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プロローグ 社畜の異世界転移

メインで書いてる小説が書けない時に更新します。

感想は返せたら返したいのですが、難しいかも…






白い壁と白い天井。白とアイボリーの正四角形が交互に組み合わせられたタイルの床。


無機質な金属の机とOAチェアー、窓付きの棚に所狭しと数字や何かしらの単語が書かれたホワイトボード。


窓から見える外の景色は暗く、疎らに明かりのついた窓のある高層建築物がいくつも建ち並び、空を狭くしてしまっている。


ありきたりな都会のオフィスの姿である。床がよくあるタイルカーペットではなく、本当のタイルなのは社長のこだわりなのだろう。


室内には20人程度の席があるが、もう残っているのは俺一人だ。


寂しいから電気は出来る限り点けているが、それでも夜遅くに一人で会社に残るのは何とも言えない虚しさがある。


この会社に入ってから8年。


仕事自体はもう随分と慣れたし、毎年入る後輩のお陰で精神的にも楽にはなった。


この会社では、もう立派なベテランだ。


だが、入社当初はただ延々と怒られていただけのような気がする。


今になってみれば、なんであんな簡単なことが出来ないのかと思うようなミスばかりだったが、当時の俺は様々なことを頭に叩き込むだけで精一杯だった。


ああ、こんなことならしっかり勉強して良い大学に行けば良かった。


いや、給料につられてこんな仕事に就いたのが間違いだった。


入社して半年は、そんなことばかり毎日思っていた。


上司が細かいことを気にする性格で、良くそんな小さな事をそこまで大袈裟な問題に出来るものだと、呆れながら怒鳴る上司の顔を見上げていた。


俺はそんなことを思い返しながら、白いコーヒーカップを口に運び、自分で淹れたインスタントコーヒーを飲む。


香りの少ない安物だが、暖かいコーヒーを口に出来るだけでも有難い。


俺はホットコーヒーで一息いれると、改めて書類を確認した。


提出までの時間が近い書類から並べると、どうあっても今日中に準備しなければならない書類が何枚かある。


毎年この時期は仕方がない。


新人君の教育に人を取られるから、しわ寄せがベテランにくるのだ。


まあ、それにしても書類が多いが…。


「…ん?」


と、その中に見慣れない書類が一枚あることに気がついた。


まず、取引先がない。


一応、弱小ながら商社を名乗る我が社は書類の書き方には厳しい筈だ。


だが、これは納品書でも発注書でもない。


強いて言えば、契約者も何も書かれていない、契約内容だけを確認出来る契約書だろうか。


内容は…


1、別の世界で人材不足の職場があり、人事・経理も出来る管理者を募集しているので被契約者は管理者として働いてもらう。


2、ヘッドハンティングの形式での特別採用の為、通常の契約者よりも優遇される。


3、被契約者は一人補佐を付けることが出来る。


4、被契約者は契約を一方的に破棄することは出来ない。


5、まずは名前を書け。


と、子供が書いたような陳腐なものである。


会社の誰かの悪戯だな。


俺はそんなことを思って契約書を手に取った。


俺が残業することを知っているのは社長と同僚だが、まあ同期の悪戯好きの奴の仕業だろう。


「名前を書けってなんだよ」


俺は書類に突っ込みながら、背凭れに背中を押しつけて顔を上げた。


体を伸ばしながら書類を持ち上げ、内容を読み返す。


「ヘッドハンティング、ね。確かにそういった話に憧れはあるよな…自分を必要とされているみたいで」


俺はそう呟き、薄く笑みを浮かべる。


「それにしても、社畜になれって感じの契約だな。管理全般を任されるってことか? もう十分に社畜だよ、俺は」


そう言ってまた笑い、俺は契約書を机の上に置いてボールペンを取り出した。


渥目雄馬。俺の名前だ。


アクメという苗字も、オウマという名前もなかなか珍しいらしい。


その名を契約書に適当に書いた。


そして、同僚の机に置いておこうと書類を手にしたその時、俺が手に持つ契約書の紙全体に、青白く光る線が走った。


契約書に書かれていた文字や俺のサインの裏に浮かぶように、青白い光の文字らしき記号が紙全体に現れる。


俺が契約書を手放すことも出来ずに固まっていると、視界に人影のようなものが映った。


書類を持ち上げるタイミングだったので視線が下を向いており、視界に映るのは誰かの足だということくらいしか分からなかった。


裸足だ。


何故か、肌を青く塗った足が見える。


俺は油の切れた機械のように不自然な動きで顔を上げると、その足の持ち主を見た。


革のパンツに黒のカッターシャツのようなものを着て、上から白いジャケットらしき物を羽織っている。


長い金髪は見事だが、丁寧に顔まで青く塗っているのを見てギョッとしてしまった。


折角の彫りの深い美しい顔が何か恐ろしく見えてくる。


俺が困惑して動けずにいると、その人物は柔和な笑みを浮かべて口を開いた。


「契約してくれてありがとう、渥目君。いやぁ、中々気付いてもらえなかったり契約書を捨てられたりで誰も契約してくれなかったんだ」


そう言って、その人物は肩を揺すって笑った。


声を聞いても未だに性別が分からないその人物を見て、俺は気になったことを尋ねた。口から出た声は驚くほど掠れていた。


「…な、なんで俺に? なんの契約だったんだ?」


俺がそう尋ねると、その人物は妖しい笑みを貼り付けて俺を見た。


その笑みを見て、俺はようやく事態の異常性に気がつき、不安な気持ちが水に色が滲んでいくように広がるのを感じた。


音もなく、この夜のビルに、このオフィスに侵入した見知らぬ人間。


そして、明らかに異常な雰囲気を発する目の前の人間と契約書。


俺は気が付かないうちに残業に疲れて居眠りをしてしまったのだろうか。


そうだ。これは悪夢に違いない。


俺がそんなことを思っていると、その人物は軽く頷いて口を開いた。


「よく働く人が良かったからかな? 君で50人目くらいだよ。やっと契約してくれる人が現れて一安心さ。契約内容は契約書に書いておいただろう? 君は別の世界で管理者になるんだよ」


その人物はそう言うと、片手を目の高さに持ち上げて親指と中指の先をくっ付けてみせた。


「さて、契約書にあったように君には補佐がつくよ。君のことが大好きな若い女の子と、君のことが大好きな筋骨隆々の大男のどっちが良いかな?」


「…男を選ぶ奴はいるのか?」


あんまりにもあんまりな選択肢に、俺は無意識にそう尋ねていた。


すると、その人物は楽しそうな笑い声をあげて頷いた。


「両方とも人気はあるけどね。君は女の子がいいみたいだね」


「…そうですね」


俺が思わず素直にそう返事をすると、その人物は上に持ち上げていた手の指を鳴らしてみせた。


直後、白い五芒星のような紋様が床に浮かび上がり、その上に埃のような細かい粒子が集まっていくのがわかった。


そして、僅か10秒程度の間に埃は人型を形作っていき、気が付けば目の前には全裸の美少女が目を瞑り立っていた。


緩いウェーブのかかった長い艶やかな黒髪の美少女である。


身長は160くらいだろうか。透明感のある白い肌が眩しく、細身に見えて出るとこが出ている素晴らしいプロポーションだ。


俺がその美少女に見惚れていると、美少女は目をゆっくり開けた。


その瞳は、暗い赤色だった。


美少女は俺の顔を確認すると、頬を薄っすらと赤く染めて俯き加減に俺を見上げた。


「ご主人様、私はエリエゼルと申します。これから、我が身、我が魂を捧げてご主人様に尽くしますので、何卒宜しくお願い致します」


「は、はい。こちらこそ…!」


俺はエリエゼルと名乗る美少女の怖いくらいに献身的な挨拶に思わずそう返事を返した。


すると、青い肌の例の人物は両手を広げて大きく頷いた。


「うん。相性が良さそうで良かった。よし、それじゃあ早速いってもらおうか」


その人物がそう言うと、俺とエリエゼルの足元に青白い紋様が浮かび上がり、俺とエリエゼルの腰の辺りで止まった。


俺の方がエリエゼルよりも10センチは身長が高いはずだが、青白い紋様の位置が同じなのは何故だろうか。


「あ、そうだ。優遇するって契約書にはあったと思うけど、身体を魔人のものに変えておくから。あと、ダンジョンは場所を選べないから、そこは自分の運を信じて頑張って」


と、俺は寝耳に水な発言を受けて顔を向けた。


「な、なんだダンジョンって!?」


俺がそう言うと、青い肌の悪魔は楽しそうな笑顔を浮かべた。


そうか悪魔だ、あいつは。


俺は自分の脳内に浮かんだ単語で、あいつの存在をスッと染み込むように納得できた。


悪魔は嗤いながら口を開く。


「言うのを忘れていたか。それは申し訳ないね。そうだ、ダンジョンマスターというのは人類の敵だからね。人間に対する意識も変えておいてあげるよ」


そう言って、悪魔は声を出して笑った。


直後、俺の意識は暗転する。


あの悪魔、いつか討ち祓ってやる。



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