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記憶から消えない恋  作者: 天ノ樹
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いざ、北高へ

通学路は、賑やかだった。

時間で言えば一か月程度しか経っていないのにまるで何年もあってないような変貌ぶりを発揮する人間が変貌を遂げていない奴らにあーだこーだと言われている。


「髪の毛、めっちゃ明るいじゃん!」

「でしょー!思い切ってやっちゃったー!今日からあたしは新生まみとして生きるのよ!」

「いいなー、私も染めれば良かったー・・・」


他愛ない会話が聞こえる横を誠也は面倒臭そうに追い越していく。


風は気持ちいい。


誠也の家は都市部から少し離れた所謂ドーナツ化現象と呼ばれるまさにそこにある。その為ほどよい田舎と街が半分ずつある。生活するには静かすぎず、煩すぎず・・・中途半端といえばそう聞こえるだろうが住めば都、誠也はこの街の暮らしそのものには満足している。


親父は中小企業の経理マン。朝は自分よりも早く起床し出社。というか早すぎると思うくらい朝が早い。6時前に出社ってどこのブラックだよ、と思う。まぁその分、帰りは5時の定時終了後まっすぐ帰宅するためか学生の自分よりも早く帰宅し、ビールを飲んでいる。「よう帰ったかー!本日もお務めご苦労さん!」口癖だ。普通の「おかえり」でいいだろうに・・・俺の父親とは思えないくらい軽いイメージを与える親父だ。


お袋は普通の専業主婦だ。他に何も言うことが無いことくらい平凡な主婦だ。どこの家庭にもいる主婦だ。ここだけの話、実はっていうような特殊な技能も無い。


そして最後は唯一の姉弟。千鶴。特に仲が良いわけでも悪いわけでもなく、年も7つ離れていることもあって喧嘩という喧嘩もしたことが無い。性格はとにかく豪快、ガサツ、猪突猛進という言葉が相応しいくらい女の皮をかぶった猪だ。だが、モテる。顔が世間で言うところの上の下以上はあるからだろう。弟である自分がこれを言うとシスコンに思われるので言っておくが、千鶴は高校の頃に友達とノリで出場した全日本女子校生グランプリのファイナリストにも残るくらいなのだ。悪くはないのだろう。ただ、男が出来た話は一切聞いたことが無いくらい男っ気が無い。まぁ変わり者だ。


「せいやー!」


聞き覚えのある声に誠也は後ろを振り向かずに歩みを続ける。


「おいっ!そこのきーりーたーにーせーいーやー!」


構わず歩く誠也。


「おまっ!絶対わざとシカトしてんだろうがっ!」

バシっと肩を思い切り叩かれた。走りながらの平手打ちだったせいかそれなりに痛い。


「新学期早々シカトはひどいんじゃない?」

「なら、振り向いて満面の笑みで霧島君、おはようって手を振れば良かったか?」

叩かれた為に肩からズレタ鞄をまた肩に直しながら答える。


「それはキモいから辞めれ。マジで」

「いつも通りでいいだろ?」

「あぁ!誠也、いつも通りでありがとう」

「ぁぁ、どういたしまして」

霧島の方を見向きもせず答える。


こいつは、霧島正輝。中学一年の時のクラスがたまたま一緒になってしまったが運の尽き。中学は一年から三年までクラス替えが無かったのだ。そう、出席番号が一つ違いで結局三年間同じクラスのまま時が流れてしまった。この喧しい奴と。ただ、俺自身、霧島のことが嫌いかと言われるとそんなことは無かった。良くも悪くも真っ直ぐなこいつに纏わりつかれるとそれはそれで新鮮だったし、楽しかった。だから、こうして高校も同じところに進学出来た事は非常に嬉しかった。だけど・・・


「あっ!そうそう!新入生代表はお前がやるんだろ?噛んだら絶対に笑ってやるからな!」

「噛まないよ」

「とか言いつつ、緊張して噛み噛みになるんだろ?」

「まぁ、噛む以前に俺じゃないしな」

「・・・えっ!?なんで!?お前より点数高い奴が他にいたのかよ!?」


俺達が今から通う通称北高、秋山市立秋山北高校は文武両道の高校で、毎年東大京大生を何十人も排出しながらスポーツでもインターハイに名を連ねる常連校でもあった。そして、その北高の入学式の新入生代表の挨拶には一つの伝統がある。

それは、入試の最高得点者が請け負う、というものである。


「誠也・・・お前、まさか・・・?」

霧島の顔が急に怪訝になる。


「そんな事より、俺はまたクラスが一緒じゃないかということの方が重大な問題だな」

「それも確かに重大な問題だけどなー、はぁー・・・今日新入生代表する奴が気の毒に思えてきたぜ」

「それは違うな。その子が努力で勝ち取った名誉ある場所なんだから気の毒でも何でもないさ。それに俺の事なんて知らないだろうしな」

「だったら良いんだけどよー。俺、泣いちゃうかも!」

「アホか」

相変わらず、こいつはマジなのか冗談なのかわからないな、なんて事を思っていたらそれは眼前に現れた。


俺達がこれから三年間通う学校、北高が。



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