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社畜ダンジョンマスターの食堂経営 〜断じて史上最悪の魔王などでは無い!!〜  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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サミジナの戦い

【サミジナ視点】


 ロープを伝って降りながら、俺は眼下に広がる地底湖を見た。澄んだ美しい湖だが、やけに静かなのが気になる。


「エルフ。何か気付いたことはあるか?」


 俺がそう尋ねると、すぐ側で辺りを窺っていたエルフが目を細めて俺を見た。


「……モンスターが見当たらないな。ダンジョンとしてあり得ないこの空間もそうだが、どうも普通のダンジョンではなさそうだ。あと、サミジナ殿が私の名を知らないだろうことに気が付いた」


 エルフはそう言って俺を睨んだ。馬鹿なことを。この俺の常人のレベルを逸脱した記憶力を知らないのだろうか。


「知っている。ヴィネガーだろう」


「ヴィネアだ。ぶっ飛ばすぞ」


 俺がエルフの名を呼ぶと、エルフは射殺すような目を俺に向けて文句を言った。ヴィネガーでなくヴィネアだったか、惜しかった。


 まあ、似たようなものであるし、初仕事で組んだ相手の名前を二文字以上覚えている段階で俺の天才ぶりは疑う余地も無いだろう。


「分かった分かった、エルフのヴィネリアだな。俺に名を覚えてもらえて光栄だろうが、緊張せずに周囲の気配を探れ。あの無数の塔とその塔を繋ぐ橋を見る限り、あの塔を攻略していかなければダンジョンの深部へはいけないのだろうが」


 俺がそう言うと、エルフは目を瞬かせてから視線を外した。


「……確かに、細い橋がところどころに架かっているな。つまり、どれか入り口となる塔があるわけか。あと、私の名前はヴィネリアではなくヴィネアだ」


 短気なエルフはそう言って俺の周りを大回りに周回するように飛び、角度を変えて周囲を警戒する。


 そして、何かを見つけたのか、俺が掴むロープを引っ張り出した。


「なんだ、何処へ行く?」


 俺は斜めになる身体のバランスを整え直しながらそう言うと、エルフはロープを引っ張りながらこちらを振り返った。


「湖の縁に祭壇がある。あれはなんらかの手掛かりになる可能性が高い」


 エルフにそう言われて確認すると、確かに四つか五つ先の塔の向こう側に陸地があり、祭壇らしきものもあった。


「ふむ、あれか。ならば行こうか」


 俺はそう答えると、斜めに張られたロープを片手で握り、マントをロープに掛けてぶら下がった。


 すると、ロープの角度も良いせいか、マントがロープの表面をスルスルと滑り出す。


 前でロープを引っ張りあげているエルフの背中に見る見る間に接近し、俺の接近に気付いたエルフが呆れたような顔で俺を見た。


「何を遊んでいるんだ」


「楽で速い。ロープの角度をもっと急にしてくれ」


「私が大変になる。周囲の警戒もあるんだ。大人しくゆっくり付いてこい」


 エルフはそう言うと、ロープの先を持ち上げて俺の滑る速度を落とした。


 残念だが、確かに周囲には意識を向けねばなるまい。


 俺はエルフに頷いて返事の代わりとした。


 暫くして、ようやく地底湖の前にある祭壇まで降りることができた。


「……変わった形をしているな。ここにあるのは、食べ物か?」


 エルフはそう言うと、その祭壇の形状を観察する。屋根が付いた暗い色合いの木製の祭壇である。屋根の下には細長い布が何枚も並べて垂らされており、備え付けの椅子のようなものもあった。


 確かに、祭壇の中央には窪みがあり、そこには串を刺した何かが大量に刺さっている。


「……穴が三つ。一つは黒い液体が入っているが……何かの儀式に使うのか?」


 エルフがそんなことを呟きながら悩む。


 俺はそれを横目に、そっと串の一本を手に取った。細い串の先には長方形の茶色いものが刺さっており、どこか香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。


 ものは試しだ。


 そう思い、串の先のものを一口、齧ってみた。


「……ぬぁ!? 美味い!」


 肉だ。サクッとした歯応えの後に、旨味のある肉汁が滲む甘い肉の味がする。


 もしや、この黒い液体は調味料か?


「お、おい! 何を食べているんだ!?」


 俺が串に刺さった肉を食べながら黒い液体を睨んでいると、エルフが驚きに目を見開いて怒鳴り声を上げた。


「肉だ。まだそこに沢山あるだろうが」


 俺は大量にある串を指差してそう言い返し、残りの肉を食した。


 腹が減っているのか、たったの一本分の肉を食べただけでエルフは大層お冠である。しかし、それにしても美味い。


「誰が食べたいと言ったんだ……! こんなところに出来立ての食べ物があることをおかしいと思わないのか!?」


 エルフはそう言って辺りを見回した。


 ふむ、一理ある。確かに、こんな場所にこんなに美味しい肉があるのは不思議だ。


 二本目を食べてみたが、やはり美味い。それに、味が変わった気がする。


「……っ! 違う! これはまた別の肉だ! だが美味い!」


「まだ食べていたのか!?」


 俺が驚愕の声をあげて串を睨んでいると、エルフが勢い良くこちらを振り向いてまた怒鳴った。勝手に食えば良いのに。


 と、急に空気が重くなったような気配がした。


 何か言い返そうかと思い口を開いていた俺は、串を手にしたまま気配のする方向に顔を向ける。


「まだ食べる気か……こんな所に食べ物があるということは、もしかしたら罠かもしれないだろうが。早く一度離れて様子を———」


「……何か来たぞ」


 エルフの言葉を遮り俺がそう言うと、エルフは胡散臭そうに視線を動かした。


 視線は地底湖の反対側、この地下空間の壁面だ。


 空中から現れたのは、三人の美しい女だった。だがその女達には腕が無く、代わりに白い大きな羽があった。宙をゆったりと舞いながら、三人は俺達を見下ろしている。


 いわゆる、ハーピーというモンスターだ。


「……驚いたな。地下にハーピーの巣があるのか? 着ている鎧はまさか冒険者の……」


 警戒心は緩めず、エルフがそう口にした。焦りが感じられない態度だったが、それは当たり前だろう。ハーピーはCランク以上の冒険者であればまず問題の無いモンスターだ。


 だが、俺は三人のハーピーを見て、普通のハーピーとは決定的に違うあることに気がついていた。


「ただのハーピーじゃない。異様なまでに美しいハーピーだ!」


 俺がそう言うと、エルフは冷たい視線を俺に向けた。そして、俺に文句を言おうと口を開いたその時、ハーピー達が声を発した。


「御機嫌よう、お客様……いえ、侵入者でしょうか?」


「侵入者でしょ」


「あ、い、いらっしゃいませ!」


「なんで歓迎してるのよ」


 なんと、ハーピー達は流暢な人語を喋り、俺たちは驚きに目を剥いた。


「喋った! 喋ったぞ!?」


 俺がハーピーを指差してそう叫ぶと、エルフは呆然としたまま首肯する。


「あ、ああ……か、彼女達はハーピーではないのか? いや、しかし、あの姿は……」


 エルフが困惑しながらそう口にすると、ハーピー達は俺達の後ろにある、あの祭壇を見て眉根を寄せた。


「……もしやと思い来てみれば、私達の食事に手を出したようですね?」


「じゃあ、代わりに貴方達が私達の食事だね?」


「あ、い、いただきます!」


「生では食べないわよ?」


 三人のそんな台詞を聞き、俺とエルフは俺の持つ二本の串に目を向けた。


 俺はその串をへし折り、ハーピー達を睨みあげる。


「くそ! 罠だったのか!」


「だから罠だと言っただろう!?」


 俺が怒りを露わにすると、エルフは責任転嫁しようとそんな文句を口にした。


 しかし、ハーピー達は翼を広げて威嚇するように喉を鳴らした。


「どちらにせよ、侵入者は見過ごせませんよ?」


「食べ物の恨みは恐ろしいのです」


「あ、い、いてまうぞコラー! です!」


「言葉が変じゃない?」


 三人はそう言って、俺達を見下ろしている。


 エルフは舌打ちを一つすると、杖を前に掲げた。


「くそ! 面倒な!」


「ハーピー如きに熱くなりすぎるな。俺がいるんだからな」


 俺がそう言って剣を抜くと、エルフは信じられないほどの殺気を何故か俺に向けてきた。


「誰のせいでこんなことになってると……!」


 どうやら、エルフは錯乱しているらしい。


 やはり、頼りになるのは自分だけか。



戦いが始まる筈だったのに、サミジナとヴィネアのやり取りに文字数を取られてしまいました……

はっ! これが罠か…!

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