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不幸な彼女と幸運な俺  作者: 雨宮結愛
『人生は幸せも不幸も、最後にはプラマイゼロになるらしい。』
4/5

『幸運な俺』

その日は雨が降っていた。

自宅から学校までの間をリムジンで移動していると、ずぶ濡れになっていた彼女を発見したので、運転手に声をかける。

停車した車の窓を開け、呼びかける。


「お前傘はどうしたんだ?」

「高級車が停車したと思ったら、あんただったのね。傘は...忘れたわ」

「そうか、それは残念だったな」


そう告げ、再び車を走らせる。


「ちょっと!ここは乗せてくれるシチュエーションじゃないの!?」


後方から聞こえてくる叫び声をスルーして、欠伸をし横になる。


「眠い」


そしてそのまま眠りについた。

学校に着くと、傘をさしてくれる運転手の執事に連れられ校舎に入る。

教室に向かおうとすると、執事に傘を二本渡された。


「帰りは来れないのか?あと二本も傘は要らないぞ」

「いえ、今日は歩いて帰るのがよろしいかと」


執事はにこやかに、意味深な事を言って去っていく。


「良い友達が出来たのですね」

「?」


去っていく執事の先に、走ってくる彼女が映る。

怒りで満ちている彼女の矛先は明らかにこちらに向いているが、知らんぷりして教室に向かう。


「待ちなさい!バカ、アホ!」


俺にタックルをかまそうと突進してきた彼女だったが、水で足を滑らせ廊下を転げ回っていく。

俺の足元でバタンキューしたので、声をかけてやった。


「大丈夫か?」

「そう見えるかしら?」


愚問だった。

どっからどう見ても、そうは見えなかった。





帰り道、下駄箱付近で準備運動をする彼女を見つけた。

何をしているのだろうかと疑問に思い、声をかける。


「何してんだ?」

「何って、走って帰ろうとしてんのよ」


なるほど。

意味が分からない。


「意味が分からない」

「声に出てるわよ」


そういえば執事が傘を二本渡してくれていた。

じゃあこの傘は、彼女に対する気づかいで持たせてくれたのだろう。

優秀な執事だが、余計なお世話である。

忘れてきた本人が悪いのだ。

濡れて帰るのは当然である。

しかし、受け取ってしまったのはしょうがない。


「傘余ってるから、使えよ」

「え?いいの?!」

「執事が持たせてくれた」

「さすが、優秀ね」

「だろ?」


傘を一つ渡して、歩き出す。

そういえば、彼女の家は俺の家の道中にあった気がする。

そこで傘を回収すればいいだろう。

そう思った時、強い風が吹いた。


「ぎゃあああああ!!!」


奇声とともにひっくり返る傘は、そのままバキバキに骨を折っていく。

結構風に強い傘なのだが、どうしたらこんな事になるのだろうか。

涙目の彼女は申し訳なさそうにこちらを向き、謝罪した。


「今度、弁償します」

「これ数万するけどな」

「〜〜〜〜〜〜!!」


もはや声になってなかった。





壊れた傘をなんとかたたみ、濡れながら歩き出す。

しかし、これでは執事の気づかいが無駄になってしまう。

仕方なく、片側のスペースを譲る。


「入れよ。濡れるぞ」

「...ありがと」


つくづく不幸な奴だ。

そう思いながら彼女を見つめる。

何故こんなに真っ直ぐに生きていると言うのに報われないのか。

自分の幸運を分けてやりたいくらいだ。


「...そうか」


そう、分けてやればいい。

間接的に、出来るかわからないけど。


「どうしたの?」

「まぁ見てろ」


傘を投げ捨てる。

このままでは俺はずぶ濡れになってしまうのだが、


「嘘でしょ?」


曇り空が真っ二つに割れ、青い空が顔を出す。

ここ周辺だけが晴れ、虹が現れた。

なんだ、やれば出来るもんだ。

捨てた傘を彼女は拾い、俺に渡そうとしてくる。


「やるよ。俺がまた持つと雨が降る」

「あんたは何者よっ」


再び歩き出し空を見上げる。

どうして俺はこんな事をしたのだろう。

改めて考えると不思議だった。

俺は今まで、誰かのために動いたことがあっただろうか。

記憶を探っていると、彼女が声をあげ走り出す。


「無事だったねぇ〜」


彼女は地面に落ちていた傘を拾い上げると、そこにいた子猫をダンボールの中から抱き上げる。

帰り道、急いで帰ろうとしていたのは、この猫を気にしていたからだろうか。


「だから傘無かったのか?」

「何の事かしら?」


惚ける彼女は、無邪気に笑う。

それだけで、さっきまでの疑問はどうでもよくなった。


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