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社畜ダンジョンマスターの食堂経営 〜断じて史上最悪の魔王などでは無い!!〜  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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ハナクソ王、地下食堂に手を出す

 調査官がお土産にウィスキーを買って帰って三日後。今度はもう常連となっている兵士長が書類を片手に顔を出した。


 兵士長は困ったような顔でケイティに書状を渡し、何かを告げている。


 ケイティは一度兵士長に頭を下げると、早足でこちらへ向かって歩いてくる。客が随時注文をしようとしているが、仕方ないのでシェリル一人に対応してもらおう。


 ケイティは厨房に入ると、少し慌てた様子で口を開いた。


「あ、あの、エリエゼル様にお話があるとのことですが……!」


 ケイティにそう言われ、俺は眉根を寄せた。エリエゼルのピアノ演奏まで披露したのは失敗だったか?


 俺はエリエゼルが宮廷楽団とかに引っ張られたらどうしようなどと考えながら、厨房の壁に設置した内線用電話をとる。


 数回のコール音の後に、電話は通話状態となった。


『はい、ご主人様?』


「エリエゼル、お客さんがお呼びだぞ」


『え? 私ですか? また求婚では……』


「それは分からんが、書状を持ってきたからな。お偉いさんからなのは間違いない」


『分かりました。すぐに向かいましょう』


 エリエゼルはそう答えて電話を切った。そして、暫くしてエリエゼルが現れた。


 風呂に入ったばかりなのか。髪が少し湿った状態のエリエゼルと目が合い、俺は兵士長の男を指差す。


「あ、私も行ってきます!」


 エリエゼルが兵士長の方へ向かうのを見て、ケイティが慌てて後を追った。


 俺が厨房の中から食堂の様子を窺っていると、言いづらそうに何か話す兵士長と、それに頷いて微笑むエリエゼルの姿があった。


 そして、兵士長から書状を受け取り、ケイティは兵士長を空いた席に案内していく……って、今から飯を食って帰るのか、兵士長。


 俺が半眼で椅子に座る兵士長を見ていると、厨房に帰ってきたエリエゼルが書状を持ってきた。


「これを」


 エリエゼルは特に何の感情も無い声で俺にそう言って、書状を手渡してくる。


 赤い紐を解き、やたらとゴワゴワの少し黄ばんだ紙を広げると、中には長々と何かの要請らしきものが書かれていた。


 内容を纏めると、《国王が興味を持ったので、ピアノを持って王城で演奏すること。日時は四日後の昼で、当日に馬車で迎えに来る》といった内容だった。


「なんだこれ?」


「ピアノを聴きたいのでしょうか?」


 俺とエリエゼルはそんな会話をして同時に首を傾げる。


「つっても、エリエゼルも此処から出られないしな」


「そうですね。しかし、拒否しても後々問題になるかもしれませんよ?」


「ふむ……こういうことに詳しそうなのは、フルーレティーかな? 前に国王の要請を断った奴の末路とか知ってそうじゃないか?」


「……なるほど。では、ウスルに聞いてくるように言っておきましょう。あ、勿論ナナも付けますね」


「そうだな」


 そういうことになった。






【血と鉄の蛇の拠点】


 ソファーに座り、ウスルが白い葉巻を口に入れて火を点ける。


「あ、ナナちゃん。こっち来た方が良いぞ。ありゃ身体に悪い。煙もダメだ」


 白い髪の男、スレーニスがそう言うと、ナナは眉根を寄せて煙に燻されているウスルを見た。


「……止めた方が良いんじゃ……」


「あれはダメだ。手遅れだから。ナナちゃんはこっち来いって」


 スレーニスに再度そう言われ、ナナは訝しみながらもスレーニスの方へ移動した。


 ウスルとフルーレティーはそれを横目に見てから顔を向き合わせる。


「……それで、国王の話だったわね」


「……ああ。国王についての情報を頼む……」


 フルーレティーの言葉にウスルが頷くと、フルーレティーは腕を組んで可愛らしく唸った。


「ちょっとマズいかもしれないわね。今の国王バルディエルは歴史に残る女好きよ。多分、調査官が美しき奏者による演奏とか報告したんじゃない? バルディエルは王侯貴族至上主義だから、何処で作られたのかも分からない楽器一つにそれほど執着しないわ。だから、狙いは女と見て良いわよ」


「……そんな店の楽器奏者は一般市民だとは思わないのか……」


 フルーレティーの推察にウスルがそう言うと、フルーレティーは顔を顰めて鼻を鳴らした。


「あの男は前国王が病死して王位を継承するまでは目立たない男だったんだけど、王位を継承して五年で王妃と愛人合わせて八十人以上の女を囲った無類の女好きよ。美しい女であれば身分を問わず、人妻であろうと自分のモノにするみたいね」


「……王位継承者には困らないな……」


「……まぁ、確かにもう王子が五人と王女が六人産まれてるらしいから、その辺は……」


 ウスルの的外れの感想にフルーレティーは戸惑いながらも頷く。


「……ちなみに、貴方は結婚は?」


 フルーレティーがそう聞くと、ウスルは目を細めて白い葉巻を口に含んだ。


「……昔していた……」


「……昔?」


 ウスルの回答に何処か納得していない様子のフルーレティーから視線を外し、ウスルは白い葉巻を口から離して大量の煙を口から吐き出した。






【アクメ視点】


 ウスルとナナから報告を受け、俺は頬を引きつらせた。


「……女好きで、綺麗な女がいると聞いて王城に呼びつけたのか。国のために働けよ、おい」


 俺が半眼で二人を見ながらそう言うと、ナナが背筋を伸ばして両手を前に上げる。


「そういう予想ですが、もしそうならあまり感心できませんね。女にうつつを抜かしてばかりいるようでは、良い統治はできないでしょう」


「うむ、うらやま……んん! けしからん限りだ。全く、八十人などとけしからん限りだな、うん」


 俺はそう言って腕を組む。英雄、色を好むと言うがこの王に関しては違う気がする。決してエリエゼルに目を付けたからではないが、バルディエルという王とはあまり良い関係は築けそうにない。


「それで、どうしますか?」


 レミーアにそう言われ、俺は振り返る。


 今は皆で居住スペースのリビングに集まっていた。ソファーに座るのは俺とエリエゼル、フルベルド、ウスルの四人だ。その周りにレミーアとナナ、ケイティが立っている。


「どうするか……そうだな。国王を暗殺するか?」


 俺が冗談でそう言うと、フルベルドとウスルの双眸がギラリと光った。そして、レミーアとナナは引き攣った顔で固まる。


 そんな中、エリエゼルは何故か嬉しそうな顔で俺を見ていた。


「ご主人様……私のために命を懸けて国王を暗殺しようだなんて……エリエゼルは感無量です」


 そう言ってわざとらしく目元を拭うエリエゼルに、俺は咳払いを一つして口を開く。


「さて、冗談はそれくらいにして、対策だ」


 俺がそう言うと、エリエゼルが表情を引き締めて頷いた。


「そうですね。しかし、王城に篭り、常に近衛兵に守護されている国王です。思考の誘導にしても、別の関心ごとを用意するにしても、簡単なことではありませんよ?」


 エリエゼルがそう言うと、フルベルドが口の端を上げて同意する。


「暗殺の方が数段簡単ですな。そのように女に入れ上げる者は、人の目を気にする禁断の恋路に足を踏み入れるものですから、夜の暗殺の機会も必ずあるでしょうな」


「……別に昼間でも問題は無いが……」


 フルベルドの提案にウスルがそんなことを言った。


「もし本気で国を潰すなら後百人は強い部下を召喚するぞ。今回はエリエゼルと店から意識を遠ざけるだけにしときたい」


 俺がそう言うと、意を決したような表情でケイティが顔を上げる。


「あ、あの!」


 ケイティがそう声を発して、皆がそちらに顔を向けた。ケイティは眉間に小さなシワを作って顎を引き、口を開く。


「わ、私達にお任せください! 私達はご主人様に命を助けられました! 私達の中の誰かが、王様の目に止まれば……!」


「はい、却下」


「え!?」


 ケイティの決死の身代わり作戦を俺が即座に否決すると、ケイティは目を見開いて顔を上げた。


「お前達の中の誰かを変態キングが欲したとして、エリエゼルにまで手が伸びないという話にはならん。だいたい、お前達を犠牲にする選択肢を選ぶぐらいなら、今すぐにこの国を潰してやる」


 俺がそう言ってケイティを睨むと、ケイティは涙を堪えながら口元を手で隠した。


 ナナはそんなケイティに笑いかけ、頭を撫でた。


「大丈夫。これからも一緒に暮らせるさ」


 ナナがそう言うと、ケイティの涙腺が決壊する。


「な、ナナさぁん……!」


 ナナに抱き付いて嗚咽するケイティに苦笑し、俺は溜め息を吐いた。


 さて、そうは言ってもどうするか。


 国王、やっぱ暗殺するか?



新しい作品を書いています!かなり読者を選ぶ内容ですが、少しでも興味を持っていただけたら是非読んでみてください!

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