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社畜ダンジョンマスターの食堂経営 〜断じて史上最悪の魔王などでは無い!!〜  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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二号店最初の客

「……なんでもう出来てるのよ」


 そんな台詞が聞こえ、俺は入り口に目を向けた。


 そこには、昼間だというのに大の大人をゴロゴロ引き連れた女の姿があった。


 小柄だが、雰囲気は落ち着いている。薄い青紫色の長い髪がかなり目を引く。


 それにしても、後ろに引き連れている男共もやけにアウトローな雰囲気を漂わせているが、これが極妻という奴なのだろうか。


「いらっしゃい。まだ開店はしてないが、暇だから食事を出しましょうか?」


 俺がそう尋ねると、女は眉根を寄せて俺を見た。


「……用心棒の人とお話しできるかしら?」


「用心棒? ああ、ウスルですか。ちょっと待っててください」


 女に言われて、俺は近くで雑巾片手に掃除をしていた二人の少女に声をかけた。


 長い耳を揺らした兎獣人のティナと、三角の耳をピョコンと立たせた猫獣人のミアだ。二人は種族が違うのに、わざとお揃いにしたように揃って髪が白かった。


「はーい」


 ティナが元気良く返事をして俺のすぐ側に走り寄り、ミアは無言で小走りに近づいてくる。


「ウスルを呼んできてくれるか? 待機室にいるはずだから」


「はーい! わっかりましたー!」


「行ってきる」


 俺の指示にティナは元気良く返事を返したが、ミアは妙な訛りのある返事をして俯いた。


 なんだ、行ってきるって……行ってKILL?


「間違えた……行ってくる」


 俺が首を傾げていると、ミアが顔を赤くしながら言い直し、パタパタと小走りに連絡通路へと向かっていった。


 厨房の奥の隠し扉の向こうへ消えるミアを見て、ティナが頬を緩ませて追いかける。


「むふふー。ミアったら可愛いんだからー! 待ってー」


 そんな謎のコメントを残して走り去ったティナの背中を横目に、俺は入り口の方で待つ極妻御一行に向き直った。


 極妻達は店内を物珍しそうに見回している。


 あの悪そうな奴らは恐らく、ウスルが口にしていた何とかという奴らだろう。


 組織の名前を忘れたが、後ろ暗い生き方をする者達に違いあるまい。


「今日は何の用で?」


 俺が尋ねると、女は目を瞬かせてこちらを見た。暫く俺の顔を眺め、静かに口を開く。


「……この店について話に来たのよ。勿論、この店のオーナーは姿を見せないでしょうけど、用心棒なら会えるでしょう? まあ、店を出しても大丈夫と伝えようと思ってきたんだけど、まさかもう出来てるとは思わなかったわ」


 女は呆れたようにそう答え、肩を竦めてみせた。


 どうやら、俺の事をただの従業員と思っているらしい。


 何故、飲食店のオーナーが姿を隠していると思っているのかは不明だが、知られずに済むならその方が良いか。


「なるほど。この店を出す許可ってことですかね? 誰がそんなのくれるんですか?」


 俺がそう質問すると、女は溜め息混じり首を左右に振って口を開いた。


「そんなの、この上にある倉庫の持ち主に決まっているでしょう? そもそも、貴方にこんな話をしても仕方ないわ。料理を用意してくれるなら、注文して良い?」


 女はそう言って近くにあった椅子に座った。


 四角い四人用のテーブル席である。


「はいはい。では少々お待ちを」


 俺は軽く返事を返し、厨房の中へ入った。


「注文を取ってきますか?」


 厨房の中に入ると、茶色の髪の少女、アリシアが俺にそう聞いてくる。


 少し垂れ目がちなアリシアの目を眺め、俺は頷いた。


「そうだな。料理の説明とかもしてくれるか? 後、俺が主人であることは内緒にな」


 俺がそう言うと、アリシアは少し緊張した面持ちで返事を返した。


 アリシアがメニューを持って食堂に向かうと、既にアウトローな男達も席に腰を下ろしていた。


「こ、こちらがメニューです」


 アリシアがそう言ってメニューを女に差し出すと、女はメニューを受け取って口の端を上げた。


「ありがとう。怖がらなくても大丈夫よ。私達は敵対しない相手に危害は加えないわ……まぁ、最初から緊張もしない人もいるみたいだけど」


 女はそう呟き、厨房にいる俺の方を一瞥した。


 いや、多分アリシアもお前らを怖がっているわけではないと思うが。


 俺がそんなことを思っていると、ティナとミアに連れられてウスルが歩いてきた。


「ウスル様が来ましたー」


「釣ってきた!」


 二人はそう言って俺の方へ向かってくる。


「え? ウスルを釣って……?」


 俺がそう呟いてミアを見ると、ミアは三角の耳を横向きに倒して俯いた。


「間違えた……連れてきた」


「おお、そうか」


 薄っすら頬を染めるミアの頭を撫でてそう言うと、ティナがミアに抱き付いて頬擦りをし始める。


 若干迷惑そうなミアの顔を眺めて、俺はウスルに視線を移した。


 無言で俺の指示を待つウスルを見上げ、食堂の方を指差す。


「お前の部下が来たぞ。食事を用意してやるから一緒に話をしてやってくれ。ああ、俺のことを聞かれたら料理人とでも言っておいてくれ」


 俺がそう口にすると、ウスルは浅く頷いて食堂へと足を向けた。


 と、そこで俺はウスルにまだ何を食べるか聞いていないことを思い出した。


「あ、そうだ。ウスル。何が食べたい?」


「……肉を」


「なんでも良いのか? どんな肉とかあるか?」


「……大きければ大きいほど良い」


「……あ、はい」


 俺の予想を超える注文が入り、俺は思わず低姿勢でウスルを送り出してしまった。


 なんだ、大きい肉って。Tボーンステーキじゃダメなのか?


 俺は悩みながらも目を閉じて、肉を想像した。


 よくあるグルメ雑誌の一ページだ。日焼けしたくどい顔の店主が、満面の笑みで巨大な肉を抱えている写真。


 店主自ら写真に写る場合、どうしてあんなに濃いキャラクターの奴らばかりなのか。ホテルの総料理長とかだと格好良いのに。


 いや、そんなことはどうでも良い。


 ウスルが驚く肉である。


 よし、くどい店主の顔より大きな肉にしよう。厚さ二十センチ。長さ三十センチ。幅も三十センチ。


 イメージが固まり、念じた。


「出来た」


 目を開けると、そこには巨大な肉の塊が現れていた。


 ……火が通らない気がするが、串に刺して炙るべきだろうか。


 俺は素材のまま用意してしまった肉の塊を前にして、途方に暮れてしまった。


「ごしゅ……料理長! 注文を取ってきま……!?」


 アリシアが注文用紙を片手にこちらへ来て、巨大な肉に気が付き立ち止まった。


 俺はアリシアに目を向け、口を開く。


「……これ、どうしたら良いと思う?」


「え? あ、えっと……切り分けて焼いたら……」


「そうだよな」


 俺の抽象的な質問にアリシアから至極まともな回答が返ってきたが、それでは面白くない。


「蒸し焼きしか無いか」


 俺はそのまま豪快に焼くという調理方法を諦め、フライパンを熱し始めた。


 一度表面を焼き、フライパンに直接肉が当たらないようにしてから、水を入れて蓋をする。


 厚みがあるので時間がかかるだろうが、仕方がない。


 俺がそんなことを考えながらフライパンを熱していると、アリシアやティナ、ミアの三人が目を丸くした。


「ご、ご主人様が料理を……」


「作るところを初めて見ました!」


「う、嘘……!」


 三人は大変失礼なことを口にして驚愕した。


 俺は半眼で三人を見つつ、アリシアから注文用紙を受け取る。


 とりあえず、飲み物から出すか。


 俺はそう判断して一気に全員分の飲み物を用意した。


 アリシア達が慌てて飲み物を配る中、俺は次の料理へと取り掛かる。


 肉は時間が掛かるからじっくりとやるとしよう。







「う、旨い! なんだ、このエールは!?」


「いや、この果実酒も……」


「かはっ! すげぇ酒精だ……!」


 驚きの声が無数に上がる中、フルーレティーが真剣な表情でグラスの中のオレンジ色の液体を注視する。


「……これ、本当にお酒じゃないのよね?」


「確か、ノンアルコールカクテル……でしたか? もし酒精が入っているようなら私が文句を言いましょう」


 フルーレティーがヤクシャとそんな会話をしていると、同席したウスルが二人を見下ろして口を開いた。


「……文句なら俺に言え」


 ウスルがそう口にすると、フルーレティーは半眼でヤクシャを睨む。


「つまり、黙っとけってことね」


 フルーレティーはそう呟き、グラスを持ち上げた。



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