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社畜ダンジョンマスターの食堂経営 〜断じて史上最悪の魔王などでは無い!!〜  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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業火の斧の脱出

「どうする? リーダー」


 ヴィネアに真面目な顔でそう聞かれ、グシオンは半眼で頭をひねった。


「あ〜…面倒くさい」


 グシオンはそう呟くと、ヴィネアを見た。


「ちなみに、あのスライムの巣を凍らせながら前進する場合、魔力はどれぐらい消費すると思う?」


 グシオンがそう尋ねると、ヴィネアは嫌そうに顔を顰めてグシオンを見上げた。


「…もう少し頭の良さそうな作戦は思いつかなかったのか…そうだな。私が後先考えずに凍らせながら進むなら、五十メートル程度進めたら良い方か。その代わり帰り道にモンスターが現れても、私は傍観することしか出来ないからな」


 ヴィネアがそう言うと、グシオンは溜め息を吐いて首を左右に振った。


「そりゃそうだろうな…仕方ない。今日は帰るか」


 グシオンがそう呟いて背後を振り返り、後方で待つ仲間達を見ながら口を開く。


「今日は中止だ! 戻る…」


 グシオンが言葉を発しながら足を出口の方へ向け、一歩踏み出した途端、今まであったはずの地面が落ち、人一人分程度の大きさの丸い穴と化した。


 音も無く、グシオンが落とし穴へと吸い込まれていき、近くにいたアイニとヴィネアが目を剥いて驚愕する。


「グシオンッ!?」


「そんな!」


 二人が悲鳴に近い声で絶叫すると、グシオンが飲み込まれた落とし穴を振り返った。


 すると、その中からビブラートのかかったグシオンの唸り声が響いてくる。


「ぬぅ…ぐぐ、ぐぐぐ」


 グシオンはヴィネア達のいる床から下がること二メートル程度の穴の中で手足を伸ばし、気合いを込めて踏ん張っているところだった。


「だ、大丈夫かい!?」


「アイニ! 早くロープ!」


「あ、ああ!」


 穴の上では二人が慌ててグシオンの救出に動いているが、グシオンは天井を見上げると、真っ赤にした顔に皺を寄せて笑みの形を作った。


「は、はっはっは! このダンジョンを作ったヤロウは相当性格が悪いぞ! 皆、一歩も下がるなよ!? 出口に向かって一歩でも歩けば落ちるぞ!」


 グシオンは大音量でそう叫ぶと、歯を食い縛って四肢に力を込め、安定したことを確認すると右手を壁から離した。


「ロープをくれ!」


「分かってるよ!」


 グシオンが声を荒らげてロープを催促すると、急かされたアイニが怒鳴り返しながらロープを取り出し、落とし穴の中へと落とした。


 グシオンはそのロープを掴むと、両手で手繰り寄せるようにして一気にロープを登っていく。


「う、うわわわっ!?」


「ヴィネア! 逆に引っ張られてるよ!」


 落とし穴の上で二人が悲鳴混じりに必死にロープを握っていると、グシオンはあっという間に上まで登り切った。


 落とし穴の縁に両肘を乗せ、ぐっと身体を持ち上げるグシオンを横目に、ヴィネアとアイニはガニ股になって背中を丸め、荒くなった呼吸を整えている。


「き、筋肉馬鹿め…逆に落とし穴に落とされるかと思ったぞ」


 ヴィネアが目を吊り上げて文句を言うと、グシオンは軽く笑って落とし穴から這い出た。


「いや、助かった。後で生ビール奢るわ」


「シャンパンとかいうヤツがいい」


「それ、めちゃくちゃ高いやつじゃなかったか?」


 九死に一生を得たグシオンとヴィネアがそんな会話をしていると、遠くでその様子を眺めていたサヴノックが口を開いた。


「…しぶとい奴だ」






 業火の斧は、いまや行きつけとなった地下にある隠れ家風の食堂で早めの夕飯にありついていた。


「危なかったわー。マジで死ぬかと思ったわー」


 グシオンが軽い調子でそんなことを言いながら生ビールを喉に流し込むと、アイニが眉根を寄せて頷いた。


「侵入を拒むわけじゃなく、出ようとしたら発動する罠なんて初めて聞いたね」


「…意図が分からん」


 アイニの言葉に、サヴノックが焼き魚を食べながら呟く。


「いや、性格が悪いんだよ。単純に。絶対そうだって」


 生ビールを飲み終わり、口元に白いヒゲを作ったグシオンがそんなことを大声で言った。


「ちょっと、五月蝿いよ。ほら、店主が凄い怖い顔で睨んで…うわ、店主ってよく見ると凄い男前じゃない? ねぇ、ヴィネア」


「…な、何というきめ細やかな刺激と爽やかな味わい…段違いの華やかさだ…!」


「ダメだ…まだシャンパンの感想言ってる…」


 ギャアギャアといつも通り騒ぐ業火の斧の食事会に、食堂で給仕をするメイド姿の少女達がチラチラと視線を送っていた。


 そんな中、ロアだけは難しい顔でカクテルグラスを見つめている。


 静かなロアの様子に気がついたグシオンが、顔よりも大きなドンブリを両手に持って口を開いた。


「ロア、何してんだ。北国ミソラーメンとかいうのメチャクチャ美味いぞ? 食うか?」


 グシオンがそう言って笑うと、ロアは困ったように笑いながらグシオンに顔を向ける。


「あ、すみません。罠とスライムについて考えていました」


 ロアがそう返事をすると、グシオンが顔を顰めてドンブリをテーブルに下ろした。


「くそ真面目だな。食う時は食う! 遊ぶ時は遊ぶ! 本気出すのは、食う、寝る、遊ぶだけで良いんだよ!」


 グシオンがそう言ってカラカラと笑うと、サヴノックが溜め息を吐いて首を左右に振った。


「…それだから、他のメンバーが大変なんだ」


 サヴノックはそう呟くと、ロアに向き直り、口を開いた。


「罠は徐々に判別がつくようになる。スライムの巣は…氷系の魔術士がいないかギルドで探してみることにしよう」


 サヴノックがグシオンの代わりにそう答えると、ロアは破顔して頷いた。


「お願いします、サヴノックさん!」


 ロアの元気な返事を聞き、サヴノックは鷹揚に頷いた。


 その二人の様子を眺めて、アイニが苦笑する。


「どっちがリーダーなんだか…」








【アクメ視点】


 開店と同時に来た業火の斧の面々。


 時間がまだ早いため、業火の斧とその関係者達以外に客はいない。


 業火の斧の面々が宴会騒ぎするのは、ある意味いつも通りといった光景だが、喋っている内容は問題だらけな内容である。


 ダンジョンに入ったのは知っていたが、まさかもうスライム水槽に到達するとは。


 しかも、不用意に水に飛び込まずに氷の魔術でスライムを凍らせたらしい。


「…困ったな」


 俺は想定外の事態に小さく独りごちた。


 正直、こんなに早くスライム水槽に到達出来るとは思っていなかった。


 しかも、既に攻略の糸口を見つけてしまっている。


 このままだとミミズプールもあっさりと攻略されてしまうかもしれない。


 最長でも十年。


 これまでのダンジョンマスターが作ったダンジョンは、全て十年以内に攻略されてしまっているという。


 その情報が、俺の頭の中で何度も反芻され、俺は何回目かも分からない溜め息を吐いた。


「あ、あの、ご主人様?」


 と、追加注文を取ってきたケイティがすぐ近くで俺を見上げていた。


 俺はケイティから注文の紙を受け取るが、ケイティはまだ俺を見上げたまま動かずにいた。


「ん? なんだ?」


 そう尋ねると、ケイティは真剣な目で顔を上げた。


「…大丈夫です。私が守りますからね」


 ケイティは鼻息も荒くそんなことを言って、ぐっと両手を拳の形に握る。


 ケイティの頼もし過ぎる台詞に、俺は思わず笑いそうになったが、ケイティがあまりに真剣な表情をしていたため、なんとか堪えることにした。


「あ、ありがとな、ケイティ…ぷぷ」


「あー! なんで笑うんですか!」


 我慢出来なかった俺は、結局ケイティに怒られた。



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