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社畜ダンジョンマスターの食堂経営 〜断じて史上最悪の魔王などでは無い!!〜  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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ダンジョン攻略進捗状況

 地下酒場、もしくは地下食堂。


 既に、王都に住む一部の冒険者や兵士の間では、その名を言えば通じるほど有名になった店の中で、まだ陽も落ちる前から大きな声が響き渡っていた。


「あぁ、ムカつく!」


 怒りを隠すこともなく、大柄な赤い髪の男が怒鳴り声をあげてジョッキに入った生ビールを喉に流し込んだ。


「くそぉ! 美味い!」


 男はそんな文句を言い、ジョッキをテーブルに置く。


 Aランク冒険者パーティー『業火の斧』のリーダー、グシオンである。


 白い布のシャツと茶色のズボン姿のグシオンが何故か悔しそうな表情でジョッキを睨んでいると、サヴノックが呆れた顔でグシオンを見下ろした。


 グシオンよりも頭一分大きな巨漢のサヴノックに見下ろされても、グシオンは臆することなく怒りの矛先を向ける。


「なんだよ。何か言いたいことがあるのか?」


 絡み酒の様相を見せるグシオンに、サヴノックは深い溜め息を吐いて首を左右に振った。


「……落ち着け。元よりゆっくりと攻略する計画だったはずだ」


 サヴノックがそう言って宥めようとすると、グシオンは目を吊り上げて鼻を鳴らした。


「ゆっくり過ぎるだろ!? 俺の予定ならもう次の階層くらいには潜れてるはずだったんだよ!」


 グシオンはサヴノックにそう言い返すと、ブツブツと文句を言いながら更に生ビールを呷った。


 いつになく荒れているグシオンを見て、オレンジ色の髪の少年、ロアが近くに座る紺色の髪の美女に対して口を開く。


「……な、何かあったんですかね?」


 恐る恐るといった様子でそんな質問をしてくるロアに、エルフの美女、ヴィネアが顎を引いた。


 面白くなさそうにワイングラスを傾け、横目をロアに向ける。


「今日の朝は別行動だっただろう? 実は王城に呼び出されてな。色々と苦言を呈された」


「苦言、ですか」


「ああ。ダンジョンの攻略状況を報告してあったのだが、遅すぎる、とな。まあ、こちらは国の財源を使っているのだから仕方がないことかもしれんが、かなり焦れているようだった」


「な、なるほど……」


 ヴィネアの説明を受けて、ロアは曖昧に頷いてグシオンの横顔を見る。


 グシオンが苛々していても、他の『業火の斧』のメンバーは気楽に談笑しながら酒を呑んでいるが、雇われてダンジョン攻略に参加しているロア達は静かにチビチビと酒を呑んでいた。


 そんな中、グシオンの近くへ、服の上からでも筋肉質であると分かるような大男が歩み寄ってきた。


 それを見て、サヴノックやヴィネアが目を鋭く細めるが、当のグシオンは椅子の背もたれに身体を預けたまま、仰け反るようにして大男を見上げる。


「おぉ? デッカいなぁ、おい。サヴノックよりデケェんじゃねぇか?」


 グシオンがそう言って鼻を鳴らすと、赤茶けた長い髪を後ろに流した大男は、静かに口を開いた。


「……声が大きい。今までは他の客がいなかったから良いが、もうすぐ他の客も来るだろう。静かに呑め……」


 大男がそう告げると、グシオンは嫌そうに顔を顰めて口を尖らせる。


「くそったれ。この店まで俺に文句を言うのか。俺の安息の地は何処だよ」


 グシオンが不貞腐れたようにそう呟き、大男が無言でグシオンの顔を見下ろした。それを見て、隣に座るサヴノックが大男を見上げて口を開く。


「……すまんな。こいつにはよく言って聞かせる。申し訳なかった」


 サヴノックがそう謝罪すると、大男は浅く頷き、踵を返して厨房の方へと消えた。


 その背中をサヴノックが目で追っていると、グシオンがサヴノックに顔を向ける。


「子供扱いすんなよ、サヴノック」


 グシオンがそんな文句を言うと、サヴノックは眉根を寄せてグシオンを睨む。


「子供の方が余程マシだ」


 サヴノックはそう呟き、また厨房へと顔を向けた。


「……それにしても、かなり強そうな男だったな」


 サヴノックがそんな独り言を口にすると、グシオンは先程までの様子とは打って変わって真剣な表情になり、顎を引いた。


「ありゃ相当だな。ほら、Sランクのシルシュがいるだろ? あれと揉めた時も同じくらい圧があったな」


 グシオンがなんでも無いことのようにそう言って生ビールを呑むと、ヴィネアが唸りながら首を傾げる。


「……ふぅむ、それほどか。確かに只者ではない気配がしたが……しかし、何故この店に? 用心棒にしては強過ぎるだろう?」


 ヴィネアがそんな疑問を口にして、グシオンが答えようと口を開きかけたその時、新たな客の来店を知らせる鈴の音が店内に響いた。


 鈴の音に釣られるように、グシオン達は揃って食堂の出入り口へと目を向ける。


 現れたのは四人の中年の男達だった。


 四人揃って冒険者や兵士ではなさそうな緩んだ雰囲気と体型である。そして、服装も質の良いゆったりとした衣服を着込んでいて、所作には何処か品がある。


 その四人を見て、グシオンが灰色の髪の女に声を掛けた。


「アイニ。あいつら貴族か?」


 グシオンが小さな声でそう尋ねると、アイニは一秒か二秒程度観察し、首を左右に振った。


「あの足運びを見る限り違うだろうね。この国の貴族は最低限の武芸を身に付けるからさ。多分、それなりに裕福な商人か何かじゃない?」


 アイニがそう言って、最後に「高そうな服も着てるしね」と付け足すと、グシオンが面白いものを見つけたと言わんばかりに笑みを浮かべる。


「丁度良い。出資してもらおうぜ」


 グシオンがそう言うと、ヴィネアが呆れた顔をグシオンに向けた。


「何が丁度良いんだ。出資してもらう代わりに出せる物がないじゃないか」


 ヴィネアがそう言うと、グシオンは眉根を寄せる。


「いや、ダンジョン攻略中なんだから、アイテムかモンスターの素材で……」


「どちらも出てないぞ。分かっているだろうが、スライムは大した素材にならないからな」


「いや、さすがにもうそろそろ出るだろ? もう少し進めばさ」


「いつになったら出るかも分からないのに契約する気か? 契約書をしっかり見て出資してもらわないと、逆に金を毟り取られるぞ」


 言えば言うだけ反撃に遭い、グシオンは肩を落として溜息を吐いた。それを見て、ヴィネアは困ったように息を吐く。


「……王国から資金援助を打ち切られた時のことを考えているのだろうが、そこまで考えなくても良いだろう? 資金援助を受けられなくなったらダンジョン攻略を諦めたって良いのだから」


 ヴィネアがそう諭すと、グシオンは眉をハの字にして生ビールを呑み干した。


「王都にできたダンジョンの攻略者……この称号があれば一生安泰なんだがなぁ……」


 グシオンがそんな台詞をぽつりと漏らすと、ヴィネアは深く深く溜め息を吐いて、グシオンから顔を背けた。


「心配して損した」


 ヴィネアがそう呟き、一瞬、店内に静寂が訪れる。


 すると、グシオン達とは反対側の壁際にあるテーブルを囲う四人の男達の会話が聞こえてきた。


 大きくも小さくもない声だったが、不思議と店内に響くように、グシオン達の耳にまで男の声は届く。


「やはり、少人数のパーティーに頼む方が後々は助かるな」


「そりゃそうだろう。うちが素材収集を頼んでいる冒険者達も三人パーティーだ。一人回収係を雇っているが、それでも安い」


 四人の男達はそんなやり取りをしつつ、料理をメニューから選んでいる。


 そして、グシオン達に横顔を見せる男が口を開いた。


「うちの商会の依頼を受けてくれていたサミジナ殿も、想定していた以上の素材を収集してくれたぞ」


「なんと、もう依頼を達成したのか? ついこの間ウマロの崖へ向かったと聞いた気がするが……」


「ああ。なんと、わずか一ヶ月で帰ってきた。それも依頼していた分の倍の素材を集めてな」


 男がそう答えると、他の三人の男は驚きの声をあげる。


 そんなやり取りを耳にして、ロアも目を丸くしてグシオン達に顔を向けた。


「す、凄いですね。ウマロの崖まで王都から二週間は掛かると思いますが、一ヶ月で行って、依頼を達成して帰るって……」


 ロアがそう言って笑顔を見せ、『業火の斧』以外の者達が同意する中、グシオン達正規メンバーは表情を暗くして顔を見合わせていた。


「おいおい……早過ぎねぇか?」


「ああ。流石と言うべきだろうが、今回は間が悪かったな」


「勘弁してくれよ」


 グシオン達が口々にそう呟く中、サヴノックが小さく溜息を吐いて肩を竦める。


「……サミジナは腕は確かだが、基本的に単独で行動している。ダンジョン攻略なら、我々と協力関係を申し出ることもできるだろう」


 サヴノックがそう言うと、グシオン達が一斉にサヴノックを見た。


 そして、グシオンが嫌そうに口を開く。


「……サミジナがなんでお独り様か知ってるよな?」


 グシオンがそう尋ねると、サヴノックが静かに頷いた。


「性格が悪く、パーティーを組んでもすぐに解散するからだ」


 サヴノックがそう答えると、グシオン達はあからさまにテンションを下げて項垂れた。



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