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アクメ吃驚

本日5月26日発売の月刊少年エースにて、『社畜ダンジョンマスターの食堂経営』コミカライズ版の予告編が公開されました!

来月発売の少年エースにてコミカライズ版本格始動です!

是非チェックしてくださいね!

 画面に映し出される映像に暫し思考を停止させられる。


 B級ホラー映画のようなシーンを見せられ、言葉も出ないのだ。


「お、おぉ……神殿と十字架が欲しいっていうから作ったら、予想外の使い方……」


「体の大きな成人男性があのように泣き喚くなど、情けない限りですな」


 俺の後ろからフルベルドがそんな感想を漏らした。そして、隣の人物に同意を求める。


「そうは思わないかい?」


 問われ、シアスは小刻みに頷く。


「ま、まま、まったくですぜ! は、ははは!」


 何故かここへ連れてこられ、シアスはただただ震えるばかりだった。画面には自分が集めたゴロツキ共が倒されていき、最後にはアムドゥが磔にされる光景である。


 すでに、シアスには恐怖以外の感情は無いだろう。


 そんな状況で、フルベルドはエリエゼルに目を向ける。すると、エリエゼルはこちらに顔を向けて口を開いた。


「アクメ様。このシアスは貧民街のことは知り尽くしています。更に、派閥関係なく顔を出し、交渉することが可能です」


 そう言われ、シアスを見る。


「へぇ? それは凄い。じゃあ、貧民街の中でまだうちの店に来たことのない人を集めるとか……」


「だ、大丈夫です! 連日満員にしてみせます!」


 俺の言葉に、シアスは条件反射のような速度で反応を示す。それに苦笑し、椅子から立ち上がった。


「分かっていると思うけど、ダンジョンに騎士団だったり冒険者だったりが派遣されるのは嫌なんだ。面倒でしょ? だから、少しずつ味方を増やしている最中でね」


「あ、だ、ダンジョン……! そ、それはそれは……へ、へへへへ、このシアスはもう一番の味方ですぜ? 裏切るなんてことはありえません!」


 震える声で同調するシアスに微笑み、画面を切り替える。


「最近は夜遅くまで店を開けてるからね。店員が足りないんだよ。働いてくれてる人には、週休二日制と一日の労働時間を八時間に固定したいんだ。残業はもちろん無しね。理想としては休日にお小遣いもあげたい」


「え、は、へぇ……ざ、残業?」


 困惑しながらも頷くシアス。まぁ、聞いているなら良いか。


「だから、従業員も客も両方同時に増やす。貧民街の孤児とか、罪を犯していない者は従業員として雇う。自力で金を稼げる者は客として来てもらう」


「わ、分かりやした」


 シアスは頭の回転が速い。理由に対してはともかく、自分が何をすれば良いか理解しているようだ。


「それじゃあ、監視役には一人内緒でつけとくから頑張ってね。あ、孤児の子らを脅さないように。働いても良いという人だけ連れてきてね」


「へ、へい! それじゃ、行っても?」


「送ってあげて」


 早く帰りたくて仕方ないシアスに苦笑し、俺はフルベルドに声をかけた。フルベルドがシアスの両肩に手を置いて頷くが、シアスの顔は真っ青である。


 まるで油の切れたロボットのようにぎこちない動きで立ち去るシアスの背中を見送り、エリエゼルを見る。


「さて、ウスルに評価を聞いてみようか」


「評価、ですか?」


 首を傾げるエリエゼルに微笑み、首肯する。


「貧民街の実力者の評価。例えばだけど、国王が本気でダンジョン制覇に乗り出した時、騎士団を相手にできるか? 宮廷魔術師や、冒険者と戦えるか……そんなところかな」


 そう答えると、エリエゼルは難しい顔で唸る。


「なるほど……しかし、騎士団などの訓練をした集団と戦うのは少々厳しそうですね」


「今のだけ見ればそうだね。でも、王都の中で貧民街が最も人口が多いんだ。数は分かりやすい力だよ。それに、使い方を考えればゴロツキでも騎士を倒せるさ」


 と、そんな会話をして、俺達はウスルの下へと移動した。


 ウスルはすでに食堂の用心棒の仕事に戻っていたらしく、倉庫街の地下食堂に顔を出してみると、カウンターの奥に座るデカい人影があった。


 あの赤茶けた髪はウスルに間違いない。いつも通りの仏頂面も間違いない。


 だが、何故か隣に女が座っていて、まるで友人のように話しかけているではないか。ナンパか。いや、逆ナンパか。嘘だろ、ウスル。お前はそんな軟派な奴じゃない。


 若干困惑しながら、俺はマスターの格好をして店員として近付く。


「いつもので?」


 そう声をかけると、ウスルはこちらを見て頷く。やたらと濃い酒精を準備しつつ、様子を確認する。


 薄い青紫色の髪の女はこちらを見て口を開いた。


「私はノンアルコールで適当にお願い」


 フルーレティーだった。


「では、ノンアルコール・モスコミュールを」


 途端に興味を失った俺はササっとノンアルコールカクテルを出してカウンターに置いた。


 フルーレティーはあまりに早い商品の到着に気づきもせずにグラスを受け取る。


「……それで、ウスルはどうするの? 結構、厄介な奴らよ」


 フルーレティーは不敵に笑い、グラスを口に付けて傾ける。


 格好いい飲み方だが、飲んでるのはジュースみたいなものである。


「……退屈しなくて良い……」


 ダンディでダーティなウスルは低い声でそれだけ呟く。それに呆れたような笑いを見せ、フルーレティーは肩を竦めた。


「まぁ、貴方なら問題無いでしょうね。とはいえ、油断しないことね。正攻法じゃ来ないわよ」


「……問題無い。そういった輩の方が慣れている……」


 と、ウスルが答えると、何故かフルーレティーの頬がわずかに赤くなり、視線がウスルの横顔で固定された。


 なんか、見ちゃいけない場面を見た気がする。


 俺はグラスを磨く渋いマスターのフリをしつつ、戦略的撤退をしたのだった。






 後から聞いたところ、どうやら王命により様々な方面の人物が王都に招集されているとのことだった。


 それらは冒険者、傭兵団、商人、魔術師、果ては元盗賊まで、様々である。共通点はある一点についてのみ。


 それは、ダンジョンの専門家という点だ。


 ダンジョンを専門としたAランク冒険者のパーティーや、各国でダンジョン探索の護衛をしてきた探索専門の傭兵団。他にもダンジョンの資源をメインに商売をする大商会や、魔術の探究のためにダンジョンに潜る研究家兼魔術師の老人。


 そして、様々なダンジョンで死体から装備を奪って暮らしていたら、誤ってダンジョンを一つ制覇した変わり者の盗賊。


 これらの人物が何故王都に集められたのか。


 そんなもの、考えるまでも無かった。


「……よぅし、エリエゼルさんや。俺は引き篭もるために更なるダンジョンの構築を目指すぞぅ!」


 冗談めかして言ってみたが、マジである。


 これまでの冒険者は凄腕も多かったが、それでもダンジョン専門とまで言える冒険者はいなかった。騎士団なぞは論外である。


 しかし、もし次に来る外敵がダンジョン攻略のプロならば、俺の命は最早風前の灯火ではないか。まぁ、貧民街のそこそこ使える人間を雇って店の用心棒にすれば、店は潰されないだろう。ウスルだと人間じゃないと気付く人は出るかもしれないが、実際に人間を用心棒として置いておくのは問題ない。


 店はそれで良いとして、問題は現在のダンジョンの状況だ。


「これまでの階層は地下五階から六階程度。まぁ、地底湖は一階層にしては深いからアレだけど、それでも攻略する点から考えるなら一階層としてカウントする」


「なるほど。つまり、今の最深部よりさらに深い場所を作る、と。しかし、今は王都の各所に出られるように通路を作る関係で、あまり深くは作っていませんでしたが……」


「そうだな。それに、各出入り口から地下には深くなっていくけど、俺の住む隠れ家は地下一階だ。あまり深くしてもこっちから地下に様子を見に行くとき面倒だと思ったからね」


 そこで言葉を区切り、俺は溜め息を吐く。


「でも、そろそろ本気で難攻不落のダンジョンを作らなければならない。一ヶ月以上は潜りっぱなしで生活しないと攻略できないような時間のかかるダンジョンが良いだろうな」


 そう言うと、エリエゼルは目を輝かせた。


「素晴らしいです! ダンジョンの深さ、それは防衛に大きな効果を与えるでしょう! ただし、ただ深くしてもダメですよ? できることなら、簡単には突破できない罠、強靭なモンスターも用意しなければなりません」


「分かってるよ。新しい階層に行けば行くほど階層が広くなれば、精神的にも辛いだろうし、深く、広くだな。ピラミッドをイメージしようか。後は罠だな……グシオン達を呼ぶとしよう」


 普段なら自分で考えるが、攻略する側の意見も必要かもしれない。万全の体制で挑まねば。


 俺は気持ちを引き締め直したのだった。


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