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社畜ダンジョンマスターの食堂経営 〜断じて史上最悪の魔王などでは無い!!〜  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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交渉

久しぶりに更新…!

次回はもう少し早く更新します…!

「毎日銀貨二枚」


 フラスが胸を張ってそう言うと、子供達から感嘆の声が上がる。


 対して、アガリからは困惑の声が上がる。


「ちょ、ちょっとフラス……」


 こちらをチラチラと見ながらアガリがそう言うと、フラスは首を傾げた。


「足りない?」


「逆!」


 アガリが突っ込むと、フラスは口を尖らせて顔を逸らした。


「この人が悪い。あんな美味しい物を知らなければ私達もそんなにお金が欲しいなんて思わなかった」


 無茶な理由を口にするフラスに、アガリが頭を抱える。


「いやいや、それなら一日銀貨一枚で良いじゃないか……いや、それでも貧民街の子供が稼げる額じゃないのに……」


 それを横目に見ながら、俺は返事をした。


「銀貨一日二枚か。良いぞ」


 そう言うと、アガリが目を見開く。


「え!?」


 驚愕するアガリにフラスが不敵な笑みを浮かべた。


「ほらね?」


「ほらねって……あ、あの、本当に良いんですか?」


 疑惑の眼差しを向けながらそう尋ねられ、俺は苦笑しながら頷いた。


「ああ。銀貨二枚だろう? うちの食堂で賄い飯も出してやるよ」


「まかないめし……?」


 アガリの顔を見て、俺は吹き出すように笑う。


「なんだよ、その目は。疑い深い奴だな。無料で食事を付けてやると言ってるんだ」


「無料で!?」


 もう何度目かも分からないアガリの驚愕の声に曖昧に笑い、フラスを見る。


「それで契約で良いか?」


「うん。勿論。私達十二人で一日銀貨二枚でマカナエメシ付き!」


「賄え飯? 物凄い上からに感じるが……まぁ、いいか。じゃあ、それで契約だ」


 俺がそう答えた直後、アガリやフラス、子供達の足元にあった影がぐにゃりと形を変えた。


 影は目に見えて黒く、濃くなっていき、まるで墨汁が広がるように黒い影が魔法陣のような形を作り上げていく。


 この光景は……。


 既視感を覚えた俺は、目だけを動かして厨房の方に視線を向けた。


 予想どおり、壁に身体を半分隠した状態で笑みを浮かべるエリエゼルの姿がある。子供達はもちろん、周りにいる少女達も魔法陣には気が付いていないらしい。


 と、そんなことを考えているうちに魔法陣はまたぐにゃりと影の形に戻った。確認し忘れたが、自分の影も変化していたのだろう。


 改めてエリエゼルに目を向けると、柔らかな微笑みとお辞儀が返ってきた。


 まぁ、良しとしよう。


「……どうかしましたか、ご主人様」


「ん? ご主人様?」


 首を傾げながら、アガリに目を向ける。あれだけ猜疑心の塊のような態度を崩さなかったアガリが、こちらを真っ直ぐに見つめてきている。


「いや、雇っていただけるとのことでしたので、ご主人様と呼んだ方が良いのかと」


「長いから、主人にする」


「いや、なんでも良いけど……まぁ、良いか。考えても分からないしな。それじゃ、従業員に何かあっても困るから、あの旅館内に部屋を用意してやろうか」


 俺がそう言うと、成り行きを見守っていた子供達から歓声が上がった。





【フラス】


 ピピピピという高い音が鳴り響き、私は薄目を開ける。


 白いフワフワの寝床の中で最高の眠りを満喫していたのに、嫌な音を立てるコレはなんなのか。


 細長い半透明なその物体を寝床の中から睨んでいると、バタンと扉が開く音がした。


「フラス、朝だよ!」


 慌てた様子で部屋に入ってきたアガリに、同じ部屋で寝ている他の子達が嫌そうな声を出す。


「もう、うるさい〜……」


「皆も起きないと! この不思議な音は多分、今から仕事の時間って意味なんだよ!」


「しごと……もうちょっと後でも良い?」


 私がそう呟くと、アガリが地団駄を踏む。


「初日だよ!? ダメだってば! ご飯も貰えないかもしれないよ!?」


 その言葉に、今まで私と一緒に寝ていたはずの子達が飛び起きた。


「ゴハン!」


「食べる!」


 キャーキャーと甲高い声をあげて喜ぶ子供達に、アガリが両手を挙げて文句を言う。


「働いてからだよ!? ご飯を食べに行くわけじゃないの!」


 アガリは真面目だ。


 面白くないくらい真面目である。


 しかし、ご飯が貰えないのは困る。


「……起きる」


 そう呟き、私は寝床から這い出すことにした。


 ずるずると足を引き摺るように歩いて主人の下に向かうと、あの美味しい食べ物の店が並ぶ場所に出た。


 沢山並んだテーブルにはそれぞれ女の人が椅子に座って並んでいる。


「や、やっぱり遅刻だ……」


 顔色の悪いアガリが泣きそうな声でそう言った。客は女ばかりなのだろうか。そう思って首を捻っていると、椅子に座っていた女の人達が一斉に立ち上がった。


 驚いて動けずにいると、一番手前にいる女の人が近づいてきた。吃驚するほど綺麗な人だ。その女の人は私の前に立つと、にっこりと微笑んだ。


「初めまして。私はエリエゼル。貴女の名前を教えてくださいな」


 柔らかな声と優しい笑みなのに、私の背中には自然と力が入った。


「フラス、です」


「フラスさんね。よろしく。貴方は?」


 そう尋ねられ、アガリが緊張感を滲ませて顔を上げる。


「あ、アガリです! アガリ・アレフトと申します!」


「アガリ君ね。よろしく」


 エリエゼルという人は女の私でも見惚れるような笑みを浮かべて頷き、子供達一人ずつにも同じように名を尋ねていった。


 全員の名前を聞き終わると、エリエゼルは後ろを振り向く。


 すると、沢山の女の人達がこちらに来て、それぞれ自己紹介を始めた。


 次々に名乗られて混乱している私に、エリエゼルは楽しそうな顔で口を開く。


「安心して大丈夫ですよ。彼女達も、皆同じご主人様に仕える仲間達なのだから……貴方達もこれから一緒にご主人様に誠心誠意尽くしましょうね?」


 エリエゼルにそう言われて、私達は揃って返事をした。


「はい」


 示し合わせたようにピッタリと揃った返事に、心が軽くなるような感じになる。


 これからの日々は、きっと素晴らしいものになるのだろう。


 不思議と、そう思うことができた。


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