29 1人のラドウであるお前とだ(マップス)その3
「マップス」の3回目です。
今回は、作中最大のイレギュラー因子であるダード・ライ・ラグンについて語りましょう。
まず前提として、ダードは、「マップス」において、ゲンとリプミラの主人公ペアを除けば、最も重要なファクターとなる、様々な事象の起点となったキャラです。
いみじくも、伝承族反乱軍がダードを評した“最大のイレギュラー”という言葉は、ダードの功績を知っていれば、素直に納得できるものです。
ダードがいなければ、最終決戦に勝てませんでした。その前置きとなるファクターが沢山あります。
1 リプミラにエナジーフォールダウンをコピーされた
2 星の涙を食らってコピーした
3 ラドウ1101を攫って交流した
4 ラドウ1101がリムから貰ったぬいぐるみをゲンに託した
5 ダード号をゲンに託した
直接クローンラドウからゲンを救ったことを除いても、これだけあります。
ラドウ1101がジェンド・ラドウの精神支配下になく、その暴走がブゥアーに最も大きな被害を与えたこと、彼女を正気に戻すのにぬいぐるみが重要なアイテムであったこと、最終決戦においてダード号がなければゲンが戦えなかったこと、ダード号の星の涙があったからこそ、ジェンド・ラドウはリプミラ号による星の涙二段攻撃のフェイクに引っ掛かったこと、どれもこれも非常に重要なものでした。
では、ダードについて語るとしましょうか。
ダード・ライ・ラグンは、リプミラの番となるべく作られた宇宙船及びその頭脳体で、リープタイプの男性版と言えます。
240年前、ライ族が、捕獲したリプミラのデータを基に作成しました。
ライ族は、“龍の一族”と呼ばれる宇宙人で、全員がマッドサイエンティストという変わり種の種族です。
“龍の一族”という割には、外見はどちらかというと昆虫型で、「ミクロイドS」のOPに登場するギドロンみたいな顔をしています。
彼らは、リプミラの船体及び頭脳体を解析して、“自己進化する宇宙船”であることに気付きました。
復習しておくと、リープタイプは、船体が破壊されると、頭脳体の記憶している設計図を基に船体を再生し、その際、破壊された原因に対する対処能力や原因となった力そのものを船体の性能に付け加え、頭脳体が破壊されると、船体内部で数年掛けて再生するという、両者が同時に破壊されない限り少しずつ強くなっていく性質を持っています。
ライ族は、破壊と再生を繰り返しながら徐々に進化していくというこの機能を、“効率が悪い、面白い”と気に入り、次いで、“番を作ろう、宇宙船同士が子供を生む、生まれた子供が更に進化する、面白い、効率が悪い”と考えて、リプミラの船体情報を基に、男性タイプを作ることにしました。
こうして作られたのがダード・ライ・ラグンです。
当初、ダードの船体はリプミラ号に小さな龍が抱きついているようなデザインで、リプミラ号の敵味方識別装置が別船体と認識できないほどそっくりでした。
完成したダードに与えられた命令は、“リプミラを手に入れること”“最強の兵器となること”の2つ。
“リプミラを手に入れること”の意味としては、作成目的である“番になって増える”ということと、リプミラ号が向かった“中性子星による重力結界で守られたライ族の先祖の発明品倉庫を奪う”という2点が挙げられます。
ダードは、この時、リプミラに気付かれずに接近できたものの、結局、重力結界に閉じ込められて逃げられてしまいました。
その後、ダードは、どれくらい時間を掛けたかわかりませんが、結界を作っている12の中性子星すべてを船体内に格納する能力を持つことで結界を無効化し、脱出しました。
たぶん、その過程で何度となく中破・修復を繰り返したものと思われます。
脱出したダードは、上記の2つの目的のために、自己進化を続けます。
ただ、その間に、1つの歪みが顕在化していました。
それは、“ダードの人格はライ族としてのものである”ということでした。
ダードの頭脳体は、人間の形をしています。これは、リプミラと番にするつもりだったのですから、当然です。
ですが、ライ族は、人間の体にライ族の自我と価値観を持たせてしまったのです。
これがわざとだったのか遊びだったのかは、わかりません。
ですが、ダードにとって、自分の体や船体は、おぞましい姿と感じられてしまうのです。これは、意識が人間なのに姿がリザードマンやオークだったらと考えればわかりやすいでしょう。自分が怪物に見えるのです。
リープタイプの特徴として、頭脳体の外見は最初にデザインされた姿から変えられないので、恐らくダードもそうだったでしょう。そして、せめて船体だけは、と再生のたびに龍の形に変えていったものと思われます。リプミラ号を収納できるよう船体が大型化したり、前後に開く機能の付加も、その一環です。
恐らく、当初はあった頭脳体再生装置も、その過程で外してしまったものと思われます。自分が敗北して頭脳体が破壊されたら、二度と再生しないように。
ダードは、作中何度か「兵器に心を持たせて弄ぶ」と怒っていますが、せめて単なる兵器として作られたのであれば、自分の姿に悩むことなどなかったでしょう。その意味で、ダードは自分を中途半端な存在と感じていたようです。一方で、“兵器であること”がダードのアイデンティティであり、“怪物でない生き方をしたい”とは思っても、“兵器であることをやめたい”とは考えません。このある種の自己矛盾もまた、ダードというキャラの魅力です。
そして、力を付けたダードは、醜い自分を作った造物主に復讐します。
恐ろしいことに、ライ族は、ダードを自分たちに絶対服従するようには作っていませんでした。たぶん、兵器が反旗を翻すとは思っていなかったのでしょう。洗脳防止の機能を付けているところからすると、操られて反乱させられる可能性は考えていたものの、自ら反乱を起こす兵器があるとは想像していなかったのではないでしょうか。
ダードは、ライ族を全滅させた後、更に強くなるために戦いを求め、気まぐれに文明を破壊して歩くようになります。その過程で、迫害されていたビメイダー達から救世主と期待され、邪魔になるわけではないからと連れ歩くようになります。
そして、遂にリプミラと再会したのです。
ダードにとって、リプミラは目標であり理想でした。
思いもかけない戦法で裏をかかれ、性能が同じだったのに出し抜かれた相手。それは、強さを求めるダードとしては、たとえ命令がなかったとしても手に入れたい相手でした。
ところが、リプミラは、ゲン達を攻撃すると脅した途端に、大人しく投降してしまいました。投降すると見せかけて何か仕掛けてくると思っていたダードは拍子抜けしてしまいます。
そして、それが、“ゲンと共にありたい”というリプミラの思いから来ていることを知ったダードは、リプミラはゲンのせいで弱くなったと考え、原因であるゲンを消そうとするのです。
円卓へと急ぎたいゲンとリプミラの前に立ちはだかったダード号は、リプミラ号の攻撃をものともせず、星の涙さえも船体の口で受け止めてしまいます。けれど、リプミラ号は、星の涙の端に集中攻撃を加えることで、星の涙を咥えた口を支点に回転させ、ダード号の顎を砕きました。
「兵器でないお前達が、兵器である私を超えたのだ」と負けを認めたダードは、中性子星同士をぶつけることでブラックホール・ハイウェイ(円卓への近道)を作り、リプミラ号を円卓へと送り届ける途中、力尽きました。
「どこで終わってもいい旅だった」との言葉を残して。
これは、図らずも、「マップス」1話で死を覚悟したリプミラがつぶやいた言葉と酷似しています。
その後、ニードルコレクションによって回収されたダードは、修復と洗脳を受け、更にコピーしたデータから10万機の複製を作られます。
人格プログラムに強固なプロテクトが掛かっているお陰で洗脳プログラムの影響をほとんど受けなかったダードは、リムと一緒にいたラドウ1101を攫って姿を消します。
ダードは、“ゲンと共にありたい”という思いがリプミラを強くしたのなら、自分も守るべき相手を持ったら強くなれるかもしれないと考えたのでした。
そして、自分と同じ性能を持つ敵=新しい機能・武器を学習できない10万機の複製を相手の戦いに、ラドウ1101を守りながら挑みました。
この“自分との戦い”には、“今持っている力を最大限に使う戦い”という意味がありましたが、どこかに“醜い兵器である自分の同類を作ることを許さない”という思いがあったのではないかと考えてしまいますね。
この前後の期間、ダードとラドウ1101の間には交流がありました。無愛想なダードゆえに大したことはありませんでしたが、守られていると自覚しているラドウ1101は、ダードに歩み寄っています。
「勇者が龍を倒す前に、お姫様に龍と一緒にいたいか聞いていたら、一緒にいたいって言ったお姫様も1人くらいいたかもしれないのにね」というラドウ1101の言葉は、“ダードと一緒にいたい”という思いが籠められたものでした。そして、それはちゃんとダードにも伝わっています。最期の戦いに向かう際のダードの「いや、姫君は…やはり勇者に返すとしよう」という言葉は、これ以上戦えない自分の状況から、ゲンに託すしかなかったという面もありました。
話を戻します。
10万の自分と戦い、能力はそのままに、その使い方を極めることで強くなったダードは、“最強”であることを求めてジェンド・ラドウに戦いを挑みます。
ですが、ラドウ1101を庇ったことで敗れてしまい、致命傷を負いました。この時、かすっただけに見えたダードの攻撃はジェンドラドウに当たっていて、これが最後の勝利の鍵になっています。
胸に大穴を開けられ、全身ヒビだらけになって倒れたダードは、それでも立ち上がり、クローンラドウに苦戦するゲンを助けるために現れます。
ラドウ1101がリムから貰ったぬいぐるみと、ダード号の手動操縦装置の駆動キー、「ジェンド・ラドウの左目を狙え」という言葉をゲンに託したダードは、トゥルーラドウ号のエネルギーパイプを胸に直結し、クローンラドウに有線のエナジーフォールダウンを仕掛けて倒しました。
「10万もいるラドウの1人でしかない私と相討ちだなんて、龍の末裔にしては情けない最期だこと」
「違うな。1人のラドウであるお前とだ」
この最期の会話は、“心を持った兵器”であることを厭ったダードが、“心”に価値を見出し、心を持つ者それぞれが1つの命であると認めたことの表れでした。
「確かに生きている者は死ぬこともあるのだろう。だが、私はまだ、これしきのことで…こんなところで…倒れたりはしないのだよ」と言いながら力尽きるまで前に進み続けたその姿勢は、“どこで終わってもいい戦い”を乗り越えた証です。
確かに、ダードは自分では何一つなしていません。
ラドウ1101を救ったのも、ジェンド・ラドウを倒したのも、ゲンやリプミラでした。でも、ダードが蒔いた種があったればこそ、それらがなし得たのです。
決して無駄な生ではありませんでした。
実のところ、ダード号の戦闘能力は、さほど高くありません。
基本的な武装は、船体の口から吐き出すビーム(惑星を砕く程度の威力)と、船体を開いての噛みつき、中性子星による高重力、星の涙、くらいのものです。
作中何度か「中性子星を手玉に取る化け物」と呼ばれていますが、実のところ、中性子星を格納し、必要に応じて射出・誘導・再格納しているだけで、中性子星そのものを自分で合成できるわけでもありません。
ブラックホールハイウェイを作って中性子星を喪った後は、もうその力を利用することはできませんでした。
惑星を砕く威力のビームにしても、星の涙にしても、そのくらいの威力の武器は、銀河にはごろごろ転がっています。
特に、キャプテン・ヒィの船は、一番威力の小さい武器が惑星を破壊するレベルです。つまり、ダード号の最大の破壊力で、ヒィ・シップの最小の破壊力と拮抗する程度です。
リープタイプは軒並み攻撃力が小さいので、ダード号の攻撃力が絶大に見えますが、実際はそんなものです。
そもそも、成長する船なんですから、成長途中で最強のわけがありませんよね。
ですが、だからこそ、その船体の能力を十全に発揮できる運用能力が問われるわけで、ダード自身がダード号を操っていたら、ゲンほど苦戦はしなかったのでは? という気がするのも事実です。もっとも、脳波誘導で動かすのと手動で動かすのとでは、反応速度が段違いで当たり前ではありますが。
前回のマップスその2で書かなかった“命のあり方”の3つめ、ダードの場合について語りましょう。
ダードは、兵器として作られ、自らを兵器として定義していました。
彼が唯一、造物主の意思に従っていた部分とも言え、彼のアイデンティティの最も重要な部分でした。
ダードの行動指針は、主に3つ。
1 最強の兵器であること
2 リプミラを手に入れること
3 龍の末裔であり続けること
です。
このうち、分かりやすいのが1つめです。
ダードは、兵器であるが故に、洗脳されないよう人格プログラムに異様なまでに強固なプロテクトを施されています。
これは、ほいほいと敵に乗っ取られないようにするためですが、その機能は、本来、造物主に対する敵対防止のためにあるはず。実際、敵味方識別装置が搭載されているわけで、普通に考えて、造物主を敵と認識できるはずがないのです。
では、どうして造物主を壊滅させるなどということができるのでしょうか。
それは、おそらく“最強の兵器であると証明するための標的”と認識したからだと思われます。実際、ライ族は強い軍を持っていたようですし。
ダードにとって矛盾のない認識で敵認定できたのでしょうね。
そして2つめ、ゲンとリプミラに敗れたことで、“リプミラを手に入れる”の意味合いが変わりました。
物理的に手に入れるのではなく、“リプミラが手にした強さを得る”のが目的になったのです。
その手段としてラドウ1101を保護することにしたわけですが、はっきり言えば、成功していません。
かといって、失敗もしていません。
ラドウ1101を守りながら自分の量産型と戦うことで、確かに戦闘能力は上がりました。
ただ、リプミラと違い、“ラドウ1101と共にあるために生き残る”という支えにはできなかったのです。
これは、性格的な問題でしょうね。
ダードは、己を盾にラドウ1101を守り続けただけです。
「いや、姫君は…やはり勇者に返すとしよう」…こうつぶやいた後、ダードは、実に多くの者を救っています。
駆動キーにより、ゲンは戦うための機体を得ました。
ぬいぐるみにより、ラドウ1101は自我を取り戻しました。
ジェンド・ラドウの左目に付けていた傷は、最後の勝利をもたらしました。
ダードがいなかったら、最終決戦での勝利はありませんでした。
ついでに言うと、そもそもブゥアーに最も大きなダメージを与えたのは、暴走したラドウ1101による中枢部の破壊です。
彼女がダードと一緒に過ごした時間がなければ、この暴走もありませんでした。
伝承族反乱軍がダードを評した“最大のイレギュラー”という言葉どおり、ダードこそが伝承にない“勝利の決め手”だったのです。
そして3つめ。
ダードは、兵器として滅びを望みながらも、龍の末裔として強き者であろうともしていました。
このせめぎ合いと自己矛盾が、既に修復不能の体でトゥルーラドウのエネルギーによるエナジーフォールダウンを使ってみたり、その後も休むことなく歩き続けてみたりといった行動を支えています。
“何か”をなすために戦う…、その前提となる“何か”を求め続けること、それがダードにとっての命だったのです。
ミクロイドS
手塚治虫原作の漫画・アニメ作品。
蟻から進化した知的生命体:ギドロンが、昆虫を操って地球侵略をする物語。
ミクロイドは、ギドロンが人間を基に縮小進化させた小人で、ギドロンの奴隷のような存在だが、主人公であるヤンマ、アゲハ、マメゾウは、ギドロンに反逆して人間に味方する。




