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社畜ダンジョンマスターの食堂経営 〜断じて史上最悪の魔王などでは無い!!〜  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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ダンジョンバトル2秒前!

 凍りついた坂を兵達が剣や盾を使って削り、即席の階段を作っていく。


 その光景を坂の下から眺めながら、魔術師の一人が紫色の液体の入ったビンを持ち蓋を開ける。中に入った液体を口に含み、男は顔を顰めてビンから口を離した。


「……不味いな」


 男がそう言うと、若い声の魔術師が笑いながら頷く。


「苦いし酸っぱいしで、さらに妙に後味が甘いからね。僕もできたら飲みたくないよ。これまでモンスターも出てきてないし、まだ飲まなくても良いんじゃない?」


 若い男の魔術師がそう聞くと、男はビンの中身を更に一口飲み、頭に被っていたローブを脱いだ。長く流れるような金髪がこぼれ落ち、まるで精密な彫刻のように整った若い男の顔が現れる。


 黒い宝石のピアスを二つ付けた耳は、長く尖っていた。エルフの男はビンに蓋をすると、服の裾で軽く額の汗を拭き取り、唸る。


「これまでモンスターが出なかったことが気になる。もし、この坂の先に大量のモンスターがいたらどうするつもりだ。常に全力が出せるように心掛けろ」


 男がそう告げると、若い声の男は小さく笑って男を見た。


「流石は第十二席の宮廷魔術師、カフシエル。言うことが違うね」


「緊張感が無さ過ぎるぞ、サムヤサ」


 そう窘められ、サムヤサと呼ばれた若い男は肩を竦めて鼻を鳴らした。


「はいはい。それじゃ、こっちもとっておきを出しておきますか」


 サムヤサは腰に下げた革の袋から腕輪やネックレスを取り出し、そんなことを言った。


 コルソンはそれを横から眺め、目を丸くする。


「それは、ケルビムリングではないか! それに、ソローネックレスだと!? どちらも希少なマジックアイテムだぞ! 何処で手に入れたのだ!?」


 コルソンがそうがなり立てると、サムヤサは眉根を寄せて面倒臭そうに溜め息を吐いた。


「ケルビムリングは陛下からお借り致しましたー。ソローネックレスはお金を貯めて自分で買いましたよ?」


 そう答えると、コルソンは物欲しそうにサムヤサの手の中にある指輪とネックレスを凝視する。


「マジックアイテムを買っただと? では、闇オークションでか? そんな金を持っているのか?」


 その質問に、サムヤサは指輪とネックレスでコルソンの視線を引っ張りまわしながら遊び、口を開いた。


「衣食住は王国が用意してくれているし、研究費も出ますからねー。宮廷魔術師なんてなるくらい魔術研究が好きな輩は皆お金余ってますよ。だから、ほら」


 サムヤサがそんなことを言って他の魔術師達を指差すと、皆がローブの裾を捲り上げ、既に装備しているマジックアイテムをコルソンに見せた。


「エクスシアンバングルにデュナミスストーン……!? 待て待て待て! そこのお前! 魔術師なのに何故身体能力向上のマジックアイテムを付けておる! 宝の持ち腐れだ! 言い値で私が買うぞ!?」


「詳しいですねー、閣下? それだけ詳しいなら閣下もマジックアイテムはお持ちでしょ?」


 興奮するコルソンにサムヤサが尋ねると、コルソンは目を輝かせて振り返る。


「私はマジックアイテム蒐集家だ。幾つあっても良い」


「あ、そうですか」


 温度差を感じたのか、コルソンの言葉に素っ気ない返事をするサムヤサ。


 二人のそんなやり取りを見て、周囲の兵士達は複雑な表情で深い溜め息を吐いた。





 坂道を攻略し、ようやく次のフロアに行く為の扉に手が掛けられる。


 二人の兵士が左右に立ち、更に二人が盾を構えて扉の前に立った。合図を送り合い、左右に立った二人が扉を開く


 重い音がしてゆっくりと扉は開かれてゆき、盾を構える二人の兵士が柔らかい光に照らされた。


 ふわりと風が吹き、扉の向こう側を睨むように見据えていた兵士達はその景色に目を剥く。


「な、なんだこれは……!」


「……ここは、本当にダンジョンなのか……」


 そんな言葉を漏らしながら、兵士達は驚愕と共に扉の向こう側へと足を踏み入れた。


 背の短い雑草が生えた美しい野原と、緑を切り開くように通った石畳の道。そして、道の先に見える広い湖には無数の塔が聳え立っている。


 壁や天井は岩肌が露出しているが、その表面自体が発光していて地下空間を明るくしていた。


 四人があまりにも今までと違う光景に絶句していると、背後から怒鳴り声が響く。


「おい、お前達! 何が見えた!? モンスターか!?」


 その声を聞いて四人はハッと我に返り、扉に顔を向けて口を開いた。


「罠もモンスターも見当たりません! あるのは湖と、その中に建つ巨大な塔だけです!」


「地底湖か!? ようやく着いたのか!」


 嬉々としたコルソンの叫び声が返ってくると、扉の向こうから次々に兵達が上がってきた。


「う、うぉおお!?」


「これで帰れるのか!?」


「出口は何処だ!」


 手を叩き合って喜ぶ兵達を押し退け、コルソンと中年の騎士が姿を現す。


「ぬぅ……まったく信じられんダンジョンだ。よし、皆の者! この地底湖周辺にオリハルコンの武具があるはずだ! それさえ見つかれば即このダンジョンから出るぞ! 地上に戻れば皆に褒賞を授ける! 更に、見つけた者には特別な恩賞もどっさり出す!」


 コルソンが両手を広げてそう宣言すると、兵士達は目の色を変えて返事をした。


 すぐさま動き出し、兵士達は蜘蛛の子を散らすように周りに散っていく。その内の数名が地底湖の前にある不思議な祭壇に気が付き、辺りを警戒しながらそちらへ向かった。


 祭壇に近付いた兵士の一人が中を覗き込み、声を上げる。


「黒い箱がある!」


 兵士がそう叫ぶと、周囲にいた兵達が一斉に振り向いた。


 祭壇の上にあったのは、高さこそあまり無いが幅と長さが一メートルはありそうな大きな箱だ。視線を浴びながら兵士が黒い箱を持ち上げようと力を込めるが、動く気配が無い。


「くそ! 動かない……!」


 兵士がそう言って手を離すと、他の兵達が寄り集まり、黒い箱に手を掛けた。


「おい! 俺が見つけたんだからな!?」


 最初に箱を見つけた兵士が叫ぶが、他の兵達は気にもせずに箱を持ち上げようとした。だが、微動だにしない。


 そんなことをしているうちに、箱の奪い合いに気が付いたコルソンが祭壇の方へ歩いてきた。


「何か見つけたのか!?」


「はっ! こちらの怪しい祭壇に黒い箱がありました! 金属製らしく、誰がやっても持ち上がりません!」


「黒い箱?」


 報告を受けたコルソンは兵達が群がる祭壇に目を向けた。コルソンの登場により、箱に手を掛けていた兵達も慌てて左右に分かれる。


「……ふむ、真新しい箱だな。鍵穴は無い……ん? この窪みはなんだ?」


 入念に箱を調べてたコルソンは、箱の上部に丸く溝のようなものがあることに気が付いた。


 それに触れた後、コルソンは箱から手を離す。


「……この箱かもしれんな。誰がこの箱を最初に見つけた?」


 コルソンがそう口にすると、最初に黒い箱を見つけた兵士が素早く手を挙げた。


「はっ! 私であります!」


 兵士の返事を聞き、コルソンは箱を指し示す。


「よし、ではお前に箱を開けさせてやろう。もし目的の物だったならば、お前には間違いなく騎士爵と報奨金を陛下より戴けるだろう」


 コルソンがそう告げると、その兵は唾を呑んで顎を引いた。同時に、他の兵達の中には嫉妬どころか殺気すら滲ませて睨む者もいる。


 兵士は黒い箱に近付き、コルソンが指差した丸い円を描く溝の中に手を入れた。浅い呼吸を繰り返しながら、手に力を込める。


 ゴゴン、という音を立て、箱の上部が溝に沿ってへこんだ。そして、祭壇の屋根の上にある小さな箱から不思議な音が鳴る。


「な、なんだこの間の抜けた音は!?」


 ラッパを使った不思議な音が鳴り響き、コルソンは周囲を警戒しながら叫ぶ。すると、今度は箱の上部を押した兵士が血相を変えて悲鳴を上げた。


「うわぁ!? て、手が! 手が抜けません……!」


「なに!?」


 コルソンが顔を向けると、そこには黒い箱に手を突っ込んだまま暴れる兵士の姿があった。


「やはり罠だったか!」


 コルソンがそう口にすると、湖の方で地鳴りのような音が鳴り、水の中から新たな塔が水飛沫を上げて出現した。


 迫り上がる巨大な塔に、コルソンを含め兵士達はなにも言葉を発せずにただ立ち尽くしていた。


 突如として現れたその塔の入り口の奥には赤い台座があり、台座には黄金色に輝く剣と盾が立てられている。


「あ、あれは……!」



MMRみたいな終わり方にしてしまった…!

あ、一週間建国記がもうすぐ発売だそうです!

アマゾンでも予約出来ますよ?(*´꒳`*)

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