黄昏の足音
とん、とん、とん、とん……。
足音が聞こえる。
とん、とん、とん、とん……。
まだ、ずっと。
とん、とん、とん、とん……。
後ろから。
とん、とん、とん、とん……。
ここには僕しかいないのに。
とん、とん、とん、とん……。
ここは二階の僕の部屋なのに!
******
小学校からの帰り道。
友達と遊んでいたらつい、遅くなってしまった。
僕だけ方向が違ったので、一人で歩いていた。夕方とはいえ、もともと人通りの少ない住宅街なので、人はいない。
いつもの道をいつものようにぶらぶら歩く、黄昏時。
暗いような、明るいような、曖昧な景色の中を歩いているうち、僕は自分以外の足音を聞いた。
後ろから聞こえてくる。
とん、とん、とん、とん……。
最初はそう不思議に思わなかった。人通りは少ないだけで、絶対に自分以外に人がいない訳ではないからだ。
とん、とん、とん、とん……。
暫くして僕は家に着いた。
少し周りを見渡す。人は他にいなかったので、鍵を開けて、直ぐに扉をバタンと閉め、鍵を掛ける。
このとき絶対に、自分以外の人が家に入ることはなかった。
……はずだったのに。
とん、とん、とん、とん……。
部屋に入っても、足音が聞こえる。
とん、とん、とん、とん……。
二階の自分の部屋に上がっても。
とん、とん、とん、とん……。
ずっとずっと、背後から!
耳を塞いでも、指の隙間から入り込んでくる、足音。
僕は布団を被り、壁に背中を張り付けた。
向こうの窓がオレンジに染まっていて、それに意識を集中させようと藻掻く。
けれど。
とん、とん、とん、とん……。
足音は止まない。
叫びを、必死で抑える。でないと、恐ろしい思い付きが本当になってしまいそうで。
――足音の主は、僕を探していると。声を出せば見つかり、捕まると。捕まれば、恐ろしい目に遭わされると……!
とん、とん、とん、とん……。
足音は、まだ続く。
とん、とん、とん、とん……。
窓がオレンジから、暗くて深い青に変わった、その瞬間。
とん、とん、と……。
あれ?
耳を澄ます。
足音が、聞こえない。
足音が止んだ!
僕は、ほぅっと息を吐いた。立ち上がり、布団を畳んで部屋をでる。と……。
目の前に、黒い人影があった。
「うわああああああ! あ、あ、あれ?」
「ただいま」
「お、お母さん……」
恐怖を拭い去りたくて、僕は思わずお母さんに抱きついた。すると、お母さんが何か言った。
「え、何?」
次に聞こえたのは、
「ツカマエタ」
お母さ、んじゃ、なかっ……。
黄昏――逢魔が刻。つまり、人間の住む次元に、幽霊などの魔物が出現し始める時刻です。
逢魔が刻を過ぎて、日が完全に沈んだら、魔物たちは実体を持つ。そういう設定で書きました。




