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社畜ダンジョンマスターの食堂経営 〜断じて史上最悪の魔王などでは無い!!〜  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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俺様、サミジナ様

 ギルドに呼び出されたグシオンは、ギルド長の話に渋面を作ることで応えた。


「王国からの指示だ。頼んだぞ」


 だが、ギルド長のそんな一言で逃げ場を失い、グシオンは仕方無く了承する。


 そして、次の日。ダンジョンの前ではグシオン率いる『業火の斧』と、Sランク冒険者サミジナが顔を合わせたのだった。


 二十代後半といった外見年齢のサミジナは、右半分は短髪で、左半分は顎にかかるほどの長さに揃えた奇抜な髪型の男である。一見すると細身に見えるような身体つきで、黒い革の鎧と緑色のマントを羽織っていた。


「お前がグシオンか。足を引っ張るなよ?」


 サミジナに初対面で開口一番にそう言われ、グシオンは頬をピクピクと痙攣させながら返事をする。


「オレ、グシオン。アシヒッパラナイ」


「なんだ、辺境の出か。そういえば品の無い顔をしてるな」


「……オ、オォ……?」


「おい、グシオンが見たことの無い顔をしてるぞ……」


「誰か止めろ。殴り掛かりそうだ」


 二人の会話を聞いていた『業火の斧』のメンバーが、小刻みに震えるグシオンを見て慌てて動き出す。


 ざわざわとした空気など、サミジナは特に気にした様子も無く、『業火の斧』を含む二十名ばかりの冒険者達を眺めて口を開いた。


「俺がSランク冒険者のサミジナだ。今回、皆を率いてダンジョンを攻略することになった。実力に差があるため、俺に付いてくるのは大変かもしれない。だが、俺に付いてくることができたら、確実にお前達は一つ上へと上がることができるだろう。さぁ、共にダンジョンを攻略するぞ!」


 サミジナがそう叫ぶと、『業火の斧』以外の冒険者達は疎らながら返事を返していった。


 そして、『業火の斧』のメンバー達は顔面神経痛のように顔を痙攣させるグシオンを押さえながら顔を見合わせる。


「おい、ギルドからはそんな御達しがきたのか? どうなんだ、サヴノック」


「……いや、サミジナと協力してダンジョン攻略をするようにとしか言われていないぞ」


「あ、サミジナが先にダンジョンに向かったよ」


「仕方ない。アイニ、先行して罠のことを教えてやれ」


「うわぁ、一番面倒な立ち位置になりそうじゃないか……まぁ、仕方ないか」


 そんなやり取りをしてメンバーがダンジョンに入っていく中、グシオンが壊れた人形のようにカタカタと動き出した。


「……冒険者同士ノ喧嘩ハ仕方ナイ。ソレクライ普通」


 グシオンが自分自身に言い聞かせるようにそんな発言をしていると、隣を歩くヴィネアが嘆息し、口を開く。


「今回は王国から協力して事に当たれとの指示だ。喧嘩したなどと報告できるか」


「ググググ……」







【アクメ視点】


 エリエゼルから報告を受け、俺はワクワクしながら監視カメラの映像が映し出されるモニターの前に座った。


 九つに分割された映像の左下の画面に、一列に並んでダンジョンを進む冒険者達の姿がある。


「ふむ。大人数ですな」


「主人。俺達は部屋に行って待っていた方が良いだろうか」


 俺の後ろから、フルベルドとウスルがそんなことを口にした。レミーアも真剣な顔で画面を注視している。


「エレベーターですぐ着くし、あいつらが地下大空洞に降りることができたら向かえば良いさ」


 無理だろうけど。


 俺は最後のセリフを飲み込み、代わりに口の端を上げて画面を見る。


 そろそろ誰か罠に掛かっても良いと思うのだが、今のところ何も起きない。


 俺が不思議に思っていると、横からエリエゼルが険しい表情で画面を睨んでいた。


「ご主人様、罠が全て見破られています」


「へ?」


 エリエゼルの台詞に、俺は思わず間の抜けた返事を返す。


「どうやら、この先頭を歩く女がかなり凄腕のようですね……普通のダンジョンで考えるなら、高難易度な罠が立て続けに並んでいる状態のはずですが、全て場所が露見しているようです」


「いやいや、足の踏み場も無いような所もあっただろ?」


「それらは機械仕掛けの罠ですが、可動部分にナイフを差し込んで固定されてしまっています……あ、こんなやり方が……」


 エリエゼルは俺に解説していたというのに、盗賊風の女の罠の避け方に感心までし始めた。


「おいおい……今からあいつらの前にデカい穴でも開けるか?」


「外敵がいる近辺のエリアは変更不可能です。魔素が乱れてしまいます」


「なんじゃそりゃ」


 初耳ですよ、エリエゼルさん。


 俺が文句の一つでも言ってやろうかと思っていると、気が付けば冒険者達はスライム水槽の前にまで辿り着いていた。


 此処ならば簡単には突破できないだろう。


 俺のそんな甘い考えは、ものの数十秒後には砕け散ることになった。


「おいおい……あいつら、スライム達を凍らしてるぞ?」


「その後は打撃武器で砕いて進んでいますね……雷系の魔術で攻略してもあの長い水槽を潜る羽目になりますし、炎系の魔術でスライムと水を蒸発させながら進むのは蒸気で蒸されて死ぬ……うん、凍らせるというのは妙手ですね」


「感心してる場合かい」


 なるほどと頷くエリエゼルに突っ込んでいると、ついに冒険者達はスライム水槽すら突破し、ミミズプールへと辿り着いた。


 これは無理だろう。画面上で見ても気持ち悪いもん。


 俺がそう考えて落ち着きを取り戻していると、冒険者達は何か、ゴソゴソと動き始めた。


 そして、白い曲がりくねった杖を取り出したと思ったら、鎧を着た一人がその杖を掲げ、なにか呟く。


 直後、白い光が走り、ミミズプールは脈打つように二度三度と波打った。


 それを見て、エリエゼルの目が鋭く細められる。


「……あれは、マジックウェポンですね。恐らく、最低限の魔力さえあれば、特定の雷系魔術を放つことができる杖でしょう」


「そんなのあんのか……ん? でも、魔術士も何人もいそうだけど、なんでそんなアイテムを?」


 俺がそう尋ねると、エリエゼルは浅く顎を引いた。


「恐らく、魔力の温存でしょうね。スライム水槽もそうですがかなり長い距離がありますので、魔術士の魔力を温存させたいのだと思われます。しかし、マジックウェポンはかなり希少なアイテムですが、王国の宝物庫からの貸し出しでしょうか?」


 そう言いつつ、エリエゼルは怪訝な顔で首を傾げるが、俺はそれどころではない。


 あきまへん。


 冒険者の人数が多いせいか、一人が一発二発と魔術を放つと、次の冒険者に杖が渡され、まるで流れ作業のように画面がビカビカ光っている。


 そして、何発か撃った後、杖を使用した冒険者達がスコップでバケツみたいな入れ物にミミズの死体を入れ、後方へと運び出していく。


 しかも、きちんとルールを把握しているのか、バケツを後方へ運ぶ際には、バケツリレーのように手渡しで運ばれていくため、落とし穴も作動しない。


 これはヤバいのではなかろうか。


 ハラハラしながら画面を見ていると、魔術士らしき者が杖を受け取り、更にミミズプールの奥へと進行し始めた。


「どうやら、魔術士の温存も限界のようですね」


 エリエゼルが明るい声でそんなことを言った。


「いや、突破されたらマズイぞ。結構掘り進んでないか?」


「魔力の残量が無くなれば、多分ダンジョン攻略を中断すると思いますが」


「魔力の回復とかアイテムでするんじゃないか?」


「現在、どれほどダンジョン攻略が進んでいるのか、冒険者達は知りません。なので、多少の余力を残して戻りたい筈ですよ」


 エリエゼルにそう言われ、俺は腕を組み唸る。


 貴重なマジックウェポンとやらを宝物庫から貸し出すほど本気ならば、魔力回復アイテムくらいポンポン提供しそうなものだが……ゲームほど回復アイテムは気軽には使えないのだろうか。


 まあ、この世界の知識はエリエゼルの方が持っているのだ。俺が考え過ぎなだけだろう。


 そう思い、深呼吸をしていると、画面の中で奇抜な髪型をした冒険者が紫色の液体が入った小瓶を取り出した。


「おい、凄く回復アイテムっぽいぞ。マジックポーションとかそんな感じじゃないか? 自然界に無さそうな紫色の液体だぞ、エリエゼル」


 俺が早口にそう呟くと、エリエゼルは目を丸くしてこちらに顔を向けた。


「……や、野菜ジュース、だったりして」


「健康志向か」


「マジックポーションでしょうな」


「……マジックポーションだ」


「マジックポーションかと思いますが……」


 全員から突っ込みを入れられ、エリエゼルは照れたような微笑みを浮かべて首を傾げた。



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