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異世界を旅する少年少女物語・上【親愛】  作者: 碧
第一章『始まり』
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プロローグ0

少しづつ変更、更新をしていきます。

科学が発展したとある世界で、それは突然起こった。



 「おいっ! あれは何だ」


偶然にもその場に居合わせた1人の科学者がそれを目撃し、その『現象』を観測した。のちに『終焉の夜』と呼ばれるようになるその現象の意味をまだ誰も知らなかった時のことである。何もないはずの空が突然ひび割れ、悲鳴のような音を奏でる。今までに観測された事のないその現象はすぐに専門家達によって調べられた。


 しかし、誰にもその奇怪すぎる現象の詳細を解析する事はできなかった……




 そう、"誰も"世界の終わりが近づいてきていることに、その『現象』が指し示す未来に───気付けなかった。気づいた時には遅く、もう終焉は回避できないところまで近づいていた。それを表すように、その後に訪れた二回目の『終焉の夜」は、都市部に発生し周囲の空間もろとも粉砕した。いや、ひび割れて、存在自体が粉々になったとしか言えないだろう。


 その災害によって、その都市に暮らしていた100万人近い行方不明者が出た。数日後、空間が自然修復した後に残っていたのは、何の残骸であるのかも定かではない赤黒いがれきの山だけだった。








 初めて現象が観測されてから50年……二度目の災害より10年。検証を続けていた何人もの研究員の努力によって、やっとその現象の原因が判明した。同時に、それがすでに手遅れである事実も。


 その結果は、人類に滅びを予感させるに十分な数値を示し、その対策を話し合うことを目的に、今日それを元に世界を代表する者たちによる会議が開かれる。呼ばれている人間は、各国を代表する政府の人間か、優れた科学者達だった。


「それでは、世界の存亡に関わる極秘会議を始めさせていただきたいと思います」


 まず初めに口を開いたのは、1人だけ椅子を用意されることもなく、円卓の側で待っていたスーツを着た男性だった。年のころは、会議参加者の中でも飛び抜けて若く、30代に届くかどうかという容姿をしている。そんな名も知られぬ彼が、この会議に参加していることに首をかしげる科学者たちではあるが、政府側が用意した人材ゆえに話題として挙がることはなかった。


「私は、今回司会を務めさせていただく、ガリウス=ディッシュと申します。皆様よろしくお願いいたします。では早速議題へと入りたいと思うのですが」


 彼、ガリウスの苗字である『ディッシュ』を聞いた瞬間、会議室には納得の空気が流れた。なぜなら、会議の進行役を務める彼の名が、世界最高峰の権力機関『ラグナロク』通称10人委員会のメンバーと同じだったのだ。その彼がいるということは、いずれその地位に立てるほどに優秀であることの表れであるととに他ならない。


「ああ、私のことは気にせず始めてくれ」


 そんな彼が、気にしなければならない人物がこの場には1人だけいる。唯一、彼よりも地位という点において優位に立っている、この会議の議長である。議長もまたこの世界を統治する『ラグナロク(10人委員会)』の1人に数えられる人物であり、こちらは将来ではなく、現役である。名を『ロバート=グラス』といい、見た目は近所にいる気のいいお年寄りのようだが、その実、凄い権力を持った実力者であった。特に政治能力にはたけており、実質的な世界の実権を握っているともいわれる重鎮である。


「ではまず、始めに今回の議会で話し合われたこと、これからこちらが説明する内容などは秘事項とし、外部に漏らすことを禁止いたしますので、ご了承ください」


「……なっ! 何を言ってるんだっ!! このままでは我々人類は滅びるかもしれないんだぞ……それを秘密にするなどあり得ん。お前達が秘密にしようとするなら、私が公表するぞ!」


 そう叫んだのは『ヴェルナー=ハルバート』。今年45になる中年男性で、若くして世界に認められた数少ない科学者の1人だった。故にこの場にも呼ばれたのだが、彼の信条は『人々の為の研究』であり、それと反する政府を毛嫌いしていた。


「まあまあ、少し落ち着きたまえ」


 肩に手を置き、そう言ってきたのは隣の席に座る白髪の科学者『ジョン=クラミー』である。彼はヴェルナーと歳が変わらないのに老けて見える、貫禄のある人物だった。そして、なにより古い知り合いでもある。


「ジョン、今は黙っていてくれ。私は政府の人間と話をしているんだ」


「おいおい、親友に対してその扱いはないだろ? それに、会議はまだ始まったばかりだ。意見するのは政府の見解を聞いてからでも遅くはない」


「いや、遅い……遅すぎるぐらいだ。今すぐにでも人々に今回の事を公表すべきなんだ」


 ヴェルナーは、下を向き過去の後悔を思い出すかのように、声を絞り出した。その方は震え、今は亡き人々のことを想う。


「恐れながら言わせて頂きますが、我々政府は考えを変えるつもりはありません」


「なにを、言っているっ‼」


 それ故に、ガリウスが2人の会話に割り込んでまで言ったことにヴェルナーは激昂した。その目には、確固たる意志がきらめいている。しかし、ガリウスも伊達でこの場に立っているわけではない。


「我々の見解を言わせて頂きますと、解決策のない今、事態を公表する事は余計な混乱を起こすだけだと考えられます。つまり、今は問題の現象について公表するつもりはありません。しかし、いつまでも隠し通せる物でもありませんので、本日は皆様にお集まり頂きました」


「私たちを利用するつもりか」


  ガリウスの発言は、至極的を得ていた。ヴェルナーの頭を冷やし、論点を変えなければ文句も言えないほどに。それを確認したガリウスは、今回集まってもらった世界最高の頭脳、科学者たちへと語りかける。


「いえ、我々はこの世界を救いたいと思っているだけです。その為にも皆様のお力をお借りして、解決策を見つけたいと思っております。この場に呼ばれた皆様は、それこそ歴史に名を残すような偉人ばかりですので」


 それを聞いて科学者達の間に動揺が走った。


「わ、我々に…?」


「しかし、今回は」


「事の規模が…なぁ」


 科学者達から困惑の声が漏れ始める。なかでも、専門でないと思われる者たちの反応は否定的だった。


「ゴホンッ、皆様は数々の功績を残された素晴らしい科学者の方々です。そんな皆様がお力を合わせて頂ければ解決の糸口を見つける事も可能だと、我々は考えています。そして何より、今回のことは分類分けして考えることではなく、様々な視点からの検証が必要であると我々は考えております」


「もし、解決策を見つけられなかったら、どうなる?」


 不安になったのだろう、一人の科学者が声を上げる。それに反応して参加者の視線が一気にガリウスへと集まった。


「それは……」


 これには、流石のガリウスでも言い淀む。なぜなら、口にしないだけでその答えをここにいるメンバーはみな知っているのだから。


「それは、私が答えよう」


ガリウスのまだ未熟な部分を見たロバート議長がそれを止める。ここからの言葉は、私が言うべきだと思い、説明に入った。


「なに、簡単なことだよ。皆も知っていると思うが数十年前に起こった終焉の夜がまた起こり、その規模は前回の比較にならないほど大きい……つまり、問題の解決策が見つからなければ、あと数十年後にはこの世界に生きる全ての生物が死に絶える事になる、かもしれない。そういうことだ。君達ができなければ、皆が死ぬのだ……もし、守りたいものが一つでもあるのなら、失敗は許されん」


 ロバート議長はさっきまでとは違い、科学者達を睨む様に言った。はっきりと、世界を救うには、大切な誰かを守りたいのなら、お前たちがなんとかして見せろ、と。


「それと先程ヴェルナー博士が言っていた様に私も人々に公表すべきだとは思っているよ。だが、その為には解決策が必須なのだ。分かってくれるね?」


 幾分か優しい声音で紡がれる言葉と、王者のようなその覇気にほとんどの者が無意識の内に頷いていた。ヴェルナーも危うく頷き掛けるところだった。それほどまでに、ロバートの人心掌握術はレベルが高い。


 しかし、それに対して技術屋であるヴェルナーは、さらに負けじと食い付いていく。


「つまり、解決策が見つかるまでは公表するな、と言っておられるのですか?」


「いや、私はただ人々を不安に落とし入れる情報を公開する事が、本当にその人達の為になるのか、考えてみて欲しいと言っているだけだ。少しでも人々に平穏に過ごしてもらいたい、そんなおいぼれからのお願いにすぎんよ」


「……くっ」


 ヴェルナーは言い返せなかった。命令なのかと、確認すれば人の好さそうな顔を利用して、人の善意に付け込んでくる。確かに、今情報を公開すればパニックが起こるだろう、そのぐらいは簡単に予想がつく。だが、知らないと知っているでは大きく違う。それを、ヴェルナーは過去の失敗から学んでいた。


「……ご理解いただけたようで、何よりです。幸いにも我々には時間が残されていますので、この時間を有効に活用し解決策を見つけていただけることを願っております。では、こちらが本日の資料となります」


 ロバートの合図により話を引き継いだガリウスは、科学者達の端末に詳細情報を送った。


「では、此方が用意した詳細資料をご覧ください。今までの簡単な説明とは違い、詳細なデータを載せております。この資料を見てご不明な点はありますか? もしございましたら、適時ご発言下さい」


 科学者達はそれぞれの端末で送られてきた資料を読み出した。そこには、詳細な観測データや今後の予測が映し出されている。初めの観測データから始まり、あの大災害の情報。その比較から予想される次回の終焉の夜による被害予想、被害発生予想場所、それによって生じる経済的な問題の数々。あくまで予想でしかないが、その数値はこの星の耐えられる値ではないことが、素人にもわかるぐらい大きな数値が書かれていた。







  読み初めて、10分…

 

 静寂が、場を支配していた。誰も声を上げず、聞こえれ来るのはため息と言葉にならない悲鳴だけだった。


「読んでいる最中に申し訳ありませんが、先に言わせて頂きます。ここにお集まり頂いた科学者の皆様には、今後チームとして政府の準備する研究施設で働いて頂きます。もちろん、研究に集中して頂く為に最適な環境をお約束いたします」

 

 進行役のその言葉にジョンが反論した。つまりそれは、この情報を知ったからには逃がさないと後出しで言われたのも同然であるのだから、文句の一つや二つ当然出てくる。


「ふんっ、そんなに我々が信用できないか? 我々も馬鹿ではない心配しなくても情報規制には従う…なぁ?」


 その問いに、周りに居た科学者達も同調する。


「ああ」


「…こんな事、公表できる訳ないしな。いや、公表したが最後、嘘つきとののしられて後ろ指をさされる人生しか浮かんでこないよ」


「ははは、違いない。なんせ、相手は世界を収める世界政府なんだからな」


 その他の科学者達も無言ではあったが、頷いてくれた。この場に集まっているメンバーは、良くも悪くも、世界政府という組織が持つ力を十全に理解しているのだ。それを受けてジョンはガリウスに問い掛ける。


「な?」


「ですが……みなさんも資金は必要でしょう。なにより、私どもが用意する研究施設は世界一であることを保証しておりますし、予算につきましても上限などはございません。研究において、これ以上の環境はないと思われますが、いかがでしょう?」


 そこに、今まで沈黙していた政府の代表者達が口を開いて、その意見を擁護する。


「何か勘違いしているようだが…我々は、研究の成功の為に力を合わせようと言っているのだよ」


「それに、我々が用意する研究施設なら様々な機材が揃う。彼が言っているように資金の心配もない」


「…だが、自由は無いんだろ?」


 政府の人間にそう問い掛けたのはヴェルナーだった。


「とんでもない、もちろん自由も保証するよ(監視付きでな)」


 ヴェルナーは政府の人間を睨んだが、その嘘くさい笑みを顔からはがすことはできなかった。しかたなく、彼は最後の手札を切る。自身が忌み嫌っている、権力という名の手札を。


「……分かった、なら私は政府に協力を約束しよう。だが、私は自分の研究所に帰らせてもらう。よろしいかな」


「申し訳ありませんが、それは…」


「いや、かまわんよ」


 止めようとしたガリウスをロバートが止める。これだから、やりにくい。そう思いながらも、ヴェルナーに強く出れない理由があるのだ。ならば、それすらも飲み込んでしまえばよい。そう考えるロバートは、その無茶ぶりを認めることにした。心の中では、借り一つとカウントしている。


「期待しているよ、ヴェルナー博士」


「ああ、だが忘れるな…私は人々の為に研究をしているんだ。お前達の為にしている訳ではない」


「ふっ、もちろんだとも」


 その駆け引きを最後にヴェルナーは会議室を出ていった。










  会議から20年――


 政府は人類を滅びから救う為に様々な政策をとった。


 しかし、どれも成果は出ず…人々も世界の異変に気付き始めていた。


 困った政府は、異変の原因をこの星の寿命が尽きたからだと、嘘の公表をするまでに追い詰められていた。


 政府は"仕方なく"人々を騙し『世界の終わり』を『星の死』と偽ったのだ。


 これにより混乱は一時的に収まったが、その嘘のせいで近くの星への移住計画を進めなければならなくなった。


 だが、移住した処で世界の終わりから逃れられる訳ではない…


 政府はもう後戻りのできない所まで追い詰められていた。


 そんな危機的状況に名乗りを挙げた研究所が1つ。


 それが、あのヴェルナーが運営する研究所だった。


 彼はあれから様々な研究に手を出し、偶然にも異世界への通路を発見していたのだ。そして、科学では決して証明できない未知の力も観測した。


 しかし、未知なる部分が多く危険も大きいという理由で人を送り出す事はできていない。


 そんな彼が最初に目指していたのは『異世界移住計画』人類を周りの星ではなく異世界に移住させようという計画だった。


 だが研究が進むに連れ、多くの人々が異世界を認識する事もできない、という事が解った。


 彼の研究(考え)はそこでつまづき悩んだ末に禁断の研究に手を染める。



 それは、人の身には過ぎたるもの


 神の領域を汚す最大の禁忌だった────






 そして、その忌まわしき研究成果から生まれた新たなる計画『プロジェクトN』


 これは5年間の極秘期間を経て人々に公表された。


 あくまで、表の綺麗な部分だけを…


 こうして、世界の終わりまであと7年…


 プロジェクトNは正式に始動した








  ───3ヶ月後




 2人の少女が出会い、時が動き出す。


「貴女が…私のパートナー?」


 金髪の少女が赤髪の少女に話し掛ける。だが、返ってくる返事はない。


「………」


 まるで魂のない人形のような目をした少女…


 何かが壊れてしまったような少女を彼女は優しく抱き締め…言った。


「これから宜しくお願いします、私は―――」


 少女は〈バッ〉と飛び起きた。


「はぁ〜、夢か…」


「ん?どうしました?大丈夫ですか」


 目の前にはその金髪の少女が居る。


 心配そうに瞳を覗いてくる彼女。


 彼女とはあれから一緒に暮らしていた。


 一緒に訓練を受け、授業を受け四六時中一緒に居る。


 そのせいかまだ、出会って1ヶ月なのに実の姉のように慕ってしまう自分がいた。


 今だって心から心配してくれているのが分かる、それ程までに仲良くなってしまったのだ。


 だが、少女の心には常に不安が過る。


 彼女と仲良くなることは───自分を苦しめる事になる、と。


 遠くない未来で、私を見捨てなければならないのだから


 そんな迷いのせいか、あと一歩、彼女に近づけない。


「今日は私達が試験を受ける大事な日です、もし貴女が本調子でないなら試験日を変えて貰いますが…」


「…ごめんね、私は大丈夫だよ」


「そうですか、でも無理はしないでくださいね」


「…うん」


 そして、この日2人は無事に試験を合格して正式なプロジェクトNのメンバーに成った。


 この後、2人は更に厳しい訓練を3ヶ月にも渡って受ける事になる。











 そして、3ヶ月後…



「はぁ〜今思い返しても、この4ヶ月はあっという間でしたね」


 出会い、訓練、授業、辛く厳しい日々が続きましたが、楽しい日々でもありました。そう感想を述べる彼女に少女は少し得意気に言う。


「ふふん♪ 私が優秀だったお陰だね」


「私達です! ……っ!? もう、変なこと言わせないでください」


 金髪の少女は照れながら、横を向いてしまった。それを気にせず、赤髪の少女は楽しそうに言う。


「まぁまぁ、いいじゃん? 明日には出発するんだし最後の夜を楽しもうよ」


「…最後ではありません、私達は帰ってきますから」


「それは…神のみぞ知る、だよ?」


「…………」


「何か言ってよ〜」


「ゴホン、分かりました。ならお互い全力を尽くしましょう」


 差し出される右手、赤髪の少女はそれを握り、握手をしながら…


「まぁ、気が向いたらね」


 金髪の少女が不安になるような笑顔で言った。




 そして、次の日…


 彼女達は異世界を目指し、旅立っていった───


 そこで舞台は移り代わり…


 彼女達は計画通りに動き始める。


 しかしそれは、彼との出会いであり、彼女達の運命の重要な分岐点でもあった。










  出発から〇ヶ月───


 ここから本当の物語が始まる。





※『ラグナロク(10人委員会)』


 世界を統治する代表者。かつてはテロリストに分類されていた大きな組織だったが、腐敗した各国首脳を排除し、真に民主性を取り戻した変革者の集まりとして、現在では世界の政治を担っている。ただし、年々入団基準が厳しくなり、所属人数は少ない。

 組織(世界)への大きな発言力を持つのは15人の幹部のみだが、世襲制ではなく、完全実力主義。しかし、10人の幹部の一族が常に在籍していることから、その一族を指して10人委員会と呼ばれる。

 世界政府(地球での国連、ただし実行力あり)の最高機関

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