21 ひっくり返される価値観(無敵超人ザンボット3)
「無敵超人ザンボット3」というアニメがあります。
先日、秋月忍さまの「<続>ネタの細道」で取り上げられた、ロボットアニメ史上に燦然と輝く凄惨な作品です。形容が矛盾してますね。
今だと、色々と凄惨な作品がありますが、当時としては画期的に悲惨なラストを迎えました。「伝説巨神イデオン」で銀河ごと全滅するよりも前の作品です。
大まかな内容は、こうです。
駿河湾付近の漁師町の網元・神ファミリーが海底から引き上げたものは、数百年前に先祖が隠しておいた宇宙船の一部ビアルⅠ世だった。機を一にして、宇宙からの侵略者ガイゾックの尖兵が襲ってくる。それを撃退したのは、ビアルⅠ世から出撃したロボット:ザンボ・エース。実は、神ファミリーは、かつてガイゾックに滅ぼされたビアル星の生き残りだったのだ。地球を守るため、神ファミリーはガイゾックと戦う。
こんな感じですね。
主役メカであるザンボット3は、戦闘機ザンバード、飛行戦車ザンブル、支援型戦闘機ザンベースの3機が合体して完成します。また、ザンバードは変形して小型ロボ:ザンボ・エースにもなれます。
操縦するのは、順に、神勝平、神江宇宙太、神北恵子で、いずれも中学生以下です。
彼らは、睡眠学習でメカの操縦法を叩き込まれ、その若い反射神経で戦います。ご丁寧に、戦闘に対する恐怖心も取り除かれています。
合体コードは「ザンボット・コンビネーション! ワン!」「ツー!」「スリー!」ですが、ザンバードにはサブコクピットがあり、勝平の愛犬千代錦がよく乗っていました。その際は、「ザンボット・コンビネーション!」「わん!」「ツー!」「スリー!」なんてこともあります。
静岡の神家、東京の神江家、長野の神北家が、それぞれ地元に隠されていたビアルⅠ世、ビアルⅡ世、ビアルⅢ世を発掘し、それらが合体すると宇宙船キングビアルが完成します。
ビアルⅠ世及びキングビアルのメインパイロットは勝平の兄の一太郎、総司令官は恵子の祖父神北兵左衛門です。みんなが「おじいさん」と呼んでいるし、勝平の祖母の梅江も「おじいさん」と呼んで夫婦のようですが、違うんですね。
母艦が合体方式なのは珍しいです。余談になりますが、キングビアルの合体は、Ⅲ世の後ろにⅠ世が合体し、左右に割れたⅡ世が両脇を挟むというゼロテスター1号方式です。例の方がマイナーでわかりにくいという…。
あと、合体ロボのパーツメカが単体で人型ロボになるというのもエポックでした。ザンボ・エースの武器は、内蔵型ではなく、ビアルⅠ世またはザンベースから射出されたガンベルトにセットされたザンボマグナムという銃です。この銃は、ガンベルトに入っているアタッチメントの組み合わせで、ピストルからライフル、マシンガン、グレネードランチャーまで、数種類の形になります。
指先が銃になっているとか、腕の中から銃口が出てくるとかならともかく、完全に外部兵装として銃を持つ主役系ロボットは、ザンボ・エースが初めてです。
その分、ザンボット3は全て内装兵器になっていて、銃に相当する武器がありません。
ザンボット3のデザインは陣羽織をイメージしていて、刀や槍を主武器にしています。そして、兜の鍬形部分が三日月型になっていて、そこから発射するムーンアタックが必殺技でした。
ムーンアタックは、何種類かパターンがありますが、一番綺麗で大掛かりなのは、両手から三日月にエネルギーを集めて三日月型の光を発射、光は敵の前で回転しつつ円を描き(自転しつつ公転、と考えるとイメージしやすい)、その円の内側に巨大な三日月ができて敵を貫き、爆発の後、巨大な三日月が揺らめきながら消える、というものです。個人的には、「無敵ロボ トライダーG7」のバードアタックと並んで美しい必殺技だと思います。
さて、この「無敵超人ザンボット3」は、外形的には一般的なロボットアニメですが、その実態は、“トラウマ製造器”と言われるほど凄惨な番組でした。
まず、戦場となった街では、住人達が家を焼かれ難民となります。焼け出された一般市民のその後が描かれるロボットアニメというのは、たぶん初めてだったでしょう。
次いで、難民となった人達から、“ガイゾックが攻めてくるのはお前らがいるからだ”と、神ファミリーが迫害を受けます。神ファミリーが宇宙人の末裔だと知れ渡ってからは、なおのことです。一時期は友人達からも嫌われていました。
実際には、ガイゾックは地球人を滅亡させようとしているわけなので、言いかがりなのですが。
たとえば「マジンガーZ」では、時として、光子力研究所近辺の住人が光子力研究所排斥運動を行いますが、そのエピソードの中だけで終わり、あとは綺麗さっぱり忘れられます。
実際のところ、敵であるドクターヘルは光子力研究所近くに埋まっているジャパニウム鉱石を狙っていて、それを奪われる(=ドクターヘルが超合金Zと光子力を手に入れる)と世界が征服されてしまいます。ですから、光子力研究所は死守されなければならないのです。冷静になれば、日本政府が暴動を力尽くで鎮圧してもおかしくありません。光子力研究所を奪われたら、ドクターヘルはジャパニウム鉱石を採掘し、最初に日本を占領するに決まってるんです。街の3つや4つ壊滅させたって、守らなきゃなりません。焼け出されるのが嫌なら疎開すればいいんです。しかも、敵は明確に侵略者です。
この点、「ザンボット」では、実際がどうであれ、外見上、“ガイゾックは神ファミリーのいるところを襲ってくる”のです。鉱脈の近くから動けない光子力研究所とは訳が違います。神ファミリーがいなくなれば、その街は襲われない(と思われている)んですから。
そんなわけで、中盤を過ぎてガイゾックの攻撃が無差別であることがわかるまで、神ファミリーは迫害を受け、補給もままならない状態が続きます。
勝平のガールフレンドであるアキとミチも、家を焼かれ、親を喪い、難民となって去って行きました。
こういう、いわゆる“鬱展開”が続いた後、更なる悪夢が視聴者を襲います。
“人間爆弾”です。
ガイゾックは、捕らえた人間に手術で時限爆弾を埋め込み、解放するのです。
解放された人間は、手術前後のことは思い出せなくされているため、人混みの中で突然爆発します。
人間爆弾作戦は、手軽で安上がりな割に有効な手段として、バンドック内部の手術設備を破壊されるまで、数話にわたって遂行されます。こういう継続的な作戦行動を取る敵というのは、当時のロボットアニメとしては異例でした。この間、メカブーストは、素材となる人間誘拐や陽動、神ファミリー殲滅などの目的で動いています。
そして、人間爆弾の恐怖は、主人公側の友人キャラにも及びます。
勝平がたまたま再会し、保護したアキは、キングビアルの勝平の部屋の中で爆死します。赤熱したドアを叩いてアキの名を呼ぶ勝平が哀れでした。この回初めて登場したゲストキャラとしての友人ならともかく、1話から何度も登場していたキャラがこんな風に死ぬという展開は、当時ありませんでした。
後に、人間爆弾にされた人の背中には星形の痣(手術の跡)があることがわかりますが、いつ爆発するかわからないため、手術で取り除くことはできません。あくまで見分ける手段でしかないのです。
そして、人間爆弾にされた人達は、他人を巻き込まないよう、人里離れた場所を目指します。その中には、勝平の友人の姿もありました。「死にたくない」と逃げようとする友人、それを取り押さえているうちに、友人の爆発で誘爆して全滅する人間爆弾達。そりゃあ、トラウマになりますよね。
21話(全23話中)からの最終決戦では、ガイゾックの移動基地バンドックを追ってキングビアルが宇宙に出ます。ここから、神ファミリーも続々と戦死していきます。
まず、兵左衛門と梅江が、中破したビアルⅡ世でバンドックに特攻、かなりのダメージを与えます。
次に、勝平の父が、非戦闘員(勝平の母達や幼い従弟妹、勝平の友人達)をカプセルで地球に脱出させる隙を作るため、ビアルⅢ世でメカブーストに特攻して相討ち。
最終回では、宇宙太と恵子が、ザンバードを切り離したザンボット(ボディと足)でバンドックに特攻します。
怒りに燃えた勝平は、ザンボ・エースでバンドック内部に侵攻、その際、足のサブコクピットにいた千代錦も死んでしまいました。
そして、勝平は、バンドックのコンピューターから、衝撃の事実を知らされます。
ガイゾックがビアル星や地球を襲ったのは、“同じ種族同士で殺し合うような悪い生物を宇宙から消し去るため”だったのです。
「そのような悪しき生き物が、お前達に感謝してくれるのか? お前達は家族を喪ってまで何をしたかった?」と問い詰められた勝平は茫然自失となります。
そして、地球に落下するバンドックを減速させるためビアルⅠ世が下敷きとなって爆散し、戦闘要員で生き残ったのは勝平ただ1人でした。
そりゃあね、トラウマに(以下略)
ちなみに、宇宙太と恵子が特攻したのは、ザンボットの両手と片足が壊れて戦闘不能になったからなんですが、原因は勝平の戦術ミスです。バンドックに突入した時、内部に留まって内側から破壊していればいいのに、調子に乗って貫通したからビームを食らったのです。しかも、最初に足をやられた時点で方針転換すりゃいいのに、また貫通して両手を失って。
ビアルⅠ世に乗っていた一太郎や、宇宙太・恵子の父は、勝平が自力で脱出しなかったせいで助けるために死んでしまったのです。
悪いの、勝平じゃん。
まぁ、悲惨なばかりではないんですよ。
「ザンボット」の次回予告は、兵左衛門(声:永井一郎)の「さあて、どう戦い抜くかな」で締めているんですが、兵左衛門の死後は、「さあて、どう戦ってくれるかのう」と変わります。
こういう芸コマなところが光っていたりもするんです。
自衛隊の精鋭がザンボットを操縦しても勝平達ほど戦えないという描写があったりして、子供がパイロットとして戦う理由が示されていたりもします。いえ、要するに洗脳して戦闘員に仕立て上げてたという鬼畜仕様ですが。
「ザンボット」は、1話完結で侵略者から地球を守る勧善懲悪的なロボットアニメ群の中にあって、同じフォーマットでありながら、よりリアルな侵略を描きました。
この手の番組を見た人の中には、よく、“あと一歩まで追い詰めた作戦なんだから、改良してまたやればいいじゃん”と言う人がいますが、それが人間爆弾だったりするわけで、エンタメ性は、リアルを追及しないところからしか生まれないのかな、などと思います。
鷹羽は、「ザンボット」をリアルタイムで見ていました。人間爆弾についても、“すごい!ひどい!”と純粋に感心してたんですよね。
今にしてみると、戦力の逐次投入的なラストの展開は「戦い方下手だなぁ」とか「勝平が悪いんじゃん」とか思いますが、当時は散っていく家族達に感動すらしていました。
せいぜい仲間の1人が途中で華々しく散るとか、その回限りの“親友”ゲストキャラが死んだり、という程度だったロボットアニメにあって、友人からも責められる、友人が途中で悲惨な死を迎える、仲間(家族)が1人また1人と死んでいく、という物語を描いたのは、すごいことでした。
「ザンボット」の物語は、ボロボロになって故郷の街付近に落下したザンボ・エースをバックに、「勝平が帰ってくるところはここしかない」と、いちはやく駆けつけたミチの膝枕で気絶している勝平の姿で終わります。
命を賭けて戦った勝平達を暖かく迎えてくれる人はいる、という僅かな希望をもって、勝平の「俺達、バカなことなんかしてないよな」といううわごとで。
最後の最後で価値観のどんでん返しが起きるのは、同じ富野監督による「海のトリトン」でもありました。
「ザンボット」の場合、途中、実際に守っている対象である民衆から神ファミリーが迫害されているだけに、ガイゾックの主張も納得できたり。地球人、いい生き物とは言い難いですよね。一方で、自分達の価値観でよその星を侵略しているガイゾックだって、独善であって、正義とは言い難いわけです。
そういうのを、ロボットアニメという隠れ蓑の下で描いた富野監督って、凄いなぁと思います。
トライダー・バードアタック
トライダーG7の必殺技。
胸の鳥のマークが大きくなって全身を覆い、「ガッチャマン」の科学忍法火の鳥のようになり、敵に突っ込んでいってぶった切る豪快な技。使用後は、胸の鳥のマークがなくなるので、1回の出撃で一度しか使えない。
ちなみに、トライダーG7は、7つの形態に変形する能力を持ち、名前の文字数も7,アルファベットの7番目のG,と、7尽くしになっている。
海のトリトン
1972年放送のテレビアニメ。一応手塚治虫原作だが、原作マンガ「青いトリトン」とは、キャラの名前と設定の一部を除いて共通点はなく、実質はアニメオリジナルの作品。
トリトン族最後の生き残りであるトリトンとピピが、父の形見であるトリトン族の宝“オリハルコンの短剣”を武器に、宿敵ポセイドン族の襲撃を退けながら海の平和を目指す物語…のはずだった。
最終回、ポセイドン族は、遙かな昔、トリトン族の祖先から人柱として神像の下に閉じ込められた人々の子孫だったことが明かされる。彼らの目的は、自分達の太陽である神像を破壊する力を持つ“オリハルコンの短剣”を奪うことだったのだ。
トリトンが神像の近くで短剣を抜いたため、神像は暴走、その下の空間にいた人々は死に絶えた。
残されていた法螺貝は「僅かに生き残っていた我々を滅ぼしたのは、トリトン、お前だ!」とトリトンを責める。
結局、トリトンは神像を破壊した後、ピピと共に、新天地を求めて去っていくのだった。
この最終回の脚本を書いたのは富野監督自身で、最終回用に別の人が書いた脚本を没にした上で、まったく違う話にしたという。




