表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
社畜ダンジョンマスターの食堂経営 〜断じて史上最悪の魔王などでは無い!!〜  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/122

仲間になった冒険者達

 もう大丈夫という合図をもらい、俺はそっとハーピー達の後ろに移動した。


 まるで、CGを駆使した最新映画のアクションシーンのような戦いぶりを見せた冒険者の前に姿を見せるのは勇気がいるが、エリエゼルがもう大丈夫というのなら大丈夫なのだろう。


 俺は前を歩くフルベルドの後を追い、ハーピー達の脇を抜けて頭を下げた冒険者達の前へと移動する。


 アイニとかいう盗賊みたいな格好の女はじっとこちらを見ているが、最初に目覚めて一足先に契約していたため問題は無い。


 上手く皆の思考を誘導してくれたアイニに、フルベルドが軽く手を挙げて応えている。


 エリエゼルは俺達が隣に移動したのを確認すると、わざとらしく驚いたような声を発した。


「まあ、皆様。幸運にも陽が落ちる前に我が主人が御出でになられました。どうぞ、顔を上げてください」


 エリエゼルがそう言うと、冒険者達は目を開けて顔を上げ、一斉にフルベルドの顔を見た。


 よし。間違い無く皆はフルベルドがダンジョンマスターと思っているだろう。エリエゼルの発案だった影武者作戦は成功である。


 俺が一人で満足していると、フルベルドが優雅に両手を広げて口を開いた。


「ようこそ、我がダンジョンへ。君達を歓迎しよう。私はフルベルド伯爵だ。君達には輝かしい未来を約束させてもらうよ」


 フルベルドは芝居掛かった様子でそう告げた。


 俺よりも遥かにダンジョンマスターらしい雰囲気というか、かなり堂に入った態度だったが、言っていることは胡散臭さが半端じゃない。


 ダンジョンマスターが何の未来を約束するというのか。


 まあ、その辺りのさじ加減はフルベルドに一任しているのだが。


「あ、あんたがダンジョンマスター……」


 片腕を失った赤毛の冒険者、グシオンが掠れるような声で呟く。


 フルベルドはグシオンを見下ろすと、何かを思い出したような表情で顎を上げた。


「おぉ、そういえば、雷撃でやられた者達と違って、君は腕を失ってしまったのだったね。ちょっと待っていたまえ」


 フルベルドがそう言うと、グシオンは怪訝そうに眉根を寄せ、自らの右腕に視線を落とした。


 そして、身体を揺すりながら自嘲気味な笑みを浮かべる。


「……そうか。そうだった……手が失くなっちまったんだったな。ヴィネア、お前……俺が自分の腕が無いことを忘れてるって思って……?」


 グシオンがそう口にすると、ヴィネアは辛そうに眉尻を下げた。


「……お前が一緒に死んでやると言った時、私は胸が締め付けられるような気持ちになった。お前が、死ぬ瞬間、武器を持てない自分の身体に気が付き、絶望の内に殺されてしまうのではないか、と。同情したつもりは無いが、結局は私の勝手な感傷だ。済まない」


 ヴィネアはそう言って、グシオンから視線を外した。


「冒険者だから覚悟はしていたけどな。まあ、同情だろうと俺の気持ちを考えてくれていたんだから、別に怒りはしないさ……しかし、これだと大したことはできないな。協力ってのは、冒険者としてだと思っていたが」


 グシオンはそう言いながらフルベルドを見た。フルベルドは笑いながら、グシオンの隣に腰を下ろす。


「はっはっは。まあ、見ていたまえよ……ああ、ちょっと手伝ってくれないかね?」


 フルベルドはそう言って俺を振り返る。俺は何も言わずに首肯すると、グシオンの隣に片膝をついて姿勢を低くした。


 ヴィネアが怪訝な顔つきで俺を見てくるが、俺は目も合わさずにグシオンの右肩を支える。


 それを確認し、フルベルドはグシオンの止血された腕に手を置いた。


「さあ、目を瞑りたまえ」


 フルベルドがそう言うと、グシオンは困惑しつつも目を瞑る。俺もそれに合わせてそっと目を瞑り、念じた。


「な、なに……!?」


 誰かが息を飲む声と、ヴィネアの驚愕する声が聞こえ、俺は目を開く。


 目の前には唖然とした顔で逞しい腕を動かすグシオンの姿があった。


「……う、腕が……」


 驚く冒険者達を横目に、俺はそそくさとハーピー達の隣に移動した。ハーピー達は視線だけで軽く会釈しているが、応えるわけにはいかない。


 まあ、心配しなくても皆の目はグシオンの腕に注がれていたが。


「さて、それでは君達にまずは最初の仕事を与えようか」


 ヴィネアという冒険者がグシオンの腕を睨みながらブツブツと何か言っていたが、フルベルドが一言告げると顔を上げていた。


 フルベルドは自分に視線が集まったことを確認して、鷹揚に頷く。


「まずは、地上に戻ってもらう。国にはなんとか生還できたとでも報告してくれたまえ」


「お、おい。ダンジョンから出ても良いのかよ?」


 フルベルドの発言に、グシオンが呆れたような声を出した。


「先ほど契約をしただろう? あれは口約束ではなく、ちゃんとした契約なのだよ。まあ、言葉では分からないだろうが、時間が経過すると共に自然と理解できるようになる」


「……奴隷にされたわけでもないのにか? まあ、いい。それで、地上に帰ってどうしたら良いんだ?」


 これが冒険者の順応力か。グシオンはフルベルドの不明瞭な説明にも動じずに返事を返し、話の先を促した。


 そんなグシオンに、フルベルドは口の端を上げて何度か頷いてみせる。


 その悪役然とした表情と仕草に、冒険者達は警戒の色を強めたようだ。


「地上に帰って、まずはダンジョンの脅威を報告してもらおう」


「ダンジョンの脅威? そんなことを報告して良いのか?」


 フルベルドの台詞に、グシオンは狼狽したような態度でそう聞き返した。


「ふむ。もちろん、ダンジョンの詳しい情報に関しては伝えてはならないのだがね。五体満足で君達が帰ると、ダンジョンを侮る輩が出るかもしれない。そうすると、半端な者までどんどんダンジョンに入ってしまい、そういった者達はあっさりと死んでゆくだろう。それはこちらも望むところではないのだよ」


 フルベルドがそう言うと、サヴノックとかいう巨躯の冒険者が難しい表情でフルベルドを睨んだ。


「……強者のみを誘い込みたい、ということか?」


 サヴノックが低い声でそう尋ねると、フルベルドは困ったように肩を竦める。


「誰も来ないことが一番好ましいのだがね。そうはいかんだろう? 逆に考えるならば、君達の頑張り次第では誰も死なずに済むかもしれない。故に、ダンジョンの脅威を説明して侵入者の数を絞り、モンスターが殆どいない罠だらけのダンジョンと報告すれば準備に時間をかけることになる」


「も、モンスターが殆どいないって……」


 ヴィネアが驚いたような声を出したが、すぐに眉を上げた。


 その顔を眺めて、フルベルドが笑みを深める。


「嘘ではない。スライム達は罠として設置しているのだから、君達が遭遇したモンスターはハーピー三姉妹とサンダーイール達だけなのだから」


「え?」


 フルベルドの台詞に、ヴィネアが首を傾げた。


「サンダーイールって……二メートルくらいの蛇みたいな奴か? あの、触ったら痺れる水中のモンスターの?」


 グシオンがそう聞くと、フルベルドは無言で地底湖に顔を向ける。


 すると、そこには優雅に地底湖を泳ぐサンダーイールの姿があった。大人しそうに見えるが、冒険者達の顔は強張ってしまっている。


「……あれは水龍ではないのか」


 サヴノックが固い声でそう呟くと、エリエゼルが華やかな笑顔をサヴノックに向けた。


「あれはサンダーイールですよ。ご主人様の素晴らしい御力で規格外の強さを得ましたが、種族は変わっていません」


「……いやいやいや、そんな馬鹿な。あれがサンダーイールだと? サンダーイールであの強さだったらもっと強いモンスターだったらどれだけ……」


 グシオンが血の気の引いた顔でエリエゼルの説明に突っ込んだが、エリエゼルは特に取り合わずに片手を上げてグシオンに手のひらを向ける。


「モンスターはサンダーイールが十。部下はハーピー三姉妹とそこの大男だけ。ほら、モンスターは少ないでしょう? だからダンジョンからモンスターが氾濫することもありませんし、ダンジョンに侵入しても地底湖に下りなければモンスターに遭遇することもありません」


 ね、安全でしょう?


 言外にそう言っているエリエゼルに、冒険者達は戸惑いながらも頷く。


 どうやら、なんとかなりそうである。良かった良かった。






 冒険者達をハーピーに運んでもらい、俺達は地底湖前にテーブルと椅子を並べて臨時会議を開いた。


「ちょうど国の依頼を受けた冒険者達のリーダーを引き込めて良かったですね」


 エリエゼルがほくほく顔でそう言うと、フルベルドが喉を鳴らすように笑う。


「間違い無く彼等が案内役となるでしょう。相手の作戦も戦力も事前に知ることができ、こちらは絶対に奇襲を受けることも無く、待ち伏せのみ。こんな楽な戦いは中々経験できませんな」


 フルベルドがそう言うと、ウスルが鼻を鳴らした。


「……有象無象などに興味は無い。その事前の情報で強者の存在が知れたら、俺が出よう……」


 ウスルはそう呟いて椅子の背もたれに身体を預ける。その姿に、アエローが自身の金髪を翼で撫でながら微笑んだ。


「まぁ、雄々しいですね。我々はこの地底湖が気に入りましたので、これまで通り此処に住まわせていただけたら問題ありません」


「ふむ。そう言えば、メイン所は全くの未踏だが、長さ的にはダンジョンの三分の一くらい攻略されてしまったのか」


 アエローの台詞に俺がそう口にすると、話の本筋から脱線してしまったにもかかわらず、皆が真面目な顔で議論を始めてしまった。


「あの無数の塔を攻略しなければご主人様の下までは辿り着けませんが、まずはそこまで簡単に攻略させないようにしないといけませんね」


「あの落とし穴からの侵入方法を変えるのが適切ですかな。直接地下大空洞に落ちるのではなく、別の場所に落ちるように変えられますかな?」


「……あのスライム達も、攻略されてしまった今ではただの時間稼ぎにしかならない……」


「ふむ、難しいな」


 皆の意見を聞きながら俺が唸っていると、フルベルドの後ろに立っていたレミーアが恐る恐る挙手をする。


「あの、せっかく冒険者を仲間にしたのなら、冒険者に聞いてみてはいかがですか?」


 レミーアがそう言うと、俺達は一斉にウスルの後ろに目を向けた。


 そこには、ほぼ瀕死の状態だったサミジナとかいうSランク冒険者の姿があった。


 サミジナは皆から目を向けられて、深く頷く。


「俺ほどの実力になると弱点などないが、強いて挙げるなら上から落ちてくる類が嫌いだな」


 サミジナのそんな台詞に、俺は無言でエリエゼルに目を向けた。


「……あのアイニとかいう女に聞くとするか」


 全く、誰だ此奴をヴァンパイア化した奴は。


 あ、俺が指示を出したんだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ