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社畜ダンジョンマスターの食堂経営 〜断じて史上最悪の魔王などでは無い!!〜  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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【アクメ視点】


「うおっ! マジか! え? 結構凄くないか、あいつ」


 俺が画面を見ながらそう言うと、フルベルドが軽く頷いた。


「ふむ……中々やりますな。私も苦労しそうです」


 珍しくフルベルドが真面目なトーンでそう返事をしたのを聞き、俺は腕を組んで唸り声を上げた。


 画面の中では、二人のハーピー達を相手に互角に渡り合う冒険者の姿があった。


「……一人か二人でも良いから、冒険者を仲間に引き込めないか?」


 俺がそう呟くと一瞬間が空き、数秒置いてエリエゼルが口を開いた。


「……仲間、ですか? 奴隷ではなく?」


「いや、冒険者達が思った以上に強そうだからな。一人であれだけ強いなら、極端な話、百人とかで攻めてきたらヤバいと思ってさ。冒険者達の中にスパイを紛れ込ませられたら、相当やり易くなるだろう?」


 俺がそう答えると、フルベルドが面白そうに頷く。


「なるほど。それでしたら、私がヴァンパイアに……」


「すぐバレるわい! 夜しか動けない冒険者は変だろ!」


 俺がフルベルドの案を即否決すると、フルベルドはガックリと項垂れた。


「……相手の承諾が必須ですが、私の契約を使いましょうか。そうすれば、彼らの魂に楔を打つことができます」


「契約?」


 エリエゼルの台詞に俺は頭を捻り、ケイティ達に施していた何かを思い出した。


 あれが契約とやらだったのだろう。


「よし。じゃ、それでいこうか」


 俺が結論を出すと、エリエゼルは満面の笑みを浮かべて素早く立ち上がった。


「では、先に行っているウスルへ伝えて参ります」


 エリエゼルはそう口にすると、早足で部屋を出ていった。


 何故あんなに急いでいるのだろうか。


 エリエゼルの背中を目で追った俺は軽く首を傾げ、暫くしてまた画面へと視線を戻すのだった。





【グシオン視点】


 ハーピーがロープを切ってしまい、ロープの先が湖へ落ちていく様子を茫然と眺めた。


 これで、ダンジョンから脱出できるのはヴィネアだけになってしまった。それも、あのハーピー達の異常な飛翔速度を考えれば絶望的と言える。


「くそ……せめて一矢報いてやる……!」


 俺はそう言うと、斧を構えてハーピーを睨み上げた。


 しかし、ハーピーはこちらを見て面白そうに笑うと、翼を広げて口を開く。


「多分、触れることもできないと思うけど?」


「あぁ?」


 ハーピーの台詞に思わず生返事を返した直後、ハーピーが翼を振って風を巻き起こした。


「風の魔術か!」


 吹き飛ばされるほどの強烈な暴風が吹き荒れ、ヴィネアが切羽詰まった声でそう言うと、素早くマジックシールドを張った。


 しかし、風の勢いは僅かに弱まる程度。特に防げているようにも見えない。


 徐々に風の勢いが増す中、ヴィネアが杖を握り締めて顔を上げた。


「な、何故防げないんだ!?」


 ヴィネアがそう叫ぶと、ハーピーが声を出して笑う。


「風の魔術は使ってるけど、風の魔術で攻撃してるわけじゃないのよ? 上下左右から挟み込むように風を吹き付けて、強い風を起こしているだけね」


「意味が解らない!」


 ハーピーの説明に俺が怒鳴ると、ハーピーが呆れたような顔をして俺を見た。


「馬鹿ね」


「うっさいわ!」


 ハーピーに罵倒されて俺が怒鳴り返していると、ヴィネアが目を見開いて顎を引いた。


「そ、そうか! 風を圧縮しながら送り出し、魔力の籠らない自然に近い強風を……!」


「どうでも良いが風に流されてるぞ!? おい、ヴィネア!」


 俺はこの超鉄火場にあってブツブツと変なことを呟き出したヴィネアに文句を言ったが、既に手遅れだった。


 徐々に強くなっていた風はここにきて急激に勢いを増し、俺達は揃って吹き飛ばされる。


 竜巻の中に飛び込んだような、目も開けてられない暴風の中、俺はなんとか最小限の怪我で済むようにヴィネアを両手で抱き、体を丸めた。


 アイニが俺達の名を叫ぶ声がした気がするが、風の音で定かではない。


 あっという間に地面が近づいてきた気配を感じ、俺は筋肉を締めて身体を固め、落下の衝撃に備えた。


 次の瞬間、俺の右肩は硬い地面に衝突。身体を丸めていたお陰で直ぐに地面を転がり、痛みは全身へと行き渡ったが、あまりの衝撃に頭の中は真っ白になった。


 口の中に血の味が広がる。


 首や腰の骨、関節が痛い。


 だが、意識はある。


「ヴィネア、回復を……」


 俺がそう口にして腕の中で動けなくなっているヴィネアを見たが、ヴィネアは口を半開させたまま目を回していた。


 魔術士に今の衝撃は辛過ぎたか。


 今から頭を振り回して無理やり正気に戻し、叱咤激励して回復魔術を使ってもらう。


 うん、不可能だ。まずそんな時間が無い。


「くそ……最後に頼りになるのは気合いと根性だけか」


 俺は独りごちると、ヴィネアを地面に転がして上体を上げた。


 辺りを見渡すと、落ちたのは地底湖からかなり離れた岩壁の近くであることが分かった。


 というか、どれだけ広いんだこのダンジョンは。


 俺がそんなことを思っていると、俺達がいる場所と地底湖の間ほどの位置でハーピーと戦うサミジナの姿があった。


 ハーピーの突進を剣で受け流し、攻撃するために目にも止まらぬ速さで飛び回っている。


「なんだ、あの異常な動きは……!」


 俺はサミジナの戦いぶりを信じられないような思いで見た。


 Sランクの本気があの姿だとでもいうのか。


「面倒な……っ!」


 俺が目の前の光景に驚いていたその時、金髪のハーピーが舌打ち混じりにそう発し、翼をはためかせる。


 途端、地上に着地したばかりのサミジナに向けて風が吹き荒れた。


 一目で、俺達が食らった暴風に違いないと理解できた。


「サミジナ!」


 俺がサミジナの名を叫ぶと、サミジナは俺の声に呼応するように足を広げて腰を落とした。


 いや、腰を落としただけではない。地面に張り付くように極端に姿勢を低くし、剣を後ろ手に構えて走り出した。


 風の影響を減らすためにそうしているのだろうが、地面を這うように走っていくのに気持ちが悪いくらい速い。


「『鎌鼬(かまいたち)』!」


 暴風の中を走るサミジナを見て、白髪のハーピーが翼の先を向けて叫んだ。


 どんな攻撃か視認することはできないが、サミジナを狙うように地面が連続して破裂していくところを見るに、風の塊か何かを飛ばす技なのだろう。


「『マジックシールド』!」


 だが、その攻撃もサミジナの行使した結界魔術で……?


「な、なんでマジックシールドなんて使えるんだ?」


 俺はサミジナが張った結界が風の攻撃を防ぐ光景に目を剥いた。


 剣士と思っていたが、サミジナは魔法剣士か何かなのか。魔法剣士なんていう職業は物語くらいでしか聞いたことは無いが。


 そんなことを思っていると、サミジナを脅威と判断したのか、俺達の相手をしていたはずの黒髪のハーピーまでもがサミジナに狙いをつけて飛んだ。


 サミジナの意識は他のハーピー達に向いているだろう。


「サミジナ! 後ろだ!」


 たった一体の魔物すら押さえることができなかった。


 そんな悔しさと後悔、そしてサミジナへの申し訳無さが篭った叫びだった。


 だが、あの暴風の中でそんな俺の情けない叫びが聞こえたのか、サミジナは急に身体を起こして全身で風を受けた。


 吹き荒ぶ風はサミジナを吹き飛ばそうとし、サミジナはその勢いを殺すことなく利用し、地面を蹴って後方へと飛ぶ。


 高く速い動きだ。その動きのお陰で、サミジナは黒髪のハーピーの体当たりのような攻撃を回避することができた。


 サミジナの動きに目を奪われていると、地底湖の方で何かが爆発するような激しい音が聞こえてきた。


「グシオン!」


 見れば、俺の名を叫びながらこちらへ駆けてくるアイニの向こう側で、サヴノックが白い光を大楯で受けながら踏ん張っている。


 どうやら、あの水龍達の雷光を防いでくれているらしい。


「助けに……っ!」


 助けに行く。


 俺はアイニにそう答えようとして、最後まで言うことはできなかった。


 助けに行く?


 あの馬鹿みたいな速さのハーピー達を一手に引き受ける形になってしまったサミジナを?


 それとも、マジックシールドを使えるヴィネアが倒れた状態で、俺一人がサヴノックを助けに走るのか?


 無理だ。全ての戦力が万全の状態でどちらか片方と戦うのならば、まだ可能性はある。


 だが、この状態で分散して戦っても、万に一つも勝機は無いだろう。


「……わ、私がサヴノック達の下へ向かう」


「ヴィネア」


 ようやく意識を取り戻したのか、ヴィネアがそう言って立ち上がった。俺が名を呼ぶと、ヴィネアはサミジナの方を一瞥し、溜め息を吐く。


「あの戦闘に加わる自信が無い」


 ヴィネアの悔しそうな台詞に俺は思わず頷きそうになったが、慌てて首を左右に振った。


 気持ちまで負けたら最早どうしようも無い。どうせ死ぬならば、全力を出し切って死んでやる。狙うは相討ちだ。


「よっしゃ! じゃあ俺はサミジナの野郎を助けてやるか! ヴィネア、サヴノックを頼んだぞ!」


 俺はそう言って立ち上がると、斧を抱えてサミジナの方へと向き直った。


 三対一となってしまったサミジナは完全に受けに回っている。


「行くぞオラ!」


 俺はそう叫んでサミジナの下へと走った。


 俺の接近に気付いたハーピー達は此方にも意識を割かなくてはいけなくなり、サミジナへの怒涛のような攻撃の勢いを緩める。


 その気配を察したサミジナが、一番近くにいた白髪のハーピー目掛けて跳んだ。


 そして、俺は黒髪のハーピーへと斧を振りかぶって接近する。


「『唸れ! 業火の斧!』」


 叫びながら斧を振るうが、黒髪のハーピーは素早く身を翻して斧を避けた。


 上に逃げたハーピーが馬鹿にしたような眼で俺を見たが、俺は笑みを浮かべて顔を上げる。


 斧が完全に振り切られた瞬間、銀色の斧が赤い光を放った。炎が刃を中心にして溢れるように燃え上がり、俺の正面に人一人を吞み込めるほどの火柱が上がった。


「きゃっ!?」


 火に飲まれたハーピーの悲鳴が聞こえ、火柱はすぐに勢いを失っていく。


「まだまだ!」


 俺は更に斧を振り上げて火柱目掛けて突進した。


 火柱が消える前に再度攻撃を加える。これが、巨大な魔物をも討伐してきた俺の必勝法である。


 だが、火柱が消える前に、ハーピーが翼を広げて火柱を内側から消し飛ばした。


「な……っ」


 斧を振り下ろしながら驚く俺を睨み、ハーピーは小さく何か呟く。


 何か硬い物に弾かれるようにして俺の斧が防がれた。


 風の魔術か。


 そう思った時には、斧を弾かれた俺は無防備でハーピーの鉤爪をその身に受けていた。


「つぁっ!」


 腕に鉤爪を受け、引っ掛けられるようにして地面を転がった。


 衝撃に頭が揺れたが、地面に背中から倒れた俺は急いで立ち上がろうと地面に手をつく。


 しかし、地面に穴が開いていたのか、俺は体勢を崩して転んでしまった。


 くそ、俺としたことが。


 俺は悪態を吐こうとして口を開きながら、身体を起こした。


 そして、自分の右腕の肘から先が無いことに気が付いた。


「……そういうことかよ」


 何がそういうことなのか、自分でもよく分からない言葉が口から出た。


 斧を持っていた俺の右腕は、かなり離れた地点に転がっている。


 スッと、熱くなっていた頭の熱が冷まされたような気分になる。


 あまりの衝撃からか、まだ腕の痛みが無い。


 首を回して辺りを見ると、水龍達と戦っていたサヴノック達が雷のブレスの直撃を受けていた。僅かに離れていたアイニだけはギリギリでまだ戦えるかもしれないが、厳しいだろう。


「あれはキツイな」


 そう呟いて視線を移し、今度はサミジナの方へ目を向ける。


 もう俺への興味を失ったのか、黒髪のハーピーはサミジナの背を狙って翼をはためかした。


 何かを避けるようにサミジナは自ら地面を転がっていたが、立ち上がる瞬間、金髪のハーピーの鉤爪を肩に受けて地面へと押し倒された。


 そこへ、黒髪と白髪のハーピーが舞い降り、鉤爪を全身に受けた。


 まるで現実感の無い、夢の中のような心地だ。


「……全滅、か」


 血が流れ過ぎたせいだろう。


 俺は疲労感に重い息を吐きながらそう呟き、意識を手放した。



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