二章:『異世界』との接触
親友の亮と共に遺跡へと探検に向かった藤二。彼はそこで石板と石の玉を見つける。その石の玉が突然光り始め、気が付くと一人森の中に倒れ込んでいた。彼が立ち上がり、そこで遭遇するものは――。
土の匂いを感じて、藤二はゆっくりと目を開いた。目の前でかすかに流れる風に体をゆらす草を見ながら、自分が倒れていることに気が付く。
少しだるさを感じる上半身を持ち上げると、薄暗い森が周囲を囲んでいるのが見えた。木々の合間から零れ落ちる月の光が、真っ暗な森の中をわずかに照らしている。
周囲からは風で揺れて葉がこすれる音以外何も聞こえず、ただ暗い闇が森の奥まで伸びているだけだ。
「(確か、遺跡の中にいたはず……)」
いつの間に外へ放り出されたのか。警備員に見つかったにしては、こんなところに放り出されているのはおかしい。
「そうだ、亮は――」
一緒にいた親友を思い出し、立ち上がって見回してみるが、やはり誰もいない。
「どこいったんだ、あいつ……」
スマホを取り出そうとポケットを探ると見つからず、慌てて足元を見回すとすぐそばに黒い機械が転がっているのを見つけた。拾い上げスマホを立ち上げると、まぶしい人口の光が目を刺す。どうやら壊れてはいないようだ。しかし、画面上の表示を見て思わず舌打ちをする。
「圏外かよ……」
電波が届いていないことを示すアイコンを見て電話はあきらめると、ライトを点けて辺りをもう一度見回す。スマホのライトは頼りない強さだが、月明かりよりは十分よく見え、ようやく自分が5メートルほどの丸い空き地にいたのがわかった。道は前後にわかれており、坂を上る道と下る道に分かれている。
何より、ここがよく見知った登山道の道程であることもわかった。小学生の頃、毎年登らされた登山でこの道を毎回通っていたことをよく覚えている。そしてここで亮と毎回ホコリタケというキノコを投げ合って、胞子をまき散らして先生に怒られていたことも――。
なつかしさにふと口元を緩めると、その親友がどう行動するかを考える。
「(ここは街のど真ん中にある山だから、どこから下っても街につくはず。となると、あいつも同じことを考えて山を下るはずだ……)」
中学を別で過ごしたとはいえ、小学生時代に毎日のように一緒に行動した仲だ。藤二は同じ考えをするだろうと確証めいたものを感じていた。
「となると、こっちの下る方に進むか」
ライトを下り道へと向けると、数メートル先まで照らす光は、その先に伸びる道の奥へと消えている。少し怖気づきそうになったが、ここにいても合流できるかすらわからないので意を決して足を動かし始めた。
「――ここは、どこだ?」
山を下り切った藤二は、目の前の光景に唖然とした。
散歩がてら登る人もいるこの山には、登山道入り口までは舗装された道路が走ってきている。街灯もその道の左右に置かれ、新山として崇められているここはきちんと形を整えられていた。
また街から近い上に繁華街を少し下に見下ろすこともでき、夜景スポットとしても中の下くらいにはランキングに載っている。現に、カップルになったら気軽に来れる夜景スポットとしては第一位を抑えている。
だが、目の前に広がっているのはそんな人工物に囲まれた見知った光景ではなく――
人工物は一片もなく、満月の明かりに照らし出された平原が広がっていた。
すがるようにスマホの画面を見る。画面上のアイコンは、変わらず圏外のままだ。もう一度目の前に目を向けるが、やはり何も変わらずただ平原と、そこを蛇行して延びる道が見えるだけだった。
「どういうことだよ、これ……」
呆然としながらつぶやく藤二。不意に、小さく聞こえた何かの音に気が付いた。
いや、正確には音ではない。声だ。低くうなるような、獣の声。
平原の方から聞こえたそれに目を向けると、少し離れたところにゆっくりと動く影が見えた。目をこらして見ると、それは犬の様に見えた。
「(野犬…でもいるのか?)」
気づかれない様スマホのライトを消してポケットにしまう。向こうは藤二に気が付いていないようで、地面を鼻先で探りながらゆっくりと歩いている。その野犬が徐々に近づいてきて、距離にして10メートル程。ぼんやりとしていたその像がようやくはっきりした時、思わず息をのんだ。
「(狼…っ!?)」
灰色の硬い体毛と獰猛そうな顔を見た藤二は直後ぞくっとする感覚を覚え、慌てて後ろの木々に身を隠す。
ほぼ同時、その狼が藤二の方へと目を向けてきてしばらくこちらをじっと見ていた。
しかし、どうやら気づかなかったようで再び地面に鼻先を近づけ平原の向こうへとゆっくり姿を消していった。
「何なんだよ…ここ」
鼓動の早くなっている胸を押さえながら、藤二は今の状況を思い返す。
「(落ち着け…落ち着けばたぶん何かわかる…)」
調査員が消えた遺跡に亮と行った↓
亮が遺跡の中で石板に触れた↓
亮の様子がおかしくなって、声をかけても反応しなくなった↓
突然石板の玉が光り始めて、気が付いたら森の中に倒れてた。スマホは圏外↓
見知った登山道を下りると、見知らない平原が広がっていた。しかも狼がいるおまけつき――。
「(わかるか!!)」
狼に気づかれないように小さな声で自分にツッコミを入れる。
不意に、背後の草むらがガサガサと大きく揺れた。慌てて振り返ると、そこから黒い影のような物が飛び出してくる。それは藤二へと飛び掛かってきて、彼の体を掴み倒した。
「痛ッ…!?」
「ヒヒヒ!~~!~~~!!」
背中に走る痛みを感じながら見た眼前には、小柄な体に長い耳、そして獰猛そうな牙を生やした口で笑っている者が自身の両肩を押さえ込んでいた。ゲーム世代の藤二は、やたらと見覚えのあるその特徴に答えをすぐに見つけた。
「ゴブ…リン!?」
ありえない。そう思いながらも、確かにゲーム画面でよく見知ったその特徴と一致していた。背中や押さえられた肩が、それは本物であるというように鈍痛を藤二に伝えてくる。
「ヒヒヒヒヒ!~~~!!」
絶えず笑いながら、聞きなれない言葉を放つゴブリン。藤二は押さえ込まれた両肩を動かそうともがくが、自分の半分ほどしかない体にも関わらず、ほとんど動かない。
「こ…のっ!」
幸いその小さな体は上半身しか抑え込むことができておらず、脚は自由に動いた。膝を曲げゴブリンと自分の間にすばやく両足を突っ込むと、腰に力を入れて全力で蹴りあげる。
「ギャァァッ!」
小さな体はたまらず後ろへ弾き飛ばされ、木の幹に体を打ち付けながら草むらに落ちていく。藤二は間髪入れず立ち上がると、先ほど下りてきた薄闇に覆われている道を逆走する。
「なんなんだよこいつ!?どうなってんだよ!!」
叫びながら走る藤二は、全力で坂道を駆け上がり続け、やがて最初に倒れていた地点まで戻ってきてしまった。その刹那、草むらからまた何かが飛び出してきて再び藤二は地面に掴み倒される。別の個体だろう、先ほどよりも少し大きいゴブリンだ。
「他にもいるのかよ…っ」
全力疾走で坂を上ってきた藤二の体には重い疲労が残っていて、押し返す両手も先ほどより明らかに力が落ちている。同じように足で蹴ろうとするが、先程のゴブリンより大きいのと、力が残っていないことが相まってゴブリンの体を押し返せない。
「(これ…やばい!)」
「ゲゲゲゲゲ……」
目の前で笑うゴブリンの顔を睨みつけながら、抵抗を続ける藤二。ゴブリンはその表情を見ながら、ゆるやかな動作で腰の鞘から短剣を抜いた。さらにそこへ、坂道の下から別の何かが走ってくる足音が聞こえてきた。先程蹴り飛ばしたゴブリンだろう。
「(まずいまずい!殺される!!)」
その音に青ざめたその時、突然自分を抑え込んでいた力がふっと消えた。
「ゲギャァッ!?」
同時、ゴブリンの悲鳴が少し離れたところから聞こえてくる。ゴブリンを抑えていた四肢の力は行き場を失い、そのまま左右へ投げ出されて藤二は大の字で地面に寝転がる姿になった。
息を切らせながら、何があったのかと首だけ悲鳴の聞こえた方へと向けると、よろけながら立ち上がるゴブリンと――薄い月明かりの下でかすかに色づく、背中の中央あたりまで伸びた赤い髪を揺らす人間の後ろ姿が見えた。
「(なんだ…?だれだ…?)」
疲労で回らない頭を動かしている藤二をよそに、その赤髪の人はゴブリンへと駆け出す。手には短剣が握られている。切っ先をゴブリンに向けて胸の前で構えつつ駆け寄ると、ゴブリンの顔めがけて鋭く突き出す。
「グギャァッ!」
わずかに頭を横にそらしたゴブリンだが、それでも数センチの深さの傷を顔に作られた。ゴブリンは右手の短剣を横に振るい反撃するが、赤髪の人は小さく一歩飛び退くとギリギリでその攻撃をかわして見せる。そして地面に足が着くと同時、再び前へ踏み込んで今度は袈裟切りにゴブリンの体を深く大きく切り裂いた。
ゴブリンが一瞬悲鳴を上げると同時、返す剣で口元に短剣を刺し込むとその声を封じる。ゴブリンはくぐもった声を上げながら体を痙攣させると、数秒して腕をだらりと垂らし短剣を取り落とした。それを見届けてから赤髪の人が短剣を引き抜くと、ゴブリンの体は地面へと力なく倒れ込んだ。
その光景を見ていた藤二は現状についていけず、体を起こしたものの立ち上がることもできなかった。
赤髪の人はふうっと小さく息をつくと、下り坂の向こうへ目を向ける。すぐに遠くでガサガサと草むらを何かが動く音がして、やがてその音も聞こえなくなった。
赤髪の人はゴブリンの身に着けているぼろ布のような服で短剣についた血のりを拭うと、腰に着けた鞘に短剣を収めた。
「たす…かったのか?」
小声でつぶやく藤二に、赤髪の人が振り向く。顔を見て、藤二はようやくその人が女性だと気づいた。彼女は少しの間藤二の顔を無表情のままじっと観察していたが、小さく頷くと口を開く。
「えっと、あなたはトウジ…でいいよね?」
自分の名前を言い当てられて動揺するが、藤二は頷き返す。
「あ、あぁ」
「さすが宮廷占い師ねー。時間も名前も容姿も、場所までほぼピッタリ」
よくわからないが、彼女は納得したように一人横を向いて頷いている。状況が読めない藤二は、その仕草をただ見ているしかできなかった。整ったその表情はまだあどけなさの残るような顔立ちで、年齢は藤二と同じくらいか、少し下だろうか。
そんなことを考えていた藤二に向き直した彼女は、微笑みながら手を差し出して告げる。
「私はカーニア。あなたを迎えに来たのよ」
二人は坂道を平原へ向かって下りていた。
カーニアと名乗った赤い髪の女性は、宮廷占い師という人物の占いに従ってここへ来たという。藤二がこの時間にこの場所に表れ、ゴブリンに襲われているから助ける様にと。
「この辺りはゴブリンとウォルブの生息地帯だからね。何の武器もなしに抜けるのはちょっときついし」
「ウォルブ?」
「そそ。下りた先の平原にいるんだけど、四本足で歩く灰色で体毛が硬いやつ」
さっきの狼のことだろうか、と藤二は平原で遠目に見たものを思い出す。
「で、その平原を抜けて港町に行くんだけど――」
「待ってくれ、聞きたいことがあるんだけど」
カーニアが話を進めようとしているところに口をはさむ。港町に行くとかそんなのより、大事なことがあった。
「ここはいったいどこなんだ?」
「クライナス領の門の神殿がある山」
「さっきのゴブリンってなんだよ?」
「モンスターって生き物」
「なんで俺はここにいるんだ?」
「なんでって……あぁー」
矢継ぎ早な質問攻めを受けて、ようやくカーニアは忘れてた、というように言った。
「ごめんごめん。そういえばこっちに来ちゃった理由を教えてなかったわ」
てへ、という感じに言うカーニア。顔立ちは整っているので様にはなるが、藤二にとってこの状況だと少しイラッとくる。
「えっとね――」
カーニアは坂道を下りながら説明をしてくれたが、どれも藤二にとって衝撃的な内容だった。
まず一番衝撃的だったのは、ここが日本…いや地球ではなく『異世界』と呼ぶべきまったく違う世界であることだった。
そしてここは、クライナスという国の領地であり、『門の神殿』という建物のある山だ。クライナスはかつて大陸を平定していた国であった。その時代には『門』と呼ばれる物がクライナス城にあり、そこから異世界との行き来をしていた。そして、そこで新たな技術を取り込み、祖国の発展へとつなげていた。けして異国間との争いはせず、ただ平和的に。
しかしある時ソルディアという深い山を挟んだ国と『門』をめぐった戦争を始めることとなる。戦争は数年かけて徐々に激化していき、さらにその最中、第三勢力として亜人軍というものが横槍を入れ、戦争は本格的な泥沼と化していった。
そしてある時、亜人軍により門の力を支える神殿の一つが奪われてしまう。神殿は門の力をクライナス城へ集中させる力を持っていたが、それを封じられてしまい門の力は場所の指定すら不安定なものとなった。このままでは、亜人軍やソルディアが異世界に行くことになるかもしれない。それを阻止するべく、クライナスは最も力を持つ城内の『門』を封じ、異世界へ行けぬよう封印を施した。
「けど、その封印がここ数年どういうわけか不安定になってきてね。それで各所の封印を調査してるわけなのよ」
「それと俺がここに来た理由と、何の関係があるんだ?」
「実は君の他にも何人かこの世界に飛ばされてきてるみたいなんだけど…何か心当たりない?」
「心当たり…」
――もしかして、あの石板と光る玉…?
考え込んでいる藤二を見てから、答えをあげるようにカーニアが言う。
「たぶんだけど、宝玉って呼ばれる光る玉と、それがはめ込まれた石板を見たと思うのよね」
言い当てたカーニアに向き直して、藤二は無言で頷く。それに対してカーニアも頷き返す。
「あれは元々門の力を安定させるものに過ぎなかったんだけど、今は暴走しちゃってるみたいでね。時々活動を始めてこっちの世界にそこの人を送り込むみたいなの」
どうしてそうなるのかはまだわかってないけどね、とカーニアは小さく肩をすくめる。
「それに、そうやって飛ばされてきた人はどこに現れるかも不明なのよ。前なんて、海の上で漁をしてたら突然船の上に人が現れた、なんてあったんだから。漁師もそうとうビックリしたでしょうねー」
「カーニア」
「ん?」
藤二はそこまで聞いてから、立ち止まって声をかける。カーニアも同じく立ち止まると、藤二の方を振り返った。
「俺とは別に、もう一人飛ばされてきた…はずのやつがいるんだ。俺と同い年で、調子のいい男なんだけど…」
「…そっか。――今、他の所から別の人たちがこの山を捜索してるから、それで見つかればいいんだけど」
カーニアはそう言って、横に広がる森の中を見る。カーニアと同じように、占い師の言葉通りここへ来た人の方角だろうか。
「早いとこ見つけてやらないと。こんな場所一人でさ迷ってたらヤバすぎる…」
「うん、その方がいいね」
彼女の言葉に藤二は強く頷き返す。そこへカーニアは「でも」と付け足して続ける。
「その前に、君をちゃんと保護し終わってからね。話はそれから」
「けど――」
「今の君が一緒にいたんじゃ、またゴブリンにやられるだけよ?それに、さっき言ったウォルブ。あっちの方がもっと手ごわいし」
うっ、と言葉を詰まらせる藤二に満足したのか、カーニアは再び歩き始めた。木々の切れ目が向こうに見えてきた。
「まずは体制を整えてから、ね?その間も私たちが捜索は続けるから」
「…わかった」
藤二は渋々とうなづくと、カーニアの後をついていった。
月明かりに照らされた平原まで抜けると、山と平原の境目を歩き少し離れた場所に停められていた幌馬車まで案内された。そこには軽鎧を着た男が1人、馬に水を与えていた。
「パド、ただいまー」
カーニアが近づきながら声をかけると、パドと呼ばれた男が振り返る。身長は180センチほどだろうか、胴体の軽鎧から伸びる手足はがっしりとした筋肉がついており、そのせいでそれ以上に見えてしまう。スポーツ刈りのような頭をしたその男は、人の良さそうな顔に笑みを浮かべてカーニアに一礼する。
「お帰りなさいませ。無事、見つけられたようですね」
「うん、おかげさまでね。彼はトウジっていうの」
「よ、よろしく…」
「パドと申します。よろしくお願いいたします」
丁寧な口調と共に差し出された握手を受けると、分厚い手の感触に圧倒されてしまう。しかし、それも彼の爽やかな笑みがうまいこと打ち消してくれていた。
「もう一人いるかもしれないんだけど、向こうはどう?」
「いえ、何も報告はありませんね。神殿の周辺から調査してみましたが、ゴブリン以外、何もいません」
「そっか…。一度宮廷占い師に相談してみた方がいいかもね。パド、これからトウジを連れて一旦戻ろうと思うから港まで送ってくれないかな。みんなには悪いけど、もう少しだけ捜索してもらって」
「かしこまりました。では、皆にそう伝えておきます」
そう言ってパドは腰のポーチから小さな結晶を取り出すと、それに向かい指示を始める。おそらく言葉の伝達に使う道具なのだろう。
「ホント、ファンタジー世界だなこれじゃ…」
機械工学が発展した世界に住んでいた藤二にとって、このような光景は画面の向こうにしかないものだった。それが目の前で当然のように行われているのを見ると、改めて異世界に来てしまったのだと実感してしまう。
結晶から声が数度聞こえた後、パドは結晶をしまい込むとカーニアに向き直る。
「お待たせいたしました。港に送り届けたら再び戻ってくるので、それまで捜索を続けるよう伝達してあります」
「ありがと。じゃあ早速いきましょうか」
カーニアはそういうと幌馬車に向かっていく。パドは馬の準備へと向かう。
「何してるの、トウジ?行くわよー」
「あ、あぁ」
ぼうっとしていた藤二はカーニアの声で我に返り、彼女の元へと向かう。彼女が先に乗り込み、藤二もそれに倣って荷台に足をかけて登ろうとすると、カーニアが中から手を差し出してきた。握った手の感触のやわらかさに一瞬ドキッとするが、それを考える暇もなく荷台の中へと引っ張りあげられる。
「さぁ、準備ができましたので行きますよ。ちゃんと座っていてください」
パドの声が奥から聞こえ、床に腰掛けると幌馬車が動き出し、平原を蛇行する道を走り始めた。
ガタガタと揺れる馬車の中、藤二は握られた手を開いては閉じ、と繰り返しながら考えていた。
「(…うん、やっぱ女の子だよな)」
そしてその後に、御者台に座るパドの背中をちらりと見る。
「(パドさんとは全然違うな)」
真剣な表情でそんなことを考えている藤二と、手を開いて閉じてと繰り返している藤二を不思議そうな目で見ているカーニアを乗せた幌馬車は、平原の先に佇む港町に向け、夜道を駆け抜けていった。