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社畜ダンジョンマスターの食堂経営 〜断じて史上最悪の魔王などでは無い!!〜  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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常連さん

「っ! 美味い! これは美味いぞ!?」


「知ってるよ。私はもう食べた」


「なんで教えてくれないんだよ?」


「俺はこっちのが美味しいと思うぞ」


「私はお酒が凄い美味しいからなんでも美味く感じるけどね」


 そんな声がいつもの席から聞こえてくる。


 そう、あの十人の冒険者達だ。


 なんと、初来店の次の日にまた来て、しかも人数が二十人になってきた。


 そして、今日で三日連続食事に来ている。


「お、美味しい…」


「だろ! 俺の一番オススメだよ、そのグランドプレミアムハンバーガーってやつ」


「グシオンさん! この刺身定食ってどうですかね?」


「ああ、新鮮な魚の切り身って奴か。まだ誰も試してないんだよ。説明見ると生の魚って書いてるからさ。ヒラメとカンパチ、マアジの刺身って書いてるが聞いたことの無い魚だしなぁ」


「その近くにある焼き魚定食が美味いぞ。ハイボシとかいう魚を使っているらしい。聞いたことが無かったが、セキアジのハイボシは驚くほど美味しかった」


「サヴノック、二回食べたもんな」


 そんな賑やかな冒険者達の会話を聞きつつ、俺は手狭になってきた感のある食堂を見渡した。


 あの冒険者達は、どうやら業火の斧とかいう有名なパーティーらしい。


 一際賑やかな赤い髪の男、グシオンがリーダーを務める十人全員がAランクとかいう凄いパーティーとのことだ。


 そして、新たに増えた十人はこの前冒険者ギルドにて業火の斧が人材募集を行い、臨時で雇われた面々だという。


 全て他の冒険者の客の会話を盗み聞きして得た情報だ。


 噂では、そろそろダンジョンの攻略に乗り出すと聞いている。


「ナナ、このピンク色のワインが欲しい」


「ロゼか。お代わりだな」


「あ、すみません! 芋焼酎追加で! あ、あと塩唐揚げも!」


「かしこまりましたー!」


 見る限り、そのような緊張感は感じられないが。


 業火の斧のメンバーが食堂に来た次の日から、ダンジョンへ挑む者はパッタリと姿を消した。


 どうやら、国からの依頼で凄腕冒険者である業火の斧に攻略を依頼したため、無駄に犠牲を出さないようにダンジョンへ足を踏み入れることを禁じたらしい。


 まあ、毎回国の兵士達がバンバン死んでサンダーイールちゃん達の餌になっていたのだ。


 金が掛かっても冒険者に依頼した方が良いと結論付ける気持ちも分からんでもない。


 だが、本当にあのグシオン達に任せて良いのだろうか。


 こっちとしては攻略される側だから良いのだが、どうも緩い空気に毒気を抜かれそうになる。


「まあ、俺を殺す気ならば返り討ちにするけどな」


 俺は口の中でだけそう呟くと、追加注文の準備を始めた。





 結局、ピアノもしっかりと楽しみ、大満足で業火の斧のメンバーは帰宅した。


 ゆったりと客のいなくなった食堂でエリエゼルと酒を呑んでいると、居住スペースからフルベルド、ウスル、レミーアの三人が姿を見せた。


「お疲れ様です、我が主」


 フルベルドがそう言い、俺は軽く返事を返して三人の酒を用意してやった。


 俺は生ビール。エリエゼルが白ワイン。フルベルドはカルーアミルク。ウスルはテキーラ。レミーアは巨峰ハイである。


「乾杯」


 俺が一言そう言って皆で酒を呑み、ゆったりと余韻に浸る。


 すると、エリエゼルが俺を見て口を開いた。


「ご主人様、何か考えごとですか?」


 エリエゼルにそう言われ、食堂を掃除する少女達からエリエゼルに視線を戻す。


「ああ。最近、客が増えてきたからな。店を広げようか悩んでいてな」


「ほう。我が主の城がまた拡大されるわけですか。めでたいことですな」


 俺のセリフにフルベルドが一番に反応を示した。


「そうですね。ただ、既に常連と呼べるお客様が多くいらっしゃいます。ですので、急に地下の店が広がったら怪しまれてしまうかもしれません」


 エリエゼルにそう言われて、俺は腕を組んで唸った。


「そうか…じゃあ、このまま席の数だけ客を受け入れるか」


 俺がそう呟くと、レミーアが首を傾げて俺を見た。


「アクメ様の力なら、単純に二つ目の食堂をお作りになられるのでは?」


「ん?」


 レミーアの台詞に、俺は思わず生返事を返した。


 二つ目の食堂?


 と、いうことは、二店舗の食堂のオーナーか?


「良いな、それ」


 俺は思わずレミーアにそう言って笑った。


 すると、エリエゼルが大きく頷いてこちらを振り向く。


「確かに…それならば、ある意味の避難経路も作りやすいかもしれません。あまり離れ過ぎない距離に作り、連絡通路を作る。そして、その通路の中心にダンジョンへの入り口を作れば…」


「良いですな。ダンジョンとバレるリスクは増しますが、もしもバレた際に地下へ避難するのは楽になります」


「どちらか片方にしか俺はいないからな。そういう意味でも確率的に脱出が容易になる」


「…その連絡通路とやらに俺の部屋を作ってくれ。そうすれば、いざという時に俺が戦ってご主人を逃すことが出来るだろう」


「なるほど。ならば、夜はその部屋で私とレミーアが番をするとしますか。昼間はウスル、夜は私達…中々の布陣ですな」


 どんどん構想が決まっていき、俺は無意識に笑みを浮かべていた。


 カモフラージュのために始めた食堂が、今では趣味になっていた。


 それがまさかの二号店だ。


 素直に楽しい。


「よし、もう一回乾杯しよう。酒は…あ、エリエゼル。コーラを使った酒があるぞ」


「な、なんですって?」


「ラムコークだ」


「頂きましょう」


 俺はエリエゼルにラムコークを用意し、次にフルベルドを見た。


「お前にはホワイト・ルシアンだ。カフェオレとは少し違うが、コーヒーの風味がある甘いカクテルだぞ」


「おお、興味深いですな」


 俺がカクテルを用意すると、フルベルドは嬉しそうに目を細めた。


「ウスルは度数高いのが好きだったな」


「喉が熱くなるようなのが好きだ」


「それじゃ、スピリタス。これ以上アルコール度数の高い酒は無いからな。最初は舐める程度にしてみろよ?」


「ほう…それは良い…」


 スピリタスの入った小さめのグラスを見たウスルは、片方の口の端を上げてグラスを手に取った。


 最後にレミーアに視線を向ける。


「お前はフルーツカクテルだからな。基本に立ち返ってスクリュードライバーでどうだ?」


「す、すみません。聞いたことが無いお酒で…」


「ああ、そりゃそうか。まあ美味しいから飲んでみな」


「は、はい。ありがとうございます」


 そう言って、レミーアはスクリュードライバーの入ったグラスを受け取った。


 俺は自分用に少々奇抜な色合いのパッケージをしたシャンパンを用意して、皆を見る。


「二号店、上手くいきますように。乾杯」


「乾杯」


 俺の乾杯の言葉を聞き、皆が一斉に酒を呑んだ。


 俺もよく冷えた辛口のシャンパンを呑む。


「美味しい」


「美味しいですね」


「ふむ、本当にコーヒーの香りが…」


「…もう一杯あるだろうか」


「あ、美味しい…」


 俺達はそれぞれが酒の感想を述べ、笑い合った。


 ウスルがスピリタスを一気飲みした時は目玉が飛び出しそうなほど驚いたが、皆満足そうで何よりである。


「それにしても、乾杯の言葉はもう少し他の言葉が良かったような…」


「いや、新しい店を出すならこの挨拶だろ?」



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