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社畜ダンジョンマスターの食堂経営 〜断じて史上最悪の魔王などでは無い!!〜  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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とらぬ狸の皮算用

【陛下視点】


 私は机の前で跪く馬鹿の頭に報告内容を書き記した書状を投げ付けた。


 間の抜けた音がして書状が地面を転がり、馬鹿は身を竦ませながら更に深く頭を下げる。


「この馬鹿が! それではこの私が冒険者を恐れていると言っているのと変わらんではないか! あんな屑どもなどに何を良いようにされている!」


 私がそう怒鳴ると、馬鹿はその汚らわしい顔で私を見上げた。


「も、申し訳ありません! しかし、貴重な情報も得て参りました! その情報のために一刻も早く陛下に報告すべきと判断したのです!」


 馬鹿はそう言って、また頭を下げる。


 貴重な情報。そういえば、この馬鹿男爵が来て最初にそのようなことを言っていたか。


 私は鼻の穴に小指を入れて汚れを除去しながら頷いた。


「申してみよ」


 私がそう言うと、コルソンは俯いた状態で返事をする。


「はっ! 店に行ったところ、女は確かにこの世のものとは思えぬ美貌でしたが、多数の冒険者によって連れ出すことは叶いませんでした! しかし、女が言うには、例のダンジョンの中にあるという湖に、オリハルコンの短剣があるとのこと! どうやら冒険者どもはその存在を陛下に隠していたようです!」


「オリハルコンの短剣だと……? にわかには信じられん。我が国とてオリハルコンの指輪と盾しか所蔵しておらん。帝国には剣があるという話だが……」


 私はコルソンの報告に唸りながら鼻の穴を掃除した。コルソンは私の表情を窺いながら、恐る恐る口を開く。


「……それと、その女ですが、もしもオリハルコンの短剣を手に入れることができるならば、喜んで陛下の下へ来る、と……」


「なに?」


 私はコルソンの言葉に指を弾きながら顔を上げた。


 まさか、我が国にオリハルコンの武具を入手させ、横から掠め取るつもりか?


 いや、たとえ帝国の隠密であろうと、ダンジョンから兵士が持ち帰る国宝級の宝を簡単には奪えまい。


「……もしや、冒険者と結託して……?」


 私は小さくそう呟き、もう片方の鼻の穴に小指を入れる。


 冒険者を使って、ダンジョンから持ち出したオリハルコンの武具を奪う。


 それならばできなくはない。ダンジョンは冒険者のテリトリーだ。それこそ、卑怯にもダンジョンのトラップを報告せず、兵士だけを罠に掛けることも可能だろう。


「……話の筋は通るな」


 私は自らの推測に頷き、コルソンに向かって指を弾いた。


「兵を集めよ。そして、ダンジョンの攻略を任せている冒険者のリーダーを城へ招集せよ」


 私がそう口にすると、コルソンは慌てて返事をして立ち上がり、頭を何度も下げながら退室していった。近衛兵もコルソンと一緒に外へと出る。


「ふ、ふふふ……」


 私は誰も居なくなった室内で、静かに笑みを零した。私を罠に嵌めるつもりだろうが、そう簡単にはいかん。


 逆に、帝国と冒険者ギルドに良い貸しを作れるというものだ。我が国を、そしてこの私を騙そうとした罪……極刑ですら生温いと知るが良い。


 例の女も冒険者も大いに謀をするが良かろう。私のこの明晰な頭脳は全てを見透かしているのだから。


「ふ、ふははははっ! はっはっはっはっは!」






【グシオン視点】


 あー、ダリィ。


 まったく、面倒臭いったら無い。


 あの王様嫌いなんだよな。ウンコ見るみたいな目で見やがって。


「おい、もうすぐ謁見の間だぞ」


 気が付かないうちにブツブツと思っていることが口から出ていたのか、ヴィネアに顰めっ面で注意された。


「分かってるよ」


 俺が鼻を鳴らしてそう答えると、ヴィネアは目を糸のように細めて俺を睨んだ。


「お前の受け応え次第によっては、あの店にも迷惑が掛かるんだからな?」


 低い声でヴィネアにそう言われ、俺は思わず背筋を伸ばす。


「わ、分かったっての」


 俺はそう返事をして顔を上げて前を向いた。


 失敗は許されない。此処はドラゴンの巣だと思え。ヘマをこいたら食われる。足が竦んで動けなくなっても食われる。調子に乗ったら絶対に食われる。


 あの店を潰すわけにはいかない。何故かは知らないが、あの店が一番落ち着くんだ。


 俺は気持ちを切り替え、謁見の間の前に立った。扉が開かれ、兵士が左右を挟むように並ぶ中を進んでいき、決められた場所で立つ。


 大丈夫、いつもの流れだ。


 俺がそう思い、まだ誰も座っていない豪華な椅子を眺めた。すると、程なくして兵士の一人が声を上げる。


「バルディエル国王陛下の御入室です」


 その言葉を受けて、俺とヴィネア、サヴノックは片膝をついて跪いた。頭を垂れると、視界に赤い絨毯が広がる。


 俺が赤い絨毯の何処かにシミでも無いかと探していると、椅子に座った国王が口を開いた。


「……『業火の斧』の冒険者、グシオン。この場に呼んだのには理由がある。分かっているな?」


 低く重い声でそう告げる国王に、俺は内心で舌打ちをする。いつもの余計な口上が無い。余程怒っているということか。


 俺はそっと溜め息を吐くと、俯いたまま口を開いた。


「……ダンジョンのことですかね?」


 俺がそう口にすると、国王は更に声を重くする。


「……私が何も知らぬと思っているのか。私が言っているのは、ダンジョンの地底湖にあるというオリハルコンの武具のことよ」


 国王がそう言うと兵士達の中からどよめきが起きた。ざわざわと騒がしくなった謁見の間で、国王が咳払いを一つする。


 途端、謁見の間は静まり返った。その中で国王の声が静かに響く。


「契約では、ダンジョン攻略の経費や成功報酬はその都度国が支払う。代わりに冒険者はダンジョンで手に入った宝や武具、希少な素材などを国に差し出す。そうなっていたはずだ。何故、報告を怠った?」


 国王のその言葉に、俺は用意していた台詞を口にする。


「オリハルコンの短剣らしき物は確かに見つけましたが、地底湖の層を探索した時は同行したサミジナの暴走により撤退しています。故に、直接手にしたわけではないので報告を控えていました。オリハルコンであると確信したならもう報告しています」


 俺がそう告げると、国王は口籠もった。それを確認して俺は顔を上げる。


「陛下。我らは地底湖まではもう間違い無く探索できます。もう数日で必ずオリハルコンの短剣が本物か確認できるでしょう」


 俺がそう言うと、国王の近くに立つマントを付けた兵士がこちらに顔を向けて怒鳴った。


「許可も無く発言するとは何事か!」


 お前も発言してるじゃないか。貴族だからと調子に乗りやがって。


 俺が内心でそう思いながら強い視線を兵士に向けると、兵士は狼狽えながら口をモゴモゴさせた。


「……地底湖までは何人で到達している」


 国王のその一言に、俺は真っ直ぐに国王を見据えて口を開く。


「今は余裕を持たせて二十五人で探索していますが、地底湖に行くだけなら罠の探知と解除に長けた仲間二人と、途中にあるスライムの罠を防ぐために腕の良い魔術士を五人連れていけば辿り着くでしょう」


 俺が自信を持ってそう告げると、国王は目を細めて俺達を見た。


「……わかった。では、次の探索には我が国から兵を出す。そして、宮廷魔術師の序列十番台から五名を選び、同行させよう。冒険者からは罠の探知、解除ができる者を二人選出せよ」


 国王はそう言って探るような視線を俺に向けた。俺はその目付きに舌を出したい気持ちになりながらも、神妙な顔を作って頭を下げる。


「はっ! 分かりました!」






 王城から出て、俺は両手を目一杯広げて身体を伸ばした。


「あー、疲れた!」


 俺がそう叫ぶと、ヴィネアが横から睨んでくる。


「おい。門番に聞こえるぞ」


 ヴィネアのそんな一言に、俺は親指くらいの大きさになった王城前に立つ兵士たちを振り返った。


「いいだろ、もう。変な筋肉痛になりそうなんだよ」


 ヴィネアの小言に俺がそんな文句を言うと、サヴノックが腕を組んで唸った。


「……しかし、国王は冒険者を信用していない節があるな」


 サヴノックの呟きを聞き、俺は目を丸くしてサヴノックの思案顔を振り返る。


「いやいやいや。最初から冒険者嫌いな感じじゃねぇか、あの王様。お高くとまってんだよ」


 俺がそう言うと、ヴィネアが溜め息を吐きながら肩を竦めた。


「そうじゃない。どの国も、冒険者ギルドに気を使って多少は冒険者への対応を考えるものだ。まぁ、リセルスくらい大きな国になると、冒険者ギルド側が気を使うのだろうが、それにしても今回のようにあからさまに冒険者への不信を示すことはないはずだ」


「不信?」


 俺が首を傾げると、サヴノックが頷く。


「……冒険者からはダンジョンを歩くために必要な人材だけを連れていくという。普通ならダンジョンに慣れた冒険者が過半数いる方が効率が良いだろう。だが、国王の口ぶりだと連れていく冒険者は二人だけだ」


 サヴノックにそう説明され、俺は眉根を寄せた。


「そうか。それだと、ダンジョン内でやろうと思っていたことが殆どできないな……しかも、たった二人じゃ裏切った瞬間兵士達に刺し殺されちまう。アイニ……可哀想に……」


「勝手にアイニを殺すな。まぁ、予定通り地底湖までは連れていくしか無いだろう。問題は攻略を楽に見せず、さりとて撤退の判断は下さない程度にダンジョンを進むことだ。これはかなり難しいぞ」


 俺の軽い冗談にヴィネアが一言文句を言って問題を提起する。その言い方の割にヴィネアの顔には重苦しい雰囲気も無いのだが。


 ヴィネアの思っていることがなんとなく分かり、俺は半笑いで肩を回しながら歩き出した。


「とりあえず報告に行くか。どうせダンジョンマスターが良いようにやってくれるだろ。あのヴァンパイア、ヤバそうだったからな」


 俺が小さな声でそう言うと、二人は無言で俺の台詞を肯定する。


 ある意味、王国が兵を率いてダンジョンを攻めるという大きな話になったというのに、俺にはあのダンジョンが陥落するイメージができなかった。



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