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社畜ダンジョンマスターの食堂経営 〜断じて史上最悪の魔王などでは無い!!〜  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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92/122

コルソンの恐怖

カドカワBOOKS様より書籍化致します!

3月刊行です!

きゃー!タイトルが変わりますー!(え!?)

【コルソンから見たダンジョン】


「な、な、な、何が地底湖まで二十人だ! もう百人近く死傷者が出ておるではないか! 今回は撤退だ!」


 コルソンが怒鳴ると、近くにいた中年の騎士が眉を顰めて口を開いた。


「閣下! 先程の爆発に怯えて独断で逃亡しようとした兵は全員が落とし穴に落ちて行方不明です! 退がるのは危険かもしれません!」


「だから、あのクソ女どもに案内させろ! 彼奴らは以前に脱出しておるから無事なのだろうが!?」


「は、はっ! それでは、伝令を出します!」


 コルソンの怒りの矛先が自分に向きかけたことを悟った騎士は、慌ててコルソンの指示に従った。


 それを睨むように見てから、コルソンは周りに目をやった。少し離れた場所を歩く青いローブの男達に視線を止め、口を開く。


「成果無しは避けねばならんが、全滅などはもっと悪い……最悪、飛翔魔術でこのダンジョンから撤退なども可能か?」


 コルソンがそう尋ねると、男の一人がコルソンを振り返った。


「我々はこの国でトップクラスの魔術士ですぞ。もちろん、飛翔魔術での脱出など楽にできましょう。ただ、一人で運べるのは一人までですな。二人を連れて飛翔するのは厳しい」


 男がそう答えると、コルソンは満足そうに頷く。


「それは心強い。それならば、あのクソ女どもが用済みになれば好きにできるな。はっはっは!」


 コルソンがそう言って下品な笑い声を響かせると、男は眉間に皺を寄せてコルソンから視線を外した。


 その男の態度に気付かず、コルソンは伝令が帰ってくるのを見て顔を上げる。


 伝令の若い兵は緊張した面持ちでコルソンに対して報告をし、コルソンはその報告に顔色を変える。


「何!? 地底湖前まで行かねば帰られんだと!? そんな話は聞いてないぞ!」


「はっ! このまま戻ると全滅の可能性もありますが、地底湖まで行って別ルートで帰るならこれ以上被害も無く脱出できるとのことです!」


「なんだ、その馬鹿みたいなダンジョンは!? わざわざ途中に帰り道を用意しているというのか!」


「わ、分かりません!」


 コルソンの激怒を間近に見て若い兵は震え上がった。コルソンはその様子に鼻を鳴らすと、大声を張り上げて指示を出す。


「前進だ! 進めぃ!」


 コルソンがそう号令を発すると、兵達は足を前に出して歩き出した。





「なんだ、この橋は!? 下に何かおるぞ!?」


 コルソンが石橋を見てそう叫ぶと、近くにいた中年の騎士が厳しい表情で頷いた。


「お気を付けください。冒険者の女が手すりを魔術で用意しましたが、飛んでくる岩が頭に当たれば落ちかねません。落ちれば、もはや救出は不可能です」


 騎士にそう言われ、コルソンは橋の手前から橋の下を覗き込んだ。


 橋の下には、指より大きく手首よりは細いミミズのような虫がうようよと蠢いている。その虫の海の中から何本か手や足が出ており、少しずつ呑み込まれていく光景があった。


 それを見て、コルソンは唾を嚥下して表情を引攣らせる。


「わ、私が手すりを両手で持って支える! 貴様が盾を構えて私を死守せよ!」


 コルソンが近くにいた兵にそう告げると、兵は泣きそうな顔をしながら顎を引いた。


人一人がギリギリ通れる狭い石橋を若く大柄な兵士が二人進み、その後ろにコルソンが並ぶ。更に、コルソンの背を守るように若い兵士が二人付いて歩いた。


両手で即席の手すりを掴んで歩くコルソンの前で、二人の兵士は盾を必死に構えて左右を警戒しながら進む。


「ぐっ!?」


岩が飛来し、兵士は盾で防ぎながらもくぐもった声を漏らし、バランスを崩す。


「し、しっかり防げ!」


コルソンが怒鳴る中、今度は反対からも岩が飛んできて、後列の兵士が盾を持った手を伸ばしてコルソンを守った。


しかし、高速で飛んでくる重い岩を片手では防げなかったのか、盾を持った手が岩に弾かれてコルソンの兜へ当たった。


コルソンの身体が大きく傾き、慌てて手の空いた兵がコルソンの身体を支える。


「こ、こ、この馬鹿者が! ちゃんと防げと言っておる!」


「はっ! 申し訳ありません!」


怒鳴られた兵士は慌てて声を上げ、コルソンは舌打ちをして前を向いた。


その時、最前列を歩いていた若い兵士が盾で岩を受け、バランスを崩して橋の下へと落下する。


「あ」


そんな声が聞こえた時には、若い兵士は虫の海の中に呑み込まれていくところだった。


「ぎ、ぎゃあああ……っ!」


耳に残るような兵の断末魔の叫びを聞き、コルソンは震え上がった。


「は、早く進め! 何をしている! 進まんか!」


コルソンは姿勢を低くして前を歩く兵の背中を押し、怒鳴り散らした。


飛んでくる岩の数が増え、兵士達も必死に防ぐが、一人また一人と橋の下へと落下していき、最後にはコルソンを守る兵は一人だけになっていた。


 兵士達の犠牲もあってコルソンはなんとか橋を渡り切り、その後の暗闇の中で落ちてくる天井も魔術士達が作った即席の石柱により難なく攻略する。


 そして、不思議な扉の前でコルソンはまたも唾を嚥下した。


「な、なんだこの不可思議な扉は……皆この扉の向こうに行ったのか?」


 コルソンがそう尋ねると、中年の騎士は浅く頷く。


「はい。どうやらこの扉の向こうは今まで見たことの無いような迷宮となっているようです。それも恐ろしく広いため、前列の者達が手分けして出口を探しております」


「おい。あの冒険者どもはこの迷宮を突破しておるんだろう? 何故出口が分からないのだ」


 コルソンが顔を顰めてそう聞くと、中年の騎士は難しい顔で首肯した。


「どうやら、この迷宮は出口の場所が変化するようです。前回来た時と違うと話しております」


「なんだと? くそ、蛇の魔王と呼ばれた蛇蝎のダンジョンと同じではないか……嫌な予感がするが、あの石橋は二度と見たくない。行くぞ!」


 中年の騎士の台詞にコルソンは半ば自棄になりながらそう怒鳴り、扉の向こうへと足を踏み入れた。


「な、なんだこのダンジョンは……」


 そして、迷宮の景色にコルソンは呆然とそう呟いた。


 コルソンの知識には無い、金の背景に松の絵が描かれた襖が四方に並び、角には独特な雰囲気の提灯がぼぅっと光を放っている。


 そして、部屋の中央には鎧武者の甲冑が鎮座していた。


 そのダンジョンと呼ぶには独特過ぎる景色を見て、コルソンは呻くように口を開く。


「とてもダンジョンには思えん……それに、この鎧はいったい……」


 コルソンはそう呟き、鎧武者の顔の部分をジッと凝視し、背筋を震わせて首を左右に振った。


「えぇい! こんな不気味な所でジッとしていられるか! ほら、行くぞ!」


「は、はっ!」


 若い兵士の尻を蹴り飛ばし、コルソンは迷宮の奥へと進み始める。最初は自動で開閉する襖に一々驚いていたが、だんだんと慣れていった。


 何部屋も通り抜け、迷って戻ってきた兵士達と情報交換をしながら、コルソンは奥へと奥へと向かった。


 そして、三時間も探索しているうちに、ついにコルソンの堪忍袋の緒が切れた。


「あの冒険者の女どもは何処へ行ったのだ!? まさか、逸れたわけじゃあるまいな!?」


 コルソンがそう怒鳴り、前列の方にいたはずの若い兵士を問い詰めると、兵士は顔を青くして首を左右に振る。


「と、扉の前に一人ずつ立って目印にしようと言われまして! 気が付けば、自分は逸れてしまっておりました!」


「この無能が!」


 兵士の答えた内容を耳にした途端、コルソンは兵士の胸の辺りを片手で突き飛ばした。


 兵士は慌てて転ばないように後方へ一歩二歩と後ずさる。すると、兵士が襖に近付き過ぎて襖が自動で開閉した。


「……ん?」


 開いた襖の奥に広がる景色に、コルソンは思わず怒りを忘れて疑問符を口にした。


 今までの景色と違う点があったからだ。


 四方を襖が囲み、角には提灯があるのは変わりない。


 だが、真ん中に鎮座していた筈の鎧武者が立ち上がって錆びた刀を手にしていた。その足下には血溜まりに沈む兵士の首無し死体が転がっている。


「え?」


 コルソンに突き飛ばされた若い兵士がそんな間の抜けた声を発し、自分の背後に立つ鎧武者に気がつく。


 風を切る音が響き、若い兵士の首の半ばまで鎧武者の錆びた刀が突き刺さった。


「ごぷ」


 声なのか、血を口から零す音なのか、判別のつきにくい音が若い兵士の口から発せられる。


 鎧が硬い地面に当たる硬質な音が響く中、鎧武者は作業的に若い兵士の首の切り残しをノコギリで切るように切断した。


 そして、若い兵士の頭を片手で掴むと、二つの頭を持った鎧武者はコルソンに向かって歩き出す。


「ぬ、ぬ、ぬぁあああっ!?」


 その時になってようやく、コルソンは自身の置かれた状況に気がついた。


 鎧武者の次の獲物は、自分である、と。


「閣下をお守りせよ!」


「はっ!」


 悲鳴をあげて立ち尽くすコルソンを守ろうと、周囲にいた兵士達が鎧武者に殺到する。


 金属の弾く音が連続して響く中、コルソンは後ろに並んでいた宮廷魔術師達の更に後ろへと避難する。


 すると、今度はコルソンの逃げた先の襖が開き、目の前には翼を生やした悪魔の石像が首を捻っていた。


「が、が、が、ガーゴイル!」


 コルソンが絶叫しながらその場にへたり込むと、宮廷魔術師の一人が青いローブを翻して後方を振り返り、魔術を行使した。


「……『ストーンランス』!」


 魔術士が杖をガーゴイルに向けながら叫ぶと、杖の先に人の頭部よりも大きな円錐形の槍が出現し、勢い良くガーゴイルに向かって撃ち出された。


 重い衝撃音が響き、石の槍はガーゴイルの肩を砕く。それを見て、魔術士はまた口を開く。


「……『ストーンランス』!」


 続いて撃たれた石の槍がガーゴイルの頭に命中し、ガーゴイルは後方に反り返るように倒れながら動かなくなった。


「た、た、助かった……」


 コルソンはそう呟くと、魔術士を見上げて何度も小刻みに頷く。


「さ、流石は宮廷魔術師殿だ……いや、貴殿らがいてくれたら安心だな」


 コルソンがそう口にすると、魔術士は肩を竦めてコルソンを見下ろした。


「……貴族の御子息は皆幼少の頃より武芸を学ばされるはずです。閣下もガーゴイル程度なら問題無く倒せるでしょう」


 魔術士がそう言うと、コルソンは苦笑いをしながら頷いた。


「そ、そうとも! 私とて騎士として戦える力がある! ただ、久しぶりのモンスターに驚いてしまっただけだ!」


 コルソンがそう声を荒らげると、魔術士は頷いて周囲に目を向けて警戒を始める。


「さ、さぁ、閣下! 早くお立ちください!」


 中年の騎士が一足遅れてコルソンの隣に来てそう言うと、コルソンは顔を顰めて顔を下に向けた。


「す、少し待て……多少疲労がな……」




イラストは片桐様がご提供くださいます!

超楽しみです!(作者が)


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