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革命の日

 夜の王都の空を、炎が赤く照らし出した。


 怒号と悲鳴が響き渡り、パニックとなった民が通りを走り回っている。


 王城からは剣を打ち合わせる音が鳴っていた。


 私は教会の屋根の上に立ち、王城の様子を窺っていた。すると、背後から情けない震え声が聞こえてくる。


「ふ、ふ、フルベルド様……ちょ、ちょーっと怖いんですけどぉ……?」


 レミーアが三角屋根の頂上にへばり付くような格好でそんなことを口にし、私はくつくつと喉を鳴らして笑った。


「まるで虫のようではないか。どうせ落ちても死なんよ。立ちなさい」


 そう言うと、レミーアは私の服の裾を摘みながら両足をプルプルと震わせながら立ち上がった。そこにヴァンパイアとしての威厳など見当たらない。


 レミーアは辺りを見回しながら怯えたように口を開く。


「きょ、教会を足蹴にするなんて……バチが当たりそうですね……」


「ふむ。我々は教会といった類は苦手なはずなのだが、この国の教会はむしろ居心地が良いな。間違えて邪神でも祀っているのではないかね?」


「じゃ、邪神ですか……」


 不思議そうに反芻するレミーアに苦笑し、私は王城に視線を戻した。


 中々、立派な城である。高く尖った屋根や塔、壁を彩る窓や銅像の数々。よく出来た城だ。


 その城が今、燃えていた。


 まだ火は一階の入り口付近だけだが、いずれ二階にも燃え広がるだろう。


「……大丈夫なんですか? 城燃やしちゃって……リセルス王国の王城ですよ」


 レミーアが私にしがみ付いたまま、ボンヤリとした調子でそう口にした。


 私は口の端を上げると、燃え盛る炎を眺めて頷く。


「火をつけたのは王族。これから殺されるのもまた王族……よくある話ではないかね。血で血を洗う王座の奪い合い……怨恨や情欲から起きる殺し合い……これぞ、繰り返される王族の業というものだよ。だからこそ、面白い」


「面白いですかねぇ……まぁ、国王は私も嫌いだから別に良いんですけどね」


 レミーアのそんな独り言を聞き、私は一人静かに笑う。


 民から見れば、統治者などそんなものだ。貴族であったレミーアですらそうなのだから、群衆の意識など推して知るべしであろう。


「革命は成功します?」


「ふむ。餌を撒き、きっちりとお膳立てをし、更には裏から現国王の勢力が動きにくいように工作までしている。我が主のこの綿密に練られた計画に穴は無いと思うがね。もし失敗するなら、それは革命を先導する男に王たる器が無かったということだよ」


「そんなものですか」


「そんなものだよ」


 私がそう答えると、レミーアは難しい顔で唸った。





【城内】


 剣を構えた兵士達が辺りを警戒しながら進み、その後をイブリスが見事な装飾の剣を片手に歩いていく。


「居場所は分かっているのだ! 真っ直ぐに進め!」


 イブリスがそう叫び、兵達は一糸乱れぬ動きで前進する。


「ぎゃ、逆賊っ!」


 兵が飛び出してそう叫ぶと、イブリスは端正な顔を歪めて兵を睨んだ。


「無礼な! 大義はこちらにある! 殺せ!」


「はっ!」


 イブリスが命令を下すと前列の兵達が走り出し、立ちはだかった兵は三つの刃を身体に受けて絶命した。


 その死体を踏み越えて、イブリスは鼻を鳴らす。


「正しき道が分からないとは……なんとも哀しいものだな」


 そう呟き、イブリスは顔を上げて玉座へと続く道を歩き出した。


 何度かの戦闘を経て、イブリス達は玉座の間へと辿り着く。


 重く、大きな両開き扉が血に塗れた兵達の手によって開けられ、多くの兵達が玉座の間へと殺到する。


 玉座の間には、既に剣を抜いた近衛兵達が美しい鎧を着て待ち構えていた。


 だが、その数は五人と少ない。


 玉座には現国王、バルディエル・ナイ・バラキエルが鬼のような形相で座していた。


「……イブリス、貴様……」


 地の底から響くような重苦しい声がバルディエルの口から漏れた。


 対してイブリスは勝ち誇ったような笑みを浮かべ、剣を持ち上げて刃をバルディエルの顔に向けた。


「終わりだ、バルディエル。ついに、貴様の悪しき行いを正す時がきたのだ! 次の王には私が成り、この国は更に大きく飛躍するだろう。貴様は地獄の底からゆっくり見物してるが良い!」


 イブリスがそう叫ぶと、兵達は剣を構えた。


 バルディエルはイブリスの口上を聞き終えると、背中を丸めて身体を震わせる。


 そして、噴き出すように笑い出した。仰け反りながら狂ったように笑うその様子に、イブリス達だけでなく味方の近衛兵まで怪訝な顔でバルディエルの方を見た。


「く、くくくく……語る、語る! 何を偉そうに下らないことをべらべらと……! イブリス! 小物のお前がこのリセルス王国の王になるだと? 器を知れ、雑魚が!」


「な、何を……!」


 バルディエルの言葉にイブリスが顔を赤くして反論しようとするが、バルディエルが立ち上がったのを見て口を噤んだ。


 バルディエルは、自らが座っていた玉座を強かに蹴りつけ、腰に刺した剣を背凭れに突き刺す。


「こんな玉座など喜んで貴様にくれてやる! 玉座とは王の器を持つ者が座って初めて意味を持つのだからな! 貴様が座ったところで、なんの意味も無い!」


「ふ、ふざけたことを抜かすな!」


 イブリスがなんとか言い返そうと怒鳴ると、バルディエルが振り返り、口を開いた。


「質問に答えろ、イブリス。貴様のような小物が、どうやって今日という日に辿り着いた? 何故、私の近衛兵が集まらない? 何故、何の抵抗も無く我が城の門が開かれた? どうしてだ、イブリス」


「き、決まっている! これまでの我々の活動がついに……」


「は、はは……はっはっは! 本当の馬鹿か貴様は!? 貴様らが何をしているかもこちらは全て把握していたわ! 利用価値があるから捨て置いただけだ! 貴様らは反乱を実行に移せないように調整されていることにも気付かない愚鈍な奴等の集まりだった! だが、今日のこの手際の見事さはなんだ!?」


 バルディエルはそう叫び、愕然とした表情を浮かべるイブリスを見下ろして自らの近衛兵を指し示す。


「集まれたのはこの玉座の間にいた近衛兵だけだ! そんな馬鹿なことがあるか!? そして、いつの間にか城から抜け出すための地下通路はご丁寧に煉瓦で壁を作られていた! そんなことを、いったい誰ができるというのだ!」


 バルディエルのその台詞に、イブリスは言葉も出せずに口を何度か開閉させただけだった。


 それを見て、バルディエルは勝ち誇ったように笑い出す。


「は、ははは! ははははは! そうだ、イブリス! 貴様も何者かの手のひらの上で吠えていたに過ぎん! 操られていたことにも気付かないようなどうしようもない男が次の王だと!? 笑わせてくれるじゃないか!」


 そうして、死の直前までバルディエルは笑い続けた。





 この日、リセルス王国の国王は交代する。後に、一夜革命と呼ばれたこの国王の交代劇を経て玉座を手にしたイブリスだったが、後日行われた戴冠式では終始厳しい表情をしていたという。



さぁ、ようやく食堂パートに…!

タイトル詐欺にならずに済む、筈…!

ちなみに、王城の秘密の通路を封鎖した者は内緒です!

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