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社畜ダンジョンマスターの食堂経営 〜断じて史上最悪の魔王などでは無い!!〜  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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Bランク冒険者の力を…あれ?

 分厚い大剣を肩に乗せるように片手で構え、白い髪の男は空いた手を開き、顔の前に持ち上げて構えた。


 ウスルは煙を吐きながらその様子を眺めて、唸る。


「…見たことの無い構え方だ」


 ウスルがそう呟くと、白い髪の男は鼻を鳴らした。


「我流だよ。でもな、たとえどんな攻撃が来るか知っていても反応なんて出来ねぇぞ? 俺の剣はシルバーウルフだって避けられないんだからな」


 白い髪の男がそう言うと、ウスルは口の端を上げた。


「…銀狼は斬れても、緋髪の狼が斬れるとは限らないが」


 ウスルがそう呟くと、白い髪の男は獰猛な笑みを浮かべて地面を蹴った。


「黙って死んでろよ!」


 白い髪の男は怒鳴ると同時に一足飛びにウスルへ接近した。


 真正面からウスルに向かった男は空いた手を剣の握りと柄頭の間を叩くように握り、勢いをつけて上から斬りつけた。


 しかし、大剣の剣先を見失うほどの速度で振り下ろされた大剣はウスルに掠りもせずに床へと吸い込まれた。


 剣を床に振り下ろすような格好になったというのに、地面を抉るような衝撃音が倉庫内に響き渡る。


 それを見て、地面に突き刺さった大剣のすぐ隣に立つウスルは眉根を寄せて煙を吸った。


「…斬れ味はあまり良くないな」


 ウスルがそう口にすると、白い髪の男は奥歯を音が鳴るほど噛み締めて顔を上げた。


「たまたま避けられたからって舐めるなよ」


 男はそう言うと、大きなモーションも無く地面に突き刺さった大剣をウスルの方向に向けて切り上げた。


 地面に刺さっている上に大重量の刀身の大剣を素早く切り上げた男を見て、ウスルは手のひらを添えて大剣の進行方向を変えながら白い煙を吐いた。


「…中々の膂力だ。握力も手首も強い」


 ウスルがそう言って男の身体能力を褒めると、男は顔を歪ませてウスルを睨んだ。


 男は持ち上がった剣先をそのまま、今度は肘を曲げて素早く袈裟斬りに斬りつけた。


 それをウスルがモーブを片手に捌くと、男はその行動を予測していたかのように迷いなく両足を広げて重心を下げ、今度は下がって剣先を斜め横向きにしてウスルの横腹目掛けて薙ぎ払った。


 その剣を後ろに下がって避け、ウスルは白い煙を吐く。


 すると、怒りに顔を紅潮させた男が、剣を構えなおしながらウスルに怒鳴った。


「避けるのだけは上手いじゃねぇか! それで、攻撃してこないのは隙を作るのが嫌だからか? なぁ、腰抜け!」


 男が挑発混じりに声を荒らげると、ウスルは首を軽く左右に振った。


「…いや、狼を斬ったと聞いたから、どれほどのものか見たかっただけだ…もう底は知れた。次からはこちらも手を出そう」


 ウスルが煙を吐きながらそう告げると、男は目を血走らせて大剣を斜め下に構えた。


「ば、馬鹿にするんじゃねぇ!」


 男がそんな声を上げて剣を振ると、剣は淡く白い光を放ちながらウスルに迫った。


 その速度は明らかに先程までよりも速く、常人ならば分厚い大剣ではなく光の軌跡だけが視界に写るほどの驚異的な速度である。


 しかし、その高速の切り上げは、ウスルの右手一つによって防がれた。


 素手で挟むようにして無造作に大剣の刃を掴むウスルに、攻撃を加えた筈の男の方が目を剥いて動きを止めた。


 大剣を片手に掴んだまま、ウスルはモーブを一吸いし、白い煙を吐く。


「…中々良い戦いだった」


 ウスルはそう呟くと、呆然としたまま動かない男の腹の辺りを左足で蹴り抜いた。


 鎧があるとはいえ、人体を蹴ったとは思えない激しい音を立てて男は吹き飛ばされ、倉庫の壁に衝突して地面へと落下する。


 ウスルは手元に残った大剣を眺め、片手で握り直した。


「…ふむ。中々良い剣だ」


 ウスルはそんな言葉を呟いて大剣を片手で二度三度と振ってみせる。


 その素振りの轟音に、白い髪の男と一緒に倉庫へ入ってきた他の男達が息を呑んで両手を上げた。


 意味は定かではないが、何も持たずに両手を上げる男達を眺めて、ウスルは鷹揚に頷いたのだった。






 ウスルが食堂のことを軽く話し、地べたに座ってウスルを見上げる聴衆のような格好となった血と鉄の蛇のメンバーを眺め、再度質問を投げかけた。


「…それで、俺の下に付くか? それとも、抵抗してみるか?」


 ソファーに座った状態のウスルがそう口にして白い煙を吐くと、恐る恐るといった様子で、頬に傷の入った四十ほどの男が口を開いた。


「はぁ…ちょいと質問をしても…?」


「…なんだ?」


 ウスルが静かに聞き返すと、視線を向けられた男は唾を飲み込みながらなんとか質問を口にする。


「あ、えっと…ウスルの旦那は、その食堂の用心棒ってことなんですかい?」


 男がそう尋ねると、ウスルは首を少し傾げて曖昧に頷いた。


「…そのようなものだ」


 ウスルがそんな返事をすると、男は愛想笑いを浮かべながら頷いた。


「そんじゃあ…その食堂は黒い血の悪魔かブラッズ盗賊団の隠れ家ってことですか」


 男がそう呟き、ウスルは頭を捻る。


「…なんだ、そいつらは」


「へ?」


 ウスルが眉を下げてそう言うと、男達は騒めいてウスルを見た。


「え? し、知らないんですかい? 王都内でうちらと並ぶ三大組織なんですがね…」


 頬に傷のある男がそう尋ねると、ウスルではなく、近くにいた若い男がハッとした顔で口を開いた。


「あ、ああ! わ、分かった! ウスルの旦那は、大貴族に雇われてるんじゃ…!?」


 若い男がよく通る大声でそう叫ぶと、頬に傷のある男が眉間に皺を作って若い男の頭を叩いた。


「馬鹿か、お前! 貴族の偉い奴がなんで食堂作るんだよ!」


「痛…っ! いや、食堂を隠れ蓑にして何か悪いこと考えてんですよ! だから、マジでSランク冒険者みたいに強いウスルの旦那みたいな用心棒を…」


「そんなことするなら俺達を部下にしようなんてしねぇよ! ただでさえ最近は馬鹿な新人がよく捕まってるってのに…」


 と、ぎゃあぎゃあと言い合う二人を見て、ウスルは背中をソファーに押し付けて白い煙を吐く。


「…Sランクか。面白い…」


 ウスルがそう言って微笑を浮かべていると、壁の方で倒れたままだった白い髪の男が上半身を起こした。


 そして、ウスルと、ウスルに対して服従するように座っている仲間達を見て、男は舌打ちをした。


「…くそ、なんだってんだ」


 男がそう口にすると、ウスルは顔を上げて男を見た。


「起きたか」


 ウスルがそう言うと、白い髪の男は腹を片手で押さえながら立ち上がった。


 ウスルの方へ歩いてくる姿は、肩は下がり背も丸まり、足は片足を引き摺るようにして歩く痛々しいものだった。


 しかし、その眼は鋭くウスルを見ている。


「…あんた、他所の国を拠点にしてるSランクとかじゃねぇだろうな?」


「いや…国は違うが冒険者ではない」


 男の質問に最低限の答えを返すと、ウスルはモーブを深く吸い込んだ。


 その様子を呆れたように見て、男は口を開く。


「…何から何まで規格外な野郎だ。おい、お前ら。ボスになんて説明する気だよ」


 白い髪の男がそう言って地面に座った男達を見ると、男達はバツが悪そうにお互いの顔を見合わせた。


 ウスルは顔を上げて、白い髪の男に目を向ける。


「…お前がボスじゃないのか」


「バカ言え。俺みたいな力くらいしか自慢出来るもんがねぇ奴が組織なんか動かせるかよ」


 白い髪の男は特に自分を卑下した様子も無くそう言った。


 それを見て、ウスルは軽く頷く。


「…そうだな」


「馬鹿にしてんのか、こら!」


 ウスルの返答に白い髪の男が怒鳴り返すと、慌てて地面に座ったままの頬に傷のある男が口を開いた。


「ま、まあまあまあ…! と、とりあえず、ボスは今日の夜には戻るんだ! よ、良かったら旦那、ちょっと此処で一緒にボスを待っちゃくれねぇかい? 俺達が説明しても分かってもらえるとは…」


「…そいつは強いのか?」


「へ?」


 男の頼みに対して、ウスルはマトの外れた返事を男にし、男は困惑した様子で首を傾げる。


 そして、すぐに質問の意図を理解したのか口を開いた。


「あ、いや、ボスは戦闘ははっきり言ってあっしらと同等くらいでさ。ただ、ボスの警護隊の四人はそれなりに…ああ、でもスレーニスよりは弱いか」


「…誰だ。スレーニスというのは」


 頬に傷のある男の台詞にウスルが質問をすると、白い髪の男が仏頂面で自分を指差した。


「俺だよ」


「…お前か」


「なんで残念そうなんだよ!」


 スレーニスを名乗る男はウスルの僅かな表情と声質の変化に敏感に反応して文句を言った。


 ウスルは白い煙の溜め息を吐くと、モーブを握り潰してソファーから立ち上がった。


 スレーニスも含めて皆が思わず背を震わせる中、ウスルは静かに口を開く。


「…俺は帰る…夜にまた来るとしよう」


 ウスルがそう言うと、地面に座った男達が口を開いた。


「お、お疲れ様でしたぁ!」



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