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黄昏の足音

作者: 黎井誠
掲載日:2017/04/05

 とん、とん、とん、とん……。


 足音が聞こえる。


 とん、とん、とん、とん……。


 まだ、ずっと。


 とん、とん、とん、とん……。


 後ろから。


 とん、とん、とん、とん……。


 ここには僕しかいないのに。


 とん、とん、とん、とん……。


 ここは二階の僕の部屋なのに!




 ******




 小学校からの帰り道。

 友達と遊んでいたらつい、遅くなってしまった。

 僕だけ方向が違ったので、一人で歩いていた。夕方とはいえ、もともと人通りの少ない住宅街なので、人はいない。

 いつもの道をいつものようにぶらぶら歩く、黄昏時。

 暗いような、明るいような、曖昧な景色の中を歩いているうち、僕は自分以外の足音を聞いた。

 後ろから聞こえてくる。


 とん、とん、とん、とん……。


 最初はそう不思議に思わなかった。人通りは少ないだけで、絶対に自分以外に人がいない訳ではないからだ。


 とん、とん、とん、とん……。


 暫くして僕は家に着いた。

 少し周りを見渡す。人は他にいなかったので、鍵を開けて、直ぐに扉をバタンと閉め、鍵を掛ける。

 このとき絶対に、自分以外の人が家に入ることはなかった。

 ……はずだったのに。



 とん、とん、とん、とん……。


 部屋に入っても、足音が聞こえる。


 とん、とん、とん、とん……。


 二階の自分の部屋に上がっても。


 とん、とん、とん、とん……。


 ずっとずっと、背後(・・)から!



 耳を塞いでも、指の隙間から入り込んでくる、足音。

 僕は布団を被り、壁に背中を張り付けた。

 向こうの窓がオレンジに染まっていて、それに意識を集中させようと藻掻く。

 けれど。


 とん、とん、とん、とん……。


 足音は止まない。

 叫びを、必死で抑える。でないと、恐ろしい思い付きが本当になってしまいそうで。

 ――足音の主は、僕を探していると。声を出せば見つかり、捕まると。捕まれば、恐ろしい目に遭わされると……!


 とん、とん、とん、とん……。


 足音は、まだ続く。


 とん、とん、とん、とん……。


 窓がオレンジから、暗くて深い青に変わった、その瞬間。


 とん、とん、と……。


 あれ?


 耳を澄ます。


 足音が、聞こえない。

 足音が止んだ!


 僕は、ほぅっと息を吐いた。立ち上がり、布団を畳んで部屋をでる。と……。




 目の前に、黒い人影があった。


 「うわああああああ! あ、あ、あれ?」


 「ただいま」

 「お、お母さん……」


 恐怖を拭い去りたくて、僕は思わずお母さんに抱きついた。すると、お母さんが何か言った。


 「え、何?」


 次に聞こえたのは、
















 「ツカマエタ」

















 お母さ、んじゃ、なかっ……。



 黄昏――逢魔が刻。つまり、人間の住む次元に、幽霊などの魔物が出現し始める時刻です。


 逢魔が刻を過ぎて、日が完全に沈んだら、魔物たちは実体を持つ。そういう設定で書きました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] とん、とん、とん、というのが怖かったですね。 オチが非常に素晴らしく、好きな作品でした! 滅茶苦茶面白かったです!
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