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異世界? 地下トンネル?

目が覚めると、そこは土肌の露出する洞窟だった。


俺は仰向けに寝ている状態だと思うが、それでも随分と天井が高く感じる。


両手を硬い土の上に置いて上半身を起こし、周囲の景色を見る。


天井までは5メートルほどだろうか。


そして、横幅も5メートルくらいに思える。


奥行きも5メートルくらい…ん?


形的には角が丸いだけの立方体に近いのか。


見る限り土しか無いが、なんだここ。


俺は悩みながらもとりあえず立ち上がろうとして、洞窟の隅に誰かが立っていることに気がついた。


緩くウェーブのかかった黒髪の少女の背中が見える。


ちなみに、全裸である。


「…露出狂?」


俺が一言そう呟くと、壁に向かって立っていた少女がこちらを振り向いた。


「お目覚めになられたのですね、ご主人様」


少女はこちらを見て微笑むと、開口一番にそう口にした。


赤い眼の少女、エリエゼルだ。


エリエゼルは柔らかな微笑みを浮かべたまま首を傾げた。


「私は露出狂ではなく、エリエゼルです」


「あ、すみません…」


俺が軽く頭を下げてエリエゼルに謝罪すると、エリエゼルは小気味良く笑いを洩らして頷いた。


「いえいえ…私はご主人様の持ち物ですから、どうかお気になさらず」


そう言うと、エリエゼルはまた壁の方へ顔を向けた。


「出入り口はこちらのようですね」


「え? 出入り口?」


エリエゼルにそう言われてよく見ると、そこには人一人がギリギリ通れるくらいの隙間があるようだった。


裸の美少女がいるため、あまり無造作に近づくことは出来ない。下手をしたら逮捕される。


そう思った俺は少し距離をとりつつエリエゼルの奥の壁を見た。


綺麗なお尻だ。


いや、間違えた。土壁だ。


土壁には隙間があり、少し奥で通路の角のように曲がっているらしい。


俺が土壁とお尻を観察していると、エリエゼルがこちらを振り向いた。


「ダンジョンは何処に出来るか分かりません。まずは出入り口から出てみて辺りを確認してみましょう。運が悪いと、広大な海の上にある小さな無人島もありえますが…」


エリエゼルはそう言って顔に影を落とした。


「え? そっちの方が誰も来ないから楽じゃない? あ、食料の問題か」


俺がそう聞くと、エリエゼルは軽く首を左右に振った。


「ダンジョンマスターとその従者、後ダンジョンマスターが召喚して使役する魔物は、基本的にダンジョン内に溜まる魔素という素粒子でエネルギーを得ています」


「そ、素粒子?」


まさかの単語に俺は目を丸くしてエリエゼルを見た。真顔である。


「私も詳しくありませんがフェルミオンのレプトンと、ボソンに分類される地球ではありえない素粒子だそうです」


「はい! 意味が分かりません!」


俺が勢い良くそう言うと、エリエゼルは優しく頷いた。


「この魔素は、ダンジョン内外を含む周辺数メートルから1キロ程の範囲に存在する生物から少しずつ得られます」


あれ? スルーされた。


「その範囲に差があるのは、ダンジョンマスターとしての資質によるもののようなので、ご主人様に期待しています」


「え、知らないところでプレッシャーが…」


エリエゼルの説明に俺は体を小さくしてそう呟いた。


エリエゼルはそっと俺の手にほっそりした指を絡めると、小首を傾げて口を開く。


「ご主人様ならば大丈夫です。さあ、試しに私の服を作ってくださいませんか?」


「服? 裁縫ですか? 生地も無いから生地を作るところから?」


俺がエリエゼルの谷間を凝視しながら疑問を羅列していると、エリエゼルが薄く微笑んだ。


「魔素が足りていれば、想像して念じるだけで服が出来ます。もしかしたら魔素が足りない場合も考えて、まずは下着からお願いしてもよろしいでしょうか」


「え、念じたら出てくるの? すっげぇ。ビキニ。出た」


エリエゼルの言葉を聞いて興奮した俺はすぐに続行してみた。


現れたのは白いシンプルな水着だった。ビキニは空中に浮かんでおり、ゆったりと降りてくる。


エリエゼルは一瞬固まったが、すぐに柔和な笑みを浮かべてビキニを両手で受け取った。


「下着ではありませんが、ご主人様の性癖が知れて良かったです」


エリエゼルが何か不穏なことを口にしていたが、俺はそれどころでは無かった。


何となく頭に浮かんだ物を出ろって思ったら、目の前にビキニが出たんだ。


いや、意味が分からない。


マジックショーか。


いや、エリエゼルは裸だ。


そうか、これが時空を超えるというやつか。ビキニが時空を超えて…馬鹿みたい。


と、大事なことを思い出してエリエゼルを見たが、エリエゼルは既にバカンスにビーチに来て解放的になってしまったご令嬢風になっていた。


一夏のアバンチュールですな?


「どうかしましたか? ご主人様」


「俺に触れると火傷するぜ?」


「まあ、それは大変ですね。次は洋服を出してみませんか?」


あれ? スルーされた。


「洋服…洋服…難しいな。あ、あれも洋服か」


俺は悩みながらも何とか服を想像し、念じた。


「おお! 出た! ミニスカのメイド服!」


念じただけで、俺の目の前には空中に浮かぶ豪華な雰囲気のメイド服があった。


「ご主人様。どうしてメイド服を…ああ、やはりお好きなのですね?」


「好きです」


エリエゼルの質問に俺は興奮したまま適当な返事をした。だが、エリエゼルはメイド服を受け取りながら軽く頷き、少し慌てた様子で反対側の角まで移動していった。


何故ここで着てくれない。


俺は絶望のあまりショック死しそうになった。


「あ、そうだ。何でも出来るなら、部屋の改装も出来るか?」


俺は思いつきでそう考えたのだが、土壁に手を当てて念じた瞬間、壁や床、天井が板張りになって驚いた。


「え? ご、ご主人様? 今のを、ご主人様が?」


メイド服を着たエリエゼルも驚愕した様子でこちらへ駆けてくる。


エリエゼルの驚いた顔を初めて見たな。


俺はそんなことを思いながらエリエゼルの服に目を向ける。


「おお! メイド服似合うな、エリエゼル!」


俺がそう言うと、エリエゼルは思わず顔を綻ばせて顎を引いた。


「ありがとうございます…それで、今のはご主人様がなさったのですか?」


「あ、はい…ごめんなさい」


エリエゼルの詰問口調に、俺は思わず謝ってしまった。


長年上司にいびられた弊害だ。だが、こんなにメンタルが弱かっただろうか。


「謝らないでください、ご主人様。凄いことなのですよ? 普通は出来たばかりでこのような使い方が出来るほどの魔素はありません。ご主人様のダンジョン範囲が広いのは間違いありませんね」


俺が自分自身に変な違和感を感じている中、エリエゼルは興奮気味にそう言って俺を見た。


「どうでしょう。魔素を何度か扱ったので、ご主人様のダンジョン範囲と、ダンジョン内に溜まった魔素の量がお分かりになりませんか?」


エリエゼルはそう言って小首を傾げた。


ダンジョン範囲って何だよ。


俺は何かいつもと違う感覚が無いか感じようと唸った。


体に力を込めようとも、空中に手を彷徨わせて素粒子に触れてみようとしても、ステータスと口にしてみても、何も起きないし感じなかった。


そんな俺を見て、エリエゼルは優しく微笑んで頷いた。


「流石に初日では無理でしたね。それでは、私は一度外の景色を確認して参ります。恐らく、魔素の溜まる速度を考えると森か山の中でしょう」


「森と山ならどちらが良いんだ?」


俺が尋ねると、エリエゼルはそうですね、と唸った。


「一番良いのは森でしょうか。次に山ですね。最悪なのは最初にお教えした無人島です。怖いのは大きな街の近くだと、冒険者の調査が入ったりして直ぐに殺されてしまいます」


なにそれ、怖!


ってか、問答無用かよ。蛮族共め。


俺がエリエゼルの台詞に戦々恐々としていると、エリエゼルは微笑みながら俺を見上げた。


「大丈夫ですよ。ご主人様の世界とは違い、こちらでは人里は疎らです。魔物から逃げるように街を作っているので、安全な地に寄り集まっていますから。なので、人里近くになる可能性は大変低いでしょう」


エリエゼルはそう言って、壁に出来た隙間のような出入り口へ向かっていった。


エリエゼルは二歩奥に入り、右に曲がり、階段を登るように上がっていく。


って、ここは地下か。ダンジョンだから当たり前なのか?


エリエゼルの姿が見えなくなって初めてそこに気がついた。


と、そんなことを思っていると、エリエゼルが戻ってきた。


エリエゼルは心なしか元気を無くしたというか、血の気の引いたような顔でこちらへ来た。


「ご主人様…このダンジョンはリセルス王国の王都の路地裏にあるようです…」


「…王都? ってことは?」


「…最大規模の冒険者の活動拠点です」


あれ? 冒険者ってダンジョンの天敵なんじゃなかったか?


え。俺殺されちゃうの?



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