17 傷だらけ大逆転(忍者戦隊カクレンジャー)
1994年放送の「忍者戦隊カクレンジャー」という番組があります。
当時低迷していた戦隊シリーズに、ちょうど前年に終了した「不思議コメディシリーズ」のスタッフが流入したため、かなり異色な作品となりました。
まとめ役もマスコットキャラもなく5人だけで旅をする、リーダーがレッドでなくホワイト(女性)、敵が組織だっていない、巨大ロボが(忍術で)湧いて出る、6人目の戦士が変身しない(着ぐるみキャラ)などなど。背中に刀を背負ったデザインも初ですね。
後に、「電磁戦隊メガレンジャー」ではリーダーがブラックだったり、「未来戦隊タイムレンジャー」ではピンクだったり、「魔法戦隊マジレンジャー」ではグリーンだったりしますが、レッド以外がリーダーになるというのはシリーズ初の快挙? でした。当時は、否定的な意見が多かったようです。5人ともちっとも頼りにならなさそうで、戦うお姫様とバカ4人組といった感じでしたね。
ちなみに、当初の敵は妖怪忍軍でしたが、2クール目辺りで、貴公子ジュニア(演:遠藤憲一)が妖怪をけしかけてくるといった感じで組織化を始め、3クール目からは大魔王率いる妖怪達という具合に完全に組織化されました。
ジュニアを演じていたのは、今やあちこちでひっぱりだこの遠藤憲一さんです。ヘビメタな服装でギターやピアノをかき鳴らし、オカマ言葉で喋るという風変わりな悪役を楽しそうに演じていました。
地下牢に閉じ込められているシュテンドウジ兄弟(妖怪)のところに行って、「はぁい、元気してた?」などと挨拶している姿は、これまでとは一味違う悪役像を生み出したと言っていいでしょう。
ジュニア自身は中盤で倒されてしまいましたが、彼の飼い猫たちは人型に変化し、これまたシリーズ初となるレギュラー敵戦隊“花のくノ一組”として、ジュニア亡き後も戦い続けました。大魔王が封印されたことで人の姿に変化できなくなりましたが、未だに生きています。印象としては、戦闘能力はさほど高くなく、5人がかりでカクレンジャー1人を圧倒できる、という程度でした。
ちなみに、リーダーである鶴姫を演じていたのは、「不思議コメディシリーズ」最後の作品となった「有言実行三姉妹シュシュトリアン」で三女花子を演じた広瀬仁美さんです。
その縁で、35話「おしおき三姉妹」では、シュシュトリアンの雪子・月子を演じた田中規子・石橋桂の両氏が出演し、しかもその前の次回予告では「シュシュトリアン」の曲から「カクレンジャー」の予告の曲に変わるという遊びよう。おしおきシスターズの名乗りもシュシュトリアンをもじったもので、お遊び感満載でした。
シリーズ初の“リーダーでないレッド”サスケは、それでも戦闘面ではメインとなり続け、中盤以降は、鶴姫を支える形で、実質的なリーダーになっていきます。
前半に1回、後半に1回、他のメンバーが敵に捕らわれ、サスケが孤軍奮闘して救出するという展開があります。
戦隊シリーズの初期には、他のメンバーのピンチに、その回の主役が颯爽と現れるという展開がよくありましたが、「カクレンジャー」においては、そのパターンはサスケしかやっていないという印象です。他のメンバーは、どちらかというと孤立してピンチになったところに他のメンバーが助けに来る、というパターンが多かったようです。
いや、まぁ、サスケのピンチに仲間が助けに来る、というパターンもあったんですけどね。
前半は、前述のシュテンドウジ兄弟の時、後半はクリスマス決戦でのダラダラの時です。
ダラダラは大魔王の分身で、戦って受けたダメージ分のエネルギーを捕らえた敵から奪う、という性質でした。
44話「傷だらけ大逆転」は、ニンジャマンを含め4人の仲間全員をダラダラに捕らえられ、迂闊に反撃することもできなくなったサスケが、敵本拠に単身殴り込んで仲間を救い出す、というお話です。
この回の次回予告も普段と違っていて、挿入歌「星よ、にじむな」の「体いっぱい広がる傷に痛みなど感じる時間はない」という歌詞が流れる中、サスケのナレーションで、「痛みも、恐怖も、感じなかった。ただお前達のことを思い、俺は走った。忍者戦隊カクレンジャー、傷だらけ、大逆転」というものでした。「傷だらけ」と「大逆転」の間に一拍入ってるんです。
もうね、ほとんど最終回くらいの力の入りようで、実際、全編通して一番盛り上がったんじゃなかろうかってくらいのエピソードでした。まぁ、突っ込みどころも色々ありましたけど。
鷹羽、今でもこの次回予告を思い出すだけでじーんときます。
最終回なら、いつもと違う次回予告って結構あるんですよ。
「電撃戦隊チェンジマン」では、普段はナレーターが喋るだけなんですが、最終回では
ナレーター「大星団ゴズマと最後の戦い」
ドラゴン「みんな、行くぞ! レッツチェンジ! 電撃戦隊!」
5人「チェンジマン!!」
ナレーター「最終回、さらば宇宙の友よ」
という具合に、タイトルコールを名乗りの声で合わせています。
でも、途中の話で、こういうのって珍しいです。
元々「カクレンジャー」は、ゆるい、というか、設定がかなりいい加減な作品で、色々とツッコミどころが満載です。
最たるものは、1話で戦いが始まるきっかけとなったのが、サスケとサイゾウが妖怪に騙されて妖怪忍軍の頭領であるヌラリヒョンの封印を解いてしまったことなのですが、鶴姫の後見人である三太夫は、2人の行動を見ているだけで止めようともしませんでした。その理由は最後まで説明されることなく、しかもヌラリヒョンは登場しないまま終わります。
視聴率や商品売上の影響などを受けて右往左往した結果なのかもしれませんが、かなり混迷しています。
一方で、役者人気はかなり高く、後楽園遊園地の野外劇場に役者本人が出演する回は大盛況でした。
カクレンジャーショーの最終シリーズの最終日は、東京に雪が降ったため、5回予定されていたショーが4回まで中止となり、トークショーに変更されました。鷹羽は5回目のチケット交換券も持っていたものの諦めて帰ろうと思ったのですが、電車に乗る前に日が差してきたのを見て舞い戻ったところ、5回目はショーを行うことに!
いわゆる千秋楽では、役者もスーツアクターもアドリブを入れまくるのですが、この日は、妖怪を探しながら「この雪で出てこれないのか?」と言ってみたり、戦闘員の落っこち(高いステージから奈落に飛び降りる)に「君も大変だな。毎回毎回こんなところから落ちて。でも、これで最後だ、行ってこい!」と言いながら叩き落としたり。ノリノリでした。
そして、ショー終了後の挨拶。
サスケ役の小川輝晃さんの挨拶は、「君達がこれから生きていく上で、大変なこと、頑張ることがきっとあると思う。その時、この同じ空の下で、きっと僕も頑張っている。忘れないでほしい」というものでした。
彼は、“サスケは刀を肩に担ぐ癖がある”という設定を作り、変身後のニンジャレッドを演じたスーツアクターと打ち合わせて、変身前後の一体感を作り出していました。こういう拘りっていいですよね。
小川さんは、その後、1998年放送の「星獣戦隊ギンガマン」に、ギンガレッド・リョウマの兄ヒュウガとして出演しました。
ヒュウガは、本来ギンガレッドになるはずだったのに敵の襲撃で地の底に消え、後に6人目の戦士・黒騎士ヒュウガとして戦列復帰するという役どころ。
リョウマとヒュウガは、共に炎を操る能力の持ち主で、「炎の兄弟」と呼ばれていました。
そして、2011年放送の「海賊戦隊ゴーカイジャー」は、過去の戦隊ヒーローの変身前を演じていた役者がその役で登場するというのがウリの1つでした。
リョウマ役だった前原一輝さんは、当時既に引退していましたが、小川さんが「久しぶりに炎の兄弟やろうぜ!」と言って誘い、本当に2人で出演してしまったのです。
こういう、役に愛着を持ってくれる人って、いいなぁって思います。




