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社畜ダンジョンマスターの食堂経営 〜断じて史上最悪の魔王などでは無い!!〜  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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冒険者達の苦難

 硬い石畳を踏む足音。


 僅かに風の流れる音がするが、それよりも鎧の部品と部品がぶつかり合うガチャガチャとした音の方が大きく、周囲に反響音を響かせている。


 呼吸すら忘れそうな、緊張感に満ちた表情の男達が一列に並んで歩く中、先頭を歩く三人の内の一人が口を開いた。


「こんなにモンスターがいなくて罠ばっかりのダンジョンあるか?」


 冒険者パーティー『業火の斧』のリーダー、グシオンがそう呟くと、紺色の髪の美しいエルフ、ヴィネアが答える。


「有名なのは、史上最大のダンジョンを作り上げた魔王カリオストロだな。地下五十階層にも及ぶダンジョンの何階層かは罠と迷路のみだったらしいぞ」


 ヴィネアがそう答えると、グシオンは眉根を寄せて後ろを歩くヴィネアを振り返った。


「カリオストロって言えば、攻略に十年を要した極悪ダンジョンの主だろ? まさか、このダンジョンもそんな極悪ダンジョンなんじゃないだろうな?」


「知るわけないだろうが。ただ、場所が場所だ。貴族様が本当にダンジョンを隠蔽していたわけじゃないなら、このダンジョンはできたばかりのはずだ」


 ヴィネアが不機嫌そうにグシオンにそう返答すると、グシオンは溜め息を吐いてヴィネアから視線を外した。


「まだモンスターだらけの方が分かりやすいんだがな。王国に出す報告書が書きづらいったらありゃしねぇ」


「報告書を書いてるのはサヴノックだろうが」


「あんなもん良く書けるよな、あいつ。超面倒クセェ」


「お前は……」


 グシオンとヴィネアがそんな会話をしていると、一番前を歩いていたアイニが灰色の短髪を揺らして振り返る。


「なに無駄口叩いてるんだよ。ほら、着いたよ」


 アイニがそんな文句を織り込みつつ目的地への到着を伝えると、グシオンが顔を上げてダンジョンの奥を見た。


 ダンジョンの奥は天井が低くなっていくように狭まっており、奥の床は水に浸かったようになっている。


 グシオンはそれを見ると、背後を振り返り一列に並ぶ冒険者達を眺めて口を開いた。


「よっしゃ、魔術士諸君! 仕事だ! 依頼料分は働けよ!」


 グシオンがそう言うと、口々に文句が返ってくる。


「王国から出た金じゃねぇか」


「むしろもっと寄越せよ」


 ヴィネアのすぐ後ろに並んでいた中年の冒険者達がそんな文句を言うと、グシオンは大きな声で笑いながらダンジョンの先を指差した。


「おら、いいからやれ! スライムどもを凍らせろ!」


 グシオンがそう言って魔術士達に指示を出すと、魔術士達は不満そうな顔をしながらグシオンの隣を抜け、アイニの後ろに並んだ。


 お揃いのように似た色と形のローブを着た魔術士達を眺め、アイニは床を指差す。


「そこと、あとはそっちにも罠がある。こっち側は無いから、あのスライムの巣まで問題なく行けるよ」


 アイニがそう説明すると、魔術士達は頷いてアイニに言われた通りにダンジョンを進んだ。


 そして、スライムの巣に辿り着いた魔術士から順番に魔術の詠唱に入る。


 十数秒もの長い詠唱時間をかけて、魔術士達は次々に氷の魔術を発動していった。


 五人の魔術士達が一度ずつ氷の魔術を放つと、水面全体がしっかりと凍り付いた。


 不自然な波打ち方をした状態で凍り付いた水面を見て、グシオンが浅く頷く。


「よし。全体が凍ったな。次は重戦士」


 グシオンが後ろに横顔を向けてそう口にすると、列の中から三人の大柄な男達が現れ、前に出てきた。


 重そうな鎧を着込んだ三人は、大槌や大斧を手に持ち、凍り付いた水面の前にまで移動する。


「どぉりゃ!」


「せいや!」


 男達は野太い掛け声を発しながら氷に重量級の武器達を叩きつける。


 耳に響くような氷を砕く破壊音に、アイニやヴィネアが顔を顰めて耳に手を当てた。


 それらを眺めながら、冒険者達の列の最後尾でサヴノックがそっと溜め息を吐いて頭を振る。


「……これが時間を稼ぐ目的で作った罠ならば、このダンジョンのダンジョンマスターは一筋縄ではいかんな」






「よっしゃあ! 抜けたぞ! どうだこの野郎!」


 スライムの巣を凍らせて掘り進み、ようやく抜けた先で、グシオンが雄叫びのような声を上げて両手を高々と挙げた。


「こっちは疲労困憊といった様相だけどね」


 喜ぶグシオンとその後方で地べたに座り込む魔術士達を見比べ、アイニがそんなことを言って苦笑する。


「……案外長かったな。まさか私まで手を貸す羽目になるとは思わなかったぞ」


 少し疲れた顔のヴィネアがそう言うと、グシオンは声を出して笑いながら、ヴィネアの肩を叩いた。


「ご苦労さん、ご苦労さん! さて、なにせできて間もないダンジョンだ。これでもう半分くらい攻略したんじゃないか? はっはっは!」


 責めるような目つきでグシオンを見上げるヴィネアと、傍目からもご機嫌なグシオンを見て、アイニが笑みを浮かべてダンジョンの奥に足を向ける。


 他のメンバーを置いて少し進み、アイニは床や壁に顔を近付けて首を傾げた。


「んん?」


 アイニが疑問符を浮かべながら辺りを再三見回し、腰に巻いたベルトから小さなナイフを一本手に取った。


 そして、ダンジョンの奥に向けて投げる。


 その結果を見て、アイニは顔を大きく顰めると、グシオンを振り返った。


「グシオン」


「お? なんだ? ダンジョンマスターでもいたか?」


 アイニに名を呼ばれたグシオンは上機嫌にそんな返事をしてアイニに顔を向ける。


 アイニはそんなグシオンに首を振ってから口を開いて返答した。


「罠は無いからこっち来て」


「マジか。罠が無いって、やっぱりダンジョンがそれほど大きくないってことか?」


 グシオンはそんなことを言いながらアイニの側まで行き、ふと周囲を眺め、口を開いた。


「……ん? まさか、行き止まりか? いや、一本道だから、これは隠し扉か?」


 グシオンはそう言って、眼を凝らすような顔付きで壁を見つめる。


 その様子になんとも言えない複雑な顔をしながら、アイニが肩を竦めた。


「隠し扉は無いし、行き止まりでもないみたいだね」


 アイニがそう告げると、グシオンは眉間に皺を寄せて首を傾げ、行き止まりと思っていたダンジョンの奥を見た。


 数秒もの間じっくり眺め、グシオンは変な声を上げる。


「床が動いた!」


 グシオンがそう言うと、アイニがまた首を振って答えた。


「いや、今度は見たこともないワームの巣だよ。先に言っておくけど、私はもう見ないからね。あんな気持ちの悪いもの」


 アイニが顔を逸らしたままそう言った姿を見て、グシオンは再度ワームの床に眼を向ける。


 しばらく眺め、グシオンは肩を跳ねさせて奇声を発した。


「む、虫か!? あの地面、全部!?」


 そう叫び、グシオンはダンジョンの奥の床を指差した。


 うねうねと蠢く、大量の細く小さな虫のようなモンスターでできた床。


 その光景に、グシオンが自分の首の辺りを掻きながら唸る。


「あぁ、気持ち悪い! スライムの次はワームかよ! 魔術でなんとか……」


 グシオンがそう言って振り返ると、地面に直接座り込んで息を整えている魔術士達は顔を痙攣らせた。


 そんな中でヴィネアだけは表情を変えずに口を開く。


「試しても良いが、途中で魔術が使えなくなって……」


「だぁあ! 分かったよ! 撤収だ、撤収! くそ! 次は魔術士を十人連れてきて……」


 グシオンは怒鳴り声を上げながらダンジョンから出ようと来た道を引き返す。


 そして、落とし穴に落ちた。


「ちょっ!?」


 慌てたアイニの声が響き、落とし穴の縁にグシオンの手があるのを見つけてヴィネアがホッと息を吐いた。


「ぐぉおおっ! このダンジョンを作ったやつは性格が超悪いぞ! 皆も気をつけろよ、くそったれ!」


 落とし穴の中からグシオンの怒鳴り声を聞き、ヴィネアが半眼で口を開く。


「私はお前の頭の悪さに吃驚だよ。勝手に上がってこい、馬鹿者」


 他の冒険者達が騒然とする中、ヴィネアは一人そんな文句を口にした。



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