐ近くでウロチョロしている状況で、無視を決め込めるものでしょうか。

 工作員から連絡がなくて当たり前(無線傍受のリスクがあるから)という可能性もありますが、ペガッサ市に肉薄したホーク1号から攻撃を受けて無傷ですむと思うのは、少し舐めすぎです。最終的に唯々諾々と破壊され、抵抗があったという描写すらないのです。高を括りすぎでは?

 となると、通信装置も故障していた、あるいは通信装置の前に誰もいなかったと考える方が自然な気がするんですよね。

 ペガッサ市からの通信は、同じ内容を周波数を変えつつ流し続ける、というものでした。これって、自動で送信できるんじゃないでしょうか。

 受信装置が壊れていたとしても、レーダーで、あるいは窓からホーク1号を発見すれば、なんらかのリアクションがあるべきだと思うのです。つまり、“ホーク1号の接近にも気付けないほどの非常事態に陥っていた”のではないかと思えます。

 普通に考えて、動力系統の故障が他の機能に深刻な影響を及ぼすとは考えにくいですが、有毒ガスの発生による一部区域の遮断とか、あり得なくもないですからね。

 彼が言っていたように、工場が止まれば全市民が死亡するのです。動力系統の故障が、酸素発生装置に影響を与えれば、それだけでペガッサ市は全滅です。

 ペガッサ市が反撃もせず誰1人として脱出もしないままに破壊された裏に、何か感じませんか?




 ともあれ、不幸な事故による事件は、後味の悪さを残しながらも、地球側の落ち度はない、もしくは極めて軽微なものとして終わりました。

 ダンもアンヌも彼の心配をしている描写がとてもよかったです。

 この事件は、以前書いた「カルネアデスの板」という、どちらか片方しか生き残れない状況下で、自己防衛のためにペガッサ市を破壊したという緊急避難の案件です。

 それでも、なんとか救おうと手を差し伸べた点で、地球はできることをやりきったと言えるでしょう。




 ラストで、申し訳程度にセブンが登場しますが、セブンがやったことと言えば爆弾の処理だけであり、基本、セブンがいなくても成立するエピソードです。ダンが宇宙人であることすら必要ありません。

 “地球人の男女と異星人工作員の友情”の物語として綺麗に完成していると思うのですよね。




 ちなみに、ペガッサ星人と言えば“ドレッサーの前に座るアンヌの脇で襲いかかろうとしている”スチール写真が有名ですが、あんなシーンは本編にはありません。

 あのスチールのせいで先入観を持ち、ペガッサ星人を侵略者っぽく感じる人がいそうで嫌だなぁと思います。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ウルトラセブンの中でも善悪で割り切れないエピソードの一つですね まだ彼(ペガッサ星人)は地球上にいるんでしょうか [気になる点] 地球防衛軍のセキュリティーはだだ甘ですから 謎の宇宙人が…
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