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社畜ダンジョンマスターの食堂経営 〜断じて史上最悪の魔王などでは無い!!〜  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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調査官の報告

ご挨拶が遅れましたが、明けましておめでとうございます!今年も井上・乳酸菌・みつるを宜しくお願い致します!

【調査官の報告書】


 その店は薄暗い路地の裏にあり、更に地下へと続く階段の先にある怪しい店である。


 だが、よく見れば階段に使われた石材や木材もしっかりとした加工の品であり、足元を照らす灯りは柔らかく、品が良い。


 店内は地下にあるため、少し暗い。しかし、その暗さを利用した灯りの設置方法は目を見張るものがあり、店内を魅力的で不思議な雰囲気にしている。


 店員は若い女性が多くおり、清潔でかなり高価な仕立ての給仕服を着ている。貴族的な礼儀作法ではないが、明るく元気の良い接客であり、尚且つ気分を良くする対応ができる。


 テーブルや椅子、食器などは目立たないが間違いなく高級品だ。物によっては上級貴族ですら手に入らない物もあるだろう。


 そして、料理である。


 料理は様々な種類があり、殆どのものが聞いたことのない物だった。


 だが、美味しい。


 絶品である。


 何故、もっと早くこの店を知ることができなかったのか。


 豊かな風味、見事に調和のとれた味……どれをとっても、何を食べても素晴らしいものばかりだった。


 案内役のゼパル兵士長の暴挙により一部の料理を食べ損なってしまったため、当初の予定よりも調査費は掛かったが、これは必要事項である。


 尚、食べたものはカラアゲ、チャーハン、ラーメン、ギョーザ、マーボードーフ、チョコレートパフェの六品。


 特記としては、このチョコレートパフェという逸品。甘くて不思議な食感のするこの料理は、恐らくこの世で最も美味いものだろう。それでいて料金は三千ディールであった。貴重なものと思われるため、この料理に関しては秘匿することを推奨。


 次に飲料である。飲料にはナマビールなる酒とバーボンウィスキー、スコッチウイスキー、アイリッシュウイスキーを試した。


 ナマビールはスッキリと飲みやすく、それでいて芳醇な香りも楽しめる。


 ウイスキーはまろやかな味と鼻を抜ける香り、そして強い酒精が楽しめる。少しとろみがあるような液体は、その強い酒精から口の中で広がり、喉を落ちていくのがしっかりと分かる存在感のある酒である。


 味と香り、共に極上であり、瓶一本を購入しても二万ディールという破格の代物だった。この情報も後に品が無くなる可能性を考え、秘匿すべきと判断する。


 これらのことを考え、この店の主人は異国の者と推測する。恐らく、上級貴族以上の育ちであり、知識と経験は上級貴族を凌駕するだろう。


 店員に関しては種族がバラバラであり、それぞれが違う訛りを持っているため地方から出てきた一般市民の可能性が高い。その傷一つない肌や髪艶。そして、高級品と思われる衣装を着ていることから、奴隷の可能性は低いと思われる。


 最後に客層である。


 客は殆どが冒険者であり、他には兵士などもよく来ているらしい。尚、冒険者や兵士の一部が鎧などを着たまま来店するため、一般市民の客は少ないとのこと。


 この日も満席に近い客入りであったが、殆どが冒険者だった。


 終わりに、店のサービスについて。


 この店では、一定の時間を置いて楽器の演奏が行われている。


 店内の壁際に黒くて大きな机と丸椅子があるのだが、なんとその机が楽器である。


 薄暗い中でも目を惹く絶世の美女が現れ、巧みな指さばきでその楽器を演奏するのだが、筆舌に尽くしがたい感動を経験することができた。


 たった一つの楽器、たった一人の演奏とは思えない表現力豊かな無限の音色。思わず涙すら流してしまった旋律だが、この店の中に入れる人数が決まっているため、絶対に秘匿しなくてはならない。





【国王バルディエル・ナイ・バラキエル視点】


 王の執務室。豪華ながらも落ち着いた雰囲気のその部屋で


 報告書を読み終えた国王は、眉間に皺を作って髭の生えた中年の男を見た。


「……この店に送った調査官は、確か子爵のとこの次男だったか?」


 国王がそう尋ねると、中年の男は深く頷いた。緑色の服を着たその男は、少し上に目をやって口を開く。


「確かそうだったと思いますが、どうかされましたか?」


 中年の男がそう聞き返すと、国王は鼻を鳴らして報告書を男に手渡した。


「全く当てにならんな。店の造りも、食事も、酒も、楽器も、全てが未体験のモノだという。そんな馬鹿な話があるか? 貴族を調査官に充てる意味が分かっておらんのか、それとも唯の世間知らずか」


 国王がそう呟くと、男は報告書に目を通して眉を顰める。


「なるほど……肝心の税についても一般的な額を納めているので良しとなっていますな。しかし、子爵の生まれでこんな路地裏の店にここまでの感銘を受けるとは……やはりそれなりのものなのではありませんか?」


 男がそう言うと、国王は溜め息を吐いて背もたれに体を預けた。


「出自は関係無い。貴族として広い知識を所有する者を調査官に任命しておるのに、これほどまでに己の無知をひけらかすのが無様よな。この程度の見識で上級貴族を語ろうなどと片腹痛いわ」


 国王のそんな台詞に、男は頷いて報告書を執務机の上に置いた。


「それでは、この調査官は役職を罷免するとしましょう。店の方はどうしましょうか」


 男がそう尋ねると、国王は鼻に指を突っ込んで手で鼻の穴を掃除しながら口を開いた。


「放置しておっても問題無かろう。伯爵が目を光らせておるようだし、冒険者どもがお気に入りの店なのだからな。だが、もし何かあったら即座に潰してくれる」


 国王はそう言って自分の台詞に一人で笑った。男はそんな国王を横目に見つつ、机の上に置いた報告書に視線を落とす。


「……貴族の端くれとはいえ、様々な店を巡ってきた調査官にこれだけ褒められる店。私は少々気になりますが」


 男がそう言うと、国王は指についた鼻の糞を弾き飛ばしながら舌打ちした。


「くだらん。この王都で国王より良い食事をしておる者などおらんわ。楽器とて一人で演奏するものなど知れておる」


 国王はそう言って、もう片方の鼻の穴に指を突っ込んだ。


「……だが、この絶世の美女、というのは気になるな」


 国王がそう呟いて鼻の糞を弾き飛ばすと、男はそっと眉根を寄せながら頷いた。


「……陛下の御手つきになれると知れば、その女も泣いて喜びましょう。女に産まれたなら、それ以上の栄誉はありませんからな」


 男のそんな発言を聞き、国王は満足そうに笑った。


「はっはっは! 当たり前ではないか! そろそろ今までの妾にも飽きてきたところだった。この女を、八十人目の妾にしてやろうか」


 国王はそう言ってまた笑い、鼻の糞を指で弾き飛ばした。



良かったら感想と評価をくださると泣いて喜びます!

ささやかですが、国王のことをハナクソ王と呼ぶ権利も贈呈!


元旦から何をやってるんだ、乳酸菌は……

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