働きたがる子供達
7月10日は社畜ダンジョンマスターの食堂経営2の発売日です!わー!・:*+.\(( °ω° ))/.:+
大改稿と大量の書き下ろし、頑張りました!
骨折した右手の中指リハビリ中なのに!
念願のクレープを手にした子供達の笑顔は素晴らしいものだった。
輝かんばかりの満面の笑みでフルーツたっぷりの生クリーム入りクレープを食べ、またも泣き出す子が現れたほどである。
そんなクレープを満喫した子供達は、他にも並ぶ未知の食べ物に目を輝かせてヨダレを垂らした。
「……他にも仕事が欲しい」
フラスにそう言われ、俺は苦笑する。
「お前達が頑張ってくれたお陰で床もテーブルもピカピカだからな。今日は仕事は無いぞ。また明日来い」
「……むぅ。掃除以外にも私達は色々なことができる」
「色々なこと?」
首を傾げて聞き返すと、フラスは大きく頷いてアガリを見る。すると、それだけでフラスが何を言いたいのか分かったのか、アガリは溜め息を吐いて肩を竦めた。
「えぇっと、まず僕は計算、読み書きができます。それと、そこの子は手先が器用で時々職人街で大工の真似事をしていますし、そこの女の子は裁縫が得意です。後は……」
アガリが言い淀むと、フラスが胸を張って前に出る。
「私は魔術師」
「へ? 魔術師?」
聞き返すと、フラスは口の端を上げて両手を広げた。
「そう……ほら」
そう言った瞬間、フラスの手の先に青白い炎がぼうっと燃え上がった。
「おぉ、手品みたいだな」
驚いてそう言うと、フラスは得意げに目を細める。
「魔術が使えるから、私はみんなを守るボス。用心棒として雇ってくれたら、凄く頼りになる」
炎を揺ら揺らと動かしながらそう主張するフラス。
「……用心棒ねぇ」
後ろを振り返ると、厨房の入り口でウスルが静かに立っている。夜はフルベルドがいるし、正直見劣りはするが。
「貧民街の情報とかも手に入ると思えば安い買い物か? 実際、出費なんて無いからな」
自分で自分の考えをまとめるように小さく呟き、唸る。
「……ちなみに、その魔術で俺を脅して食べ物を奪おうなんて考え付かなかったのか?」
そう尋ねると、フラスは首を左右に振った。
「料理が美味しかったから、また食べたいと思った。脅して作らせても、多分あんまり美味しくない。お金を払って作ってもらったら、多分美味しい料理が出る」
「よく分からんが、あながち間違いじゃないかもな」
フラスの答えに笑い、頷く。
「よし、雇ってやろう」
「やった」
喜ぶフラスと、まだ心配そうなアガリ。子供達は成り行きを見守りつつ、料理が食べられると踏んだのか嬉しそうな顔になっている。
そのフラス達に指を一つ立てて、俺は言った。
「ただし、ここで長時間働くなら清潔な身だしなみが最低条件だ」
「……! お金、無い……」
フラスがこの世の終わりのような顔でこちらを見上げ、財布らしき布の袋の口を下に向けた。見事に硬貨の一枚すら出てこない。
「ちょっと待ってろ」
苦笑まじりにそう告げると、俺は店の並びの一番右奥。おにぎり店の横の壁の前に移動した。
目を閉じて、魔素を集める。
人口が最も多い貧民街だからか、魔素がいつもより多い気がした。元から広範囲の魔素を収集できるはずだが、不思議である。
「さて、必要なのは……」
そう呟き、頭の中でイメージを固め、念じた。
目を開けると、そこには壁の色に同化したような色合いの木の扉が出来上がっていた。
「おーい。こっちに来い」
アクメ様という背の高い男の人に呼ばれ、僕達は顔を見合わせながら店の奥へと向かった。
「フラス、さっきのも魔術なのかな……僕の知ってるのと違ったんだけど……」
そう聞くと、フラスは眉根を寄せたまま曖昧に頷く。
「多分……よく見えなかったけど……魔術……私の個性が……」
「そういう問題じゃないでしょ」
何故か微妙に落ち込んでいるフラスにそう言うと、フラスはふらふらと先に行ってしまった。
「どうするの、アガリ?」
「……行くしか無いね。どうせフラスがいないと僕達は貧民街でタカられるだけだし」
己の頼り無さを自嘲気味に笑い、僕は子供達を連れてフラスの後を追う。
自分と年が変わらないような、可愛らしい服を着た少女達の微笑に戸惑いながら、僕達は店の奥へと続く扉を開けた。
僕のすぐ前を歩くフラスは、扉を開けた先に広がる景色に動きを止める。
「ど、どうしたの? まさか、奴隷の檻が……」
そう言いながら、立ち止まったフラスの横から顔を出して扉の奥を覗き込む。
「……え?」
視界に飛び込んできたのは、見たことも無い景色だった。
「なにこれー!?」
「すげぇー!」
僕と同じようにフラスの後ろから顔を出した子供達が興奮して歓声を上げる。
こんな得体の知れない場所で呑気過ぎる気もする。だがそれも仕方がないことだろう。
なにせ、目の前には見たことも無い様式の店の玄関が広がっていたのだから。
広い段差のある入り口に、奥に続く長い廊下。左右には見たことの無い植物や照明が並び、窓には木の格子が入っているが、檻ではなさそうだ。
玄関から廊下の奥にまで赤い絨毯が敷かれ、不思議な形の棚や調度品も多く置かれている。
どう見ても、そこらの貴族にも用意出来ない見事な店構えだ。奇抜なのに、妙に洗練された雰囲気があるのも一種異様である。
後からアクメ様に聞いたところによると、この店を『温泉旅館』というらしい。
今は右手の握力が10キロちょっとあります・:*+.\(( °ω° ))/.:+