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社畜ダンジョンマスターの食堂経営 〜断じて史上最悪の魔王などでは無い!!〜  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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冒険者達の挑戦

 結局ミミズプールまでも突破されてしまい、俺は額に手のひらを押し当てて溜め息を吐いた。


「きちゃったよ、おい。これはあれか? 地底湖まで来るのか? いや、あの場所から地底湖まではかなりの高さだし、湖にはサンダーイール達が待ってる。大丈夫だ、大丈夫」


 俺が自分にそう言い聞かせていると、エリエゼルが不思議そうに俺を見て口を開く。


「ご主人様? あの、ハーピー三姉妹をお忘れではありませんか?」


 エリエゼルが遠慮がちにそう尋ねてきたので、俺は監視カメラの右上を指差してエリエゼルの質問に答えた。


「戦えるのか? あいつら」


 俺がそう口にすると、皆が画面の右上に注目する。


 画面には湖の中に聳え立つ無数の塔が映っている。湖面すれすれに、水に浮かぶように存在する塔と塔を繋ぐ通路。


 その通路の上に、ハーピー三姉妹の三女であるオーキュペテーが居た。オーキュペテーは水面に両脚を入れて水飛沫を上げて遊んでいる。


 オーキュペテーの周りにはサンダーイール達もおり、オーキュペテーに水を掛けられていた。


 そのすぐ上、塔の壁面の段差には長女であるアエローが優雅に腰掛け、オーキュペテーが遊ぶ様子を眺めて微笑んでいる。


 題名をつけるなら『楽しい休日』といった光景だ。どうにも戦闘力には疑問を抱いてしまう。


 その映像を見て、エリエゼルは苦笑いを浮かべる。


「神話の住人達ですからね。大丈夫ですよ」


 なんとも曖昧な物言いをして言葉を切ったエリエゼルに俺が疑惑の眼を向けていると、フルベルドが口を開いた。


「ふむ。どうやら侵入者は落とし穴に気が付いたようですぞ」


「あ、落とし穴に落ち掛かってる」


 フルベルドの台詞に追従するようにレミーアがそう呟いた。


 二人の言葉を聞いて画面を見れば、行き止まりまで辿り着いた冒険者達が地下大空洞に向かう落とし穴を囲んでいる図があった。


 そして、緑色のマントを羽織った奇抜な髪の男が落とし穴に落ち掛かったのか、懸命に縁に手足を引っ掛けて踠いている。


「……よし。流石に飛べないみたいだな?」


 誰にともなく俺がそう言うと、エリエゼルが難しい顔をして頷いた。


「一流の魔術士ならば空を飛ぶ飛翔魔術も使えます。ただ、せいぜい一人か二人での飛翔となりますから、この状況で使うことはないでしょう」


「未知の領域にまで一人や二人で先行するのは危険と判断するでしょうな。魔術士らしき者は然程多くありませんし、罠を突破するために魔力を相当量消費していることでしょう」


 フルベルドがエリエゼルに同意し、ウスルが面白くなさそうに鼻を鳴らした。


 だが、またもレミーアが何かに気付く。


「あ、ロープ、でしょうか?」





【サミジナ視点】


 危ないところだった。


 行き止まりになり、これはダンジョンの基本である隠し扉か何かに違いないと壁を調べようとしたら、突き当たりの一部だけが落とし穴だったのだ。


 俺の類稀なる反射神経と的確な状況判断のお陰で九死に一生は得たが、あまりにも卑劣な罠に正直かなり肝を冷やした。


 この世界で最も将来有望なSランク冒険者である俺が死ぬなど、冒険者ギルドだけでなく、人類にとっての損失となるだろう。


「おい、この下……!」


 と、落とし穴から自力で這い上がってきた俺への賛辞も何も無く、代わりに誰かが落とし穴を指差してそんな言葉を発した。


 俺を引き上げるという機転すら利かない低レベルな冒険者達が落とし穴一つに驚きの声を上げている。


 俺は、やれやれと頭を左右に振りながら落とし穴に目を向けた。


「このようなダンジョンでは、落とし穴などいくらでもあるものだ。落ち着いて慎重にいけば落とし穴なぞに落ちることは……ん? なんだ?」


 超一流の冒険者である俺が皆にダンジョンについて教えてやろうとしているのに、皆は落とし穴を囲んで息を呑んでいる。


「退け」


 俺はすぐ近くにいた赤い髪の男の頭を手のひらで押し退けた。確か、グシオンとかいう蛮族だったか。


「チョ、テメ……」


 蛮族はまだ不慣れな言語を口にして俺を見る。恐らく、憧れのSランク冒険者である俺に触ってもらったことが嬉しくて仕方ないのだろう。


 さて、そんなことはどうでも良いとして、落とし穴を見てみるとしようか。


「……な、なんと」


 皆と同じように落とし穴の中を覗き込むと、そこには鮮やかな青の水面が広がっていた。


「ち、地底湖だと……?」


 深さがいまいち把握できないが、かなり深い地下空間が存在しているようだ。地底湖らしき水面には、いくつもの人工の建築物らしき塔が見える。


「……おいおい。誰だよ、このダンジョンができたばかりだって言った奴は」


 盗賊職らしき女が呻くようにそう呟くと、エルフの魔術士が疲れたように溜め息を吐いた。


「これは……恐らく、王都の外にあるダンジョンが広がってきたのだろう。王都の周辺を探せば別の入り口があるはずだ」


 エルフがそう口にし、俺は鼻を鳴らす。


「ふん。このダンジョンがどれほど危険か談義したところで無意味だ。俺がダンジョンを攻略することに変わりは無い」


 俺は怖気付く皆にそう言い、ロープを取り出した。


「……? なんだ、そのロープは」


 エルフの怪訝な表情で言われた台詞に、俺は肩を竦める。何を言っているのだ、このエルフは。


「ただのロープだ。降りるには必要だろう」


 俺はそう言ってロープの端を杭に結び、地面に突き刺した。


 俺がロープの結び目を確かめていると、エルフは険しい顔つきでこちらに顔を向ける。


「……それで降りる気か?」


「だからそうだと言っている」


「もしも空を飛ぶモンスターがいたらどうする?」


「斬る」


「そんな経験があるのか?」


「とある崖で同じような体験をした。その時はドラゴンフライだったが、全く問題はなかった」


 俺がエルフの質問に答えてロープを握り、足先から落とし穴の中へと体を滑り込ませていると、エルフが顔を上げて口を開いた。


「……おい、グシオン」


「俺ハ嫌ダ」


「アイニならいけるか?」


「絶対に嫌」


 パーティーメンバーとそんなやり取りをしたエルフは盛大に溜め息を吐き、頭を左右に振った。


 俺にはエルフの気持ちがよく分かった。


 全く、冒険者とは思えない情けない輩である。あんな臆病者なぞ、むしろ邪魔になるというもの。


 俺は短く息を吐いて口を開く。


「腰抜けなぞいらん。足手纏いになるだけだからな。俺は一人で行くぞ」


 そう言い残し、俺はそのままロープを下っていった。


 視界全てを覆い隠していた黒い岩肌が下からの光に照らされて明るくなっていき、やがて視界が開ける。


 想像以上に広く、明るい地下空間。そして、透明度の高い美しい湖と、湖を飾り付けるように荘厳な塔が何十も聳え立っている。


「……なんという、壮大な……」


 そんな声が背後から聞こえ、俺は視線を向けた。


「何をしている」


 俺がそう尋ねると、空に浮かぶエルフが地下空間の光景に目を奪われたまま、小さく返事をする。


「流石に一人ではいかせられんだろう」


 そう返事をしながら、エルフは辺りを眺めていた。


「……ふん。足手纏いにはなるなよ?」


 俺がそう注意を促すと、エルフは呆れたような顔を俺に向ける。


「……サミジナ殿。貴方は言葉の選び方で相当損をしていると理解しておいた方が良いぞ」


 エルフはそれだけ言い残すと、また周囲に目を向け、警戒し始めた。


 言葉の選び方?


 やはり、俺は謙遜し過ぎということか。



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