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社畜ダンジョンマスターの食堂経営 〜断じて史上最悪の魔王などでは無い!!〜  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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ティナとミア

 白髪獣人コンビ、兎獣人のティナと猫獣人のミアは今日も走り回っていた。


「ティナちゃん、このラーメンって美味しいのか?」


「すっごい美味しいですよー! 私も大好きですー!」


「ミアちゃん、カレーライスー」


「あ、はーい! カレーライスー!」


 明るく元気な二人は客受けも良く、すでに名前を覚えた常連も多かった。


 二号店はガラの悪い客が多いので基本的にはナナが注文を受けているのだが、夕方から夜にかけて客の入りが良くなるとティナやミアも応援として派遣されている。


 ちなみに、二号店ではウスルが時々顔を出して酒を呑んでいるし、有名な冒険者もよく来店しているので暴れる客などは全くいない。


 そして、店の隅では今日もウスルが琥珀色の液体を口に流し込んでいた。


 ティナが空になったグラスを置いてある席を発見し、そちらへ向かうとそこでは難しい顔をしたフルーレティーの姿があった。対面には商人らしき男の姿がある。


「考えておくわ」


「ふむ、そうですね。なにせ素晴らしい条件での提案ですから。是非とも前向きに検討していただきたい」


「分かってるわよ」


 二人がそんな会話をしている中に、ティナがそっと近付いた。


「お代わりはいかがですか?」


 ティナがそう声を掛けると、フルーレティーは顔を上げてドリンクのメニューを手にした。


「えっと……じゃあ、このサラトガクーラーとかいうのを頂戴」


 そう言ってフルーレティーがノンアルコールカクテルを注文すると、ティナは返事をしてから商人らしき男の方に顔を向ける。


「私は……このコニャックというお酒をお願いしよう。いや、本当に美味しいお酒ばかりですね。しかし、どのお酒も見たことも聞いたこともありませんが……」


 男がそう言ってフルーレティーの顔を観察するようにジッと見ると、フルーレティーは一瞬動きを止め、ふっと柔らかく微笑んだ。


「あら? 天下の大商人アエシュマともあろう方が、知らないものばかり?」


 フルーレティーがそう言って笑うと、アエシュマは目を細めて笑った。


「ふ、ふふふ。私とてなんでも知っているわけではありませんからね。ですが、この店のメニューに関しては本当に知らないものばかりで……己の無知を恥じますよ」


「あら、冗談が過ぎたかしら。まぁ、殆どがこの店のオリジナルだからね。知らなくても仕方ないのよ」


 そんな会話をして笑い合う二人を不思議そうに眺めて、ティナは席から離れていった。


 厨房に行き、そこでメモを片手に持つ金髪の人族の少女エミリーへと近付き、口を開く。


「フルーレティーとアエシュマって人がサラトガクーラーとコニャックをご注文。後、この店の料理の名前を商人なのに知らないとかなんとか言ってたよ」


「サラトガクーラー、コニャック……えっと、料理の名前? 珍しいのかな?」


「うーん、大商人だから知ってるはずなのに、全然知らないものばかりなんだって」


「お店なんて行ったことあまり無かったから知らないけど、やっぱりご主人様はどこか遠い所から来たんだね」


「え、魔界とか?」


「あはは。天界ではなさそうだけど、魔界も違うんじゃないかな?」


 ティナとそんな会話をしたエミリーはメモを片手に、裏口へと走っていった。


 そこへ、注文を受け終えたミアが歩いてくる。


「あ、エミリーちゃんもう行っちゃった」


「すぐ別のコが来るよ」


 ミアの言葉にティナがそう言うと、ミアは笑みを浮かべてティナを見た。


「えへへ。私、ちょっと直接伝えてくるね?」


「あ、ただ何か欲しいだけでしょ! いいなー!」


「すぐ帰るから! 行ってきまーす!」


「もう! ナナさんを呼んできてよ?」


 そんなやり取りをして、ティナの台詞に返事を返したミアはエミリーと同じように厨房の裏口へと消えた。


 厨房の裏口から出ると、やけに長く広い通路になっており、ミアは通路の向こうへ顔を向ける。


 通路の奥から動く歩道を使って、配膳台に乗った料理や飲み物を運ぶ小さな少女にミアは片手を上げた。


「ベラちゃん、大丈夫? ゆっくりでも良いよー!」


 明るい黄緑色の髪を持つ人族のベラにミアがそう声を掛けると、ベラは真剣な表情で頷いた。


「は、はい! 料理を落とさないように早足ですよ! 気を付けますです!」


「うん、頑張ってね!」


 ベラの必死な様子に笑い、ミアはその場を後にした。


 反対側の動く歩道に乗って走ると、遥か先を行くエミリーに徐々に追い付いてくる。


「エミリー!」


「あれ? ミアさん、注文ですか?」


 エミリーは後ろから追い掛けてきたミアに目を丸くして驚いていたが、ミアは照れたように笑いながら頷いた。


「大丈夫! 直接ご主人様に伝えるから!」


 ミアがそう言うと、エミリーは苦笑して頷いた。


「あ、オヤツですか? もうすぐ晩御飯ですよ?」


「ほら、小腹が減っても戦はできないってご主人様も言ってたし!」


「確かにそうですね。私も後に並んじゃいましょう」


「うふふ、仲間だね」


 二人はそんなことを言いながら一号店へと辿り着いた。一号店の厨房へ行くと、そこではピアノの音色を聴きながら食後の緑茶を飲むナナの姿があった。


「ふぅ……ん? もう交代の時間か、ミア」


 ナナがそう言うと、ミアは照れ笑いを浮かべてナナを見る。


「ご主人様に注文を伝えに……」


 ミアがそう言って笑うと、ナナはふっと息を漏らすように笑う。


「なら、私は早めに二号店の方へ行っておこうか。その代わり、私の分も頼むぞ」


「うん、ナナさんとティナちゃんの分も持ってくよ」


 ミアの返事を聞いて頷き、ナナは厨房の裏口へと歩いていった。


 そして、ミアが厨房の入り口側に顔を向けると、酒の入ったグラスを片手にピアノの演奏を眺めるアクメの姿があった。


 その立ち姿を見て、ミアは僅かに頬を染めて立ち止まる。


「どうしたんですか、ミアさん?」


 エミリーに不思議そうに声を掛けられ、ミアはハッとしたような顔になって困ったように笑った。


「あ、あはは! ごめんごめん! あの、ご主人様〜?」


 ミアは尻尾と耳を下げてそっとアクメに近寄り、声を掛ける。


 グラスを口に近付けようとしていたアクメは、側にミアがいることに気が付いて顔を向けた。


「おお、ミアか。どうした?」


 アクメがそう尋ねると、ミアは照れ笑いを浮かべながらアクメを上目遣いに見た。


「あの、注文を聞いてきました!」


 ミアがそう言うと、アクメはミアの後ろに立ってメモを片手に持つエミリーを見て、またミアに視線を移した。


 アクメは頭の上にある猫耳がピコピコと揺れる様子を眺め、楽しそうに笑った。


「偉いじゃないか。で、注文の内容は?」


「あ、えっと、天ぷら定食です!」


 ミアの返事を聞き、アクメは笑いながら天ぷら定食を出した。そして、エミリーからも注文を聞いて配膳台に並べる。


「それじゃ、よく働く二人にオヤツでも出そうか。ドーナツで良いか?」


「え!? 良いんですか!」


「ははは、狙って来ただろ? ほら」


 大袈裟に喜ぶミアにアクメはそう言って皿に乗ったドーナツを用意した。配膳台に乗せているアクメを見て、ミアは首を傾げる。


「あ、五つ」


「おう。ミアとエミリー、ティナとナナとベラだな。後はそこで働く三人に用意するから、五人はあっちで食べててくれ」


「はい! じゃ、貰っていきますねー!」


 ミアがそう言って裏口へと出ていくと、エミリーも頭を下げて出ていった。


 それを見送ったアクメは苦笑しつつ、食堂内のピアノを演奏するクーヘの姿に目を向ける。


「キラキラ星か、懐かしいな」


 懸命に弾くクーヘを見て微笑み、アクメは目尻を下げる。


「まだまだだな」


 そう言って、アクメは笑った。



ちょっと趣味で新しい話書いてます!

良かったらご覧ください!多分すぐに完結します!


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