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社畜ダンジョンマスターの食堂経営 〜断じて史上最悪の魔王などでは無い!!〜  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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キメイリエス伯爵

「おお、分かってくれるか! ウスル殿!」


「……足を引っ張る味方ほど、厄介な者はいない……」


「そう! そうなのだ! 外様だとて結果を出せば王の覚えも良くなるというもの。それをわざわざ他の者の印象を悪くさせて己を良く見せようなどと……全くを以って度し難い」


 何故か、ウスルとキメイリエス伯爵は二人で意気投合し、真ん中の広いテーブルを独占して酒を酌み交わしている。


 兵士達もどうしたものか困惑しているのだろう。テーブルから少し離れた場所から円を作るようにして、伯爵とウスルを囲んでいる。


 いや、名前間違いにも気付いて謝罪しつつ楽しく談笑してるかもしれないけど、ウスルさんはダンジョンのボスの一角ですよー?


 俺がそんなことを思いながら眺めていると、伯爵はウスルと同じウィスキーを呑んで熱い息を吐いた。


「ふぅ……! しかし、本当にこの酒は美味い! なんと洗練された味わいか!」


「……俺も好きな酒だ……」


「ふむ。見たことの無い料理ばかり載っているからな。ウスル殿のオススメはあるかね?」


「……ステーキだ……Bセットが良い……」


「ふむ、肉を焼いたものか。確かに美味そうではあるが……」


 二人はそんなことを言いながらメニューについて話している。


 なんだ、こいつら。女子会か?


 そんな様子を眺めていた俺がもう帰ろうかと思っていると、兵士達の目を縫ってナナが俺の方へ来た。


「あの、伯爵が……」


「見てたから知ってるよ。帰ってくれないかな?」


「いや、それは難しいかと……」


 厨房で姿勢を低くしている俺とナナがそんな会話をしていると、後ろから誰かが来る気配がした。


「あれ? 何かあったんですか? 兵士さん達がいっぱい……」


 現れたのはケイティだった。


「キメイリエス伯爵とかいうのが来た。それで、何故かウスルと酒を呑んでる」


「え? あ、あの、伯爵様と? 上級貴族様ですよね?」


「面倒だから帰ってもらいたいんだがな。中々話が進まん」


「ぶ、無礼なことを言わないようにお帰りいただかないと……」


 俺が状況を説明すると、ケイティもナナと同じように顔を青くさせて緊張し始めた。


 食堂では、ウスルと伯爵がまた大きな笑い声を響かせて話を弾ませている。


「なんと! ウスル殿は結婚されていないのか! 以前は王であったのなら、世継ぎは必ず残さねばならんでしょうな。幸いまだお若い様子。是非とも良縁を……」


「……いや、結婚はしていたし、子供もいた……今はいないだけだ……」


「……これは失礼をした。いや、深くは聞きますまい。本当に、申し訳ない」


 途中から色恋トークになった。女子会か。いや、でも重い過去のトークも入ってるから、暗い女子会か。


 というか、ウスル結婚してたのか。しかもバツイチか。今度からウスルさんと呼ぼう。


「あ、あの、ご主人様? どうしましょう?」


 と、ケイティに声を掛けられて、俺は脱線した思考に気が付いた。


 そう。とりあえず伯爵を追い出すのが先決だ。ならば、何故ここに来たのか聞かないといけない。


 そう結論付けると、俺はナナに顔を向ける。


「頑張って此処に来た理由を聞いてきてくれ」


「わ、私がですか?」


「ウスルが使い物にならんからな」


「き、貴族と話すような作法は知りませんが……」


「大丈夫。怒らせても隣にはウスルがいるだろ?」


「あ、ぐ、グシオン殿もいますし、グシオン殿に頼んで……」


「あれも使えない気がする。いや、よくは知らないが、それならあのデッカい奴にするか? ほら、サブマリン投法みたいな……」


「もしかしてサヴノック殿ですか?」


 そんな時間の無駄とも言える会話をしていると、ケイティの背後に人の気配を感じた。


 また誰か来てしまったか。


 そう思って顔を向けると、そこにはエリエゼルがいた。


「何をなさっておいでで?」


 エリエゼルは食堂を見回しつつ、俺にそう尋ねる。


 そうだ、エリエゼルなら大丈夫だ。エリエゼルが緊張している場面など、見たことが無い。


 まさに、適任である。


「キメイリエス伯爵とかいう貴族が来た。なんで此処に来たのか分からないんだが……」


「ああ、来店理由ですね。では、私が聞いてきましょう」


 エリエゼルは軽くそう返事をすると、伯爵の方へと歩き出した。


 その背中を見て、俺は思わず胸がドキドキした。


 エリエゼルさん、男らしい……。





「失礼致します。伯爵様にお伺いしたいことがあるのですが……」


 エリエゼルがそう言って伯爵とウスルを囲む兵士に話しかけると、兵士はエリエゼルを見て一瞬惚けたように固まった。


 そして、どこか慌てた様子で顎を引き、口を開く。


「ば、馬鹿者! 閣下は今はお忙しいの……」


「お伺いしたいことがあります」


 兵士の台詞を遮り、エリエゼルは強い口調でそう告げる。大きな声というわけではないのに、エリエゼルの声はよく響いた。


 すると、伯爵はエリエゼルの存在に気が付き、髭の兵士に何かを伝える。


「女! 閣下が話を聞いてくださるそうだ! 膝を突き、目を下に向け……」


 兵士が高圧的な態度でエリエゼルに指示を出し始めると、エリエゼルは兵士に対して片手を上げて、右から左へと空中で動かした。


「許可が出たなら、退きなさい」


 エリエゼルのあんまりな一言に、兵士は鼻白みながらも思わず横に一歩退いてしまった。


 それを見て伯爵が眉根を寄せるが、エリエゼルの顔を見て表情を変える。


「お、おぉ……なんという美女だ……長年国内外問わず様々な御婦人、子女と見てきたが、これほどの美女は知らぬ」


 伯爵はそれなりの年齢であろうに、エリエゼルを見て初恋をした男子のように目を輝かせた。


 その伯爵に、エリエゼルは軽く礼をして口を開く。


「お褒めいただきありがとうございます。申し訳ありませんが、私のご主人様は店を留守にしております。宜しければ本日こちらへ来られた御用件をお聞かせ願いますでしょうか」


 あ、そこはご主人様とか言っちゃうのね。


 俺がエリエゼルの台詞にそんなことを思っていると、伯爵は愕然とした顔を浮かべてエリエゼルの顔をマジマジと見た。


「な、なんと……それほどの美貌でありながら下働きのメイドをしているのか? 私の妾になれば不自由はさせないが……」


 おいコラ、エロジジィ。何をサラッと妾にしようとしてやがる。


 伯爵の台詞に俺は思わず立ち上がりそうになったが、ケイティに服を引っ張られて立てなかった。


 すると、自分のメイド服を見下ろしたエリエゼルは、勝ち誇ったような顔で伯爵を見やる。


「私はご主人様のメイドではなく、愛人といったところです。この衣装はご主人様の趣味ですから、私も喜んで愛用しております」


 エリエゼルがそう言うと、ナナとケイティの視線が俺に突き刺さった。


 な、なんて爆弾発言をするんですか、エリエゼルさん……!?


 俺は明日からこのダンジョンでメイド服を愛し過ぎた男として語られるようになるのか。


 ああ、少女達から蔑むような目で見られる毎日が始まる……陰では変態と罵られるに違いない。


 まぁ、別に良いけど。


 俺が全てを諦めて顔を上げると、伯爵が深く頷いている光景が目に入った。


「……ここの主は中々良い趣味をしているのだな」


 伯爵はそう言うと、エリエゼルに向き直る。


「その態度を見れば分かる。君は何処かの国の貴族の令嬢であろう。いや、皆まで言わずとも良い。私も人を見る目は確かだ」


 エリエゼルを見ながら伯爵はそう呟き、一人で何度か頷いた。


 伯爵の勘は外れ放題だが、無礼討ちはなさそうで安心した。


 そんな俺の心情を察しているのか、伯爵は苦笑混じりに目を細める。


「本来は、貴族街に店を出させないために忠告に来たのだがな。ここにきて、用件が増えてしまったようだ。申し訳ないが、この店を監視対象とさせてもらおう。王都の内部に私も知らないような店があり、その店の中には何処かの国の王族と貴族がいる……ウスル殿と君を疑うわけではないが、放っておくこともできない案件であろう」


 伯爵は申し訳なさそうにそう言うと、笑いながら口を開いた。


「ああ、王国への届け出と税は払っているだろうな? はっはっは!」


 伯爵は軽い冗談のようなノリでそう言って笑う。


 え? 税金? いやいや、非合法の代表格みたいな店なんですが……。


 笑う伯爵を見て、俺は血の気の引く思いというものがこういったことなのだと理解した。


 まさか、貴族からガサ入れを食らうとは……。



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