19 空回りする拘り(成田 亨)
前回、宮内洋さんの拘りの話をしました。
拘りは、本人にとってとても大切なものですが、だからといって誰からも理解してもらえるものではない、ということも多々あります。
“空回りする拘り”とでもいいましょうか。
鷹羽にとって“空回りする拘り”というと真っ先に思い出すのが、デザイナー・彫刻家の成田亨さんです。
名前を聞いてピンとくる人は多くはないと思いますが、“ウルトラマンをデザインした人”と言えば通じますよね。
成田さんは、東宝でゴジラ映画のミニチュアなどで円谷英二さんと関わった後、円谷プロに入り、「ウルトラQ」の怪獣デザインなどをしています。
「ウルトラQ」だと、ペギラ、ケムール人、チルソニア遊星人、ガラモンなんかをデザインしています。「ウルトラマン」でも、全部ではなかったと思いますが、バルタン星人、レッドキング、ゴモラ、ゼットンなど主立ったものは成田さんの作です。
ケムール人でウェットスーツを使用したことが、後にウルトラマンの造形のヒントになったなんて話もありましたね。ケムール人の着ぐるみを着た古谷敏さんの、すらりとした8等身に惚れ込んでウルトラマンを着てもらったという話は有名です。
さて、“ウルトラマンをデザインした人”と言いましたが、ウルトラマンに決定稿というものは残っていません。企画途中でベムラーだった頃や、レッドマンだった頃のデザイン画は残っているのに、決定稿は残っていないのです。
タネを明かすと、“最初から存在していない”のです。
ウルトラマンのマスクは、大体のデザインが決まった後、成田さんの依頼で佐々木明さんが粘土で作り、さらに成田さんが微調整したものです。
これを元に古谷さんの顔から型を取り、FRPで形を作った上からラテックスゴムを貼り付けました。俗にAタイプと言われるマスクです。
これは、口から火を吐く予定だったので、口に開閉機構を付けたためです。古谷さんが口を閉じるとウルトラマンの口が開くというギミックだったそうです。
そのため、頬に遊びがあって、しわのように見えます。時間が経つにつれてゴムが傷んできて、口が開きっぱなしになったりもしていますね。
そこで、もう口を開ける必要もないので、同じ型からFRPで作ったのがBタイプです。ゴモラや二代目バルタン星人と戦ったのは、このBタイプです。
同じ型から作られているのに、材質が異なるため、ずいぶんと印象が違います。
次に作られたCタイプとの一番の違いは、口の幅が狭いことです。
その後、新たな型を起こしてCタイプマスクが作られ、最終回まで使われました。一般に、ウルトラマンの顔といえばCタイプといった認識になるくらい浸透していますね。今でもウルトラマンの顔はCタイプで作られています。
成田さんは、ウルトラマンの目に覗き穴を開けたことと、カラータイマーを付けたことは、不本意だったそうです。
以前にも書きましたが、ウルトラマンのデザインには、本来カラータイマーはありません。
変身シーンで飛び出してくる、あの拳がでかいパースの利いたウルトラマンの胸には、カラータイマーはないのです。
覗き穴に関しては、透明な目のパーツを通せば見えると思っていたらしいのですが、実際に古谷さんが前が見えなくて困るということで、やむを得ず開けたそうです。「ウルトラマン」開始の前に行われたイベント:ウルトラマン前夜祭の1回目では、前が見えなくてスタッフに手を引かれて歩いたそうです。それでもこけかけたとか。
それで、休憩の時間に仕方なく穴を開けたそうです。
最終回に登場するゾフィ(当時はゾフィーではなくゾフィだった)は、つっ立ってしゃべるだけという役回りで動く必要がないことから、成田さんは大喜びで古谷さんの目の位置を無視したマスクを新造し、覗き穴も開けませんでした。このマスクは、ウルトラマンに比べると、目の位置が僅かに高いです。つまり、あの目の位置が、成田さんにとってベストなデザインだったということになりますね。
ちなみに、ウルトラマンとの変化を付けるためか、この時のゾフィのマスクのトサカ部分(頭部から鼻までの突き出た部分)は、側面が黒く塗られています。DVD等で確認してみるとわかります。後に「ウルトラマンA」にゾフィーとして再登場した時には、トサカの側面は銀色になっていました。
蛇足ながら、「ウルトラマン」最終話で、ゾフィがウルトラマンに「私は、M78星雲の宇宙警備隊員ゾフィだ」と自己紹介していますが、これ、本放送時には、直前にウルトラマンが「お前は誰だ?」と聞いているそうです。再放送時に削られたんだとか。ウルトラ兄弟の設定の関係上、初対面じゃ困りますから(^^;)
さて、覗き穴については必要悪として妥協した成田さんですが、カラータイマーについては、後々まで怒っていました。
なんでも、着ぐるみが完成した後で、円谷プロの方で勝手に付けてしまったらしいです。理由としては、わかりやすいピンチの演出ということだったようです。
成田さんにしてみると、せっかく銀と赤の2色で綺麗にまとめたデザインなのに、胸にぽっこりと半球状の青い出っ張りを付けられたわけですから、面白くない、と。
成田さんは、ウルトラマンをデザインするに当たり、マントなどの飾りを付けず、素顔なのか服なのかわからない、極限まで単純化した姿を模索したそうです。色も銀と赤のみで構成され、あとは光る目だけ。ウェットスーツを使ったのも、ゴム手袋や地下足袋を使ったのも、縫い目のないつるんとした外見のためです。
スラリとした古谷さんに着せて、理想的な姿にしたのに、勝手に変な飾りを付けられた、と感じたようですね。
けれど、困ったことに、カラータイマーは、視聴者である子供には好意的に受け取られました。
付けた人の狙いどおり、わかりやすいピンチの表現ですからね。カラータイマーが点滅を始め、「頑張れウルトラマン。残された時間はあとわずかなのだ」とナレーションが入ると、手に汗握って応援しちゃいます。
成田さんの拘りは、空回りしています。
それでも成田さんは面白くなかったようで、「ウルトラセブン」では、“後で変なものを付けられるくらいなら”と、最初から額にビームランプをデザインしました。そして、“せっかく付けたのに、使ってくれない”とぼやいていました。
一応ね、ガッツ星人、ダリー、ポール星人の時には、ビームランプが点滅してるんです。でも、ちっちゃいし額に埋没しているし色も変わらないから目立たないんです。点滅してるのが。
この辺りは、デザインとして考えている人と、演出として考えている人の違いなのかもしれませんね。
そうそう、これも余談ですが、ウルトラマンの活動時間が3分というのは、「ウルトラマン」本編では一度も出てきません。ナレーションでは「ウルトラマンを支える太陽エネルギーは、地球上では急激に消耗する。太陽エネルギーが残り少なくなるとカラータイマーが点滅を始める」などと言っているだけです。3分とナレーションが入るのは、「帰ってきたウルトラマン」からです。成田さんは、新マンには一切関わっておらず、後年“勝手に線を増やされた”などとぼやいています。
余談の余談ですが、「ウルトラマン」最終回では「ウルトラマンの体は地球上では急激に消耗する」と言っています。ウルトラマン、削れていっちゃうんだ!
ウルトラ警備隊の基地の内装も成田さんの仕事です。
「ウルトラマン」で、主力となるジェットビートルがよそからの流用だったことがよほど悔しかったのか、「ウルトラセブン」では基地の内装からウルトラホークのデザインから、全て成田さんの手によるもので、統一感を出しています。ポインターだけラインが黒(ほかは濃い青)なのは、改造元の車が古いため、黒いラインでシャープさを出すためだったとか。
廊下の明かりのカバーは、たしか弁当箱を使っていて、単価が高くて何個も使うわけにいかず、廊下のセットは1本だけしか作らずに、何度も同じところを通ってもらって撮影していたとか。だから、廊下を歩く姿をずっと追い掛けるようなカメラワークはありません。角曲がったら、戻ってくるんで。
作戦室に貼ってある地図も、“ウルトラ警備隊ともあろうものが、市販の世界地図を貼ってあっては幻滅です”ということで、ダイマクションという、正20面体の地球儀を展開して三角形の組み合わせにした特殊な地図を用意したそうです。
さて、成田さんは、“既存の生物を巨大化させたデザインにはしない”“奇形や嫌悪感を抱かせる造形はしない”などとポリシーをもって怪獣をデザインしていたそうです。
ゼットンの“何にも似ていない姿と白・黒・オレンジの配色”の美しさは、確かにすごいです。デザインの美しさから言ったら、最高じゃないかと思います。
この点で、実相寺監督からガマクジラ(とにかく気持ち悪いものを)やスペル星人(全身にケロイド)のデザイン依頼を受けた時には、相当怒ったとか。
一方で、当時の円谷プロの家計は火の車だった(というか、制作費を大幅にオーバーして持ち出しで番組を制作していた)ので、怪獣の着ぐるみを使い回すことがよくありました。
ウルトラシリーズでトップクラスに有名で人気も高いバルタン星人は、初代と二代目では頭部の形が若干違っており、デザイン画に忠実なのは二代目の方です。でも、一般的には初代の方が人気も知名度も高いですね。
初代は、「ウルトラQ」のセミ人間の着ぐるみの改造で、二代目は新規に作ったため、デザイン画に忠実なのです。
バルタン星人のデザインの依頼は、“セミ人間に角とハサミを付けてくれ”だったのだとか。「ウルトラQ」で最後に作られたのが、セミ人間が登場する「ガラモンの逆襲」で、「ウルトラマン」で最初に制作されたのがバルタン星人の登場する「侵略者を撃て」だったことを考えると、着ぐるみの流用を前提にした依頼だったであろうことがわかります。成田さんとしては面白くなかったようです。
また、手は依頼によりハサミにしましたが、“宇宙船を造るほどの知的生命体の手がハサミのわけがない”と、成田さんは否定的でした。
これもまた、バルタン星人の人気はハサミによるところが大きく、拘りが空回りしている感があります。
「ウルトラセブン」の途中で、成田さんは円谷プロを退社しました。
恐竜戦車や戦艦の怪獣などをデザインさせられたことにかなり不満を持っていたようですから、そういう理由が大きいのだと思います。
そして、当時は、著作権などの考え方が非常にアバウトで、会社とデザイナーのどちらに著作権があるかなどの契約はしておらず、“社員が会社のためにデザインしたのだから、ウルトラマンのデザインの著作権は円谷プロにある”とする会社側と、“デザインしたのは自分だから、著作権は自分のものだ”とする成田さんとの間で長らく揉めました。
鷹羽の私見ですが、成田さんは著作権そのものを論じているのではなくて“ウルトラマンのデザインは成田亨がやった。こんなに素晴らしいデザインは成田だからできたんだ”と認めてほしかっただけなんだと思うのです。
成田さんは「帰ってきたウルトラマン」の際に声が掛からなかったことを恨みに思っているフシもありますし、会社を辞めたとはいっても、「ウルトラマン」に愛着はあったのでしょう。
お金じゃなくて、“デザイナーとして、芸術家として、功績を認めてほしい”という拘りだったんじゃないのかな、と思います。多分、口下手だったり感情的になったりして、すれ違ったんじゃないのかなぁ。
成田さんが亡くなる前、「ウルトラマンG」のデザインを依頼されて準備していたそうですが、こちらもロイヤリティの関係で日の目を見ることはありませんでした。
成田さんの故郷である青森県立美術館には、その際作られた「ウルトラマン神変」と題する金色のウルトラマンの顔が飾られています。
また、1983年にバンダイから発売されたリアルホビー・ウルトラマンの説明書の表紙は、成田さんの手による“カラータイマーの付いたウルトラマン”のイラストです。
このリアルホビー・ウルトラマンは、マスプロ商品で初めてA、B、C3タイプのマスクを明確に区別し、3つのパーツの中から好きな顔を選ぶことができました。しかも目とカラータイマーが光り、磁石スイッチでカラータイマーが緑の点灯から赤の点滅に切り替わるというギミックがありました。
目とカラータイマーが光るのがウリの商品の説明書なので、カラータイマーが描かれています。そういう分別はちゃんとあります。この説明書には、成田さんがウルトラマンをデザインしていく過程が書かれています。そういう部分で納得したから、成田さんはカラータイマー描いてくれたんじゃないかな。
この当時、バンダイでは、プラモデルでもウルトラマン系列を発売していました。プラモでは、ウルトラマンはBタイプ、バルタン星人は二代目でした。また、この前後に、バンダイが出していた“模型情報”という月刊の情報誌に、成田さんが特撮技術やご自身のデザインコンセプトなどのエッセイを連載していました。上で書いたウルトラ警備隊の廊下の話などは、模型情報に書かれていたものです。
1987年に成田さんが個展のために作った彫刻「宇宙人M」は、上記の説明書表紙のイラストと同じポーズですが、カラータイマーは付いていません。
きっと、それが成田さんの拘りなのでしょう。
そして、「宇宙人M」と、同時に作られた「宇宙人S」「宇宙人H」の3体は、いずれもダイナミックなポージングやデッサン力などが高く評価されています。今どこにあるのかは知りませんが、ガレージキットとして販売されたので、ググると見ることができます。
またまた蛇足ですが、ヒューマンは、「突撃!ヒューマン!!」の主役で、鏡面仕上げのようなピカピカの顔が特徴です。
これは、生放送番組のステージショー故に“周囲が映りこむことを気にしなくてすむ”ためで、マスクは“職人がステンレス板を叩いて成形”という前代未聞の制作方法が採られています。成田さんは、この造形にとても満足していたそうです。
もっとも、番組自体は1クールで打ち切られました。
デザインへの拘りは、作品の質の決定打にはなり得ないのです。空回りしています。
ウルトラマンの目の覗き穴も、カラータイマーも、バルタン星人のハサミも、デザイナー成田亨としては不本意極まりないものです。
ですが、それが重要なアイデンティティとして成立し、それ故に人気なのです。デザイナーとしての拘りを踏みにじった先にある人気というのも皮肉なものです。
前述の、著作権の問題について、鷹羽なりの意見を言わせてもらえば、“円谷プロのスタッフによる共同制作”でしょう。
成田さんなしにはありえませんが、成田さんだけでも成立していないと思うからです。
“カラータイマーのないウルトラマン”は、もはやウルトラマンたり得ません。
特撮ヒーロー物では、往々にして、デザイン画を見た時と実際の造形物を見た時とで、イメージが違います。
立体故ですね。特に着ぐるみの場合、人が着る関係上、どうしても体型に制限が出ます。足が短くなったりとか、覗き穴の位置とか。ウルトラマンでは、それを防ぐために8等身の古谷さんを起用したわけです。
例えば模型を作るとして、着ぐるみそっくりに作るのか、デザインから連想される“本来あるべき姿”を作るのか、という選択があります。
成田さんは、後者を選ぶ人なのです。
拘りが空回りしていても、やっぱり鷹羽は成田さんの拘りが好きです。
カラータイマーが点滅しないウルトラマンなんてウルトラマンじゃないと思いますが、それでもカラータイマーがない方がデザイン的にはすっきりしていると思います。
良し悪しの問題ではなく、鷹羽は、拘りを持ってことに当たる人が大好きです。




