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美味しいは正義

中々更新出来ませんでした。

でもエタりませんから!

「銅貨一枚ですよ」


「十個頂戴!」


 即決したフラスにアガリが顔を引きつらせ、子供達が歓声を上げる。


「銅貨十枚……一番安い布が一枚買える……」


「お肉ー!」


「きゃー!」


 アガリの呟きは子供達の声に掻き消されて消えた。


「熱っ! 旨っ!?」


「美味しいっ!」


「ああっ、もう食べてる……!」


 アガリが愕然とする中、子供達は夢中で焼き鳥を食べて喜んだ。


「ボス、もうこれ以上無駄遣いはせずに……」


 窘めようと振り向くと、フラスは既に自分の分の焼き鳥を食べ終わっており、涙を一筋流していた。


「……もう、無くなった……」


 心から哀しそうに呟かれたその言葉に、アガリは顔を両手で覆ってうな垂れた。


「……僕のも買ってね」


 アガリはそれだけ言って困ったように笑ったのだった。





「たこ焼きですよー! ふわトロで美味しいですよー!」


「買う!」


「うどん、おにぎりもありますよー! 熱々で美味しいですよ!」


「それも買う!」


 フードコートに並ぶ店を端から順番に眺めては食べ歩くフラスだったが、最早それを止める者はいなかった。


「ボス、たこ焼きもう一つ食べたい!」


「あ、僕も」


 おにぎりを口いっぱいに頬張りながら子供達とアガリがそんなことを言い、フラスは大きく頷く。


「任せて。今日は一年分のお金を……?」


 言葉を途中で切ったフラスは、不思議そうな顔で古びた皮袋に手を入れて首を傾げた。


「…………からっぽ?」


「空っぽ!?」


 フラスの一言にアガリが飛び上がって声を上げる。


「ちょ、ちょっと待って! 焼き鳥二十本、おにぎり十二個、うどん六杯……ああ、本当だ! 僕としたことが……」


 アガリが顔を青くしてそう言うと、子供達も空気を察したのか慌て始めた。


「ど、どうしたの?」


「お金無いんだって」


「え? でも、僕たちいつもお金なんて使ってないよ?」


 そんな声が聞こえる中、フラスはまだ半ばまでしか制覇していない店の列を眺める。


「甘〜いクレープもありますよー!」


「フワフワのかき氷もあるよー! 冷たくて甘いよー!」


 どうやら残った店の多くは甘いデザート系の店ばかりのようだった。


 そして、甘い食べ物と聞いた子供達は黙り込んでしまい、ソワソワとしながらフラスの背を見つめる。


 その様子に、アガリは慌てて両手を振った。


「だ、ダメだよ!? ボス、砂糖を使った食べ物なんて、どんなに頑張っても僕らには払えない……!? そうか、分かったぞ。美味しい食べ物で貧乏な人達を集めて、砂糖を使った料理で借金を背負わせて奴隷に……!」


 アガリが冷や汗を流しながらフラスに声を掛けるが、フラスは意を決したような顔で店の前へと歩いていく。


「クレープ、買われますか? 美味しいですよ!」


 そう言われ、フラスは眠そうな目を細めて口を開いた。


「……お金が無い」


「え?」


 フラスの言葉に、クレープを売る少女は首を傾げる。そのキョトンとした顔を見上げ、フラスは更に前に出て口を開いた。


「でも、いつも、いつもいつも我慢してる子供達が、食べたいと言ってる。だから、ボスは食べさせないといけない」


 フラスがそう告げると、少女は困ったように浅く頷く。


「え、えっと、はい……」


 戸惑う少女に、フラスは自分を指差し、言った。


「私が働く。頑張って働く。だから、クレープを人数分頂戴」


「ぼ、ボス!?」


 フラスが口にした提案に、少女よりも先にアガリが声をあげる。アガリは転びそうになりながらフラスの隣に走り寄り、首を激しく左右に振った。


「だ、ダメダメダメ!! さっきの僕の話を聞いてたかい!? ヤバいって! 合法で大量の借金奴隷を仕入れる気だよ!?」


 アガリが大声を出して止めようとするが、フラスは頷かなかった。


「多分、私達は一生砂糖を使った料理なんて食べられない。なら、私がボスとして……」


「奴隷になったらもう僕達と一緒にいられないじゃないか!」


 アガリの言葉に子供達が血相を変える。


「え!?」


「ぼ、ボスともう会えなくなるの!?」


「そんな……」


 気が付けば声をあげて泣く子供まで出てきてしまい、フードコートの一角が混乱に包まれた。


 それまで平然としていたはずのフラスも子供達に泣かれて揺さぶられてしまったのか、思わずといった様子で目に涙を滲ませている。


 そんなフラス達を見て、店で料理を提供している側であるはずの少女達の方が慌て始めた。


「な、泣いてる!?」


「タバサ、タダであげてもいいかな……」


「ダメダメ! ちょっとアクメ様に聞いてくるから待ってて!」


 ドタバタと店の奥で少女達が走り回る中、アガリは泣き喚く子供達を宥めるのに奔走していたのだった。





【アクメ】


「泣いた? なんで?」


「く、クレープが食べたくて……ですかね?」


 大きな三角の耳が覗く長い青い髪を揺らし、狼獣人の少女タバサが頭を捻った。


「まぁ、クレープ美味しいもんな」


 俺がそう言うと、タバサはフサフサの尻尾をぶんぶんと振りながら何度も頷く。


「美味しいです。クレープを祠に祀りあげたいくらい美味しいです。あれは神の食べ物です」


 そう言いながら手を合わせて頭を下げるタバサ。


「俺に祈るなよ。なんで仏教的な祈り方なんだ」


「ブッキョー?」


「まぁ良い。とりあえず、フードコートに行ってみようか」


 そんなこんなでタバサを連れて地下通路を進むと、フードコートの厨房の入り口にウスルが立っていた。


 無言でこちらを見て、そっと俺の斜め後ろに移動するウスル。


「なんだ? どうしたんだ、ウスル」


 そう尋ねると、ウスルは何とも言えない顔で溜め息を吐く。


「……泣く子は苦手だ。どうしたら良いか分からない……」


「そ、そうか」


 ウスルに適当に相槌をうち、俺はフードコートへと入っていった。


 見れば、店のカウンターの向こう側では号泣しながら一人の少女にしがみ付く子供達の姿がある。


 そして、カウンターのこちら側ではオロオロと慌てふためく少女達の姿が。


「あれ? 俺の知ってるフードコートに無い景色だ」


 頭を片手で撫でながらそう呟き、カウンターから顔を出して泣き喚く子供達を見やる。


 子供達は論外として、しがみ付かれている黒い髪の少女も必死に涙を堪えているようで話をするどころではない。


 と、その集団の端に一人で立つ緑色の髪の少年が目に止まった。


「そこの少年」


 声を掛けてみると、少年はビクリと肩を震わせてこちらを見た。


「な、な、なんでしょうか……僕達はもうお金が無いので帰ります。商売の邪魔はしませんから……」


 やたらと卑屈な態度で少年はそう言って視線を逸らす。


 あれ? 怖がられてる?


 少年の態度を不思議に思いながらも、俺は少女と子供達を指差した。


「なんで泣いてるんだ?」


「い、いえ、美味しい食事を食べて、感極まったといいますか……も、もう帰りますから」


 少年が答えると、涙を堪えていた少女が勢い良く顔を上げた。


「私が働く! だから、クレープを食べさせて!」


「ちょ、ちょっとボス!? 奴隷にされちゃうよ!?」


「いやぁ! ボスを連れていかないでぇ!」


「やだよ、ボス!」


 途端に騒がしくなるフードコート。


「クレープを食べると奴隷にされる……なんで?」


 俺は頭を捻りながらタバサを振り返るが、タバサも困惑した様子で首を左右に振った。


「よく分からないが、働くなら食べさせてやるぞ」


「任せて。なんでもする」


 少女が断固たる決意を滲ませてそう言うと、緑髪の少年は悔しそうに俯き、グッと歯を食いしばって顔を上げた。


「ぼ、僕が奴隷になります!」






「え?」


 キャアキャアと声を上げながらモップを手にして床を掃除する子供達。


「え?」


 テーブルや椅子を懸命に拭くフラス。


「……え?」


 雑巾を手にしたまま立ち尽くすアガリに、俺は眉根を寄せる。


「奴隷並みに働くと言った割に手が動いてないぞ、アガリ」


 そう声を掛けると、アガリはこちらを振り返った。


「ど、奴隷にされるのでは……?」


「なんや、それ」


 思わず関西弁で突っ込んでしまった。クレープを食べたいから自ら奴隷になるなんて奴が何処にいるというのか。


「いいから働け。フードコートは広いから一時間以上かかるぞ?」


 そう言うと、アガリは難しい顔で俺の顔を見上げ、首を傾けた。


「…………一時間の労働?」


いや、時給換算したらそんなもんじゃないの?



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