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社畜ダンジョンマスターの食堂経営 〜断じて史上最悪の魔王などでは無い!!〜  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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ボス、フルーレティーの困惑

 白い煙を吐きながら、ウスルはソファーに座ったまま視線を下げた。


 その白い煙の濃さに、フルーレティー達は目を丸くしながら地べたに跪いている。


「…こんなアッサリ組織を奪われちゃうなんて」


 フルーレティーがそう呟くと、ヤクシャが悔しそうに唸った。


 手痛い一撃を受けたのか、ヤクシャの顔が大きく腫れている。


 肩を震わせ、なんとか倒れないように身体を支えているだけのヤクシャを横目に、ウスルは首を傾げた。


「…別に組織はいらないが」


 ウスルがそう呟くと、血と鉄の蛇の面々が固まる。


「ちょ、ちょっと待ってくれよ。従えっつったじゃねぇか」


 ウスルの一言にスレーニスが思わずそう言うと、ウスルは首を反対側に傾げて唸った。


「ふむ…俺の下につくならそれで良い」


 ウスルがそう告げると、倉庫内にざわめきが満ちた。


「ど、どういうこった」


「組織はそのままで、ボスの上にまたボスができるみたいなことか?」


「お前は黙ってろよ。頭がこんがらがっちまう」


 男達がそんな会話をする中、難しい顔をしたフルーレティーがウスルを見上げる。


「…私達は何をしたら良いの?」


 フルーレティーがそう尋ねると、ウスルは眉間に皺を寄せて壁の方に目を向けた。


 壁際には顔に布を巻いたままのレミーアが立っており、その近くには手足を縛られ、猿ぐつわを噛まされたアルーの姿があった。


 レミーアはアルーを横目に見つつウスルの側へ向かい、声を小さくして何かを告げる。


 レミーアが離れると、ウスルが小さく頷いてから口を開いた。


「…新しい店を出すから、根回しを手伝ってくれ」


 ウスルがそう言うと、暫く誰も言葉を発さなかった。


 そして、ヤクシャが信じられないものを見るような目でウスルを見上げる。


「……み、店を出すから、近くにいた私達を部下にすることにした、と?」


 ヤクシャがそう聞くと、ウスルは無言で頷いた。


 堪らず、フルーレティーが顔を上げる。


「み、店なら好きに出しなさいよ! 私達は無関係でしょ?」


 フルーレティーがそう言うと、レミーアが小走りにウスルのもとへ向かい、また何事かを耳打ちした。


 レミーアが離れ、ウスルは静かに頷く。


「…少し、事情がある。だから、この近くで衛兵に見つからない場所で店を出す。良い場所は無いか?」


 ウスルがそう言うと、スレーニスが眉間に皺を寄せた。


「…どっかの食堂の用心棒とか聞いた気がするんだが」


「食堂…な、何を食べさせるんだ? ひ、人か?」


「おいおい、人肉は…」


 スレーニスの呟きに其処彼処から妙な推測が飛び交う中、フルーレティーは溜め息とともに頷いた。


「……いいわ。この組織がそのまま残るなら、協力しましょう。場所ならこの倉庫以外にも二箇所、人が寄り付かない所があるから、そっちを使っても…」


 フルーレティーがそう言うと、ウスルが口を開く。


「…この近くか?」


「え? いえ、貧民街と北の城壁付近に…」


「…ではダメだ。倉庫街が良い」


「こ、此処?」


「此処だ。此処の地下に作る」


「…………地下?」


 フルーレティーはウスルとやり取りしていく中で、一つの単語に反応を示した。


 暫く考え込むように俯き、暫くしてフルーレティーは顔を上げる。


「……分かったわ。この場所を明け渡しましょう。ちなみに、食堂を開くなら店を作るための資材や、料理を作る為の仕入れが必要になると思うけど?」


 フルーレティーがそう尋ねると、ウスルは眉根を寄せてモーブを吸った。


 その様子に男達が体を硬直させる中、フルーレティーは目を細めてウスルの様子を窺っていた。


 程なくして、ウスルは静かに頷く。


「…主に聞いておこう」


 ウスルがそう答えると、フルーレティーは細い息を吐いて顎を引いた。






「むーっ」


 暗い街中。


 月が隠れてしまい、灯りが無ければ一寸先すら見通せないような暗闇。


 そんな闇の中を、ウスルとレミーアが走っていた。


「むーっ」


 モーブを咥えたまま、肩にアルーを担いだウスルと、その前方を走るレミーア。


 レミーアは時折後ろを振り返り、ウスルに担がれたアルーの姿を見ていた。


 目隠しもされてしまったアルーが不満そうに唸り声を上げるが、二人は止まる気配も無く夜の街中を走っていく。


 少しして、先を行くレミーアが立ち止まった。


「…ここか」


 ウスルがそう口にすると、レミーアが頷いて目の前にある大きな館を見上げた。


「キメイリエス伯爵家。その子の家よ」


 レミーアはそう言うと、通りを見回し、端の方に落ちていた拳ほどの石を拾ってきた。


 そして、片手で石を館に向かって投げつける。


 石は風を切る音と共に館の中心ほどに衝突し、辺りに木霊するような破裂音を残して砕け散った。


 館の壁には大きなヒビが広がっている。


「…窓狙ったんだけど、まぁいいか」


 レミーアはそう言うと、朗らかに笑い、両手を天に向かって背伸びをした。


「…はぁ。スッキリした」


 俄かに騒がしくなっていく伯爵家を眺め、レミーアは嬉しそうにそう呟き、ウスルからアルーを受け取った。


「むーっ!?」


 アルーが妙な声を出して何かを訴えたが、レミーアは気にした素ぶりも見せず、館の門の隣の壁にアルーを寝かせた。


 ウスルに片手でジェスチャーを出し、レミーアとウスルは一旦その場を離れる。


 暫く二人が様子を見ていると、伯爵家の館の門から十人ほどの兵士が出てきた。


 そして、壁際に転がされたアルーに気がつき、慌ててアルーの拘束を解く。


 その様子を確認し終えたレミーアは、ウスルを振り返って笑った。


「帰りましょう」


「…ああ」


 レミーアの台詞にウスルは頷いて返事をし、二人は闇に消えるように夜の街から姿を消した。







 太い葉巻きらしき物を咥えたウスルと、どこか上機嫌なレミーアが帰宅し、俺は片手を上げて二人を迎えた。


 場所は食堂だが、もう少女達は就寝している。


「お帰り。あ、此処は禁煙だぞ、ウスル」


 俺がそう言うと、ウスルは無表情ながら少し背中を丸めて葉巻きの火を手のひらで消した。熱くないのだろうか。


「それで、場所は大丈夫か?」


 俺がそう尋ねるとウスルが頷き、レミーアが口を開いた。


「はい。場所は倉庫の地下で大丈夫です。後は、資材や仕入れに噛ませてほしいといったことを言っていましたが」


 レミーアの報告を聞き、俺は首を捻りながら唸る。


「ん? そうか、仕入れか…店は実は前からあったということにしてれば良いが、仕入れが全く無いのは変か。今はまだそういう流れに詳しい商人が来てないから良いが、いずれそんな客も来るだろうな」


 俺はそう呟きながらテーブルの反対側に座るエリエゼルとフルベルドを見た。


「どう思う? とりあえず、其奴らを使って仕入れをして、仕入れた食料はサンダーイールの餌にするか?」


 俺がそう尋ねると、エリエゼルは口元に指を当てて可愛らしく微笑んだ。


「…そうですね。確かに、最近はあの子達のご飯がやってきませんし、暫くはそんな形で良いかもしれませんね。私としては、目端の利く商人が来たなら暗殺するに限ると思いますが…」


「ダメだろ。それで衛兵が調査に来たらもっと面倒なことになりそうだし」


 俺はエリエゼルにそう返事を返すと、フルベルドが浅く頷いてエリエゼルを見る。


「そうですね…私としましては早々にそういった者達を我が眷属にしてしまえば…」


「仲間に引き込むってか? それも却下。二人の案は最後の手段としよう」


 俺はそう言って、ウスル達に視線を戻した。


「まあ、何にしてもお疲れ様。食事は何がいい?」


 俺がそう尋ねると、二人は顔を上げて俺を見た。


「…肉を」


「あ、わ、私はまだ食べたことがない甘いものがあれば…!」


「はいよ」


 俺は笑いながらそう言って、料理を用意した。


 ウスルの前には分厚いステーキを食べ放題のように山盛りにし、レミーアの前にはイチゴの乗ったパフェを置く。


 二人が目を輝かせて食事をする様を眺めながら、俺は二号店の構想を練っていた。


「どんなのがいいかな」


 今度は店の雰囲気を思い切って和風にしても良いだろうか。


 いや、流石に怪しまれるな。


 イギリスのパブ的な店も憧れるが、逆にこの世界ならば普通だろうか。


 新しく店を作ることを想像するのが一番楽しいな。


 俺はそんなことを考えながら、一人笑みを浮かべていた。



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