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社畜ダンジョンマスターの食堂経営 〜断じて史上最悪の魔王などでは無い!!〜  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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ダンジョンマスターの手料理を食べる冒険者達

「じゃ、そんな感じで」


「はい、分かりました!」


 注文を受けたケイティがこちらに戻ってくる。


 ケイティはメモした注文を俺と一緒に見ながら読み上げた。


「えっと、唐揚げ定食二つ、ハンバーグ定食三つ、ステーキセット一つ、肉うどん二つ、ラーメン餃子セット一つ、モツ鍋セット一つ、カレーライス一つ、クラブサンド一つ、麻婆豆腐単品一つ、トンカツ単品一つ、カルボナーラ一つ、トマトソースのベーコンピザ一つ…」


「…ちょっと待て、あいつら十人だよな? 俺の目がおかしいのか? 人数分なのは飲み物だけじゃねぇか」


 メモを見て俺がそう言うと、ケイティは乾いた笑い声を上げて頷いた。


「大食いさんですね」


「いや、女もいるだろうに…一人三品、いや四品か」


 俺は長々と続くメモを見てそう呟いた。


 以前来た兵士の集団を思い出すが、多分それ以上の注文である。


 量を知らないんじゃなかろうか。


「とりあえず、飲み物と皆で食べられるやつを出しておくか。テーブルに乗らないし」


 俺はそう言ってケイティのメモを見つつ料理をピックアップしていった。


 ちなみに、読み書きできるだけでも意外だと思っていたが、ケイティは字が上手い。


 奴隷少女の内の半数は字が読めるし、三分の一はそれなりに書くことも出来た。


 字が上手いのはケイティとソニア、ナナ、ピッパだ。なので、注文はケイティとナナ、ピッパが受ける。


 後は人が多い時だけ、それなりに読める字を書くアリシアとエミリーも注文を受けに行くことがあるか。


 他のメンバーは料理を運んだり片付けたりしている。


 ちなみに、教養はレミーアが一番ありそうだったが、字は下手くそである。


「さて、飲み物は皆アルコール入りか。上手くダンジョンの話でもしてくれると良いが…まあ、こんなところで話したりしないか」


 俺はそんなことを思いながら飲み物が乗った配膳台を用意した。


 あんまりにも注文が多い時のために準備していたのだ。


「とりあえず、酒とピザだ。持っていってくれ」


「はい、分かりました」


 そう言って、ケイティは配膳台を押して冒険者の下へ向かっていった。


「お、やっと来たな」


「なんだ、まだ一つしか来てないぞ」


「私はお酒があるなら良いかな」


「…腹が減った。店主に唐揚げ定食とやらを急ぐように言ってくれ」


「あ、ずりぃ」


 冒険者も十人揃うと姦しい。


 ぎゃあぎゃあと文句やら何やら言う冒険者達を眺め、俺は目を細めた。


 二分か三分でピザと飲み物が来てなんで遅いんだ。


 俺はそんなことを考えながら、急いで唐揚げ定食の用意をした。





「いやぁ、本当に美味いな、この店!」


「お酒も料理も美味しいわ」


「意外と量もしっかりあったしね」


「…後、天ぷら定食」


「はい、分かりました」


 恐ろしいことに、奴らはペロリとあの大量の料理を食してしまった。


 そして今、ケイティは追加の注文を受けている。


 まだ三十分も経ってないのだが…。


 もし違和感を持たれたり何かに気付きそうになったらピアノの演奏で誤魔化そうと思っていたのだが、あまりの食べっぷりにエリエゼルも目を丸くして呆然としている。


 アルコールもそれなりに入ったからか、会話も弾んでいるし、問題は今のところ無いが。


 そんなことを考えながら料理を用意していると、冒険者達は次の話題へと移行していた。


「それで、明日から準備?」


「いつ攻略開始するんだ?」


 そんな質問を受けて、赤い髪の冒険者が口を開いた。確か、グシオンとかいったか。


「明日は冒険者ギルドに行って色々としなくちゃいけないことがあるぞ」


 グシオンがそう答えると、質問した冒険者以外の冒険者達もグシオンに注目した。


「物資に拠点か?」


「そうそう。せっかく国からの援助が決まったんだ。それなりに良い宿を人数分借りられるだろ?」


「おお、贅沢だな!」


「貴族の別荘みたいな貸家も良いんじゃない?」


「いや、宿なら食堂も付いてるじゃん」


「あ、私は毎回この食堂に来るから貸家でも良いわよ」


「うわ、それが一番良いな」


 冒険者達はどうでも良い話題でかなり盛り上がっている。


 早くダンジョンの話をしろよ!


 てか、毎回この店に来る気かお前ら!


 俺はそんなことを考えながら冒険者達を陰ながら睨んでいた。


 と、グシオンが面倒臭そうに片手を振る。


「分かった分かった。とりあえず、住む所は明日色々と物件を見て決めようぜ。後は二手に分かれて消耗品やら装備やらを探すのと、冒険者への声掛けだ」


 グシオンがそう言うと、ヴィネアが首を傾げた。


「物資は分かるが、声掛けとは?」


 ヴィネアがそう尋ねると、グシオンは軽く頷いて辺りを見渡した。


 誰も自分達の方を向いていないと判断したらしいグシオンは、口の端を上げてヴィネアに顔を向ける。


「今回は国の兵士達くらいしか潜っていない、正真正銘の出来立てダンジョンだ。階層も浅いだろうし、ダンジョンからモンスターが出てきて貴族を殺したとかいう話も聞いたが、その辺りも嘘臭い」


「貴族を殺したのは貴族、ということか? それで?」


「つまり、ダンジョンにはモンスターも少ないに違いない。生き残った騎士とかの話だとダンジョンにあったのは罠ばかりでモンスターなんて一つも見てないそうだからな」


 グシオンが答えると、ヴィネアは眉根を寄せて怪訝な表情を作った。


「それが他の冒険者に声を掛けることに繋がるのか?」


「繋がるんだよ。ランクが低い冒険者でも、そんなダンジョンならなんとかなるだろ? 十人くらいCランク冒険者を連れてダンジョンを攻略してれば相当成長するぞ?」


 グシオンがそう言うと、違うテーブルから感嘆の声が漏れた。


 それを聞いてグシオンの口は更に笑みの形を作り、反対にヴィネアの眼は鋭く細められた。


 それを見て、サヴノックとか呼ばれていた巨漢は溜め息混じりに肩を竦め、口を開く。


「…それだけならばギルドに頼んで掲示板に貼れば良いが、今回は危険なダンジョンだ。こちらで適性を見るために直接声を掛ける」


 サヴノックがそんな補足をすると、テーブルの上で生返事がいくつも通り過ぎた。


 僅かな間が空き、盗賊風の女が思い出したように顔を上げた。


「そういえば、この食堂も何か他の店とは違うよね?」


 静かになった瞬間に呟かれた女の言葉は、まるで深夜に蹴った空き缶の音のようにハッキリと耳に届いた気がした。


 ヤバい。


 俺は素早くエリエゼルに視線を送り、それを予想していたかのようにこちらを見ていたエリエゼルも頷き返してピアノに向き直る。


 そんな俺とエリエゼルの焦りも知らず、女は食堂の照明を見上げて口を開いた。


「このパーティーでじゃないけどさ。こんな照明をダンジョンで見たことある気がするんだよねぇ」


 女がそう口にしたか、しないか。


 そんなタイミングで、食堂の中に美しいピアノの旋律が流れ出した。



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